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詐欺取消しなら不動産取得税はかからない?錯誤との違いと登記実務を判例から解説

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錯誤が難しければ「詐欺取消し」?――不動産取得税と登記実務【合意解除・錯誤取消・4回】

錯誤が難しければ「詐欺取消し」?――不動産取得税と登記実務【合意解除・錯誤取消・4回】

2026/10/07

前回は、

「合意解除ではなく錯誤取消しにすれば、不動産取得税はかからないのではないか」

という問題を検討しました。

 

しかし、現行民法95条による真正な錯誤取消しについては、民法121条の遡及効がある一方、不動産取得税については所有権移転の「経過的事実」を見るという判例の考え方があり、

錯誤取消しなら非課税になるとも、必ず課税されるとも、今回確認した資料からは断定できない

という結論になりました。

 

そうすると、もう一つの発想が出てきます。

「錯誤が難しいのであれば、詐欺取消しにすればよいのではないか」

というものです。

実際に、相手の説明を信じて不動産を購入し、後からその説明が事実と違っていたと分かった場合、

「自分は騙されたのだから、これは錯誤ではなく詐欺ではないか」

と考えること自体は不自然ではありません。

 

ただし、ここでも順番を間違えてはいけません。

詐欺取消しは、錯誤取消しが使えない場合の代わりの制度ではありません。

まして、不動産取得税を避けるために選べる登記原因でもありません。

 

詐欺取消しは「錯誤取消しの代わり」ではない

民法96条は、詐欺による意思表示を取り消すことができると定めています。

 

ここでいう詐欺は、単に、

「説明された内容が間違っていた」

というだけの話ではありません。

 

詐欺では、一般に、

欺罔行為
→ 表意者が錯誤に陥る
→ その錯誤によって意思表示をする

という関係が問題になります。

 

つまり、相手方等が相手を誤信させるために欺罔行為をし、その結果として表意者が錯誤に陥り、その錯誤によって契約などの意思表示をした、という事実関係が問題になります。

 

また、相手方に対する意思表示について第三者が詐欺をした場合には、民法96条2項により、相手方がその事実を知り、または知ることができたときに限って、その意思表示を取り消すことができます。

 

したがって、

「錯誤では要件を満たしそうにないから、詐欺に変えよう」

という考え方にはなりません。

錯誤と詐欺は、それぞれ実際の事実関係から判断するものです。

 

錯誤と詐欺は何が違うのか

錯誤と詐欺は、全く無関係な制度ではありません。

詐欺によって意思表示をした人も、多くの場合は何らかの事実について誤った認識、つまり錯誤に陥っています。

しかし、着目するところが違います。

 

錯誤では、本人の認識と実際の事実との食い違いが問題になります。

 

これに対して詐欺では、その錯誤が、

相手方等の欺罔行為によって生じたものなのか

が問題になります。

 

たとえば、不動産を買った後になって、

「思っていたほど価値がなかった」
「予定していた転売ができなかった」
「聞いていた話と結果が違った」

という事情があっただけで、直ちに詐欺になるわけではありません。

 

誰が、いつ、何を説明したのか。

その説明や行為は、相手を誤信させるものだったのか。

相手を誤信させる意図があったのか。

その欺罔行為によって買主が誤信し、その結果として売買契約を締結したのか。

こうした事実を確認して初めて、民法96条の詐欺取消しの問題になります。

詐欺は、錯誤より簡単な制度ではありません。

 

「詐欺取消し」と言ったら刑事事件になるのか

「詐欺」という言葉を使うと、

「相手を犯罪者として告訴することになるのではないか」

と心配する方もいると思います。

 

しかし、民法96条の詐欺取消しと、刑法上の詐欺罪は別の制度です。

 

民法上の詐欺取消しを主張したからといって、自動的に刑事事件になるわけではありません。

警察への告訴が詐欺取消しの要件になるわけでもありませんし、詐欺取消しをしただけで相手が刑事上の詐欺罪に問われるわけでもありません。

 

