DESによる増資に検査役の調査は必要?――貸付債権の現物出資と税理士の証明【第2回】
2026/11/04
社長が会社に貸したお金を資本金に振り替えるDES(デット・エクイティ・スワップ)は、貸付債権を現物出資し、その対価として会社が新たな株式を発行する方法です。
前回は、その基本的な仕組みを説明しました。
ところが、現物出資には、通常の金銭出資にはない問題があります。
それは、現物出資する財産の価額を、誰がどのように確認するのかという問題です。
会社法では、現物出資を伴う募集株式の発行について、原則として裁判所が選任する検査役による調査を予定しています。
しかし、一定の条件を満たせば、この調査を省略できます。
特に、会社に対する貸付債権を現物出資するDESには、会社法207条9項5号という特例があります。
この特例を利用できれば、検査役の調査だけでなく、税理士等による現物出資財産の価額証明も必要ありません。
ただし、貸付債権であれば無条件に認められるわけではありません。弁済期や会社の会計帳簿など、確認すべき要件があります。
1.なぜ現物出資には検査役の調査が必要なのか
現金と異なり、財産の価額が問題になる
現金3,000万円を会社に払い込むのであれば、払い込まれた金額を確認できます。
一方、不動産や自動車などを現物出資する場合、その財産が実際にいくらの価値を持つのかという問題が生じます。
例えば、実際には300万円程度の価値しかない財産を3,000万円と評価して新株を発行すると、現実の財産価値と出資額との間に大きな開きが生じます。
このような過大評価を防ぐために設けられているのが、現物出資財産についての検査役調査の制度です。
検査役は裁判所が選任する
会社法207条1項では、募集株式の発行について現物出資財産を定めた場合、株式会社は、募集事項の決定後遅滞なく、裁判所に検査役の選任を申し立てなければならないとされています。
検査役は裁判所によって選任され、現物出資財産の価額を調査します。
調査の結果、定められた価額が不当である場合には、裁判所が価額を変更する制度も用意されています。
もっとも、すべての現物出資について検査役調査を行う必要があるわけではありません。
会社法207条9項には、その調査を省略できる場合が定められています。
なお、会社設立時の現物出資については会社法33条にも検査役調査の規定がありますが、今回扱うのは、会社成立後に募集株式を発行して増資する場合の会社法207条です。
2.検査役の調査を省略できる5つの場合
会社法207条9項は、検査役調査を省略できる場合を5つ定めています。
| 根拠条文 | 検査役調査を省略できる場合 |
|---|---|
| 1号 | 引受人に割り当てる募集株式の総数が、発行済株式総数の10分の1以下 |
| 2号 | 現物出資財産について定めた価額の総額が500万円以下 |
| 3号 | 市場価格のある有価証券を、所定の市場価格以下で評価する場合 |
| 4号 | 弁護士、公認会計士、税理士等から、価額の相当性について証明を受けた場合 |
| 5号 | 弁済期が到来した会社に対する金銭債権を、その負債の帳簿価額以下で現物出資する場合 |
これらは、それぞれ独立した例外です。
したがって、5つの条件をすべて満たす必要はありません。
① 発行する株式数が少ない場合(1号)
例えば、発行済株式総数が1,000株の会社で、募集株式の引受人に割り当てる株式の総数が100株以下であれば、1号の対象になります。
1号には、現物出資財産の価額について、500万円以下などの金額要件は定められていません。
ただし、発行する株式数が少なくても、現物出資財産の内容や募集株式の発行価額について、別途適切な判断が必要であることに変わりはありません。
② 現物出資財産が500万円以下の場合(2号)
現物出資財産について募集事項に定めた価額の総額が500万円以下であれば、検査役調査を省略できます。
ここで重要なのは、財産1個ごとの金額ではなく、現物出資財産の価額の総額で判断することです。
③ 市場価格のある有価証券の場合(3号)
市場価格のある有価証券について、法務省令で定める方法により算定した市場価格を超えない価額で現物出資する場合にも、調査を省略できます。
これは市場価格を客観的な判断材料とする例外です。
④ 税理士等が価額を証明した場合(4号)
弁護士、公認会計士、税理士など、法律で定められた専門家によって現物出資財産の価額が相当であることの証明を受けた場合です。
