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相続人申告登記をしたら終わり?遺産分割後に生じる3年の登記義務

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相続人申告登記をしたら終わり?―遺産分割後の「もう一つの3年」【相続登記義務化・6回】

相続人申告登記をしたら終わり?―遺産分割後の「もう一つの3年」【相続登記義務化・6回】

2026/09/21

前回は、相続人申告登記が、

相続登記の申請義務を履行するための簡易な方法

であることを説明しました。

期限内に相続人申告登記の申出をすれば、その申出をした人について、一定の相続登記の申請義務を履行したものとみなされます。

 

では、

「相続人申告登記をしたから、これでもう相続登記義務への対応は終わり」

と考えてよいのでしょうか。

 

答えは、必ずしもそうではありません。

相続人申告登記の申出をした後に遺産分割が成立し、その遺産分割によって不動産の所有権を取得した場合には、原則として新たな登記義務が生じます。

 

その期限は、

遺産分割の日から3年以内

です。

 

令和5年9月12日付法務省民二第927号通達は、これを、

「相続人申告登記の申出後に遺産分割が成立した場合の追加的申請義務」

として整理しています。

 

今回は、この遺産分割後の「もう一つの3年」について説明します。

なお、「もう一つの3年」というのは法律上の正式な名称ではありません。

相続人申告登記の後に遺産分割が成立した場合に生じる、追加的な申請義務を分かりやすく表現したものです。

 

相続人申告登記で履行できるのは「最初の申請義務」

まず、相続人申告登記によって何の義務を履行できるのかを確認しておきます。

不動産登記法76条の3第2項では、同法76条の2第1項に定められた期間内に相続人である旨の申出をした者について、

その所有権移転登記の申請義務を履行したものとみなす

とされています。

 

ただし、申出前にされた遺産分割による所有権取得は、このみなし履行の対象から除かれています。

法務省のマスタープランも、

相続人申告登記によって履行できるのは最初の申請義務であり、遺産分割後の申請義務については、相続人申告登記の申出によって履行することはできない

と整理しています。

つまり、

相続人申告登記をした時点で、将来の遺産分割後の登記義務まで先に履行したことになるわけではありません。

 

申出後の遺産分割で所有権を取得すると「もう一つの3年」が始まる

不動産登記法76条の3第4項は、相続人申告登記の申出をした者が、その後の遺産分割によって所有権を取得した場合には、原則として、

遺産分割の日から3年以内に、所有権移転登記を申請しなければならない

と定めています。

 

流れを整理すると、次のようになります。

 

相続人申告登記の申出

  ↓

最初の申請義務を履行したものとみなされる

  ↓

その後に遺産分割が成立

  ↓

申出人がその不動産の所有権を取得

  ↓

原則として、遺産分割の日から3年以内に所有権移転登記

 

これが、今回いう「もう一つの3年」です。

 

最初の3年が延長されたわけではない

ここは重要です。

相続人申告登記をすると、

最初の3年の期限がさらに3年延長される

わけではありません。

 

また、

相続人申告登記をした時点で3年のカウントがリセットされる

わけでもありません。

 

最初の申請義務と、遺産分割後の申請義務は、別のものです。

最初の義務は、不動産登記法76条の2第1項によるものです。

これに対して、相続人申告登記をした後に遺産分割が成立した場合の義務は、76条の3第4項によって新たに生じます。

927号通達がこれを「追加的申請義務」と表現しているのも、このためです。

したがって、

「相続人申告登記をすれば、相続登記の期限を3年延ばせる」

という理解は正確ではありません。

 

新しい3年は「遺産分割の日」から始まる

最初の相続登記義務と、遺産分割後の追加的申請義務では、3年の起算点も違います。

 

最初の申請義務は、

自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日

から3年です。

 

これに対して、相続人申告登記の後に遺産分割が成立し、76条の3第4項の申請義務が生じる場合は、

遺産分割の日から3年

です。

 

したがって、

相続人申告登記をした日から3年

ではありません。

 

また、

被相続人が亡くなった日から3年

でもありません。

 

今回の追加的申請義務では、法律が明確に、

「当該遺産の分割の日から三年以内」

と定めています。

 

誰に「もう一つの3年」の義務が生じるのか

相続人申告登記の申出をしたすべての相続人に、自動的に新たな登記義務が生じるわけではありません。

不動産登記法76条の3第4項が対象としているのは、

相続人申告登記の申出をした者が、その後の遺産分割によって所有権を取得した場合

です。

 