ただし、

「詐欺取消し」とは単なる中立的な契約解消の言葉でもありません。

相手方等が意図的に人を誤信させ、その結果として意思表示をさせたという事実を法律関係の基礎にするものです。

その意味では、

「双方とも売買をやめたいので、便宜上『詐欺』ということにして戻しましょう」

という性質のものではありません。

 

詐欺取消しなら裁判をしないと登記を戻せないのか

もう一つ実務上気になるのが登記です。

 

詐欺取消しということは、

「相手が自分を騙した」

という事実を前提にします。

そうであれば、

騙したとされる相手が、所有権移転登記の抹消に素直に協力するのだろうか

という疑問が出てきます。

 

ここは、

法律上の問題と、実際に協力を得られるかという問題を分ける必要があります。

詐欺取消しであるという理由だけで、当事者による登記手続が法律上当然に排除されるわけではありません。

民法96条に基づく取消しが適法にされ、現在の登記名義人もその効力を争わず、登記手続に協力するのであれば、

「詐欺取消しだから必ず裁判をしなければならない」

とはいえません。

 

しかし実際には、

「騙していない」
「説明した内容は正しい」
「詐欺取消しは認めない」
「登記の抹消には協力しない」

という争いになることも考えられます。

 

その場合には、当事者の共同による登記手続だけでは解決できず、訴訟等によって権利関係を確定することが問題になります。

 

つまり、

詐欺取消しだから共同申請ができないのではなく、詐欺という性質上、そもそもの事実関係について当事者間で争いが生じやすく、結果として共同申請が困難になることがある

ということです。

 

大審院昭和17年判決――詐欺取消しをしても登記の問題は残る

詐欺取消しと不動産登記の関係を考えるうえで、古い判例ですが非常に興味深いものがあります。

大審院昭和17年9月30日判決(昭和17年(オ)第4号)です。

 

これは不動産取得税の判例ではありません。

詐欺による売買取消しと、不動産登記・第三者との関係が問題になった民事事件です。

 

事案では、買主が、

所有権移転登記と同時に売買代金全額を支払う

と売主を欺き、売主はそれを信じて所有権移転登記をしました。

その後、売主は詐欺を理由として売買を取り消します。

 

ところが、取消しによる所有権移転登記の抹消をする前に、第三者が買主からその不動産について権利を取得する関係が生じました。

大審院は、売主が取消しの効果をその第三者に対抗して第三者の権利を否定するためには、第三者の権利取得登記より先に、取消しによる抹消登記を備える必要があるとしました。

 

この判例から分かるのは、

「詐欺取消しをした」ということと、「登記上も完全に元へ戻った」ということは同じではない

ということです。

 

取消しをすれば登記も自動的に元へ戻るわけではない

現在の民法121条では、適法に取り消された行為は、

初めから無効であったものとみなす

とされています。

 

詐欺取消しについても同じです。

そのため民法上は、取消しによって法律行為の効力が遡って否定されます。

 

しかし、だからといって法務局の登記簿が自動的に書き換わるわけではありません。

売買による所有権移転登記が既にされているのであれば、

取消しによって生じた実体上の権利関係に、登記を合わせるための手続

が必要になります。

 

大審院昭和17年判決が示しているのも、この点です。

取消しの効果が生じていることと、その効果を第三者との関係で主張するために必要な登記の問題は、分けて考える必要があります。

 

これは、この連載で繰り返し見てきた、

「実体上の法律関係」と「登記の表示」は同じものではない

という問題にもつながります。

 

「取消し前の第三者」と「取消し後の第三者」も同じではない

ここは少し専門的ですが、重要です。

 

現行民法96条3項は、

詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない

と定めています。

 

これに対して、大審院昭和17年判決で問題となったのは、

詐欺による取消しがされた後、取消しによる抹消登記がされる前に第三者との権利関係が生じた場合

です。

 

