成年後見制度改正で本人の意思はどう尊重される?補助人の選任・交代・職務・報酬【成年後見制度改正・5回】
2026/10/01
これまでの連載では、本人にどのような法的支援が必要なのか、その支援をどこまで、いつまで利用するのかという制度の仕組みを見てきました。
では、実際に本人を支援する「補助人」についてはどうでしょうか。
誰を補助人にするのか。
本人が希望する人を選んでもらえるのか。
選ばれた補助人が本人に合わなくなったとき、交代させることはできるのか。
そして、補助人は本人の希望をどこまで聞かなければならないのでしょうか。
令和8年改正では、この本人と補助人との関係についても大きな見直しが行われています。
今回の改正で初めて「本人の意思を尊重する」という考え方が生まれたわけではありません。現行制度にも、本人の意思を尊重し、その心身の状態や生活の状況に配慮するという考え方があります。
今回の改正で重要なのは、本人の意見・意向を制度の中でどのように扱うのかを、これまで以上に具体的な条文として明確にしたことです。
なお、成年後見制度に関する今回の改正は、公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日に施行されることとされています。以下の「改正後」は、改正法の施行後を意味します。
補助人を決めるのは本人や家族ではなく家庭裁判所
改正後の民法876条の2では、家庭裁判所は、補助開始の審判をするときに、職権で補助人を選任します。
したがって、
「本人がこの人を希望したから、その人がそのまま補助人になる」
という制度ではありません。
もっとも、だからといって本人の希望が軽く扱われるわけでもありません。
改正後の民法は、補助人を選任するときに考慮する事情として、
- 本人の意見
- 本人の心身の状態
- 本人の生活及び財産の状況
- 補助人候補者の職業・経歴
- 補助人候補者と本人との利害関係の有無
- その他一切の事情
を挙げています。
その中で、注目したいのが「本人の意見」です。
「本人の意見」が考慮要素の最初に置かれた
法務省は、今回の改正について、現行法では本人の意見が補助人等の選任時の考慮要素の最後に規定されているのに対し、改正法では「本人の意見」を考慮要素の冒頭に置いたと説明しています。
これは、本人の意見が重要な考慮要素であることをより明確にしたものです。
ただし、
「本人の意見が最優先される」
という意味ではありません。
家庭裁判所は、本人の意見だけでなく、本人の心身の状態、生活・財産の状況、候補者の職業や経歴、利害関係なども考慮します。
したがって、
本人の意見を重視すること
と、
本人に補助人を決定する権限があること
は別の話です。
本人が特定の人を補助人として希望していても、その人を選任することが本人にとって適切かどうかを最終的に判断するのは家庭裁判所です。
補助人が本人に合わなくなったときは交代できるのか
補助人を選任するときだけでなく、その後の交代についても重要な改正があります。
改正後の民法876条の5では、家庭裁判所は、次の事由があるときに補助人を解任することができます。
- 補助人が不正な行為をしたとき
- 補助人がその任務に著しく反し、その職務を継続させることが相当でないとき
- 本人の利益のため特に必要があるとき
今回新たに重要な意味を持つのが、三つ目の
「補助開始の審判を受けた者の利益のため特に必要があるとき」
という解任事由です。
不正行為がなくても「本人の利益」のため解任できる
現行制度について、
「横領などの不正がなければ後見人を交代できない」
と理解するのは正確ではありません。
現行制度にも、不正な行為、著しい不行跡、その他後見の任務に適しない事由などを理由とする解任の仕組みがあります。
一方、今回の改正では、それとは別に、
「本人の利益のため特に必要があるとき」
という、本人側の必要性に着目した解任事由が明確に設けられました。
法務省も、成年後見人等の交代が困難であるため、本人がニーズに合った保護を受けられない場合があることを、制度見直しの問題点として挙げています。
これは、
「補助人に不正があるか」
だけではなく、
「本人が現在のニーズに合った適切な保護を受けられているか」
という観点から交代を考える仕組みを設けた点に意味があります。
ただし、
本人が補助人を気に入らなければ自由に交代できる
という制度ではありません。
法律上の要件はあくまで、
「本人の利益のため特に必要があるとき」
です。
