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成年後見制度はどう変わる?令和8年改正の背景と全体像|後見・保佐・補助の見直し

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成年後見制度はなぜ大きく変わる?令和8年改正の背景と全体像【成年後見制度改正・1回】

成年後見制度はなぜ大きく変わる?令和8年改正の背景と全体像【成年後見制度改正・1回】

2026/09/26

成年後見制度が大きく変わります。

令和8年6月17日に成立し、同月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)では、現在の後見・保佐・補助という法定後見の三類型が見直され、後見・保佐の制度は廃止されます。

 

改正後の法定後見制度は「補助」の制度に一元化され、本人に必要な支援を必要な範囲で組み立てる仕組みへ再編されます。また、本人の判断能力が回復していなくても、制度を利用する必要がなくなれば終了できる仕組みも設けられました。

 

なお、成年後見制度に関する改正の施行日は、公布の日から2年6月を超えない範囲内で政令で定める日とされています。

また、施行前から後見・保佐を利用している人については経過措置があり、施行日に一律に新しい補助制度へ切り替わるわけではありません。この点は連載第7回で詳しく扱います。

かなり大きな改正です。

 

しかし、単に「後見と保佐という名前がなくなる」と理解するだけでは、今回の改正の意味は分かりません。

なぜ、これまで長く使われてきた成年後見制度をここまで大きく作り替えるのでしょうか。

第1回では、細かな新制度の説明に入る前に、現在の成年後見制度の何が問題とされ、改正によって何を変えようとしているのかを整理します。

 

現在の法定後見制度は「後見・保佐・補助」の3種類

現在の法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、

  • 補助
  • 保佐
  • 後見

の3種類に分かれています。

 

大まかにいえば、判断能力が「不十分」であれば補助、「著しく不十分」であれば保佐、「欠けているのが通常の状態」であれば後見という仕組みです。

そして、どの類型に該当するかによって、本人に付く支援や本人の法律行為に対する制限の範囲も大きく変わります。

 

法務省は、現在の制度について、本人の事理弁識能力の程度によって、利用できる制度が画一的に法定されていると整理しています。

 

これに対し、改正後は、判断能力の程度によって三つの制度のどれかに当てはめる仕組みから、その人が実際に必要とする支援の内容によって、利用する仕組みを選ぶ制度へ変わります。

ここが今回の改正を理解するうえで、最初の大きなポイントです。

 

なぜ成年後見制度を見直す必要があったのか

法制審議会での検討過程では、現在の成年後見制度について、いくつかの問題が指摘されていました。

分かりやすいのが、遺産分割などをきっかけに成年後見制度を利用した場合です。

 

例えば、本人の判断能力が低下しているため遺産分割を進められず、成年後見制度を利用したとします。

遺産分割そのものは終わった。

しかし、本人の判断能力が回復したわけではない。

現在の後見・保佐では、このように制度を利用するきっかけとなった問題が解決しても、判断能力が回復しない限り、制度の利用を終了することができないという問題があります。

 

法務省の中間試案に関する参考資料でも、

利用動機の課題(例えば、遺産分割)が解決しても、判断能力が回復しない限り利用をやめることができない

ことが、現行制度への主な指摘の一つとして挙げられています。

 

成年後見制度は本人を保護するための制度です。

一方で、制度を利用する具体的な必要がなくなった後も、本人の判断能力が回復しないという理由だけで制度が続くことは、本人の自己決定を必要以上に制約することにならないかという問題につながります。

 

成年後見人の権限が、必要な範囲を超える場合もある

もう一つ大きな問題とされたのが、成年後見人の権限です。

 

現在の後見制度では、成年後見人には本人の財産に関する包括的な代理権があり、本人がした日常生活に関する行為以外の法律行為について、原則として取り消すことができます。

これは、判断能力を欠く人を財産被害などから守るための強い仕組みです。日用品の購入など「日常生活に関する行為」は取消しの対象になりません。

したがって、包括的な代理権や取消権そのものが問題なのではありません。

取消権には、不利益な契約を取り消すなど、本人を被害から守る重要な機能があります。

 

しかし一方で、本人に必要なのが特定の不動産売却や遺産分割の代理だけであったとしても、現在の後見の要件に該当すれば、包括的な代理権・取消権を伴う後見制度を利用することになります。

 

法務省の「中間試案の補足説明」では、

  • 必要な限度を超えて取消権等が設定され、本人の行為能力が制限される場合がある
  • 成年後見人の包括的代理権が、個別の事案では必要な範囲を超える場合がある
  • 権限の行使が本人の意向に反し、本人の自律や自己決定に基づく権利行使を制約する場合がある

といった指摘が整理されています。

 

つまり今回の改正では、

「本人を守ること」と「本人自身が決めること」を、どう両立させるか

が大きなテーマになっています。

 

本人のニーズに応じて成年後見人等を交代しにくいとの指摘もあった

制度を利用している間に、本人の生活状況や必要な支援が変わることもあります。

現行法では、成年後見人の解任事由として「不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由」が定められています。

 

法務省の資料では、こうした現行の解任事由について、主として成年後見人等の側の事情に着目したものであり、本人の状況の変化に応じた交代が実現しにくいことが問題として挙げられていました。

 

つまり、

成年後見人等に不正があるわけではないものの、現在の本人のニーズからみれば別の人が支援者となった方がよい

という場合に、円滑な交代が難しいという問題です。

 

改正法では、この点についても、本人の利益のために特に必要があるときを新たな解任事由として加えています。

詳しくは、この連載の第5回で扱います。

 

改正のキーワードは「必要な範囲・必要な期間」

今回の改正を一言で整理すると、

本人に必要な支援を、必要な範囲・必要な期間で行う制度への転換

と捉えると分かりやすいと思います。

 

