後見・保佐・補助はどう変わる?令和8年改正後の新しい法定後見制度【成年後見制度改正・2回】
2026/09/28
前回は、令和8年の民法改正によって成年後見制度がなぜ大きく見直されるのか、その背景を取り上げました。
今回から、改正後の制度そのものを見ていきます。
一番大きな変更は、現在の後見・保佐・補助という三つの法定後見制度のうち、後見と保佐を廃止し、「補助」の制度に一元化することです。【民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)】
ただし、「三つを一つにまとめて、全部を今の補助にした」と考えると、新しい制度を正確に理解できません。
改正後の「補助」は、現在の補助制度をそのまま残したものではありません。
本人にどのような法的支援が必要なのかを具体的に判断し、要同意事項、特定補助、代理権といった仕組みを、その必要性に応じて設定する制度として再構成されています。
なお、成年後見制度に関する改正はまだ施行前で、施行日は公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日です。以下の「改正後」は、改正法の施行後を意味します。
現在は「判断能力の程度」で後見・保佐・補助に分かれる
現在の法定後見制度では、本人の事理弁識能力の程度によって、利用する制度が分かれます。
「事理弁識能力」とは、ここでは大まかに、法律行為の意味や結果を理解して判断する能力と考えると分かりやすいでしょう。
| 判断能力の状態 | 現在の制度 | 主な支援・保護 |
|---|---|---|
| 不十分 | 補助 |
必要な特定の行為について 代理権や同意・取消しによる保護 |
| 著しく不十分 | 保佐 |
法律で定められた重要な行為について 広く同意・取消しによる保護。 必要に応じて代理権 |
| 欠く常況 | 後見 |
成年後見人による包括的な代理と、 日常生活に関する行為を除く 本人の法律行為についての広い取消し |
法務省は、この現在の制度を、
「事理弁識能力の程度によって、利用できる制度が画一的に法定されている」
と整理しています。【法定後見制度の見直しの概要】
改正後は、この三類型による仕組みを見直します。
改正後は「補助」の制度に一元化される
改正後の法定後見制度では、成年についての後見・保佐が廃止され、補助開始の審判を基本とする仕組みになります。
対象となるのは、
「精神上の理由により事理を弁識する能力が不十分である者」
です。
現在の補助と同じ「補助」という名称が残りますが、制度の中身まで現在と同じという意味ではありません。
改正後は、判断能力の程度によって「補助・保佐・後見」という三つの類型のどれかに当てはめるのではなく、まず補助を基本とし、そのうえで本人がどのような法的支援を必要としているのかに応じて、必要な仕組みを設定することになります。
もっとも、判断能力の程度が関係しなくなるわけではありません。
後で説明する「特定補助」を利用するには、本人が事理を弁識する能力を欠く常況にあることが要件となります。
したがって、判断能力を見なくなるのではなく、判断能力の程度によって三つの制度に人を振り分ける構造を改めると理解するのが正確です。
法務省は、改正後の制度を、
「必要とする支援の内容によって、利用する制度を選択」
する仕組みと整理しています。
判断能力が不十分というだけで「補助」が始まるわけではない
ここは、新しい制度を理解するうえで重要なところです。
改正後の民法7条では、精神上の理由により事理を弁識する能力が不十分な人について、家庭裁判所が補助開始の審判をすることができます。
しかし、判断能力が不十分であることだけを理由に、補助開始の審判だけをする仕組みにはなっていません。
民法7条3項では、補助開始の審判は、
- 補助人の同意を要する旨の審判
- 特定補助人を付する旨の審判
- 補助人に代理権を付与する旨の審判
のいずれかをする必要がある場合に、これらの審判と同時にしなければならないとされています。【 新旧対照条文(民法等改正法)】
要するに、補助を開始するときには、少なくとも一つは具体的に必要な支援・保護の仕組みがあることが前提になります。
つまり、
「とりあえず補助を開始して補助人は付ける。しかし、その補助人に具体的に必要な役割は何もない」
という制度利用は予定されていません。
本人について、実際にどのような法的支援が必要なのか。
そこを具体的に考えたうえで補助制度を利用する構造になっています。
第1回で取り上げた「必要な支援を必要な範囲で」という考え方が、条文に現れている部分です。
新しい補助制度には、大きく三つの仕組みがある