本人や親族などからの請求、または家庭裁判所の職権によって解任することができますが、最終的に要件を満たすかを判断するのは家庭裁判所です。
「本人の利益」のための解任は、補助人への制裁とは限らない
この新しい解任事由の性格は、補助人の欠格事由を見ると、さらに分かりやすくなります。
改正後の民法876条の6では、家庭裁判所で免ぜられた法定代理人や補助人は、原則として補助人になることができません。
しかし、
「本人の利益のため特に必要があるとき」
という理由で解任された補助人については、その解任だけを理由に欠格者とはしない仕組みになっています。
つまり、この解任は、必ずしも補助人に不正や非行があったことに対する制裁を意味するものではありません。
補助人に不正行為がなくても、本人がそのニーズに合った適切な保護を受けられないなど、本人の利益のため特に必要と認められる場合には、補助人を交代させることが可能な制度になっています。
補助人自身が辞任する場合もある
補助人が変わるのは、解任の場合だけではありません。
改正後の民法876条の3では、補助人は、
正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て辞任することができる
とされています。
また、辞任によって新しい補助人を選任する必要が生じた場合には、辞任した補助人は、遅滞なく新しい補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません。
したがって、補助人が交代する場面には、本人の利益を理由とする解任だけでなく、補助人自身が辞任する場合もあります。
補助人に選ばれた後は、本人の「意向」を把握する
今回の改正では、補助人を選ぶときだけでなく、補助人が実際に仕事をするときにも本人を中心に据えた規定が置かれています。
ここで、条文の言葉が少し変わります。
補助人の選任では、
本人の「意見」
を家庭裁判所が考慮します。
一方、補助人が職務を行う場面では、
本人の「意向」
を把握し、尊重することが求められています。
改正後の民法876条の11では、補助人は補助の事務を行うに当たり、本人の心身の状態に応じて、
本人にその事務に関する情報を提供し、その事務について本人から話を聴くなどの適切な方法によって、本人の意向を把握するようにしなければならない
とされています。
単に、
「本人の意思を尊重してください」
とだけ定めたものではありません。
本人の意向を尊重する前提として、その事務に関する情報を提供し、本人から話を聴くなどして意向を把握する過程まで条文上明確にしています。
「本人の意思を尊重する」は以前からあった
ここは、今回の改正を理解するうえで区別しておきたいところです。
本人の意思を尊重し、その心身の状態や生活状況に配慮するという考え方自体は、今回初めて登場したものではありません。
現行制度にも、その考え方はあります。
立法過程では一方で、本人の意向を実際に把握する過程が、一般的な意思尊重義務の中に埋没しやすいのではないかという問題が議論されてきました。
そこで改正法では、
情報を提供する
→ 本人から話を聴くなどして意向を把握する
→ 把握した意向を尊重する
という流れを、より具体的に明文化しています。
「本人の意思を尊重する」という理念を掲げるだけではなく、その意思・意向をどうやって把握するのかまで踏み込んだところが重要です。
把握した本人の意向を「尊重」する
本人の意向を把握すれば、それで補助人の義務が終わるわけではありません。
民法876条の11第2項では、補助人は、
把握した本人の意向を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない
とされています。
したがって、
「本人に一度希望を聞いたから、それでよい」
という仕組みではありません。
実際に補助の事務を行う際にも、把握した本人の意向を尊重することが求められています。
一方で、
本人が希望したことには、補助人が必ずそのまま従わなければならない
という意味でもありません。
法律は本人の意向を「尊重」すると同時に、本人の心身の状態や生活の状況にも配慮することを求めています。
また、補助人が意向尊重義務に反したからといって、補助人が行った法律行為がそれだけで当然に無効になる、という規定でもありません。
本人の意向を把握し、尊重する補助人の義務と、個々の法律行為の効力とは区別して考える必要があります。
「本人の意向」と「意思能力」は同じものではない
本人の判断能力が低下しているため補助制度を利用していても、
本人が何を望んでいるのか
