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遺言書に遺言執行者は本当に必要?付けた方がよいケース・付けなくてもよいケースを司法書士が解説

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遺言書に遺言執行者は本当に必要?付けた方がよいケース・付けなくてもよいケースを司法書士が解説

遺言書に遺言執行者は本当に必要?付けた方がよいケース・付けなくてもよいケースを司法書士が解説

2026/08/21

遺言書を作成するとき、「遺言執行者を指定しておきましょう」と説明されることがあります。

インターネットで調べても、

「遺言執行者を指定しておけば安心です」
「司法書士や弁護士などの専門家を遺言執行者にしておきましょう」

といった説明をよく目にします。

 

もちろん、遺言執行者を指定した方がよいケースはたくさんあります。

しかし、司法書士として実際に遺言書を作成していると、

「遺言書を作るなら、とりあえず遺言執行者を指定しておけばよい」

と単純に考えてよいものではないと感じます。

 

遺言執行者には強い権限があります。

一方で、

遺言執行者にその手続をする権限があることと、遺言執行者がいなければその手続ができないことは、同じではありません。

今回は、遺言執行者の権限や義務を確認したうえで、

  • 遺言執行者を付けた方がよいケース
  • 必ずしも遺言執行者を付けなくてもよいケース
  • 家族を遺言執行者にする方法
  • 専門家を遺言執行者にする方法
  • 家族を遺言執行者にして、必要な手続を専門家へ依頼する方法

について、司法書士の実務の視点から考えてみたいと思います。

 


遺言執行者とは何をする人なのか

遺言執行者とは、簡単にいえば、遺言者が遺言書に書いた内容を実現するために手続を行う人です。

民法1012条では、遺言執行者について、相続財産の管理その他、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると定めています。

つまり、単なる「相続手続のお手伝いをする人」ではありません。

 

遺言の内容によっては、

  • 不動産に関する登記手続
  • 預貯金の払戻しや解約
  • 遺贈の履行
  • 相続財産の管理
  • その他、遺言を実現するために必要となる手続

などを行うことになります。

 

また、遺言執行者がその権限の範囲内で行った行為は、相続人に対して直接その効力を生じます。

相続人も、遺言執行者による遺言の執行を妨げるような行為をすることはできません。

このように見ると、遺言執行者にはかなり強い権限が与えられていることが分かります。

 


「遺言執行者に権限がある」と「遺言執行者が必要」は違う

今回、特にお伝えしたいのがこの点です。

例えば、遺言書に、

「自宅の土地・建物を妻に相続させる」

と書いてあったとします。

このように、特定の相続財産を特定の相続人に承継させる遺言は、「特定財産承継遺言」と呼ばれます。

現在の民法では、このような特定財産承継遺言がある場合、遺言執行者には、その相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をする権限があります。

不動産であれば、遺言執行者が相続による所有権移転登記を申請することもできます。

ここだけ読むと、

「やはり遺言執行者が必要なのでは?」

と思われるかもしれません。

 

しかし、そうではありません。

この不動産を取得する妻自身も、遺言書に基づいて単独で相続登記を申請することができます。

 

つまり、

遺言執行者にも登記をする権限がある。

 

しかし、

遺言執行者がいなければ登記できないわけではない。

ということです。

 

この二つは、似ているようで全く違います。

遺言執行者を付けるかどうかを考えるときには、

「遺言執行者に何ができるのか」だけではなく、「この遺言では、本当に遺言執行者がいなければ困るのか」

まで考える必要があります。

 


預貯金についても遺言執行者には権限がある

特定財産承継遺言によって預貯金を特定の相続人に承継させる場合、遺言執行者には、一定の範囲で預貯金の払戻請求や預金契約の解約を行う権限があります。

これも遺言執行者を指定するメリットの一つです。

複数の銀行、不動産、証券会社などの相続手続がある場合には、遺言執行者が窓口となって処理することで、手続を一本化しやすくなります。

ただし、ここでも、

「遺言執行者に権限がある」=「必ず遺言執行者が必要」

とは限りません。

誰が財産を取得するのか、どのような財産があるのか、どの程度複雑な手続になるのかによって判断は変わります。

 


遺言執行者には「権限」だけではなく「義務」もある

遺言執行者について考えるとき、権限ばかりが注目されがちですが、実は重要なのが義務と責任です。

遺言執行者に就任すると、単に自由に遺言を実行できるわけではありません。

例えば、次のような義務があります。

 

相続人への通知

遺言執行者が任務を開始したときは、遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。

 

相続財産目録の作成・交付

遺言執行者は、遅滞なく相続財産の目録を作成し、相続人に交付しなければなりません。

 

善管注意義務

遺言執行者は、善良な管理者としての注意をもって遺言執行の事務を処理しなければなりません。

 

報告義務など

相続人から求められた場合には執行状況を報告し、執行が終了した後には経過や結果について報告すべき場合もあります。

 

つまり、

「遺言執行者にしておけば便利だから、とりあえず指定しておこう」

というだけの話ではありません。

遺言執行者に指定するということは、その人に法律上の権限を与えると同時に、仕事と責任も負ってもらうということです。

家族を遺言執行者にする場合にも、この点は考えておかなければなりません。

 


家族を遺言執行者にしたら、全部自分で手続しなければならない?

