代表取締役等住所非表示措置を利用するには?―必要書類・本店実在性・バーチャルオフィスまで司法書士が解説
2026/08/24
住所非表示措置は「非表示にしてください」と申し出るだけではありません
前回の記事では、「代表取締役等住所非表示措置」について、そもそもどのような制度なのかを解説しました。
一定の条件を満たせば、代表取締役等の住所について、登記事項証明書などでは最小行政区画までの表示とし、それより後の部分を非表示にすることができます。
ただし、住所そのものを登記しなくてよくなる制度ではありません。
では、実際に住所非表示措置を利用するには、何を準備すればよいのでしょうか。
特に、一般的な非上場株式会社が初めて住所非表示措置を利用する場合には、原則として、単に登記申請書へ「住所を非表示にしてください」と書けば終わるわけではありません。
大きく分けると、次の3つを確認するための資料が問題になります。
<原則として確認する3つのポイント>
| 確認するもの | 確認する内容 |
|---|---|
| 本店の実在性 |
会社が登記上の本店所在地に 実際に存在していること |
| 代表取締役等の氏名・住所 |
非表示の対象となる本人の 正しい氏名・完全な住所 |
| 実質的支配者 |
会社を実質的に支配している者の 本人特定事項 |
「住所を表に出さない制度なのだから、むしろ確認は簡単になるのでは」と思われるかもしれません。
実際には逆です。
正しい住所をきちんと登記し、会社や代表者について必要な確認をしたうえで、一般に表示する範囲だけを制限するという仕組みになっています。
※なお、一定期間内に法務局へ実質的支配者リストの保管申出をしている場合などには、この実質的支配者関係の書面を改めて添付しなくてよい場合があります。
今回は、この3つの確認を中心に見ていきます。
1 本店の「実在性」を確認するとは?
まず問題になるのが、会社の本店の実在性です。
「会社の登記簿に本店住所が登記されているのだから、それで十分では?」
と思われるかもしれません。
しかし、
その場所が登記上の本店になっていることと、
その場所に会社が実際に存在していること
は必ずしも同じではありません。
代表取締役等住所非表示措置では、一定の場合、会社が登記上の本店所在地に実際に存在していることを確認する資料が求められます。
「本店機能が十分にあるか」まで確認するわけではない
もっとも、ここでいう「実在性」は、
- そこで会社の営業活動のすべてを行っている
- 従業員が常時勤務している
- 会社の重要書類がすべて保管されている
という意味での本店機能まで要求するものではありません。
重要なのは、その本店所在地に株式会社が実在すると確認できるかという点です。
この違いは、バーチャルオフィスやレンタルオフィスを利用している会社を考えると分かりやすいと思います。
2 本店実在性はどうやって証明する?
代表的な方法は、大きく二つあります。
① 本店宛ての郵便物が届いたことを証明する方法
会社の本店所在地宛てに郵便物を送り、その場所で会社が郵便物を受け取ったことを一定の資料で証明する方法です。
実際にその住所で会社宛ての郵便物が受領されているのであれば、本店実在性を確認するための一つの客観的な資料になります。
② 司法書士等の資格者代理人が実在性を確認する方法
もう一つは、その登記申請を代理する司法書士又は司法書士法人が、
「この株式会社が登記上の本店所在地に実在することを確認した」
旨の書面を作成する方法です。
法務省民商第116号通達には、このための書面の様式も定められています。
つまり、住所非表示措置を伴う登記申請では、司法書士は単に依頼者から書類を預かって法務局へ提出するだけとは限りません。
会社の本店実在性そのものを確認し、その確認結果を証明する役割を担う場合があります。
3 司法書士は何を見て「本店が実在する」と判断する?
では、司法書士はどのように確認するのでしょうか。
日司連の「代表取締役等住所非表示措置に関するQ&A(実践編)」では、例えば、
- 打合せ等のために本店所在地へ行き、会社の実在性を確認した
- 本店所在地宛てに送付した書類が会社に受領されたことを確認した
といった確認方法が示されています。
資格者代理人が作成する書面には、確認日時や確認方法などを記載します。
大切なのは、形式的に「実在しています」と書けばよいわけではないということです。
司法書士が実際に確認した事実を基礎として証明する必要があります。
4 会社の賃貸借契約書があれば十分?
