任意後見制度はどう変わる?開始・監督人・法定後見との併存を解説【成年後見制度改正・6回】
2026/10/02
これまでの連載では、家庭裁判所が補助人を選任する法定後見制度を中心に見てきました。
一方、成年後見制度には、本人が将来に備えて、自分で支援してもらう人を決めておく任意後見制度があります。
「自分で選んだ人に将来を任せる制度なら、契約をした時から任意後見が始まるのか」
「任意後見監督人は必ず付くのか」
「任意後見契約をしていても、法定後見を利用することはあるのか」
令和8年改正では、こうした任意後見制度の仕組みも大きく見直されます。
特に重要なのは、任意後見を開始する仕組みと、任意後見人を監督する仕組みを分けたことです。
さらに、必要な場合には、法定後見である補助と任意後見を併存させることも可能になります。
なお、成年後見制度に関する今回の改正は、公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日に施行されることとされています。以下の「改正後」は、改正法の施行後を意味します。
任意後見は、自分で将来の支援者を決めておく制度
任意後見契約は、本人が将来、精神上の理由によって判断能力が不十分な状況になった場合に備え、
- 生活
- 療養看護
- 財産管理
に関する事務の全部または一部を、あらかじめ選んだ人に委託し、その事務について代理権を与えておく契約です。
任意後見が始まる前の受任者を「任意後見受任者」、開始後の受任者を「任意後見人」と呼びます。
本人が将来の支援者を自分で選んでおく制度であるという基本的な性格は、改正後も変わりません。
任意後見契約は公正証書によって締結する必要があり、改正後は、契約を変更する場合についても公正証書によることが明確にされます。
ただし、任意後見契約は、作っただけで直ちに効力が生じるものではありません。
ここが今回の改正を理解する最初のポイントです。
現在は「任意後見監督人の選任」で任意後見が始まる
現行制度では、本人の判断能力が不十分な状況になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときに任意後見契約の効力が生じます。
つまり、現在は、
任意後見監督人の選任
→ 任意後見契約が発効
→ 任意後見人が契約に基づく事務を開始する
という仕組みです。
任意後見監督人には、任意後見人の事務を監督する役割があります。
そのため現行制度では、任意後見を開始させることと、任意後見人を監督する人を付けることが、一つの手続に結び付いています。
改正後は「任意後見開始の審判」で契約が効力を生じる
改正後は、この仕組みが変わります。
任意後見契約は、家庭裁判所による
「任意後見開始の審判」
がされた時から効力を生じます。
したがって、
現行制度
任意後見監督人の選任 → 契約発効
から、
改正後
任意後見開始の審判 → 契約発効
へ変わります。
これは単に、手続の名称を変えただけではありません。
改正後は、一定の場合には任意後見監督人を選任しないことができるため、任意後見契約の発効と、監督人を付けることを切り離す必要が生じたのです。
なぜ「任意後見開始の審判」を新しく設けたのか
改正後も、任意後見監督人を選任するのが原則です。
しかし、家庭裁判所が、
「明らかに任意後見監督人による監督の必要がない」
と認めるときは、例外的に任意後見監督人を選任しないことができます。
そうすると、
任意後見監督人が選任されなければ任意後見契約も始まらない
という現行制度の仕組みを、そのまま維持することはできません。
そこで、
契約を発効させる「任意後見開始の審判」
と、
任意後見人を監督する「任意後見監督人の選任」
を分けることになりました。
今回の改正は、任意後見の開始と監督を、それぞれ別の問題として考える仕組みに変えたものと見ることができます。
任意後見開始の審判はどのような場合にされるのか
改正後は、任意後見契約が登記されている場合に、本人が
「精神上の理由により事理を弁識する能力が不十分な状況」
にあるとき、家庭裁判所が所定の請求により任意後見開始の審判をします。
請求することができるのは、
- 本人
- 配偶者
- 四親等内の親族
- 任意後見受任者
- 補助人
- 補助監督人
- 任意後見開始の審判を請求できる者として、公正証書によって本人が指定した者
です。
現行制度では、本人以外の者から任意後見監督人の選任を請求する場合、原則として本人の同意が必要です。
しかし、改正後の任意後見開始の審判については、この本人同意を要件とする規定が削除されます。
一方、家庭裁判所が任意後見開始の審判をする際には、原則として本人の陳述を聴かなければなりません。
ただし、本人の精神上の理由により本人の陳述を聴くことができない場合は例外です。
また、任意後見契約法5条には、一定の場合には任意後見開始の審判をしないという不開始事由も定められています。
したがって、
判断能力が低下したら自動的に任意後見が始まる
わけではありません。
任意後見契約を締結していても、実際に任意後見を開始するには、家庭裁判所による審判が必要です。
「開始を請求する人」を本人があらかじめ指定できる
今回の改正では、任意後見開始の審判を請求できる人を、本人が公正証書によってあらかじめ指定することもできるようになります。
ここで注意したいのは、
任意後見人として選ぶ人
と、
任意後見を開始するための審判を請求できる人
は、制度上の役割が別だということです。