現行制度では、本人の判断能力の程度によって後見・保佐・補助という類型が分かれ、それぞれの類型に応じた法的効果が定められています。

 

改正後は補助の制度に一元化したうえで、

本人にどの法律行為について代理が必要なのか。

どの行為について同意・取消しによる保護が必要なのか。

そもそも現在も制度を利用する必要があるのか。

という具体的な必要性を重視する仕組みに変わります。

 

そして、本人の判断能力が回復していなくても、制度利用の必要がなくなれば、制度を終了できるようになります。

 

中間試案の段階では、一定期間が経過すると終了し、必要であれば更新する仕組みも選択肢の一つとして検討されていました。

最終的にはその方式ではなく、本人の状況を継続的に確認し、制度利用の必要性がなくなれば終了させる仕組みが採用されています。

単に「成年後見を終わりやすくする」のではなく、制度を利用している間も、本当にその保護が必要なのかを見直していく考え方です。

この具体的な仕組みは、第4回で詳しく取り上げます。

 

判断能力の程度だけで、一律に強い権限・制限を結び付ける仕組みを見直す

今回の改正は、本人の判断能力を軽視するものではありません。

本人の事理弁識能力が不十分であることは、改正後も法定後見制度を利用するための重要な要件です。

そのうえで、

判断能力の程度だけを理由として、本人に必要な範囲を超える権限や制限を当然に結び付けない

方向へ制度が変わります。

 

法務省の概要では、改正後について、

必要とする支援の内容によって、利用する制度を選択

すると説明されています。

 

例えば、ある特定の法律行為だけを代理してもらえば足りる人に、本人の法律行為全般に広く影響する権限まで必要なのか。

反対に、個々の危険な行為をあらかじめ特定することが難しいほど判断能力が低下している人については、より広い保護が必要ではないか。

そうした本人ごとの必要性に応じて、必要な支援を組み立てる考え方になっています。

 

一方、事理弁識能力を欠く常況にある人については、必要がある場合に「特定補助」という仕組みを選択できる制度も設けられました。

この点は第2回・第3回で詳しく見ていきます。

 

「本人の意思を尊重する」ことも、より具体的な仕組みへ

本人の意思を尊重するという考え方自体は、今回の改正で初めて登場したものではありません。

 

平成28年に成立した「成年後見制度の利用の促進に関する法律」は、基本理念として、成年被後見人等の意思決定の支援が適切に行われることと、自発的意思が尊重されることを既に掲げています。

 

今回の改正で注目したいのは、その理念が、補助人の職務についてより具体的な規律として民法に反映されたことです。

改正後は、補助人が事務を行う際、

本人に必要な情報を提供し、本人から話を聴くなど適切な方法によって本人の意向を把握し、その意向を尊重する

ことが求められます。

 

また、補助人を選任するときの考慮事項でも、「本人の意見」がより明確に重視されます。

「本人の意思を尊重してください」と抽象的に定めるだけではなく、

その前提として、まず本人が何を望んでいるのかを把握する

ことまで具体化した点が、今回の改正の特徴の一つです。

 

改正の背景には、高齢化だけでなく本人の尊厳・自己決定の考え方もある

今回の見直しの背景には、高齢化の進展や単独世帯の高齢者の増加などにより、成年後見制度に対するニーズの増加・多様化が見込まれていることがあります。

 

一方で、それだけではありません。

令和4年に閣議決定された第二期成年後見制度利用促進基本計画では、障害の有無にかかわらず、本人らしい生活の継続や地域社会への参加など、ノーマライゼーションの理念を踏まえて成年後見制度を見直す方針が示されました。

また、障害者権利条約に基づく日本への審査では、国連障害者権利委員会から、意思決定を代行する制度の在り方について民法を見直すよう求める勧告も示されています。

 

今回の改正は、こうした国際的な議論だけを理由として行われたものではありません。

現行制度の運用上の問題、高齢化や家族の在り方の変化、国内の成年後見制度利用促進政策、そして障害者の権利をめぐる国際的な議論など、複数の背景を踏まえて検討されたものです。

その方向性は、

本人を保護する機能を維持しながら、本人の自己決定をさらに尊重する制度へ組み直すこと

にあると整理できます。

 

「成年後見制度そのもの」がなくなるわけではない

最後に、一つ注意しておきたいことがあります。

 

今回、

後見と保佐の制度は廃止されます。

 

しかし、成年後見制度そのものが廃止されるわけではありません。

 

改正後も、判断能力が不十分な人を法的に支援する制度は存続します。

現在の「後見・保佐・補助」という三つの類型を中心とした仕組みから、補助の制度に一元化し、必要な支援を本人ごとに組み立てる仕組みへ再構成するのが今回の改正です。

 

また、既に後見・保佐を利用している人については経過措置があります。改正法が施行されたからといって、現在の後見・保佐がその日に一斉に終了したり、自動的に新しい補助へ変更されたりするわけではありません。

 

したがって、

「成年後見制度が廃止される」

「認知症になった人を法的に支援する制度がなくなる」

という理解は正確ではありません。

 

今回の改正で大きく変わるのは、

どの類型に当てはまるかを中心に考える制度から、その人にどのような法的支援が必要なのかをより具体的に考える制度へ移る

という点です。

 

次回は、現在の「後見・保佐・補助」の三類型が具体的にどう変わり、改正後の「補助」を中心とした制度がどのような仕組みになるのかを整理します。

 


参考にした主な資料

  • 法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
  • 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)の概要」
  • 法務省民事局「法定後見制度の見直しの概要」
  • 法制審議会 民法(成年後見等関係)部会資料
  • 「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」
  • 法務省民事局参事官室「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」
  • 法務省民事局参事官室「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案に関する参考資料」

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