3億2400万円判決を最高裁が破棄――司法書士に「正当に期待された役割」とは何か
2026/08/13
生年の違う2通の印鑑証明書。
コピーしても現れない「複製」の文字。
前件登記の代理人である弁護士本人とは、一度も話をしていない。
「新しい印鑑証明書を用意する」とされたのに、決済日になっても新しい証明書は出てこない。
前回取り上げた東京高裁平成30年9月19日判決は、こうした事情を知っていた後件担当の司法書士について、単に「おかしい」と指摘しただけでは足りなかったとして、3億2400万円の損害賠償責任を認めました。
ところが、最高裁はこの判決を破棄します。
しかも最高裁は、
「司法書士には怪しい事情など分からなかった」
と判断したわけではありません。
むしろ、司法書士が印鑑証明書の問題点を認識し、「相応の疑いを有していたものと考えられる」と明確に認めています。
それでも、3億2400万円の賠償判決は維持されませんでした。
では、東京高裁の判断には何が足りなかったのでしょうか。
最高裁が持ち込んだのは、
「司法書士が怪しいと気付いたか」だけではなく、「そもそも、この司法書士は誰から何を依頼され、取引の中で何をする役割だったのか」
という視点でした。
そしてもう一つ。
損害賠償を求めている原告Xは、そもそもこの司法書士の依頼者ではありませんでした。
今回は、司法書士の専門家責任について重要な判断を示した最高裁令和2年3月6日判決を取り上げます。
第1部はこちらです。
https://nakano-lawoffice.com/blog/detail/20260813153425/
第2部はこちらです。
https://nakano-lawoffice.com/blog/detail/20260814093154/
ここまでの流れ――責任なしから3億2400万円へ
この事件では、取引上、
登記上の所有者
↓
中間会社
↓
原告X
↓
最終買主
という3段階の売買契約が組まれていました。
一方、登記は原告Xを中間省略して、
前件登記:登記上の所有者 → 中間会社
後件登記:中間会社 → 最終買主
という2件の所有権移転登記を連件申請することになりました。
前件を担当したのは弁護士。
後件を担当したのが本件の司法書士です。
第一審の東京地裁は、
前件担当弁護士には6億4800万円の責任、後件担当司法書士には責任なし
と判断しました。
ところが東京高裁は司法書士について判断を逆転させ、
3億2400万円の損害賠償責任
を認めました。
高裁が重視したのは、司法書士が既に複数の不審事情を知っていたことです。
では最高裁は、それらの不審事情をどう見たのでしょうか。
最高裁も「司法書士は怪しいと気付いていた」と認めている
ここは、この最高裁判決を理解するうえで非常に重要です。
最高裁は、司法書士について、
所有者の印鑑証明書として提示された2通の書面に記載された生年に食い違いがあること等の問題点を認識しており、相応の疑いを有していたものと考えられる
としています。
つまり、
「偽造が巧妙だったから司法書士には何も分からなかった」
という理由で東京高裁を破棄したのではありません。
司法書士は問題に気付いていた。
そのこと自体は最高裁も認めている。
それでも最高裁は、
「怪しいと気付いた」→「もっと調査する義務がある」→「決済を止めるよう勧告する義務がある」
と直ちにつなげることには慎重でした。
ここが東京高裁との大きな違いです。
最高裁は司法書士を「書類を出すだけの人」とは考えていない
最高裁はまず、司法書士という職業そのものについて確認しています。
司法書士法は、
- 登記等に関する手続の適正かつ円滑な実施
- 国民の権利の保護
- 登記等の手続代理を原則として資格者に独占させること
- 関係法令・実務への精通
- 公正かつ誠実な業務遂行
を司法書士に求めています。
最高裁は、これらを踏まえ、司法書士には登記手続の専門家として公益的な責務があるとしています。
したがって、最高裁は、
司法書士は必要書類がそろっているかだけを見て、法務局へ提出すればよい
とは考えていません。
不審事情があれば「注意喚起を始めとする適切な措置」が必要な場合がある
最高裁は、司法書士の依頼者との関係について、重要な一般論を示しました。
司法書士は当然、登記申請に使う書類相互の整合性を形式的に確認する義務を負います。
しかし、それだけではありません。
その確認過程で、
本来の申請人ではない者による申請ではないかなどと疑うべき相当な事情
が存在する場合には、
「注意喚起を始めとする適切な措置」
をとる義務を負うことがあるとしました。
これは司法書士にとって軽い判示ではありません。
最高裁自身が、
一定の場合には、形式的な書類確認を超えた対応が司法書士に求められる