司法書士は、この4号に定められた証明資格者には含まれていません。
また、会社法207条10項は、募集株式の引受人や会社の取締役等について、証明者になれない旨を定めています。
不動産について4号の例外を利用する場合には、さらに不動産鑑定士による鑑定評価も必要です。
⑤ 会社に対する弁済期到来済みの金銭債権の場合(5号)
今回のDESで、最も重要なのが5号です。
会社に対する金銭債権について、弁済期が到来しており、募集事項に定めた現物出資財産の価額が、会社における負債の帳簿価額を超えなければ、検査役調査を省略できます。
この場合、4号による税理士等の価額証明を別途取得する必要もありません。
ただし、5号の要件を満たすことが前提です。
3.会社法207条9項5号の3つの要件
会社法207条9項5号は、次の3点を要件としています。
① 現物出資する財産が、増資する会社自身に対する金銭債権であること
② その金銭債権の弁済期が到来していること
③ 募集事項に定めた価額が、その債権に係る負債の帳簿価額を超えないこと
それぞれ確認します。
① 会社自身に対する金銭債権であること
社長が会社に3,000万円を貸し付けている場合、社長は会社に対する貸付債権を保有しています。
このような金銭債権が5号の対象になります。
ただし、社長が第三者に対して有している貸付債権を現物出資する場合は異なります。
会社自身に対する金銭債権ではないため、5号には該当しません。
もっとも、金銭債権の現物出資が認められないという意味ではありません。ほかの例外の適用などを検討することになります。
② 金銭債権の弁済期が到来していること
弁済期とは、借りたお金を返済すべき時期のことです。
例えば、社長と会社の間で「令和8年9月30日に返済する」と定められていれば、その返済期限の到来によって弁済期が到来します。
一方、返済期限が令和9年3月31日で、DESを実行する時点ではまだその期限が到来していない場合には、そのままでは5号の要件を満たしません。
ここで問題になるのが、期限の利益です。
民法136条1項では、期限は債務者の利益のために定めたものと推定されています。
会社が社長からお金を借りている場合、通常、会社は返済期限まで返済を猶予される利益を有しています。
同条2項では、期限の利益を放棄することが認められています。ただし、その放棄によって相手方の利益を害することはできません。
そのため、弁済期がまだ到来していない貸付債権であっても、会社による期限の利益の放棄などを検討する余地があります。
ただし、単に社長が「期限を放棄する」と述べれば、当然に5号の要件を満たすわけではありません。
誰が期限の利益を有しているのか、会社と債権者との契約関係、期限の利益の放棄の有効性などを確認する必要があります。
また、返済期限を定めていない金銭消費貸借では、民法591条1項により、貸主が相当の期間を定めて返還を催告することができます。
したがって、返済期限の定めがない貸付金についても、当然に弁済期が到来していると扱うことはできません。
契約内容や返還請求の経緯などを確認する必要があります。
③ 現物出資財産の価額が、会社の負債の帳簿価額以下であること
例えば、社長が会社に3,000万円を貸し付け、会社の会計帳簿にも、その貸付債権に対応する借入金3,000万円が記載されているとします。
この場合、当該貸付債権を現物出資する際、募集事項で定める価額が3,000万円以下であれば、5号の価額に関する要件を満たします。
一方、会社の負債の帳簿価額が2,000万円であるのに、同じ債権について現物出資財産の価額を3,000万円と定める場合には、5号の要件を満たしません。
重要なのは、募集事項で定める価額と、その金銭債権に対応する会社側の負債の帳簿価額を比較することです。
ここでいう負債の帳簿価額と、債権の税務上の時価は、同じ概念ではありません。
この違いは後ほど説明します。
4.なぜ会社への貸付債権なら検査役調査を省略できるのか
通常の現物出資では、財産の価額が過大に評価されていないかが問題になります。
一方、会社に対する貸付債権の現物出資では、会社自身がすでにその金銭債務を負担しています。
例えば、会社が社長に3,000万円を返済すべき状態であれば、会社は3,000万円を返済することで債務を消滅させることができます。
DESでは、社長の貸付債権を会社が現物出資として受け入れ、その債権を消滅させることにより、負債を減らします。