改正後の法定後見制度の骨格は、大きく次の三つに分けると理解しやすくなります。
| 仕組み | 主な役割 |
|---|---|
| 代理権の付与 |
特定の法律行為について、 補助人が本人を代理する |
|
補助人の同意を 要する旨の審判 |
一定の重要な行為について 本人が補助人の同意を得ることを必要とし、 同意等なく行った場合には取消しの対象とする |
| 特定補助 |
事理弁識能力を欠く常況にある人について、 必要がある場合に、 より広い取消しによる保護等を行う |
ただし、この三つをすべて自由に組み合わせられるわけではありません。
通常の「補助人の同意を要する旨の審判」と「特定補助人を付する旨の審判」は併存しません。
一方、代理権の付与はこれらとは別の仕組みであり、必要な場合には併せて利用できます。【 新旧対照条文(民法等改正法)】
この関係を押さえておくと、新しい制度がかなり理解しやすくなります。
必要な法律行為について、補助人に代理権を与える
改正後の民法11条では、家庭裁判所は必要があると認めるとき、本人のために「特定の法律行為」について補助人に代理権を付与することができます。
例えば、法務省の資料では遺産分割の代理権が例として挙げられています。
本人に必要なのが遺産分割についての代理であれば、その法律行為について代理権を付与する。
補助人になったというだけで、現在の成年後見人のような包括的な代理権を当然に持つわけではありません。
これが新制度の大きな特徴です。
立法過程では、この「特定の法律行為」は、一回限りの具体的な取引だけでなく、一定の種類の法律行為として特定することもあり得ると整理されています。【 部会資料33-2 民法等(成年後見等関係)の改正に関する要綱案…】
一方で、代理権などの対象は、取引の相手方から見ても、その行為が権限の範囲に入るのかを判断できる程度に特定される必要があるという考え方も示されています。 【部会資料33-2 民法等(成年後見等関係)の改正に関する要綱案…】
したがって、
「補助人だから本人に代わって何でも契約できる」
わけではありません。
何について代理してもらう必要があるのかを、具体的に定めることになります。
本人がする行為について「補助人の同意を必要とする」こともできる
代理とは別に、本人自身が法律行為をするときに、補助人の同意を必要とする仕組みがあります。
改正後の民法9条では、法律が列挙する一定の重要な行為の中から、家庭裁判所が必要なものを定めることができます。
対象となり得る行為には、
- 預金・貯金の預入れや払戻しの請求
- 借財や保証
- 不動産その他の重要な財産に関する行為
- 訴訟行為
- 相続の承認・放棄や遺産分割
などがあります。
一方、日用品の購入その他の日常生活に関する行為は対象になりません。 【新旧対照条文(民法等改正法)】
ここで注意したいのが、取消しの仕組みです。
単に、
「補助人に取消権だけを与える」
という制度ではありません。
家庭裁判所が、
「この行為をするときには補助人の同意が必要である」
と定め、その同意または家庭裁判所による同意に代わる許可を得ないで本人がその行為をした場合に、取り消すことができる仕組みです。【 新旧対照条文(民法等改正法)】
つまり、
同意を必要とする行為を具体的に定めることと、取消しによる保護が結び付いている
と理解すると分かりやすいでしょう。
「代理権」と「同意・取消し」は別の仕組み
代理権と同意・取消しは、似ているようで役割が違います。
代理権は、補助人が本人に代わって法律行為をするための権限です。
これに対して、補助人の同意を必要とする仕組みは、本人自身が法律行為をすることを前提として、その行為について補助人の同意を必要とし、同意等なく行われた場合には取消しによる保護を及ぼすものです。
したがって、
「補助人になれば、代理権と取消しに関する権限が全部自動的に付いてくる」
わけではありません。
本人の状況に応じて、
- 代理権だけが必要
- 同意・取消しによる保護が必要
- 代理権と同意・取消しの両方が必要
という場合が考えられます。
改正後の制度では、何を補助人に代理してもらうのか、何について本人を同意・取消しによって保護するのかを分けて考えることになります。
補助開始・要同意事項・代理権は、本人以外の請求なら本人同意が原則
今回の改正では、本人の自己決定を尊重する観点から、本人の同意も重要な位置を占めています。
本人以外の者の請求によって補助開始の審判をする場合には、原則として本人の同意が必要です。
同様に、本人以外の者の請求によって、
補助人の同意を要する旨の審判
または
補助人に代理権を付与する旨の審判