ことを明確に認めています。
したがって、この判決を、
「最高裁は司法書士の責任を軽くした」
とだけ理解するのは正確ではありません。
では、「適切な措置」とは何をすればよいのか
ここからが最高裁判決の重要なところです。
不審事情があれば、
必ず追加調査しなければならない。
さらに、
必ず決済を止めなければならない。
最高裁は、このような一律のルールを示しませんでした。
何をしなければならないのか、その範囲と程度は、司法書士が受けた委任契約の内容によって変わるとしています。
そして委任内容を判断する際には、
- どのような経緯で司法書士が依頼を受けたのか
- その取引に司法書士がどの程度関与したのか
- 依頼者に不動産取引の知識・経験がどの程度あったのか
- 他の資格者代理人が関与していたのか
- 不動産仲介業者が関与していたのか
- 不審事情について疑いがどの程度強かったのか
- 他の関係者もその問題を知っていたのか
- 関係者がその問題についてどのような対応をしていたのか
などを総合して判断するとしました。
分かりやすくいえば、
「どの程度怪しかったか」だけを見るのではなく、「この取引で誰が何を担当していたのか」まで見なければならない
ということです。
「気付く」「注意する」「調べる」「止める」は同じではない
前回の東京高裁判決では、不審事情に遭遇した司法書士の対応を、
気付く
↓
注意喚起する
↓
追加調査する
↓
決済の延期・中止を勧告する
↓
場合によっては辞任する
という段階で紹介しました。
東京高裁は、本件ではかなり後ろの段階まで司法書士に求めました。
しかし最高裁は、この段階を自動的につなげませんでした。
つまり、
「おかしい」と気付いたからといって、その瞬間に独自の追加調査義務や決済中止勧告義務まで当然に発生するわけではない
ということです。
どこまで進まなければならないのかは、
その司法書士がこの取引でどのような役割を引き受けていたのか
によって変わります。
最高裁は司法書士の責任を単純に弱くしたというより、
責任の決め方をより精密にした
と見る方が適切でしょう。
ここで大きな問題――原告Xは司法書士の依頼者ではなかった
そして最高裁は、もう一つ重要な問題を指摘します。
損害賠償を求めたXは、この司法書士の依頼者ではありません。
司法書士が後件登記について委任を受けていたのは、中間会社と最終買主側でした。
Xは、
- 第2売買では買主
- 第3売買では売主
ですが、中間省略登記によって登記名義人にはなりません。
司法書士とXとの間には、直接の委任契約がありませんでした。
そこで最高裁は、
依頼者に対して負う注意義務と同じ考え方を、そのまま第三者であるXとの関係に当てはめることはできない
としました。
これは東京高裁の判断から大きく進んだ部分です。
東京高裁は「重大な利害関係」を重視した
前回の記事で紹介したとおり、東京高裁はXについて、
後件登記の実現について「当事者に準ずる重大な利害関係」を有する
として、司法書士の注意義務をXにも及ぼしました。
確かにXは、後件登記が実現しなければ巨額の損害を受けます。
最高裁も、
Xは後件登記に係る所有権移転について「重要かつ客観的な利害」を有していた
ことを認めています。
そして、そのことは司法書士にも認識可能だったとしました。
しかし、最高裁はここで止まりませんでした。
「重大な利害関係」があるだけでは足りない
Xが6億円以上を支払う立場だった。
後件登記ができなければ大損害を受ける。
だから司法書士はXを守らなければならない。
東京高裁は、Xが中間者として後件登記の実現について「当事者に準ずる重大な利害関係」を有することを重視し、その重大な利害関係を基礎としてXにも司法書士の注意義務が及ぶと判断しました。
しかし最高裁は、
第三者が重要な利害関係を有しているというだけで、司法書士の依頼者と同じような注意義務を負わせることはできない
という考え方を示しました。
そこで登場するのが、この最高裁判決の重要なキーワードです。
最高裁が示した「正当な期待」
最高裁は、依頼者ではない第三者についても司法書士が責任を負う場合があること自体は認めています。
第三者が、
司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという「正当な期待」
を有している場合です。
つまり問題は、
Xがこの取引に重大な利害を持っていたか
だけではありません。
さらに、
この司法書士が、自分を守るために一定の確認・注意喚起・助言をしてくれるとXが期待することに、法的に見て正当な理由があったのか
を検討しなければならないということです。
「私は司法書士がやってくれると思っていた」
という主観だけでも足りません。