そこでは、不動産物権変動と登記の対抗問題が扱われています。

 

したがって、

取消し前から存在する第三者との関係

と、

取消し後に現れた第三者との登記の関係

を、同じ問題として扱うことはできません。

 

この記事では第三者論には深入りしませんが、少なくとも、

詐欺取消しさえすれば、その後の不動産関係がすべて自動的に元どおりになるわけではない

ということは押さえておく必要があります。

 

抵当権や転売など第三者の権利があれば、さらに問題は増える

所有権移転登記の後に、さらに別の権利関係が発生していることもあります。

 

たとえば、買主名義になった後に抵当権が設定されている場合や、別の人へ転売されている場合です。

差押えなどがされている場合も含め、第三者の権利が関係していれば、売主と買主の間だけで、

「詐欺取消しにして元へ戻しましょう」

と決めれば、すべての登記関係が解決するわけではありません。

 

第三者との関係を別途検討する必要があります。

 

したがって、詐欺取消しは、

単に元の所有者名義へ戻すための便利な登記原因

ではないのです。

 

では、詐欺取消しなら不動産取得税はどうなるのか

ここで、この連載の本題である不動産取得税へ戻ります。

 

現行民法では、錯誤も詐欺も、一定の要件を満たした意思表示を取り消すことができるという制度です。

そして、適法に取り消された場合には、民法121条によって初めから無効であったものとみなされます。

そうすると、

「詐欺取消しなら最初から売買は無効とみなされるのだから、不動産取得税上も取得がなかったことになるのではないか」

という問題が出てきます。

 

しかし、第3回で見たように、税法側には別の考え方があります。

最高裁平成14年12月17日判決は、特別土地保有税について、

土地取得の原因となった法律行為が「取消し、解除等」によって覆されたかどうかにかかわらず、その経過的事実に即して土地所有権取得の事実を捉える

と判示しました。

 

ただし、この判決は不動産取得税そのものの判例ではありません。

また、具体的な事件も、民法96条の詐欺取消しではなく詐害行為取消しでした。

しかも最高裁は、当時の詐害行為取消しについて、取消しの効果は相対的であり、売主と買主との間では売買契約が依然として有効に存在することも理由として挙げています。

 

したがって、

最高裁平成14年判決が、民法96条の詐欺取消しについて「不動産取得税は課税される」と判断した

と読むことはできません。

 

「詐欺取消しなら非課税」とも「必ず課税」とも断定できない

結局、この点も第3回の錯誤取消しと同じ問題が残ります。

 

民法121条の遡及効を重視すれば、

取り消された売買は初めから無効とみなされるのだから、所有権取得もなかったのではないか

という議論ができます。

 

一方で、不動産取得税を所有権移転という「経過的事実」に着目する流通税として考えれば、

取消しまでの間に現実に所有権が移転していたという事実は残るのではないか

という議論もできます。

 

最高裁平成14年判決についての太田幸夫判事による判例解説も、

意思表示の瑕疵の内容が重要であれば、課税根拠を当初から欠く場合もあり得る一方、瑕疵があっても取得・保有の実体が認められる場合もあり得る

という趣旨の慎重な指摘をしています。

これは最高裁判決そのものの判示ではなく、判例解説者の評価です。

 

今回確認した資料の範囲では、

民法96条による真正な詐欺取消しについて、不動産取得税の課税関係を直接判断した最高裁判例は確認できません。

したがって、

「詐欺取消しなら不動産取得税はかからない」

とも、

「詐欺取消しでも必ず不動産取得税がかかる」

とも、現時点で断定することはできません。

 

「錯誤より詐欺の方が強いから有利」でもない

もう一つ注意したいのが、

「錯誤より詐欺の方が悪質な事情なのだから、法律効果も強く、不動産取得税もかかりにくいのではないか」

という考え方です。

 

そのような関係にはなっていません。

 