をする場合にも、本人の同意が必要です。
ただし、いずれについても、本人がその意思を表示することができない場合には例外があります。 【新旧対照条文(民法等改正法)】
したがって、
「成年後見制度は判断能力が低下した人を保護する制度なのだから、本人が反対していても周囲が必要と判断すれば当然に利用できる」
という単純な仕組みではありません。
ここで注意が必要なのが特定補助です。
特定補助人を付する旨の審判そのものについては、民法9条や11条のような本人同意の規定は置かれていません。
ただし、特定補助人を付する審判と同時に補助開始の審判をする場合には、補助開始について定めた民法7条2項の本人同意の規律が問題になります。
この違いは特定補助を理解するうえで重要なので、第3回で詳しく取り上げます。
判断能力を欠く常況にある人には「特定補助」という仕組みもある
ここまで説明した通常の仕組みでは、どの法律行為について補助人の同意が必要なのかを、あらかじめ具体的に定めます。
しかし、本人が事理を弁識する能力を欠く常況にある場合、将来どのような法律行為について被害に遭う可能性があるのかを、本人との話し合いなどから事前に十分特定することが難しい場合があります。
立法過程でも、このような場面に対応することが特定補助の制度を設ける理由の一つとして説明されていました。【 部会資料33-2 民法等(成年後見等関係)の改正に関する要綱案…】
そこで改正後の民法10条では、精神上の理由により事理を弁識する能力を欠く常況にある人について、必要があると認めるときは、特定補助人を付する旨の審判をすることができる仕組みが設けられています。【 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)】
ただし、
「現在の成年後見が、そのまま特定補助という名前に変わった」
わけではありません。
特定補助人に、現在の成年後見人と同じ包括的な代理権が当然に与えられるわけでもありません。
特定補助では、通常の要同意事項とは異なる取消しによる保護のほか、意思表示の受領や財産の保存行為についての権限が設けられていますが、この部分は次回詳しく整理します。 【新旧対照条文(民法等改正法)】
なお、先ほど触れたとおり、「補助人の同意を要する旨の審判」と「特定補助人を付する旨の審判」は併存しません。
これに対して、代理権の付与は別の仕組みなので、特定補助を利用している場合でも、必要な特定の法律行為について補助人に代理権を付与することができます。
「補助」という名前より、何を必要としているかを見る制度へ
ここまでを見ると、今回の改正で「補助」という名前が残ること自体は、あまり本質ではないことが分かります。
現在は、
本人の判断能力はどの程度か
を基準として、補助・保佐・後見の三つの制度に分け、その類型に応じた法的効果が生じます。
改正後も、判断能力は重要です。
しかし、そのうえで、
何について代理が必要なのか。
何について同意・取消しによる保護が必要なのか。
個別に要同意事項を定める仕組みでは足りず、特定補助による保護が必要なのか。
という形で、本人に必要な法的支援・保護を具体的に考えることになります。
法務省は、この違いを端的に、
現行制度は、
「事理弁識能力の程度によって、利用できる制度が画一的に法定されている」
のに対し、見直し後は、
「必要とする支援の内容によって、利用する制度を選択」
すると整理しています。
「後見と保佐を廃止して補助に一本化する」という言葉だけを見ると、制度を単純にしたようにも見えます。
しかし実際には、本人にどのような支援が必要なのかを、これまで以上に具体的に考えて制度を設計する仕組みへ変わると理解した方が正確です。
そして、ここで次の疑問が出てきます。
事理弁識能力を欠く常況にある人について、取消しによる保護が必要な行為を一つずつ事前に定めるだけで、十分な保護ができるのでしょうか。
その問題に対応するために設けられたのが、新しい「特定補助」の仕組みです。
次回は、現在の成年後見との違いにも注意しながら、特定補助の要件と権限を詳しく見ていきます。
参考にした主な資料
- 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)の概要」
- 法務省民事局「法定後見制度の見直しの概要」
- 「民法等の一部を改正する法律案 新旧対照条文」
- 「民法(成年後見等関係)等の改正に関する要綱案」
- 法制審議会民法(成年後見等関係)部会資料33-2
- 法制審議会民法(成年後見等関係)部会資料34-2
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