一方で、直接の契約がなければ絶対に責任を負わないということでもありません。
その期待が客観的に正当といえるか。
そこが問われます。
第三者への責任では、さらに何を見るのか
最高裁は、第三者との関係では特に、
- 不審事情について疑いがどの程度強かったか
- 第三者自身に不動産取引の知識・経験がどの程度あったか
- 第三者の利益を守る他の資格者代理人がいたか
- 不動産仲介業者が関与していたか
- 司法書士が取引全体で果たしていた役割
- 司法書士の関与の程度
などを十分に検討すべきだとしました。
したがって、一般消費者が専門家に全面的に依存している取引と、複数の専門家や不動産業者が関与するプロ同士の取引とでは、
「この司法書士から何をしてもらえると期待することが正当か」
が同じとは限りません。
ただし、
「不動産会社なら司法書士は責任を負わない」
という意味ではありません。
あくまで複数の事情を総合して判断するということです。
最高裁が本件で重視した事情①――司法書士が入る前に取引はほぼ決まっていた
最高裁は、本件司法書士が依頼を受けた時点で、
- 一連の売買契約
- 前件登記
- 後件登記
- 中間省略登記を利用すること
などが既に決められていたことを挙げています。
つまり司法書士は、
この複雑な取引全体を設計した専門家ではありません。
既に組み上がっていた取引について、後件登記を担当するために入った専門家でした。
これは、
取引全体について安全性を判断する役割だったのか、それとも既に決まった取引の一部分を担当する役割だったのか
を考えるうえで重要な事情です。
重視した事情②――前件所有者の本人確認を具体的に依頼されていなかった
司法書士は、後件登記を依頼されていました。
しかし、
前件申請が本当に登記名義人本人によるものなのか調査してほしい
という具体的な委任は受けていませんでした。
後件登記を依頼した以上、
前件の本人性についても何から何まで調べることが当然に委任内容に含まれる――。
最高裁は、そのような単純な考え方をしていません。
ここでも、
専門家に何を期待するか以前に、何を依頼したのか
が重要になります。
重視した事情③――前件には別の資格者代理人である弁護士がいた
前件申請は、別の資格者代理人である弁護士が受任することになっていました。
東京高裁は、
弁護士がいるといっても、司法書士自身がその弁護士本人に確認すべきだった
と厳しく評価しました。
一方、最高裁は、
前件には別の資格者代理人が存在していた
という事実そのものを、司法書士に期待される役割を考える重要な事情として挙げています。
もちろん、
「前件に弁護士がいるから司法書士は何もしなくてよい」
という意味ではありません。
しかし反対に、
他の専門家が実際に関与している取引で、後件司法書士に取引全体の確認責任を当然に集中させる
こともできないということです。
重視した事情④――公証人による認証まで付いていた
前件申請の弁護士への委任状には、公証人の認証が付いていました。
そこでは、印鑑証明書等の提出を受けて、
委任者が人違いではないことを証明させた旨
が記載されていました。
結果的には、この公証人も成りすましを見抜くことができませんでした。
しかし最高裁が見ているのは結果ではありません。
司法書士が判断していたその時点では、
前件には弁護士がいて、さらに公証人による認証まで存在していた
という状況でした。
これも、後件司法書士が独自にどこまで前件本人確認を行う役割だったのかを考える一事情になります。
「公証人が認証したから安全だった」ということではありません。
あくまで役割分担を判断する材料の一つです。
重視した事情⑤――X自身が不動産業者だった
原告Xは一般消費者ではありません。
不動産の売買・管理等を行う会社でした。
そしてXの代表者自身が、問題となった9月7日の会合に出席しています。
その場には、
- Xが依頼した不動産仲介業者の代表者
- 最終買主側の担当者
- 後件担当司法書士
なども出席していました。
つまり、
Xは何も知らず、司法書士だけが不審事情を知っていた
という事件ではありません。
X自身も、2通の印鑑証明書の問題をその場で認識していました。
最高裁はこの点も、Xが司法書士にどこまで期待できたのかを考える事情としました。
重視した事情⑥――問題を指摘したのは司法書士自身だった
そして最高裁は、
印鑑証明書の食い違いは、司法書士自身が指摘したこともうかがわれる
としています。
ここは第2部との対比が非常に面白いところです。
東京高裁は、
指摘しただけでは足りない。
と考えました。
最高裁は、
司法書士が既に問題を指摘しているという事実も含めて、その司法書士にさらに何を期待することが正当だったのかを考えなければならない。
という方向へ進みます。
