代表取締役の自宅住所は登記簿から隠せる?―住所非表示措置の仕組みと注意点を司法書士が解説
2026/08/23
代表取締役になると、自宅住所まで公開される?
株式会社を設立するときや、代表取締役に就任するとき、
「自宅の住所まで登記されるのですか?」
と気になる方もいると思います。
会社の代表取締役等の住所は登記事項です。そのため、従来は登記事項証明書などを取得すれば、代表取締役等の住所を確認することができました。
しかし、自宅住所を広く知られることに抵抗を感じる方もいます。
インターネットやSNSが普及した現在では、住所という個人情報が広く拡散することへの懸念もあります。
法務省も、住所公開への抵抗感による起業の躊躇、ストーカー被害、過度な営業行為などへの懸念が制度見直しの背景にあったと説明しています。
そこで、令和6年10月1日から始まったのが、
「代表取締役等住所非表示措置」
です。
一定の条件を満たせば、代表取締役等の住所の一部を、一般に取得できる登記事項証明書等に表示しないことができます。
ただし、ここで最初に知っておきたいことがあります。
代表取締役の住所を登記しなくてよくなる制度ではありません。
また、
今ある住所をいつでも単独で隠せる制度でもありません。
この点を含め、今回は制度の基本から見ていきます。
代表取締役等住所非表示措置とは?
代表取締役等住所非表示措置とは、一定の要件のもとで、株式会社の代表取締役等の住所について、行政区画以外の部分を登記事項証明書等に表示しない制度です。
対象となる「登記事項証明書等」には、主に、
- 登記事項証明書
- 登記事項要約書
- 登記情報提供サービス
があります。
一般に会社の登記情報を確認したときに、代表取締役等の住所について、最小行政区画より後の部分が表示されないようにする仕組みです。
例えば、「東京都杉並区高円寺南三丁目○番○号」という住所であれば、「東京都杉並区」までが表示され、「高円寺南」以下の部分は表示されません。
現在は株式会社の代表取締役等が対象
現在の制度で対象になるのは、株式会社の、
- 代表取締役
- 代表執行役
- 代表清算人
です。
特例有限会社は現在の制度の対象外です。
※この記事は令和8年8月現在の制度を前提にしています。
また、株式会社以外の会社・法人についても、現在の制度では同じように利用できるわけではありません。
したがって、「会社の役員なら誰でも住所を非表示にできる」という制度ではありません。
どこまで住所が非表示になる?
住所全部が消えるわけではありません。
非表示措置が講じられた場合でも、最小行政区画までは表示されます。
例えば、代表取締役の住所が、
東京都杉並区高円寺南三丁目○番○号
だった場合、登記事項証明書等では、
東京都杉並区
までが表示され、それより後の部分が非表示になります。
東京都23区では特別区まで、指定都市では区まで、それ以外では市区町村までが表示されるという考え方です。
したがって、
「代表取締役が杉並区に住んでいる」ことまでは分かるが、杉並区のどこに住んでいるかまでは一般の登記事項証明書等から分からない
というイメージです。
「住所を登記しなくてよい制度」ではありません
ここは非常に重要です。
代表取締役等住所非表示措置を利用しても、代表取締役等の完全な住所は登記されます。
登記申請書にも、完全な住所を記載します。
つまり、
法務局に住所を知らせない制度ではありません。
法務局には完全な住所を届け出て登記したうえで、その住所の一部を登記事項証明書等に表示しない制度です。
したがって、住所非表示措置を受けている代表取締役が引っ越した場合にも、住所変更の登記義務がなくなるわけではありません。
法務省も、住所非表示措置が講じられていても会社法上の登記義務は免除されず、住所変更があれば変更登記が必要であると明記しています。
名前が「住所非表示措置」なので、
「住所を登記しない制度なのかな?」
と思われるかもしれませんが、そうではありません。
「登記しない」のではなく「一般に表示する範囲を制限する」制度です。
今ある住所だけを単独で非表示にできる?