本人は、将来、自分の状況を把握して任意後見を開始する必要が生じたときに、審判を請求する役割を担う人をあらかじめ指定することができます。
指定された人が、その指定だけによって任意後見人になるわけではありません。
任意後見監督人は「不要」になるわけではない
改正後について、
「任意後見監督人を付けなくてもよくなる」
とだけ理解するのは正確ではありません。
家庭裁判所は、任意後見開始の審判をするときには、原則として職権で任意後見監督人を選任します。
選任しないことができるのは、
「明らかに任意後見監督人による監督の必要がない」
と家庭裁判所が認める場合です。
したがって、
原則は監督人あり、例外的に監督人なし
という構造です。
どのような場合に「明らかに監督の必要がない」と判断されるかについて、現段階で具体的な基準を一般化することはできません。
例えば、
「親族が任意後見人なら監督人は付かない」
「財産が少なければ監督人は不要」
といったルールが定められたわけではありません。
監督人がいなくても、家庭裁判所の監督はある
さらに重要なのは、
任意後見監督人を選任しない=誰も任意後見人を監督しない
という意味ではないことです。
改正後の任意後見契約法では、任意後見監督人が選任されていない場合について、家庭裁判所が任意後見人の事務を監督する仕組みが設けられます。
つまり、
任意後見監督人を置く場合
→ 任意後見監督人による監督
任意後見監督人を置かない場合
→ 家庭裁判所による直接の監督
という形になります。
本人が任意後見人を自分で選んだからといって、判断能力が低下した後も任意後見人が全く外部の監督を受けずに活動する制度になるわけではありません。
任意後見監督人が後から選任されることもある
任意後見開始の時点で監督人が選任されなかった場合でも、その状態が固定されるわけではありません。
その後、任意後見監督人による監督が必要になれば、家庭裁判所は任意後見監督人を選任することができます。
したがって、
開始時には家庭裁判所が直接監督し、後から必要に応じて任意後見監督人を付ける
ということも可能になります。
立法過程では、本人と任意後見人との間に利益相反があることなども、「明らかに監督人による監督の必要がない」といえるかを判断する際の考慮要素になると説明されています。
任意後見監督人を選ぶときにも本人の意見を考慮する
任意後見監督人を選任するときにも、本人の意見が考慮されます。
さらに改正後は、任意後見契約を締結した際に、本人が公証人に対して
「将来、こういう人に任意後見監督人になってほしい」
という希望を述べていた場合、その内容も本人の意見として考慮する仕組みになります。
ただし、本人が希望した人を家庭裁判所が必ず任意後見監督人に選任しなければならないわけではありません。
本人の意見のほか、本人の心身の状態、生活・財産の状況、候補者の職業・経歴、本人や任意後見人との利害関係など、さまざまな事情を家庭裁判所が考慮します。
この点は、第5回で取り上げた本人の意見・意向を重視する改正ともつながっています。
「予備的な任意後見受任者」に備える仕組みもできる
任意後見契約は、将来のために作る契約です。
そのため、契約を締結してから実際に任意後見が必要になるまで、長い期間が空くことも考えられます。
その間に、予定していた任意後見受任者が死亡するなどして、任意後見人になれなくなることもあり得ます。
今回の改正では、そのような場合に備える仕組みも設けられます。
本人と任意後見受任者は、任意後見契約を締結するときに、
他の任意後見契約の受任者が死亡その他の事由によって欠けるまでは、その契約について任意後見開始の審判をすることができない
という「不開始の合意」をすることができます。
立法資料では、この仕組みを「予備的な任意後見受任者」に関する制度として整理しています。
一般的には、
第一に予定していた任意後見受任者が将来いなくなった場合に備えて、別の任意後見契約を予備的に準備しておく
ための仕組みと理解すると分かりやすいでしょう。
ただし、第一候補の人が死亡したからといって、予備的に予定された人が自動的に任意後見人になるわけではありません。
その契約についても、任意後見開始の審判が必要です。
任意後見契約の一部だけを解除することもできる
改正後は、任意後見契約について、契約全体だけでなく一部を解除することも可能になります。
任意後見開始の審判前であれば、本人または任意後見受任者が、所定の方法によって契約の全部または一部を解除することができます。
任意後見開始の審判後は、本人または任意後見人が、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、契約の全部または一部を解除することができます。
この「一部解除」は、後で説明する補助制度との併存にも関係してきます。
任意後見と法定後見の関係も変わる
今回の改正で、もう一つ大きく変わるのが、
任意後見と法定後見との関係
です。
現行制度では、本人が自ら選んだ任意後見制度を尊重するという考え方から、任意後見を法定後見より優先させ、原則として両制度を同時に利用しない仕組みになっています。
例えば、任意後見が既に始まっている状態で法定後見を開始すると、現行法では任意後見契約が終了する仕組みがあります。
改正後は、この関係が見直されます。
法定後見制度が「補助」を基本とする制度に再編されることに合わせて、補助人と任意後見人が同時に存在することが可能になります。
なぜ任意後見と補助を一緒に使う必要があるのか
任意後見制度は、本人が契約によって任意後見人に与えた代理権を中心とする制度です。