ここは意外に思われるかもしれません。
会社名義の不動産賃貸借契約書を確認しただけでは、その所在地における会社の実在性を確認したことにはなりません。
なぜでしょうか。
例えば、
株式会社Aが東京都杉並区○○の事務所を借りている
という賃貸借契約書があったとします。
これによって、
「株式会社Aがその場所を借りる契約を結んでいる」
ことは確認できます。
しかし、
「株式会社Aが現在、実際にその場所に存在している」
ところまでは、契約書だけでは確認できません。
契約が存在することと、その本店所在地に株式会社が実在することは別だからです。
代表取締役等住所非表示措置では、この区別が重要になります。
5 バーチャルオフィスでも住所非表示措置を利用できる?
これもよく問題になりそうなところです。
結論からいうと、
バーチャルオフィスだからという理由だけで、代表取締役等住所非表示措置を利用できないわけではありません。
例えば、そのバーチャルオフィスで会社宛ての郵便物を受領できるのであれば、郵便物が実際に届いたことを証する資料によって本店実在性を確認できる場合があります。
したがって、
バーチャルオフィス=住所非表示措置は利用不可
という単純な関係ではありません。
「郵便物を受け取れる契約です」だけでは別問題
ただし、ここにも注意点があります。
例えば司法書士が、
「このバーチャルオフィスは会社宛て郵便物を受け取る契約になっている」
ことだけを確認したとします。
それだけで、司法書士がその所在地における本店の実在性を確認したことになるとは限りません。
郵便物を受け取れる契約があることと、
その本店に会社が実際に存在すると確認したこと
は別だからです。
バーチャルオフィスを利用している会社では、「どの方法で本店実在性を証明するか」を具体的に検討する必要があります。
6 レンタルオフィスやシェアオフィスの場合は?
レンタルオフィスやシェアオフィスについても考え方は同じです。
「レンタルオフィスだからOK」
「シェアオフィスだからNG」
という決まり方ではありません。
重要なのは、
その会社が登記上の本店所在地に実在していることを、どのような方法で確認できるか
です。
実際の利用形態、会社宛郵便物の受領方法、現地での確認状況などによって判断することになります。
オフィスの名称だけで結論を出さないことが重要です。
7 司法書士本人が必ず現地へ行く必要がある?
必ずしもそうではありません。
日司連の実践編Q&Aでは、司法書士の補助者が本店所在地で実在性を確認し、その報告を受けた司法書士が資格者代理人として証明書を作成することも可能と整理されています。
したがって、
住所非表示措置を利用する会社について、必ず受任司法書士本人が現地まで行かなければならない
という制度ではありません。
もっとも、最終的に資格者代理人として証明書を作成する司法書士は、補助者からの報告等を踏まえて、責任をもって確認することになります。
8 登記は自分でやって、本店実在性の証明だけ司法書士に頼める?
これはできません。
司法書士が作成する「本店の実在性を確認したことを証する書面」は、その登記申請を代理する資格者代理人が作成することを前提とした書面です。
したがって、
「登記申請は会社が自分で行います。本店実在性の証明書だけ司法書士に書いてください」
という使い方はできません。
これは、司法書士が単に証明書だけを発行する制度ではなく、登記申請の代理業務の一環として実在性を確認・証明する仕組みだからです。
9 二つ目の確認―代表取締役等本人の氏名・住所
次に確認するのが、住所非表示の対象となる代表取締役等本人の氏名・住所です。
「住所を非表示にするのに、なぜ住所を証明する必要があるの?」
と思われるかもしれません。
しかし、第1回でも説明したとおり、この制度は代表取締役等の住所を登記しない制度ではありません。
完全な住所を正確に登記したうえで、その一部を一般の登記事項証明書等に表示しない制度です。
したがって、法務局では対象となる代表取締役等の正確な氏名・住所を確認する必要があります。
そのための資料としては、例えば、
- 住民票の写し
- 戸籍の附票の写し
- 印鑑証明書
などが問題になります。
具体的にどの書面を添付するかは、今回同時に行う役員変更登記等の内容によっても変わります。
10 同じ証明書を二重に出す必要はある?
住所非表示措置を伴う登記では、
もともとの役員変更登記等で必要な添付書面と、
住所非表示措置のために必要な添付書面
が重なる場合があります。
例えば、役員変更登記そのものの添付書面として提出する印鑑証明書が、非表示対象者の住所を証する書面としても利用できる場合があります。
その場合、同じ書面を機械的に二重で用意するということではありません。
実際の申請では、
今回の登記そのものに必要な書面は何か
その中で住所非表示措置にも利用できる書面は何か
追加で何を用意する必要があるか
を一体として確認していきます。
このあたりは、住所非表示措置だけを切り離して必要書類を考えるよりも、今回申請する商業登記全体として書類を組み立てることが大切です。
11 三つ目の確認―「実質的支配者」とは?
