特定補助とは?成年後見との違いと取消し・代理権の仕組み【成年後見制度改正・3回】
2026/09/29
令和8年の成年後見制度改正では、現在の後見・保佐が廃止され、法定後見制度は「補助」を基本とする仕組みに再編されます。
前回は、改正後の補助では、本人に必要な法律行為について代理権を付けたり、一定の行為について補助人の同意を必要としたりすることで、必要な支援を個別に設定することを説明しました。
では、本人の判断能力が大きく低下している場合も、それで十分なのでしょうか。
例えば、取消しによる保護が必要な行為を一つずつ事前に定めようとしても、本人の状況などから、どの行為について取消しによる保護が必要なのかをあらかじめ適切に特定することが難しい場合があります。
そこで新しく設けられたのが、「特定補助」です。
ただし、ここで注意したいのは、
現在の成年後見が、そのまま「特定補助」という名前に変わるわけではない
ということです。
特定補助は現在の成年後見とは異なり、特定補助人に包括的な代理権が当然に与えられる制度ではありません。
この違いを理解すると、今回の成年後見制度改正が何を目指しているのかが、さらに見えてきます。
なお、成年後見制度に関する今回の改正はまだ施行前です。施行日は、公布の日から2年6月を超えない範囲内で政令で定める日とされています。以下の「改正後」は、改正法の施行後を意味します。 【民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)】
なぜ「特定補助」という仕組みが必要なのか
通常の補助では、本人がどのような支援を必要としているかを具体的に考えます。
例えば、
- ある法律行為について補助人に代理してもらう
- 一定の重要な行為について補助人の同意を必要とする
といった形です。
同意・取消しによる保護を利用する場合には、家庭裁判所が、法律で定められた重要な行為の中から、本人についてどの行為を対象とするかを定めます。【 新旧対照条文(民法等改正法)】
しかし、本人が事理を弁識する能力を欠く常況にある場合には、本人の状況や利用できる支援の内容などを踏まえても、取消しによる保護が必要な行為と、そこまでの保護を必要としない行為とを、あらかじめ適切に分けることが難しい場合があります。
法制審議会の検討過程でも、このように個別の要同意事項を定める仕組みだけでは十分に対応しにくい場面があることが、特定補助を設ける理由として議論されていました。【 部会資料33-2 民法等(成年後見等関係)の改正に関する要綱案…】
もっとも、
事理弁識能力を欠く常況にあれば、必ず特定補助になる
わけではありません。
特定補助には、判断能力についての要件だけでなく、特定補助による保護の必要性も求められます。
特定補助の要件は「欠く常況」+「必要性」
改正後の民法10条1項では、家庭裁判所は、本人が
「精神上の理由により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」
であり、
さらに、
特定補助人を付する必要があると認めるとき
に、特定補助人を付する旨の審判をすることができるとされています。 【新旧対照条文(民法等改正法)】
つまり、重要なのは、
① 事理を弁識する能力を欠く常況にあること
と、
② 特定補助による保護が必要であること
です。
ここで注意したいのは、法律が「必要があると認めるとき」としていることです。
「他の方法がすべて使えないこと」や、「最後の手段であること」までが法律上の要件とされているわけではありません。
一方、立法過程では、能力要件、必要性の判断、後で説明する鑑定手続などを踏まえ、特定補助人を付する審判が利用されるのは例外的な場面になるというのが、部会のおおむねの認識と整理されています。
これは法律に「例外制度」と書かれているという意味ではありません。
したがって、
法律上「最後の手段」とされているわけではないが、必要性のない場合まで広く利用する制度として想定されたものでもない
と理解するのが適切です。
「事理を弁識する能力を欠く常況」とは
「事理を弁識する能力を欠く常況」という言葉は、一般にはかなり分かりにくい表現です。
成立した条文自体には、この言葉の詳細な定義は置かれていません。
法制審議会の部会資料33-2では、検討過程における整理として、
社会生活上、人が通常経験する事務について、その内容を理解し、考えられる解決の利害得失を検討して、態度を決定することができる可能性がないことが、ほとんど普通のありさまであること
とする考え方が示されています。
これはあくまで立法資料における概念整理であり、民法にそのまま定義として規定されたものではありません。
また、法律上の要件は医学上の診断名そのものではありません。
したがって、
「認知症と診断されたから直ちに該当する」
「重度の認知症という診断名だから当然に特定補助になる」
ということではありません。
本人が法律上の「事理を弁識する能力を欠く常況」にあるか、さらに特定補助を利用する必要があるかを、家庭裁判所が判断することになります。
特定補助では、重要な法律行為を広く取り消せる
特定補助の大きな特徴が、取消しによる保護の範囲です。
通常の補助では、民法9条2項に列挙された重要な行為の中から、家庭裁判所が本人について必要なものを選び、補助人の同意を要する行為として定めます。