錯誤と詐欺では成立要件が違いますが、

詐欺取消しの方が錯誤取消しよりも「強い取消し」である

という制度ではありません。

 

どちらも適法に取り消されれば、民法121条による遡及効の問題になります。

 

したがって、

税務上有利なのは錯誤か詐欺か

という基準で法律構成を選ぶこと自体が、問題の順番を逆にしています。

 

実務では「詐欺」という言葉の重さも考える必要がある

司法書士として実際の相談を受ける場面では、もう一つ考えることがあります。

 

「錯誤」は、まず本人の認識の問題です。

 

これに対して「詐欺」は、

相手方等が意図的に自分を騙した

という事実を法律関係の前提にします。

 

もちろん、本当に詐欺があったのであれば、その事実に基づいて処理すべきです。

 

また、詐欺があった後に当事者間で話し合いが成立し、相手方が登記を元へ戻すことに協力することもあり得ます。

 

しかし、

双方が円満に「この売買はやめましょう」と合意しているだけの場面で、不動産取得税のためにわざわざ「相手に騙された」という事実を持ち込む

というのは、法律関係の整理として順序が違います。

 

税金のために「詐欺」という事実を作ることはできない

これは、この連載で最も伝えたいことの一つです。

 

実際には、

当事者で話し合って売買をなかったことにしただけ

なのに、

「合意解除だと不動産取得税がかかるから、最初から騙されていたことにしよう」

ということはできません。

 

第1回、第3回で扱った東京地裁平成26年8月26日判決でも、登記上は「錯誤」を原因として所有権移転登記が抹消されていました。

しかし裁判所は、当初の売買に無効とすべき原始的な瑕疵がなく、買主が売買によって所有権を取得していたことを確認したうえで、当事者が所有名義を元の売主へ戻すための便法として「錯誤」を原因とする抹消登記の形式を採ったにすぎないとして、その法律上の実体を合意解除と判断しています。

 

登記簿に何と書いたかだけで、法律関係の実体が決まるわけではありません。

そして、その合意解除によって元売主へ所有権が新たに移転したことを、不動産取得税上の「不動産の取得」と判断しました。

税金から逆算して、後から事実関係や登記原因を作ることはできない。

ここまで4回にわたって見てきた判例・裁判例からも、この点は明確です。

 

第4回の結論――詐欺かどうかも、まず事実から決まる

ここまでを整理すると、

「錯誤取消しが難しいなら、詐欺取消しにすればよい」

という関係にはありません。

詐欺取消しには、相手方等の欺罔行為によって錯誤に陥り、その結果として意思表示をしたという、詐欺取消し独自の事実関係が必要です。

民事上の詐欺取消しを主張しただけで刑事事件になるわけではなく、詐欺取消しだから必ず裁判が必要になるわけでもありません。

 

しかし、相手方等の欺罔行為を前提とする以上、当事者間でその事実について争いが生じ、登記への協力を得られないこともあります。

 

また、詐欺取消しが成立したとしても、既にされた登記や第三者の権利関係は別途検討しなければなりません。

 

そして、不動産取得税についても、

「詐欺取消しなら非課税」

と一律にいうことのできる判例関係にはなっていません。

 

結局、

錯誤か、詐欺か、合意解除かを税負担から選ぶのではありません。

実際に何が起きたのかを確認し、その事実を法律に当てはめた結果として、法律構成と登記原因が決まります。

 

次回は、この連載の最終回です。

 

合意解除では不動産取得税が問題になる。

では錯誤取消しならどうか。

それも難しいなら詐欺取消しならどうか。

ここまで見てきました。

 

しかし、登記原因は税負担を見ながら選べるメニューではありません。

では実際に、登記原因と取引の実体が食い違っていると疑われた場合、課税庁は何を見るのでしょうか。

第5回は、

「税金から逆算して登記原因を選んではいけない――行政不服審査会答申から見る実務」

として、行政不服審査会の答申を中心に、この連載全体をまとめます。

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