そのため、弁済期が到来しており、会社側に計上された負債の帳簿価額を超えない範囲であれば、通常の現物出資とは異なる取扱いが合理的だと考えられます。
これが、会社法207条9項5号の制度を理解するうえでの重要な考え方です。
ただし、5号は金銭債権の時価を法律上保証する制度ではありません。
また、現物出資する債権の存在や内容を確認する必要がなくなるわけでもありません。
5.登記申請には、どのような会計帳簿が必要なのか
会社法207条9項5号の特例を利用する場合、検査役の調査報告書や、4号による税理士等の価額証明書は必要ありません。
その代わりに、登記申請では会計帳簿が問題になります。
商業登記法56条3号ニの規定
商業登記法56条3号ニは、会社法207条9項5号に該当する場合、現物出資する金銭債権について記載された会計帳簿を添付書面としています。
つまり、会社の帳簿に、その金銭債権に対応する負債がどのように記録されているかが重要になります。
代表的な会計帳簿として、総勘定元帳などが考えられます。
貸借対照表だけでは足りない場合がある
貸借対照表には、通常、決算日時点の借入金残高などが記載されています。
しかし、例えば「役員借入金3,000万円」と記載されているだけでは、その金額が誰から、いつ、どのような条件で借り入れたものなのかまで分からない場合があります。
商業登記法が求めるのは、単に会社に借入金があることを示す書類ではなく、現物出資の対象となる金銭債権について記載された会計帳簿です。
したがって、どの帳簿のどの記載によって対象債権に対応する負債の帳簿価額を確認できるかが重要です。
複数回に分けて貸し付けた場合
社長が会社に、次のように貸し付けていたとします。
| 貸付日 | 貸付金額 |
|---|---|
| 令和6年4月10日 | 1,000万円 |
| 令和7年5月15日 | 800万円 |
| 令和8年2月20日 | 1,200万円 |
| 合計 | 3,000万円 |
これは説明のための仮定例です。
会計帳簿に3,000万円と記載されていても、法律上は複数の貸付債権が存在している可能性があります。
それぞれの貸付債権について返済期限が異なれば、弁済期の到来についても個別に検討する必要があります。
また、3,000万円のうち2,000万円だけを現物出資するのであれば、どの債権の全部又は一部を対象とするのかを特定しなければなりません。
単に「役員借入金のうち2,000万円」とするだけでは、対象債権が明確にならない場合があります。
千葉地方法務局が公表している「現物出資財産の記載方法」では、金銭債権について、契約日付ごとにそれぞれの金額を記載する方法が案内されています。
また、複数の債権をまとめて表示したい場合については、改めて債務承認契約を締結して記載する方法が示されています。
帳簿上の借入金残高を確認することと、現物出資する債権を法律上特定することは、区別して考える必要があります。
平成18年3月31日法務省民商第782号通達の取扱い
ここで、弁済期について重要な登記実務上の取扱いがあります。
平成18年3月31日法務省民商第782号通達は、会社法207条9項5号の金銭債権について記載された会計帳簿を添付することを示したうえで、会計帳簿から弁済期の到来を確認できない場合についても言及しています。
その取扱いは、会社が期限の利益を放棄していないことが添付書面から明らかな場合を除き、登記申請を受理して差し支えないというものです。
この通達は、登記審査上の取扱いを示したものです。
したがって、会計帳簿に返済期限が書かれていなければ、法律上当然に弁済期が到来しているとみなされる、という意味ではありません。
会社法207条9項5号の実体要件と、登記官が添付書面を審査する際の取扱いは区別する必要があります。
司法書士が増資登記を受任する場合にも、添付書面として何が必要かという問題とは別に、実際の貸付契約や弁済期を確認することが重要です。
6.税理士の証明書は必要なのか
ここで、最初の疑問に戻ります。
社長が会社に貸した3,000万円を現物出資するDESについて、税理士の証明書を取得する必要があるのでしょうか。
207条9項5号の要件を満たせば、価額証明書は不要
会社法207条9項4号は、弁護士、公認会計士、税理士等による現物出資財産の価額の相当性についての証明を、検査役調査の例外の一つとして定めています。
一方、5号は、弁済期が到来した会社に対する金銭債権について、負債の帳簿価額を超えない場合の別の例外です。