これに対して、特定補助人を付する旨の審判がされると、本人がした民法9条2項各号の行為について、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き、取り消すことができるようになります。【 新旧対照条文(民法等改正法)】
民法9条2項には、例えば、
- 預金・貯金の預入れや払戻しの請求
- 借財や保証
- 不動産その他重要な財産に関する行為
- 訴訟行為
- 贈与や和解
- 相続の承認・放棄
- 遺産分割
などが定められています。【 新旧対照条文(民法等改正法)】
つまり、通常の補助では、
「この人については、この行為に同意・取消しによる保護が必要」
と対象を選ぶのに対し、
特定補助では、法律で列挙された重要な行為について、より広く取消しによる保護が及ぶことになります。
特定補助は「広い同意権」の制度ではない
ここは、通常の補助との違いとして重要です。
通常の民法9条の仕組みでは、家庭裁判所が定めた行為について、
本人が補助人の同意を得なければならない
という形で保護します。
その同意または家庭裁判所による同意に代わる許可を得ずに本人が行った場合、その行為を取り消すことができます。【 新旧対照条文(民法等改正法)】
一方、特定補助について民法10条は、
本人が行為をする前に、特定補助人の同意を得なければならない
という仕組みにはしていません。
特定補助では、法律で定められた重要な行為について、本人がした行為を取り消すことができるという形で保護します。【 新旧対照条文(民法等改正法)】
したがって、
「特定補助人には広い同意権がある」
と理解するのは正確ではありません。
特定補助の中心は、取消しによる保護です。
必要なら、取消しの対象をさらに追加できる
特定補助で取消しの対象となるのは、民法9条2項に列挙された行為だけとは限りません。
民法10条3項では、家庭裁判所が必要があると認めるときは、9条2項各号以外の特定の行為についても、
本人がした行為を取り消すことができるものとする旨の審判
をすることができます。
ただし、
日用品の購入その他日常生活に関する行為
は除外されています。【 新旧対照条文(民法等改正法)】
したがって、
「特定補助になれば、本人がしたすべての法律行為を取り消せる」
わけではありません。
まず、民法9条2項各号の重要な行為について取消しによる保護が及び、そのうえで必要がある場合には、それ以外の特定の行為も追加できる仕組みです。
特定補助人には三つの権限がある
民法10条5項では、特定補助人に次の三つの権限を認めています。 【新旧対照条文(民法等改正法)】
1.取消権の行使
一つ目は、特定補助によって取り消すことができる本人の行為について、取消権を行使することです。
2.本人に対する意思表示の受領
二つ目は、本人に対する意思表示を受領することです。
少し難しい言葉ですが、相手方から本人に対してされる法的な意思表示を受領するための権限です。
3.本人の財産に関する保存行為
三つ目が、本人の財産に関する保存行為です。
本人の財産の現状を維持するための行為をする権限です。
この、
取消権の行使
意思表示の受領
財産に関する保存行為
が、民法10条5項によって特定補助人に認められる権限です。
そして、ここに包括的代理権は入っていません。
特定補助人に「包括的代理権」はない
現在の成年後見と特定補助の違いとして、最も重要なのが代理権です。
現在の成年後見では、事理弁識能力を欠く常況にある人について、成年後見人が本人の財産に関する法律行為について包括的な代理権を持ちます。
また、本人がした日常生活に関する行為以外の法律行為について、広く取消しによる保護があります。
法務省も、現在の後見について「包括代理」「日常行為以外の行為の全部の取消し」と整理しています。
これに対して、特定補助人には、特定補助人になったというだけで包括的代理権が与えられるわけではありません。
代理権が必要であれば、民法11条に基づき、
必要な特定の法律行為について、別途、補助人に代理権を付与する旨の審判
を受けることになります。 【新旧対照条文(民法等改正法)】
違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | 現在の成年後見 | 改正後の特定補助 |
|---|---|---|
| 能力に関する要件 | 事理弁識能力を欠く常況 | 事理弁識能力を欠く常況 |
| 特定補助の必要性 | ― | 必要 |
| 取消しの範囲 |
日常生活に関する行為を除き 広く取消しの対象 |
9条2項各号の行為 + 必要に応じて追加された 特定の行為 |
| 包括的代理権 | あり | 当然にはない |
| 代理権 |
財産に関する法律行為 について包括的 |
必要な特定の法律行為 について別途付与 |
このように見ると、
「成年後見を廃止して、その代わりに特定補助を置いただけ」
ではないことが分かります。
むしろ改正法は、強い保護が必要な場合でも、
取消しによる保護と、本人に代わって法律行為をする代理権を分けて考える
仕組みにしています。
法務省の概要でも、現行制度では、事理弁識能力を欠く常況にあると、後見人が包括的な代理権・取消権を有する後見制度を利用することとなっていた点を問題として挙げ、改正後は特定補助の仕組みを選択できるようにすると説明しています。
「要同意事項」と「特定補助」は同時には使わない
通常の補助で利用する、
補助人の同意を要する旨の審判
と、
特定補助人を付する旨の審判
は、同時に存続する仕組みにはなっていません。
特定補助人を付する審判をするときに要同意事項の審判が既にある場合、家庭裁判所はその審判を取り消さなければなりません。