例えば、相続人がA・B・Cの3人いるとします。

Aだけが相続人申告登記の申出をした後、遺産分割によってAがその不動産を取得した場合には、Aについて、遺産分割の日から3年以内の所有権移転登記義務が生じます。

一方、Aが相続人申告登記をしていても、その後の遺産分割でその不動産を取得しなかったのであれば、Aについて、その不動産に関する76条の3第4項の登記義務は生じません。

 

つまり、

「相続人申告登記をした人」

というだけでは足りず、

「その後の遺産分割によって所有権を取得したこと」

まで必要です。

 

申出前の遺産分割と、申出後の遺産分割は扱いが違う

相続人申告登記と遺産分割の順序も重要です。

 

申出の前に遺産分割が成立していた場合

不動産登記法76条の3第2項は、相続人申告登記の申出による申請義務のみなし履行について、

「当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く」

としています。

 

したがって、既に遺産分割が成立し、その遺産分割によって所有権を取得した後に相続人申告登記をしても、

その遺産分割による所有権取得についての申請義務を、相続人申告登記によって履行したことにはなりません。

 

申出の後に遺産分割が成立した場合

一方、相続人申告登記をした後に遺産分割が成立し、その申出人が所有権を取得した場合には、原則として、

遺産分割の日から3年以内

に所有権移転登記をしなければなりません。

 

つまり、

申出前の遺産分割

申出後の遺産分割

では、法律上の扱いが異なります。

 

途中で法定相続分による相続登記をしていた場合は別の条文になる

ここは少し実務的な話です。

不動産登記法76条の3第4項には、一つ例外があります。

同項は、

法定相続分による相続登記がされた後に、その遺産分割によって所有権を取得した場合

を対象から除いています。

 

例えば、

 

相続人申告登記の申出

  ↓

その後、法定相続分による相続登記

  ↓

さらにその後、遺産分割

 

という順番になった場合です。

 

この場合には、76条の3第4項ではなく、76条の2第2項の追加的申請義務が問題になります。

76条の2第2項では、法定相続分による相続登記がされた後に遺産分割があり、

その遺産分割によって法定相続分を超えて所有権を取得した者

は、

遺産分割の日から3年以内

に所有権移転登記を申請しなければならないとされています。

 

927号通達も、

法定相続分による相続登記後の遺産分割

と、

相続人申告登記の申出後の遺産分割

を分けて説明しています。

 

一般の方が条文番号まで覚える必要はありません。

ただ、

途中で法定相続分による相続登記をしている場合には、適用されるルールが変わる

という点は押さえておく必要があります。

 

2つの追加的申請義務を整理すると

混同しやすいため、簡単に整理します。

 

  法定相続分による相続登記後 相続人申告登記の申出後
根拠条文 不動産登記法76条の2第2項 不動産登記法76条の3第4項

その後の

出来事

遺産分割 遺産分割
義務を負う人 

遺産分割で法定相続分を超えて 

所有権を取得した人

申出人のうち、

遺産分割で所有権を取得した人 

期限 遺産分割の日から3年 遺産分割の日から3年

 

どちらも「遺産分割後の追加的申請義務」ですが、前提となる状態と義務を負う人が異なります。

 

この追加的申請義務も過料の対象になる

相続人申告登記を期限内にしていたとしても、その後に生じた追加的申請義務を放置してよいわけではありません。

 

不動産登記法164条では、

  • 76条の2第1項
  • 76条の2第2項
  • 76条の3第4項

による申請義務について、正当な理由がないのに申請を怠った場合には10万円以下の過料に処するとされています。

 

927号通達も、この点を明記しています。

 

したがって、

「最初に相続人申告登記をしておけば、その後の登記義務を放置しても過料の問題はない」

ということではありません。

もっとも、過料に至るまでの催告や「正当な理由」については、第2回から第4回で詳しく説明したため、ここでは繰り返しません。

 

相続人申告登記は「一度やれば全部終わり」ではない

相続人申告登記は、相続登記の申請義務を履行するための簡易な方法です。

しかし、

一度相続人申告登記をすれば、その不動産について将来生じる登記義務まですべて終わる

という制度ではありません。

 

相続人申告登記の申出後に遺産分割が成立し、その申出人が所有権を取得した場合には、原則として、

遺産分割の日から3年以内

に所有権移転登記を申請する必要があります。

これは、最初の3年が延長されたものではありません。

遺産分割によって新たに生じる、別の追加的申請義務です。

 

したがって、相続人申告登記を利用した場合には、

「申出をしたから終わり」ではなく、その後に遺産分割が成立したか、誰が不動産を取得したかを確認し、改めて登記期限を確認する

必要があります。

 

次回からは、相続登記義務化そのものから少し視点を広げ、

「所有不動産記録証明制度とは?―亡くなった人名義の不動産を全国から探す」

を取り上げます。

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