を確認する意味がなくなるわけではありません。
どのような生活をしたいのか。
その事務について本人はどう考えているのか。
何を望み、何を望んでいないのか。
そうした本人の意向を把握することは、補助人の職務そのものに組み込まれています。
ただし、
本人が自分の希望を表明できること
と、
その法律行為について十分な意思能力があること
は同じではありません。
本人の「意向」を尊重する問題と、個々の法律行為について必要となる意思能力の問題は分けて考える必要があります。
選任時は「意見」、職務中は「意向」
ここまでの違いを整理すると、次のようになります。
| 場面 | 本人との関係 |
|---|---|
| 補助人を選任するとき | 家庭裁判所が本人の「意見」を考慮する |
| 補助人が職務を行うとき | 補助人が本人の「意向」を把握する |
| 実際に補助事務を行うとき |
把握した本人の「意向」を尊重し、 心身・生活状況にも配慮する |
|
補助人の交代が 問題になるとき |
本人の利益のため特に必要 であれば解任できる |
同じ「本人の意思を尊重する」という問題でも、制度のそれぞれの場面で具体的な仕組みが用意されています。
補助人の報酬も見直される
補助人の報酬についても改正があります。
改正後の民法876条の19では、家庭裁判所は、
補助の事務の内容、補助人及び本人の資力その他の事情
によって、本人の財産の中から補助人に相当な報酬を与えることができるとされています。
今回の改正で特に注目されるのが、
「補助の事務の内容」
が報酬を判断する考慮要素として条文に明記されたことです。
法務省は、成年後見人等の報酬について、予測可能性を高めることを制度見直しの課題として挙げています。
その対応として、補助人が行った補助の事務の内容などを、報酬判断の考慮要素として規定上明確にしました。
補助人の報酬が「定額」になるわけではない
もっとも、
今回の改正で補助人の報酬額そのものが法律で決められた
わけではありません。
例えば、
「月額○万円」
「財産額が○円なら報酬は○万円」
「この仕事をしたら○円」
という法定の料金表が設けられたわけではありません。
家庭裁判所が、
補助の事務の内容、補助人と本人の資力、その他の事情
を踏まえて、相当な報酬を判断する仕組みです。
したがって、
「改正後は補助人の報酬が事前に正確に分かるようになる」
とまでいうことはできません。
法務省が掲げているのは報酬の予測可能性を高めることであり、成立した法律で直接確認できるのは、「補助の事務の内容」が報酬の考慮要素として明文化されたことです。
本人を中心に「誰が、どう支援するか」を考える制度へ
第1回から第4回までは、
本人に必要な支援を、必要な範囲・必要な期間で利用する
という制度の仕組みを見てきました。
第5回で取り上げたのは、それを実際に担う「人」の問題です。
補助人を選ぶときには、本人の意見を考慮する。
補助人が仕事をするときには、本人にその事務に関する情報を提供し、話を聴くなどして本人の意向を把握する。
把握した意向を尊重しながら、本人の心身の状態や生活状況にも配慮する。
そして、本人の利益のため特に必要であれば、補助人を解任して交代させる仕組みも設ける。
つまり今回の改正は、
「本人にどのような権限を付けるか」だけではなく、「誰が、どのように本人を支援するのか」についても、本人を中心に制度を組み立て直している
と見ることができます。
では、家庭裁判所が補助人を選任する法定後見とは別に、
本人が判断能力のあるうちに、自分で将来の支援者を選び、契約しておく「任意後見制度」
は、今回の改正でどう変わるのでしょうか。
次回は、任意後見制度の開始、監督、法定後見との関係などの見直しを取り上げます。
参考にした主な資料
- 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)の概要」
- 「民法等の一部を改正する法律案 新旧対照条文」
- 「民法(成年後見等関係)等の改正に関する要綱案」
- 法制審議会民法(成年後見等関係)部会資料33-2
- 法制審議会民法(成年後見等関係)部会資料34-2
- 「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」
- 法務省民事局参事官室「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」
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