ここでよく問題になるのが、

「妻や子を遺言執行者にすると、その人が相続手続を全部自分でやらなければならないのではないか」

という疑問です。

 

必ずしもそうではありません。

現在の民法では、遺言執行者は、遺言者が別段の意思を表示している場合を除き、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができます。

いわゆる「復任権」です。

 

したがって、例えば妻を遺言執行者に指定したとしても、

  • 不動産の相続登記
  • 預貯金の相続手続
  • 証券会社における相続手続
  • その他専門知識が必要となる相続手続

まで、妻がすべて一人で処理しなければならないわけではありません。

 

必要に応じて、その時点で活動している専門家に依頼することができます。

当事務所でも、相続登記だけでなく、預貯金や証券その他の相続手続について、依頼内容に応じてサポートすることがあります。

「専門家に相続手続を依頼したいなら、その専門家を最初から遺言執行者にしておかなければならない」

ということではありません。

 


遺言書は、作成した司法書士より長生きすることがあります

私は遺言書を作成するとき、司法書士である自分自身を当然に遺言執行者として指定する運用はしていません。

理由はいくつかありますが、その一つが時間です。

遺言書を作成してから、その遺言が実際に効力を生じるまで、

10年、20年、場合によっては30年以上経過することもあります。

少し極端な言い方をすれば、

遺言書は、作成した司法書士より長生きすることがあります。

今その司法書士が元気に仕事をしていても、何十年後まで同じように仕事をしているとは限りません。

病気になるかもしれません。

廃業しているかもしれません。

そして、当然ですが、司法書士自身が先に亡くなっている可能性もあります。

 

遺言執行者がいなくなった場合には、利害関係人の申立てによって家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう制度があります。

しかし、せっかく「家族に面倒な手続を残さないため」に遺言書を作ったのに、遺言執行者がいなくなったため家庭裁判所への申立てが必要になるのであれば、当初の目的と少しずれてしまうことがあります。

 

そのため私は、事案によっては配偶者や子などを遺言執行者に指定し、実際に相続が発生した時点で必要な手続を、その時に活動している専門家へ依頼してもらう方法も検討します。

 

もちろん、これは「家族を遺言執行者にする方が常に正しい」という意味ではありません。

専門家を遺言執行者にした方がよいケースもあります。

大切なのは、

現在誰が信頼できるかだけではなく、遺言が効力を生じる将来まで考えて設計することです。

 


遺言執行者を付けた方がよいケース

では、どのような場合に遺言執行者を指定するメリットが大きいのでしょうか。

 

1.不動産などを売却して代金を分配する場合

例えば、

「自宅を売却し、売却代金を長男と長女に2分の1ずつ渡す」

という内容の遺言です。

この場合には、

 

不動産を管理する
 ↓
売却する
 ↓
売却代金を受領する
 ↓
必要な費用を精算する
 ↓
残額を分配する

 

という一連の処理が必要になります。

誰かが責任をもって一連の手続を進めた方がスムーズです。

このような遺言では、遺言執行者を指定するメリットが大きくなります。

 

2.財産が多く、手続が複雑な場合

不動産が何件もある。

複数の銀行に預金がある。

証券会社にも口座がある。

非上場株式その他の財産もある。

このようなケースでは、相続人それぞれが個別に手続するより、遺言執行者が中心になって整理した方が効率的な場合があります。

 

3.相続人以外への遺贈がある場合

親族ではない第三者や法人などに財産を遺贈する場合にも、遺言執行者を指定する意味が大きくなることがあります。

相続人だけで完結する遺言と比べると、遺言を実際に履行する役割を明確にしておく必要性が高くなるためです。

 

4.相続人間の関係がよくない場合

相続人同士の関係が悪い場合、一人の相続人に遺言執行を任せることが新たな対立につながることがあります。

そのような場合には、司法書士や弁護士など第三者の専門家を遺言執行者にすることに合理性があります。

ただし、遺言執行者は相続人間の紛争を仲裁する人ではありません。

あくまで、遺言に定められた内容をその権限の範囲で実現する人です。

「揉めそうだから遺言執行者を付ければすべて解決する」というものでもありません。

 