これも誤解しやすいところです。
例えば、
「現在の登記事項証明書に自宅住所が全部載っているので、住所非表示措置だけを今すぐ申し出たい」
と考えたとします。
しかし、代表取締役等住所非表示措置は、原則として一定の登記申請と同時に申し出る制度です。
例えば、
- 株式会社の設立登記
- 代表取締役等の就任・重任登記
- 代表取締役等の住所変更登記
- 管轄外本店移転の新所在地における登記
などと併せて申出を行います。
したがって、
住所非表示措置だけを独立した登記手続として好きなタイミングで申し出ることはできません。
さらに細かく見ると、何らかの登記であれば何でもよいわけでもありません。
日司連の実践編Q&Aでは、例えば代表取締役等の氏名変更登記や住所更正登記については、それだけを理由として住所非表示措置を申し出ることはできないと整理されています。
「どの登記と一緒なら申し出られるのか」は、実際に利用するときの重要な確認事項になります。
今回申し出れば、過去の住所も全部見えなくなる?
なりません。
これも制度を利用する前に知っておきたいところです。
日司連の実践編Q&Aでは、非表示措置の対象となるのは、申出と併せて行った登記によって記録される住所とされています。
したがって、過去に代表取締役の住所変更登記を何度かしていたとしても、今回住所非表示措置を申し出たからといって、以前登記されていた住所まで遡ってすべて非表示になるわけではありません。
例えば、
「昔の自宅住所が登記記録に残っているので、それも全部見えなくしたい」
という目的で制度を検討している場合には、期待している結果と制度の効果が違う可能性があります。
この点は申出前に確認しておいた方がよいでしょう。
外国に住む代表取締役でも対象になる?
外国の住所についても、代表取締役等住所非表示措置の対象となります。
日司連の実践編Q&Aでは、外国住所の場合も非表示措置の対象になることが明示されています。
外国住所の場合には表示される部分の考え方などに個別の問題がありますが、少なくとも、
「海外在住の代表取締役だから制度を利用できない」
というわけではありません。
住所を非表示にすれば、誰にも分からなくなる?
法務省の通達では、登記簿の附属書類の閲覧制度や官公署からの情報請求等についても取扱いが定められています。法務省の公式案内も、官公署からの請求等に応じて対象住所の情報を提供する場合があることを明記しています。
したがって、
「この制度を使えば、自分の住所を誰も調べられなくなる」
という理解は正確ではありません。
「誰でも簡単に取得できる会社の登記事項証明書等には、自宅の番地以下を表示しない制度」と考える方が制度の実態に近いでしょう。
これも違います。
代表取締役等住所非表示措置は、代表者の住所を完全な秘密情報にする制度ではありません。
あくまで、登記事項証明書、登記事項要約書、登記情報提供サービスなど、一般に取得・確認できる登記情報において、代表取締役等の住所を最小行政区画までの表示とする制度です。
例えば、「東京都杉並区高円寺南三丁目○番○号」であれば、「東京都杉並区」までが表示され、「高円寺南」以下は表示されません。
一方、商業登記には「登記簿の附属書類の閲覧」という制度があります。
これは、登記申請の際に法務局へ提出された登記申請書や添付書面を閲覧する制度です。
ただし、登記事項証明書のように誰でも自由に閲覧できるものではなく、閲覧について利害関係を有する者が、閲覧する部分とその利害関係を明らかにして請求する必要があります。
このような附属書類には代表取締役等の完全な住所が記載されている場合があり、法律上の要件を満たした閲覧によって住所が確認されることがあります。
また、官公署からの請求等に応じて、法務局から非表示となっている住所情報が提供される場合もあります。
したがって、
「誰でも取得できる通常の登記事項証明書等では住所の詳細を表示しない制度」であって、「完全住所を誰にも知られないようにする制度」ではない
と理解するのが正確です。
プライバシー保護だけを考えれば、全員利用した方がいい?
ここも、必ずしもそうとはいえません。
もちろん、自宅住所が広く表示されなくなることは、プライバシー保護の面では大きなメリットです。
特に、
- 自宅を会社本店としている
- インターネット上で名前が知られている
- 不特定多数の顧客と接する事業をしている
- 家族が住む自宅住所を広く公開したくない
といった場合には、制度を検討する理由になるでしょう。
一方で、法務省は、この制度を利用すると登記事項証明書等だけでは会社代表者の完全な住所を証明できなくなるため、金融機関からの融資や不動産取引等で不都合が生じたり、印鑑証明書など追加書類が必要になったりする可能性があるとして、申出前の慎重な検討を求めています。
つまり、
| メリット | 注意点 |
|---|---|
|
代表取締役等の住所のうち、 最小行政区画より後の部分が 一般の登記事項証明書等に表示されない |
代表者の完全住所を証明するため 追加資料が必要になる場合がある |
| プライバシー保護につながる |
金融機関や不動産取引などで 確認手続が増える可能性がある |
|
住所情報が広く取得されることへの 抵抗を軽減できる |
一度申し出れば何も考えなくてよい制度ではない |
という両面があります。
「利用できるから利用する」ではなく、自分の会社にとってメリットが大きいかを考えて選択する制度だと思います。
代表取締役等住所非表示措置 よくある質問
Q1 代表取締役の自宅住所は完全に登記簿から消えるのですか?
