会社が本店移転したら、不動産の住所変更登記はもう不要?―令和8年5月15日から法人の「スマート変更登記」がスタート
2026/08/22
会社が本店を移転したとき、
「会社の本店移転登記をすれば、それで全部終わりでは?」
と思われる方もいるかもしれません。
しかし、これまではそうではありませんでした。
会社の登記と、その会社が所有している不動産の登記は別の制度です。
そのため、会社が本店を移転した場合には、商業登記として本店移転登記をしたうえで、その会社が土地や建物を所有していれば、不動産についても所有権登記名義人の住所変更登記をする必要がありました。
商号を変更した場合も同じです。
会社の商号変更登記をしても、会社が所有している不動産の所有者名が自動的に新しい商号へ変わるわけではありませんでした。
ところが、令和8年から、この仕組みが大きく変わりました。
法務局が会社所有不動産の住所・名称を職権で変更
令和8年4月1日から、不動産の所有者は、住所や氏名・名称に変更があった場合、原則として変更の日から2年以内に住所等変更登記をすることが義務化されました。
これとあわせて設けられたのが、法務局が公的な情報を利用して、登記官の職権で住所等変更登記を行う「スマート変更登記」です。
法人について実際にスマート変更登記が行われるようになったのは、令和8年5月15日からです。
法人の場合、大まかな流れは次のとおりです。
会社が本店移転や商号変更をする
↓
商業・法人登記に新しい住所や名称が登記される
↓
その変更情報が不動産登記側に提供される
↓
登記官が会社所有不動産の住所・名称を職権で変更する
法務省の通達では、この情報を「会社法人異動情報」と呼んでいます。
商業・法人登記と不動産登記が、これまでより直接的につながる仕組みになったわけです。
カギになるのは「会社法人等番号」
ただし、
法人名義の不動産なら、何でも自動的に変更されるわけではありません。
重要なのが会社法人等番号です。
法人のスマート変更登記の対象となるためには、その不動産の所有権の登記事項として会社法人等番号が登記されている必要があります。
この会社法人等番号を検索のキーとして、商業・法人登記に記録された法人と、不動産の所有者である法人とを結び付けます。
したがって、
「会社法人等番号が不動産登記に入っているか」
が非常に重要になります。
昔から会社で所有している不動産は確認した方がよい
令和6年4月1日から、法人が新たに不動産の所有権登記名義人となる場合には、会社法人等番号などの法人識別事項も登記事項となりました。
一方、それ以前から会社が所有している不動産では、会社法人等番号が登記されていない場合があります。
そのような場合には、
「法人識別事項(会社法人等番号等)の申出」
をすることで、会社法人等番号を登記してもらうことができます。
ここで一つ大切な点があります。
スマート変更登記の対象となるのは、会社法人等番号が登記された後に発生した本店移転や商号変更だけではありません。
たとえば、
- すでに会社の本店移転登記は終わっている
- しかし会社所有不動産の住所は昔の本店所在地のまま
- その後、会社法人等番号を不動産登記に登記する
という場合でも、商業・法人登記と不動産登記の住所が異なっていることが確認されれば、スマート変更登記の対象となり得ます。
令和8年5月15日より前から会社法人等番号が登記されていて、すでに住所や名称の不一致が生じていた場合についても、順次、職権変更登記の対象となります。
したがって、昔から会社で所有している土地や建物については、一度、現在の登記内容を確認してみる価値があります。
職権による変更登記には登録免許税等がかかりません
法人のスマート変更登記によって登記官が職権で行う住所・名称変更登記には、登録免許税等の費用はかかりません。
これは法人にとって大きなメリットです。
ただし、会社そのものについて行う、
- 本店移転登記
- 商号変更登記
まで不要になったわけではありません。
あくまで、商業・法人登記で会社の住所や名称を変更した後、その法人が所有する不動産側の住所・名称変更を登記官が職権で処理する制度です。
本店移転登記が終われば、不動産登記もすぐ変わる?