三つ目が、実質的支配者の本人特定事項です。
一般の方には少し聞き慣れない言葉かもしれません。
簡単にいうと、
その会社を実質的に支配している自然人等
を確認するものです。
典型的には、会社の議決権を一定割合以上持っている人が問題になります。
ただし、単純に「最も株式を持っている人」だけを見る制度ではありません。
出資、融資その他の関係を通じて会社の事業活動に支配的な影響力を持つ自然人がいれば、その者が実質的支配者となる場合もあります。
この実質的支配者の考え方自体を詳しく説明すると別の記事が必要になるほどなので、ここでは、
「住所非表示措置を利用するときには、代表取締役本人だけでなく、一定の場合には会社を実質的に支配する者についても確認が必要になる」
と理解しておけばよいでしょう。
では、実質的支配者について、どのような資料を用意するのでしょうか。
例えば、司法書士等が本人確認を行った際に作成した実質的支配者に関する一定の確認記録の写しや、公証人が作成・認証した実質的支配者に関する一定の書面などが利用されます。
また、一定期間内に法務局へ実質的支配者リストの保管申出をしている場合には、一定の条件のもとで、実質的支配者に関する書面を改めて添付しなくてよい場合もあります。
このため、実際の申出では、会社がこれまでどのような本人確認や実質的支配者に関する手続を行っているかも確認することになります。
12 株主名簿があれば実質的支配者の確認は終わる?
では、株主構成が分かる株主名簿を提出すれば、それで足りるのでしょうか。
単なる株主名簿だけでは足りません。
日司連の実践編Q&Aでは、単なる株主名簿だけでは、実質的支配者の本人特定事項を証する書面として足りないと整理されています。
株主名簿は、誰が何株持っているかを確認するためには重要な資料です。
しかし、住所非表示措置で求められる実質的支配者の本人特定事項の証明という観点では、それだけで完結するわけではありません。
例えば、生年月日など本人特定に必要な情報が株主名簿に記載されているとは限りません。
また、一定の公的・制度的な確認を経た資料であることも求められます。
つまり、
「株主が誰なのか分かれば、それで実質的支配者の確認も終了」
とはならないわけです。
13 上場会社と非上場会社では必要書類が同じではない
ここまで説明してきた内容は、主として一般的な非上場株式会社が初めて代表取締役等住所非表示措置を利用するケースを念頭に置いています。
上場会社等については、本店実在性や実質的支配者に関する添付書面の扱いが異なります。
そのため、
株式会社なら全部同じ必要書類
ではありません。
会社の状況を確認して、適用される申出方法を判断する必要があります。
14 実際の登記申請はどうする?
住所非表示措置は、それだけを独立した登記申請書として提出するイメージではありません。
例えば代表取締役の就任登記や重任登記など、住所非表示措置を申し出ることができる一定の登記申請の中で、
「この代表取締役等について住所非表示措置を講じてほしい」
旨を申し出ます。
そして、住所非表示措置を利用する場合でも、法務局へ提出する登記申請書には、対象者の完全な住所を記載します。
ここでも、
住所を法務局に知らせない制度ではなく、正確な住所を登記したうえで一般への表示を制限する制度
という基本構造が現れています。
代表取締役等住所非表示措置の申出 よくある質問
Q1 非上場会社が初めて住所非表示措置を利用するとき、何が必要ですか?
大きく分けて、
-
本店の実在性
-
代表取締役等の氏名・住所
-
実質的支配者の本人特定事項
を確認するための資料が問題になります。
実際の必要書類は、今回同時に申請する登記や会社の状況によって異なります。
Q2 本店が登記されているのに、なぜ実在性を確認するのですか?
登記簿上その住所が本店になっていることと、その本店所在地に株式会社が実在していることは別だからです。
住所非表示措置では、一定の場合に本店所在地に会社が実際に存在していることの確認が求められます。
Q3 会社名義の賃貸借契約書があれば、本店実在性の証明になりますか?