いいえ。
完全な住所そのものは登記されます。
登記事項証明書等に表示される際に、一定部分を非表示にする制度です。
Q2 住所はどこまで表示されますか?
原則として最小行政区画まで表示されます。
例えば、
東京都杉並区高円寺南三丁目○番○号
であれば、
東京都杉並区
までが表示され、それ以降が非表示になります。
Q3 今の住所について、住所非表示だけを単独で申し出られますか?
原則としてできません。
会社設立、代表取締役等の就任・重任、住所変更など、一定の登記申請と併せて申し出る必要があります。
したがって、住所を非表示にしたい場合には、どのタイミングで申出が可能になるのかを確認することが重要です。
Q4 今回非表示にすれば、昔の自宅住所も全部見えなくなりますか?
いいえ。
今回の申出によって非表示措置が講じられる住所が対象です。
以前に登記されていた過去の住所まで遡って非表示になるわけではありません。
Q5 外国に住んでいる代表取締役でも利用できますか?
外国住所も非表示措置の対象となります。
ただし、外国住所についてどの部分が表示されるかなどは、国内住所とは異なる検討が必要になる場合があります。
Q6 住所非表示措置を利用すれば、誰にも住所を知られなくなりますか?
いいえ。
一般に取得できる登記事項証明書等への表示を制限する制度であって、完全な秘密住所にする制度ではありません。
一定の附属書類閲覧や、官公署への情報提供などによって完全住所が確認される場合もあります。
Q7 利用できるなら、全員利用した方がよいでしょうか?
一概にはいえません。
プライバシー保護というメリットがある一方、金融機関との取引、不動産取引、代表者本人の住所確認などで追加資料が必要になる場合があります。
会社の事業内容や今後の取引予定なども含めて検討した方がよいでしょう。
住所を非表示にする「手続」は、もう少し複雑です
ここまでが代表取締役等住所非表示措置の基本です。
しかし、実際に申し出る段階になると、さらに確認すべきことがあります。
特に非上場会社が初めて住所非表示措置を利用する場合には、
- 会社の本店がその住所に実在すること
- 代表取締役等本人の住所
- 会社の実質的支配者
などを確認するための書類が問題になります。
また、
「バーチャルオフィスでも利用できるのか?」
「レンタルオフィスの場合は?」
「賃貸借契約書があれば本店の実在性を証明できるのか?」
「司法書士は何を確認して本店実在性の証明書を作るのか?」
といった、実際に手続をするときの疑問もあります。
このあたりは制度の概要とは分けて考えた方が分かりやすいため、次回詳しく取り上げます。
第2回では「代表取締役等住所非表示措置を利用するには?―必要書類と司法書士の実務」として、実際の申出手続を詳しく解説します。
まとめ―「住所を隠せる制度」だけではありません
代表取締役等住所非表示措置は、自宅住所を広く公開したくない代表者にとって、有用な制度です。
しかし、ポイントは単に、
「代表取締役の住所を隠せるようになった」
ということだけではありません。
今回の要点を整理すると、
- 完全な住所そのものは今までどおり登記される
- 一般の登記事項証明書等では最小行政区画までの表示になる
- 一定の登記申請と一緒でなければ申出できない
- 過去に登記された住所まで遡って非表示になるわけではない
- 住所を完全な秘密情報にする制度ではない
- プライバシー保護のメリットだけでなく、取引上の注意点もある
という制度です。
さらに、一度非表示にした後の重任・再任・住所変更ではどうなるのかなど、利用後にも注意すべき問題があります。
そのため、
「自分の会社では利用できるのか」
「今の登記のタイミングで申し出られるのか」
「利用した場合に今後の取引で問題はないか」
を確認したうえで判断することが大切です。
会社設立や役員変更、本店移転などを予定していて代表取締役等住所非表示措置を検討している場合には、登記申請をしてしまう前に司法書士へ確認しておくとよいでしょう。
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