ここは注意が必要です。
本店移転登記や商号変更登記が完了した瞬間に、不動産登記も同時に変更されるわけではありません。
法務省は、法人の住所等に変更があったことを確認した後、変更情報を不動産登記システムへ提供し、順次、職権による変更登記を行うとしています。
また、通常の登記申請と同様に、変更登記が完了するまでには一定の期間を要するとされています。
したがって、
「本店移転登記が終わったから、所有不動産の住所ももう変わっているだろう」
とは限りません。
現在どうなっているかを知りたい場合には、不動産の登記情報を確認する必要があります。
本店移転直後に不動産を売却する場合は要注意
ここは司法書士実務では特に重要です。
たとえば、本店移転登記をした会社が、その直後に会社所有の不動産を売却するとします。
スマート変更登記がまだ完了しておらず、
現在の本店所在地と、不動産登記簿に記録された会社住所が違っている
ということがあります。
不動産の売却による所有権移転登記などを行う場合には、所有者の現在の住所と登記簿上の住所を一致させる必要があります。
そのため、スマート変更登記がまだ終わっていない段階で売買等の登記を急ぐ場合には、職権変更を待つのではなく、従来どおり住所変更登記を申請する必要があります。
つまり、
「法人のスマート変更登記が始まったので、会社所有不動産の住所変更登記は今後一切不要」
ということではありません。
不動産取引の予定がある場合には、現在の登記状態を確認して判断する必要があります。
法人のスマート変更登記 よくある質問
Q1 本店移転登記をしたら、会社所有の不動産について住所変更登記はもう申請しなくてよいのですか?
会社法人等番号が不動産登記に登記されているなどの条件を満たしていれば、原則としてスマート変更登記の対象になります。
商業・法人登記上の本店所在地の変更情報を利用し、登記官が職権で不動産の住所変更登記を行います。
ただし、職権登記が完了する前に不動産を売却する場合など、別の登記を急ぐときには、自ら住所変更登記を申請する必要があります。
Q2 昔から会社名義になっている土地や建物でも対象になりますか?
対象になる可能性があります。
まず、不動産登記に会社法人等番号が登記されているかを確認します。
登記されていない場合には、法人識別事項(会社法人等番号等)の申出をすることができます。
そして重要なのは、会社法人等番号を登記した後に住所や名称が変わった場合だけが対象ではないということです。
すでに商業・法人登記上の住所や名称が変更されており、不動産登記だけが旧住所・旧名称のままという場合でも、会社法人等番号が登記されることで、職権変更登記の対象となり得ます。
Q3 法務局から「住所を変更してよいですか」と確認が来ますか?
法人の場合は来ません。
個人のスマート変更登記では、登記官が職権で変更登記をする前に本人の意思確認を行います。
これに対して法人の場合には、そのような事前の意思確認はありません。
さらに、職権による住所・名称変更登記が完了しても、法務局から法人への完了連絡はありません。
したがって、変更が完了したか確認したい場合には、不動産の登記情報を確認することになります。
Q4 本店移転直後に会社所有の不動産を売却します。スマート変更登記を待てばよいですか?
職権変更がまだ終わっていなければ、別途住所変更登記が必要になることがあります。
スマート変更登記は即時に完了する制度ではありません。
売却による所有権移転登記や抵当権の抹消登記などをすぐに行う必要があり、登記簿上の会社住所が旧住所のままであれば、従来どおり住所変更登記を申請して現在の住所と一致させる必要があります。
「そのうち法務局が直してくれるから」と、そのまま取引を進められるとは限りません。
Q5 商号を変更していないのに、職権で法人名が変更されることもあるのですか?
あります。
法務省のQ&Aでは、次のような例が紹介されています。
法人登記簿
「株式会社ホウム‐ショウ」
※「‐」は全角ハイフン
不動産登記簿
「株式会社ホウムーショウ」
※「ー」は長音記号(伸ばし棒)
見た目はよく似ていますが、「‐」と「ー」は別の文字です。
このように、商号そのものを変更していなくても、商業・法人登記と不動産登記で法人名称の文字表記が異なっていれば、法人登記簿の表記に合わせるため、職権による名称変更登記がされることがあります。
実際の登記簿にはどう記録される?
少し専門的な話ですが、令和8年3月27日付け法務省民二第525号通達では、法人について職権で住所・名称変更登記をする場合、登記原因を
「異動情報取得」
として記録することとされています。
また、この変更登記は元の所有権登記に対する付記登記として行われます。
会社が申請した住所変更登記ではなく、商業・法人登記から取得した情報に基づいて登記官が職権で変更したことが、登記記録からも分かる仕組みになっています。
便利になりましたが、「何もしなくてよい」とは限りません
法人のスマート変更登記によって、会社が本店移転や商号変更をするたびに、所有している土地・建物について一件ずつ住所・名称変更登記を申請する負担は大きく軽減されました。
一方で、
- 不動産登記に会社法人等番号が登記されているか
- 商業・法人登記と不動産登記の住所・名称が一致しているか
- スマート変更登記がすでに完了しているか
- 近いうちに不動産を売却するなど、別の登記を急ぐ事情がないか
によって対応は変わります。
特に、昔から会社で所有している不動産や、本店移転直後に売却を予定している不動産については注意が必要です。
会社登記と不動産登記をあわせて確認したい場合には、司法書士へご相談ください。
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中野司法書士事務所
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