5.遺言による認知や推定相続人の廃除などがある場合

遺言による認知や推定相続人の廃除など、法律上、遺言執行者が手続の担い手となる類型もあります。

通常の「誰に財産を相続させるか」という遺言とは性質が異なるため、こうしたケースでは遺言執行者の必要性を特に確認する必要があります。

 


必ずしも遺言執行者を付けなくてもよいケース

反対に、次のようなケースでは、遺言執行者が必須とは限りません。

 

例えば、

  • 財産構成が比較的単純
  • 財産を取得する人が全員相続人
  • どの財産を誰が取得するのか明確
  • 不動産を取得する相続人自身が相続登記できる
  • 不動産を売却して代金を分配するなどの複雑な執行がない
  • 各相続人が自分の取得財産について手続できる

といった場合です。

 

例えば、

「自宅は妻に相続させる」
「○○銀行の預金は長男に相続させる」
「その他一切の財産は妻に相続させる」

というように、誰が何を取得するのかが明確で、それぞれの相続人が自分の取得する財産について手続できる遺言であれば、遺言執行者を置かなければ遺言を実現できないとは限りません。

もちろん、だからといって「このような場合は遺言執行者を付けない方がよい」という意味ではありません。

遺言執行者がいれば、複数の手続を一人に集約できるというメリットがあります。

結局のところ、

遺言執行者がいた方が便利かどうかと、遺言執行者が法律上・実務上必要かどうかを分けて考える

ことが大切です。

 


通知義務や財産目録作成義務も含めて設計する

遺言執行者を指定すれば、権限だけではなく、相続人への遺言内容の通知や相続財産目録の作成・交付などの義務も生じます。

これらは遺言執行者制度の重要な仕組みです。

そのため、家族関係が複雑な場合や遺留分の問題が考えられる場合には、

「遺言執行者を置けば便利だから」

という理由だけではなく、遺言執行者にどのような権限と義務が生じるのかも含めて、遺言全体を検討する必要があります。

この部分は、個々の家族関係や財産内容によって判断が大きく変わります。

 


「誰を遺言執行者にするか」の前に「なぜ必要なのか」を考える

遺言書の相談をしていると、

「遺言執行者は誰にしたらよいですか?」

という質問があります。

 

しかし、本当はその前に考えることがあります。

それは、

「この遺言に、そもそも遺言執行者が必要なのか」

です。

 

誰が相続人なのか。

誰に何を承継させるのか。

不動産はそのまま相続させるのか、それとも売却するのか。

預貯金や証券はどのくらいあるのか。

相続人以外への遺贈はあるのか。

家族関係はどうなのか。

相続開始後、誰が実際の手続を行う予定なのか。

 

こうした事情を確認したうえで初めて、

  • 遺言執行者を置くのか
  • 誰を遺言執行者にするのか
  • 家族にするのか
  • 専門家にするのか
  • 家族を執行者にして必要な部分だけ専門家に依頼するのか

を考えるべきだと思います。

 


まとめ―遺言執行者は「とりあえず付ける」ものではありません

遺言執行者には、遺言内容を実現するための強い権限があります。

複雑な財産処理、換価・分配、第三者への遺贈などがある場合には、遺言執行者を指定することによって、相続後の手続が大幅に進めやすくなることがあります。

 

一方で、

遺言執行者に権限があることと、その遺言に遺言執行者が必要であることは別問題です。

特定財産承継遺言のように、財産を取得する相続人自身が手続できる場合もあります。

また、遺言執行者には、権限だけでなく通知、財産目録の作成、報告、善管注意義務などの仕事と責任もあります。

そして遺言は、10年後、20年後、あるいはもっと先に効力を生じる可能性があります。

そのため、

「今この専門家にお願いしているから、この人を遺言執行者にしておけばよい」

と機械的に決めるのではなく、将来まで見据えて考えることが大切です。

 

遺言執行者は、遺言書の最後に名前を一人書けば終わり、という問題ではありません。

遺言内容、財産構成、家族関係、そして相続開始後の手続方法まで含めた遺言設計の一部です。

 

中野司法書士事務所では、

「遺言書を作りたいが、遺言執行者を誰にしたらよいか分からない」

「家族を遺言執行者にして大丈夫なのか」

「自分の財産内容なら、そもそも遺言執行者が必要なのか」

といったご相談にも対応しています。

遺言執行者だけを切り離して考えるのではなく、将来の相続手続まで見据えた遺言書を一緒に考えていきます。

東京都杉並区・高円寺で遺言書、公正証書遺言、相続手続についてお悩みの方は、中野司法書士事務所までご相談ください。

 


参考となる主な法令・公的資料

  • 民法1007条、1011条~1016条
  • 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」
  • 法務省「特定財産に関する遺言の執行」に関する資料
  • 裁判所「遺言執行者の選任」

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