しかし、任意後見契約だけでは、本人の行為について補助人の同意を必要としたり、本人がした法律行為を取り消したりする仕組みを設けることはできません。
これに対して、改正後の法定後見制度には、
- 補助人の同意を必要とする仕組み
- 同意を得ずに行った一定の行為を取り消す仕組み
- 特定補助による、より広い取消しの保護
があります。
そのため、本人が任意後見契約を準備していても、後に
任意後見だけでは足りない法的保護が必要になる
ことが考えられます。
改正後は、そのような場合に、任意後見契約を当然に終了させるのではなく、必要に応じて補助と任意後見を併存させることができるようになります。
任意後見契約があれば、自由に補助を追加できるわけではない
もっとも、
「改正後は任意後見と補助を好きなように併用できる」
という意味ではありません。
任意後見契約が登記されている場合に補助を開始するには、民法上の補助開始そのものの要件を満たすことに加えて、任意後見契約法上、
本人の利益のため特に必要があること
が必要です。
任意後見契約によって本人が選択した支援の仕組みを尊重するという考え方が、なくなるわけではありません。
そのうえで、本人に必要な保護を任意後見だけでは補えない場合には、補助を併存させる余地を認めたものです。
補助人と任意後見人の権限が重なる場合もある
補助人と任意後見人が併存すれば、それぞれに代理権がある場合など、権限が重なる可能性があります。
したがって、
「併存できるようになったから、両者の権限関係を考えなくてもよい」
ということではありません。
立法資料では、両者の権限が重複して調整が必要な場合に、任意後見人がその事務を行うことが適切でなければ、任意後見契約の一部解除によって対応することも考えられると説明されています。
どのように権限を調整するかは、実際に付与されている代理権などを確認して判断する必要があります。
任意後見でも本人の意向を把握し、尊重する
第5回では、改正後の補助人について、
本人に情報を提供する
→ 本人から話を聴くなどして意向を把握する
→ 把握した意向を尊重する
という仕組みが明文化されることを取り上げました。
同じ考え方は、任意後見人にも導入されます。
任意後見人も、本人の心身の状態に応じて、その事務について必要な情報を提供し、本人から話を聴くなどの適切な方法によって本人の意向を把握するようにしなければなりません。
そして、把握した本人の意向を尊重し、その心身の状態や生活の状況にも配慮することが求められます。
本人が自分で支援者を選んだ任意後見だからといって、契約締結時の本人の意思だけを見ればよいということではありません。
実際に任意後見が始まった後の本人の意向も尊重する
という考え方が、より具体的に制度の中へ取り込まれています。
任意後見人の解任についても見直される
任意後見人の解任についても改正があります。
改正後は、任意後見人が不正な行為をしたとき、または任務に著しく反したことによって、その職務を継続させることが相当でないときには、家庭裁判所が任意後見人を解任することができます。
請求できる者には、任意後見監督人、本人、その親族などに加えて、補助人・補助監督人も含まれ、家庭裁判所が職権で解任することもできるようになります。
補助と任意後見の併存を認めることに合わせて、両制度をつなぐ仕組みも整えられていることが分かります。
任意後見は「契約したら終わり」の制度ではない
任意後見制度は、
本人が十分な判断能力を有するうちに、自分で将来の支援者を選んで契約しておく
ことに大きな意味があります。
しかし、任意後見契約を作っただけで、将来のすべてが決まるわけではありません。
改正後は、
任意後見開始の審判によって、いつ任意後見を始めるのかを判断する。
監督人による監督が必要なのかを判断する。
監督人がいなければ、家庭裁判所が直接監督する。
任意後見だけでは本人に必要な保護が足りなければ、必要に応じて補助を併存させる。
そして、任意後見が始まった後も、本人の意向を把握し、尊重しながら支援を続ける。
今回の改正では、任意後見についても、単に「昔決めた契約どおりに動く」のではなく、その時点の本人にどのような支援と監督が必要なのかを考える仕組みがより明確になります。
では、現在すでに成年後見・保佐・補助を利用している人は、改正法が施行されたらどうなるのでしょうか。
また、すでに任意後見契約を締結している人について、新しい制度はどのように適用されるのでしょうか。
次回の第7回では、すでに制度を利用している人に関する経過措置と、改正後の取扱いを取り上げます。
参考にした主な資料
- 「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)
- 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)の概要」
- 「民法等の一部を改正する法律案 新旧対照条文」
- 「民法(成年後見等関係)等の改正に関する要綱案」
- 法制審議会民法(成年後見等関係)部会資料33-2
- 法制審議会民法(成年後見等関係)部会資料34-2
- 「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」
- 法務省民事局参事官室「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」
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