賃貸借契約書を確認しただけでは足りません。
その場所を借りる契約があることは確認できますが、その場所に会社が実際に存在していることまで確認したことにはならないからです。
Q4 バーチャルオフィスでも住所非表示措置を利用できますか?
バーチャルオフィスだからという理由だけで利用できないわけではありません。
重要なのは、会社がその本店所在地に実在することをどのように確認・証明できるかです。
例えば、その住所で会社宛ての郵便物を実際に受領していることを証する方法などが考えられます。
Q5 レンタルオフィスやシェアオフィスでも利用できますか?
一律に利用不可ではありません。
オフィスの名称ではなく、会社の本店実在性を確認できるかどうかがポイントになります。
Q6 司法書士本人が必ず本店所在地へ行かなければなりませんか?
必ずしもそうではありません。
司法書士の補助者が現地で確認し、その報告を受けた司法書士が責任をもって資格者代理人証明書を作成することも可能とされています。
Q7 登記申請は自分で行い、本店実在性の証明書だけ司法書士に作ってもらえますか?
そのような使い方はできません。
司法書士等が作成する本店実在性の資格者代理人証明書は、その登記申請を代理する資格者代理人が作成する書面です。
Q8 株主名簿があれば実質的支配者の確認は足りますか?
株主名簿だけでは足りません。
株主名簿は株主構成を確認するうえでは重要ですが、実質的支配者の本人特定事項を証するために必要な情報・確認をすべて満たすものではありません。
Q9 住所を非表示にするのに、なぜ代表取締役の住所証明書が必要なのですか?
この制度は住所を登記しない制度ではないからです。
完全な住所を正確に登記したうえで、登記事項証明書等に表示する範囲だけを制限します。
そのため、法務局側では代表取締役等の正確な住所を確認する必要があります。
住所非表示が認められたら、それでずっと安心?
ここまで、代表取締役等住所非表示措置を実際に利用するときの必要書類や確認方法を見てきました。
しかし、無事に住所非表示措置が講じられたとしても、それで永久に何も考えなくてよいわけではありません。
例えば、
- 代表取締役が重任した
- 一度退任して再任した
- 代表取締役が引っ越した
- 同じ杉並区内で住所を移した
- 本店を管轄外へ移転した
といった場合に、
非表示措置がそのまま自動的に続くケースと、
改めて住所非表示措置を申し出なければならないケース
があります。
また、代表取締役が退任した場合や、会社の本店実在性に問題が生じた場合に、非表示措置がどうなるのかも重要です。
さらに、その会社が不動産を売却するときには、住所非表示によって登記事項証明書だけでは代表者の完全住所を確認できないため、司法書士の本人確認実務にも影響します。
この点は次回、
「住所非表示にしたらずっとそのまま?―重任・住所変更・退任・不動産取引の注意点」
として詳しく解説します。
まとめ―住所非表示の申出は「会社と代表者を確認したうえで行う制度」
代表取締役等住所非表示措置は、代表取締役等のプライバシーを守るうえで有用な制度です。
一方、実際に利用するときには、単に申出をすればよいわけではありません。
特に、一般的な非上場株式会社が初めて利用する場合には、
① 本店の実在性
② 代表取締役等本人の氏名・住所
③ 実質的支配者の本人特定事項
という3つの確認が重要になります。
さらに、
- 賃貸借契約書があるだけでは本店実在性の確認として足りない場合がある
- バーチャルオフィスだから一律に利用できないわけではない
- 司法書士が本店実在性を確認して証明する方法がある
- 本人申請で司法書士の証明書だけを利用することはできない
- 株主名簿だけで実質的支配者確認が終わるわけではない
など、実際の会社の状況によって判断すべき点があります。
制度の書類だけを見ると複雑に感じるかもしれませんが、それぞれの確認には理由があります。
「自分の会社ではどの方法で本店実在性を証明できるか」
「今回予定している役員変更登記で、どの書類をそのまま利用できるか」
「住所非表示措置をどのタイミングで申し出ることができるか」
といった点は、会社ごと、登記内容ごとに確認する必要があります。
会社設立や役員変更などにあわせて代表取締役等住所非表示措置を検討している場合には、登記申請前の段階で司法書士へ相談しておくとよいでしょう。
----------------------------------------------------------------------
中野司法書士事務所
東京都杉並区高円寺南4-28-10
高円寺リリエンハイム407
電話番号 :
03-6272-4260
杉並区で満足度の高い商業・法人登記/会社法務業務
----------------------------------------------------------------------