反対に、要同意事項の審判をする場合に特定補助の審判があるときは、家庭裁判所は特定補助の審判を取り消さなければなりません。 【新旧対照条文(民法等改正法)】
これは、
特定の行為について事前の同意を求める通常の仕組み
と、
一定の重要な行為について広く取消しによる保護を及ぼす特定補助
を、異なる仕組みとして設計しているためです。
一方、代理権はこれらとは別です。
したがって、特定補助を利用している場合でも、必要があれば特定の法律行為について代理権を付与することができます。
特定補助には必ず本人の同意が必要なのか
ここは少し複雑です。
民法9条の要同意事項や民法11条の代理権付与では、本人以外の者の請求によって審判をする場合、原則として本人の同意が必要です。
これに対して、民法10条の特定補助人を付する旨の審判そのものには、民法9条や11条のような本人同意の規定は置かれていません。
ただし、初めて補助制度を利用するときに、
補助開始の審判と特定補助人を付する審判を同時にする場合
には、補助開始について民法7条2項の規律が適用されます。
本人以外からの請求で補助開始の審判をするには、原則として本人の同意が必要で、本人がその意思を表示することができない場合には例外があります。【 新旧対照条文(民法等改正法)】
したがって、
「特定補助には必ず本人の同意が必要」
とも、
「特定補助なら本人の同意がなくても自由に付けられる」
とも言えません。
補助開始についての本人同意と、特定補助人を付する審判そのものの要件を分けて考える必要があります。
特定補助の判断には、原則として鑑定が必要
特定補助では、通常の補助よりも広い範囲で本人の法律行為が取消しの対象となります。
そのため、「事理を弁識する能力を欠く常況」にあるかどうかの認定について、慎重な手続が設けられています。
改正後の家事事件手続法119条では、特定補助人を付する処分の審判をするためには、本人の精神の状況について原則として鑑定をしなければならないとされています。
ただし、
医師2人以上の意見を聴き、明らかに鑑定の必要がないと家庭裁判所が認めるとき
は、鑑定をしないことができます。
したがって、
「特定補助では必ず鑑定が必要」
とまではいえません。
一方、通常の補助開始では、本人の精神の状況について医師その他適当な者の意見を聴くことが必要とされており、特定補助では、それより慎重に能力要件を認定するための手続が設けられています。
また、家庭裁判所が特定補助人を付する審判をする際には、原則として本人の陳述を聴かなければなりません。
ただし、本人の精神上の理由により陳述を聴くことができないときは例外とされています。
広い取消しによって本人を保護する一方、その制度を開始する判断についても慎重な手続が設けられています。
特定補助は「強い保護」だが、現在の成年後見とは違う
ここまでを見ると、特定補助は、通常の補助より広い取消しによる保護を可能にする仕組みです。
しかし、それは現在の成年後見と同じ形の権限を残したものではありません。
特定補助では、
- 重要な法律行為について広く取消しによる保護を認める
- 必要があれば、それ以外の特定の行為も取消しの対象にできる
- 特定補助人には意思表示の受領や財産の保存行為の権限がある
- 一方、包括的代理権は当然には与えない
- 代理権が必要なら、その法律行為について別途付与する
- 能力要件だけでなく、特定補助の必要性も判断する
という仕組みになっています。
ここにも、第1回から見てきた、
「本人に必要な支援を、必要な範囲で」
という今回の改正の考え方が表れています。
そして、もう一つ重要なのが「必要な期間」です。
立法過程では、能力要件、必要性、鑑定を原則とする手続などを踏まえて、特定補助人を付する審判が利用されるのは例外的な場面になるとの認識が示されていました。
さらに、本人の状況、環境、利用可能な支援の内容などが変わり、取消しによる保護が必要な行為と、必要でない行為とを明確に分けられるようになった場合には、特定補助を取り消して、補助人の同意を要する旨の審判へ移行することも立法過程で想定されています。
では、いったん始まった特定補助や補助制度は、誰が、いつ、その必要性を見直すのでしょうか。
そして、本人の判断能力が回復していなくても、本当に制度を終了できるのでしょうか。
次回は、今回の改正のもう一つの柱である、成年後見制度の「必要性の見直し」と終了の仕組みを取り上げます。
参考にした主な資料
- 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)の概要」
- 法務省民事局「法定後見制度の見直しの概要」
- 「民法等の一部を改正する法律案 新旧対照条文」
- 「民法(成年後見等関係)等の改正に関する要綱案」
- 法制審議会民法(成年後見等関係)部会資料33-2
- 法制審議会民法(成年後見等関係)部会資料34-2
- 家事事件手続法の改正部分
----------------------------------------------------------------------
中野司法書士事務所
東京都杉並区高円寺南4-28-10
高円寺リリエンハイム407
電話番号 :
03-6272-4260
杉並区で丁寧な成年後見・任意後見の相談サービス
----------------------------------------------------------------------