したがって、5号の要件を満たすのであれば、4号の税理士等による価額証明を追加で受ける必要はありません。
登記申請でも、5号による場合に必要となるのは、商業登記法56条3号ニの会計帳簿であり、4号の価額証明書ではありません。
価額証明が不要でも、税理士への相談が不要とは限らない
ここは混同しやすい点です。
会社法207条9項5号によって検査役調査を省略できたとしても、その債権が税務上いくらで評価されるかは別問題です。
例えば、会社の帳簿に借入金3,000万円が計上されていても、その会社の財務状況によっては、貸付債権の税務上の価値が額面の3,000万円を下回ることがあります。
そうした場合には、債務消滅益などの税務上の問題が生じる可能性があります。
つまり、登記手続上、税理士等の価額証明書が不要であることと、税務上の問題が存在しないことは、まったく別です。
DESを実行する前には、必要に応じて顧問税理士等に税務上の影響を確認することが適切です。
この点は第4回で詳しく取り上げます。
7.検査役調査を省略できるか――4つの事例で比較する
ここまでの内容を、3,000万円の貸付債権を利用する仮定例で整理します。
| 事例 | 会社法207条9項5号の判断 |
|---|---|
|
A.弁済期が到来し、 帳簿上も借入金3,000万円が確認できる |
対象債権が特定でき、 募集事項の価額が帳簿価額以下なら適用可能 |
| B.返済期限がまだ到来していない | そのままでは適用不可。期限の利益の放棄等を検討 |
| C.3,000万円が複数回の貸付金の合計 | 各債権の内容・弁済期・帳簿価額の確認が必要 |
|
D.会社の財務状況が悪く、 債権の時価が低い可能性がある |
5号の要件を満たす余地はあるが、 税務上の評価は別問題 |
特に注意したいのは、事例Dです。
会社の経営状態が悪く、貸付債権の税務上の価値が額面を下回る可能性があっても、それだけで当然に会社法207条9項5号の適用が否定されるわけではありません。
5号が直接問題にしているのは、会社に対する金銭債権であること、弁済期、そして会社側の負債の帳簿価額との関係です。
一方、税務上の債権評価や債務消滅益は、別途検討する必要があります。
なお、事例Bのように5号の要件を満たさない場合でも、207条9項のほかの例外が適用できる可能性はあります。
「5号を使えない=必ず検査役調査が必要」というわけではありません。
8.司法書士が確認すべきことと、税理士に確認すべきこと
DESの増資登記では、会社法上の手続と税務上の判断を区別することが重要です。
司法書士としては、現物出資する金銭債権が存在するか、どの債権を出資するのか、弁済期が到来しているか、会社の帳簿価額と募集事項に定めた価額が整合しているかなどを確認する必要があります。
一方、債権の税務上の時価や、会社に債務消滅益が生じるかどうか、具体的な税額などについては、税理士による判断が必要となる領域です。
特に、会社の財務状況によって債権の回収可能性に問題がある場合には、登記手続を進める前に税務上の確認を行うことが大切です。
検査役調査を省略できることは、DESの手続を簡素化する重要な制度です。
しかし、検査役調査の省略は、貸付債権の存在、出資価額、税務上の評価について、あらゆる問題が解消されたことを意味するものではありません。
また、現物出資財産の価額に不足がある場合には、会社法212条・213条に基づく責任が問題になることもあります。検査役調査の省略と、こうした責任の問題も区別する必要があります。
次回は、DESによる増資登記の具体的な進め方を取り上げます。
募集事項の決定、株主総会、総数引受契約、代表取締役本人が引受人になる場合の利益相反取引、現物出資の履行、登記申請書類などを、会社法と登記実務の両面から整理します。
参考法令・資料
・ 会社法199条、207条、208条、212条、213条
・ 商業登記法56条3号
・ 民法136条、591条
・ 平成18年3月31日法務省民商第782号通達「会社法の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて」
・ 千葉地方法務局「現物出資について」「現物出資財産の記載方法」
・ 『商業登記申請マニュアル』一部現物出資を伴う募集株式の発行による変更登記申請手続
・ 『問答式商業登記の実務』募集株式発行に関する解説
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