同じ「司法書士が問題を指摘した」という事実が、裁判所によって全く違う意味を持っているのです。
最高裁は「怪しくても何もしなくてよい」と言ったわけではない
ここは改めて強調しておく必要があります。
この最高裁判決は、
「不審な事情があっても司法書士は何もしなくてよい」
という判決ではありません。
最高裁自身、
司法書士は相応の疑いを有していた
としています。
そして一般論としても、
申請人ではない者による申請などを疑うべき相当な事情がある場合には、「注意喚起を始めとする適切な措置」をとる義務を負うことがある
と明言しています。
したがって、
「司法書士には本人確認責任がない」
「前件に弁護士がいれば何も確認しなくてよい」
「書類が怪しくても依頼された登記だけ申請すればよい」
という判決ではありません。
最高裁が問題にしたのは「どこまでやるのか」
最高裁が東京高裁に対して問題としたのは、
不審事情があったことから、直ちに追加調査や決済中止勧告まで司法書士の義務としてしまった点
です。
最高裁は、本件の事情の下では、
司法書士がXに対して「注意喚起を始めとする適切な措置」をとる義務があったと直ちにいうことは困難であるとしました。
そしてさらに、
「まして」
司法書士がもっと積極的に調査し、その上で代金決済の中止等まで勧告する義務をXに負っていたとはいえない、としています。
かなり強い表現です。
しかし、ここでも注意が必要です。
最高裁は、
「注意喚起義務すら絶対にない」
と最終判断したわけではありません。
なぜ最高裁は自分で「司法書士の責任なし」としなかったのか
最高裁の結論は、
請求棄却
ではありません。
破棄差戻し
です。
つまり、
東京高裁が3億2400万円の責任を認めた判断方法には問題がある。
しかし、
司法書士が最終的に責任を負うのか負わないのかを最高裁自身がここで決めるには、まだ審理が足りない。
ということです。
最高裁は、
Xとの関係で、この司法書士に正当に期待されていた役割の内容や、その取引への関与の程度をもっと詳しく調べなさい
として、事件を東京高裁へ差し戻しました。
したがって、
「最高裁が司法書士の責任を否定した判決」
と紹介するのは正確ではありません。
正しくは、
「司法書士に3億2400万円の責任を認めた高裁判決を破棄し、責任の有無を改めて審理させた判決」
です。
一審・東京高裁・最高裁――何が違ったのか
ここまでの3つの判決を並べると、この事件が非常に面白い理由が分かります。
第一審・東京地裁――「役割分担」を重視
前件は弁護士、後件は司法書士。
前件書類の真正確認は、前件代理人が第一義的に担当する。
司法書士は問題を指摘し、前件側が対応することになった。
したがって、
司法書士の責任なし。
東京高裁――「現実に知っていた異常」を重視
前件代理人本人とは話していない。
本人確認情報にも不自然な点がある。
生年の違う印鑑証明書が2通ある。
コピー防止文字も出ない。
新しい証明書も提出されない。
そこまで知っていたのなら、前件側に任せるだけでは足りない。
もっと調査し、警告し、必要なら決済を止めるよう勧告すべきだった。
したがって、
司法書士3億2400万円。
最高裁――「不審事情」と「期待された役割」の両方を見る
確かに怪しい事情はあった。
司法書士も相応の疑いを持っていた。
しかし、
- 後件だけを依頼されていた
- 取引内容は既に決まっていた
- 前件には別の資格者代理人がいた
- 公証人の認証もあった
- X自身も不動産業者だった
- Xや仲介業者も問題を認識していた
- 司法書士自身が不審点を指摘していた
- しかもXは司法書士の依頼者ではない
これらを考えずに、
「怪しい事情があったから追加調査し、決済まで止めるべきだった」
と直ちに判断してよいのか。
そこで、
3億2400万円判決を破棄し、東京高裁へ差戻し。
となりました。
最高裁は司法書士の責任を軽くしたのではなく、「責任の決め方」を精密にした
この最高裁判決から、
「司法書士の責任が軽くなった」
とだけ読むのは適切ではないでしょう。
最高裁はむしろ、
不審事情があれば、司法書士が形式確認を超えて注意喚起等をしなければならない場合がある
ことを明確に認めています。
その一方で、
問題に気付いたという一事だけから、追加調査、決済中止、辞任まで一気に義務を広げることもしなかった。
専門家の責任を考えるには、
誰から何を依頼されたのか。
取引全体にどこまで関与していたのか。
他にどの専門家がいたのか。
依頼者や第三者自身にはどの程度の知識・経験があったのか。
そして、その専門家にどこまで期待することが正当だったのか。
こうした事情を総合して判断しなければならないとしました。
司法書士は、登記申請書を法務局へ提出するだけの存在ではありません。
しかし同時に、
取引全体の安全を無限定に保証する存在でもありません。
その間のどこに具体的な注意義務があるのかを、案件ごとに見極める必要があるということです。
この最高裁判決から考えたい6つのポイント
今回の最高裁判決からは、司法書士実務について次のような点を考えることができます。
- 司法書士は形式確認だけで足りるとは限らない。
不審事情があれば、注意喚起を始めとする適切な措置が必要になる場合があります。 - しかし、不審事情があれば自動的に追加調査・決済中止となるわけでもない。
何をどこまで行うべきかは、具体的な受任内容や関与の程度によって変わります。 - 「誰から何を依頼されたのか」が重要である。
専門家だから何でも確認するということではなく、具体的な受任範囲が責任を考える出発点になります。 - 他の専門家や仲介業者の存在も無視できない。
取引の安全を誰がどのように担っていたのか、取引全体を見る必要があります。 - 依頼者と第三者では同じではない。
直接の依頼者ではない第三者への責任については、その司法書士から注意喚起等を受けられるという「正当な期待」が重要になります。 - 取引当事者自身の知識や経験も考慮される。
一般消費者と不動産取引のプロでは、具体的事案における「正当な期待」の内容が異なる可能性があります。
ただし、これらは単純なチェックリストではありません。
最高裁が求めたのは、諸事情を総合した判断です。
では、差戻後の東京高裁はどう判断したのか
最高裁は、
司法書士には責任がない
と最終判断したわけではありません。
東京高裁に対し、
「Xとの関係で、この司法書士に何を期待することが正当だったのかをもっと審理しなさい」
という宿題を出しました。
では、差し戻された東京高裁は、最高裁の示した基準を具体的な事実へどう当てはめたのでしょうか。
結論は、再び、
司法書士の責任なし
となります。
しかし、その理由が興味深いところです。
差戻審では、
- 司法書士の報酬は日当を含め14万円
- 原告Xが仲介会社へ支払う報酬等は3100万円
- X代表者には約29年の不動産取引経験
- 前件には資格者代理人である弁護士
- 公証人による認証
- 9月7日の会合で司法書士自身が疑問を指摘
- その後の対応を別の関係者が行うことを出席者が了承していた
など、非常に具体的な事情が検討されます。
次回は、最高裁の「正当な期待」という基準を実際の取引に当てはめた差戻後の東京高裁令和3年8月4日判決を取り上げます。
そして、最高裁判決にはもう一つ非常に興味深い意見があります
なお、この最高裁判決には、草野耕一裁判官の個別意見が付されています。
そこで扱われているのは、司法書士だけの問題ではありません。
「職業的専門家とは、そもそも誰に専門知識を提供する義務を負う存在なのか」
という、もっと大きな問題です。
さらに、
詐欺が発覚した後の「後知恵」で、専門家に『当時気付くべきだった』と責任を負わせてよいのか
という非常に興味深い指摘もされています。
これは最高裁多数意見とは別の意見ですので、今回の記事では詳しく扱いません。
別の特別編で、草野裁判官の考え方だけを取り上げたいと思います。
不動産売買と司法書士の役割
不動産売買では、司法書士に求められる役割は案件によって異なります。
通常の所有権移転登記なのか、連件申請なのか。
複数の専門家が関与しているのか。
本人確認や意思確認を誰が担当しているのか。
取引当事者は一般の方なのか、不動産取引の専門業者なのか。
そして、不審な事情が現れた場合に、その司法書士がどこまで確認・注意喚起すべき立場なのか。
最高裁令和2年3月6日判決は、司法書士の責任を単純な「確認した・しなかった」だけで決めるのではなく、受任した役割と取引全体の状況から具体的に判断する必要があることを示した判決といえます。
中野司法書士事務所では、不動産売買の決済、本人確認・意思確認、所有権移転登記、連件申請などの不動産登記業務に対応しています。
東京都杉並区・高円寺駅徒歩1分。司法書士として25年以上の実務経験をもとに、それぞれの取引内容と関係者の役割を確認しながら登記手続を進めています。
参考判例
最高裁判所第二小法廷令和2年3月6日判決
平成31年(受)第6号 損害賠償請求事件
民集74巻3号149頁
----------------------------------------------------------------------
中野司法書士事務所
東京都杉並区高円寺南4-28-10
高円寺リリエンハイム407
電話番号 :
03-6272-4260
杉並区で選ばれる不動産登記・名義変更業務
----------------------------------------------------------------------

