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相続人申告登記とは?相続登記との違い・できることと限界を解説

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相続人申告登記とは?―相続登記義務を履行する「簡易な方法」とその限界【相続登記義務化・5回】

相続人申告登記とは?―相続登記義務を履行する「簡易な方法」とその限界【相続登記義務化・5回】

2026/09/20

相続登記には、原則として3年以内という申請期限があります。

しかし、相続人が複数いたり、遺産分割の話合いに時間がかかったりして、期限までに通常の相続登記をすることが難しい場合もあります。

 

そこで設けられているのが、

「相続人申告登記」

という制度です。

 

法務省は、相続人申告登記を、

「相続登記の申請義務を履行するための簡易な方法」

と説明しています。

相続人が複数いる場合でも、他の相続人の関与なく単独で利用することができ、相続登記の期限が迫っている場合などに、申請義務を履行するための方法として利用できます。

 

ただし、ここで最初に押さえておきたいことがあります。

相続人申告登記は、「簡単な相続登記」ではありません。

通常の相続登記とは、目的も法的な効果も異なります。

この違いを理解することが、相続人申告登記を理解するうえで最も重要です。

 

相続人申告登記とはどのような制度か

不動産登記法76条の3では、相続登記の申請義務を負う人は、登記官に対して、

所有権の登記名義人について相続が開始したこと

と、

自分がその登記名義人の相続人であること

を申し出ることができるとされています。

 

法律上、相続人本人が行うのは「申出」です。

その申出を受けて、登記官が職権で、申出があった旨や申出人の氏名・住所等を所有権の登記に付記する仕組みになっています。

 

令和6年3月15日付法務省民二第535号通達でも、

  • 「相続人申出」
  • 「相続人申告登記」

は区別して定義されています。

 

なお、現在確認している535号通達は、令和8年2月2日一部改正・同日施行後のものです。

この記事では、一般読者向けの説明上、この一連の仕組みを「相続人申告登記」と呼びます。

法律上の仕組みは、

相続人が「申出」をする
→登記官が職権で「相続人申告登記」をする

という関係です。

 

期限内に申出をすれば、申請義務を履行したものとみなされる

相続人申告登記の大きな意味は、相続登記の申請義務との関係にあります。

不動産登記法76条の3第2項では、76条の2第1項に定められた期間内に相続人である旨の申出をした人について、

一定の範囲で、その所有権移転登記の申請義務を履行したものとみなす

とされています。

つまり、期限までに通常の相続登記をすることが難しい場合でも、期限内に相続人申告登記の申出をすることによって、76条の2第1項の申請義務を履行したものとみなされる場合があります。

 

ここで重要なのは、

「申請義務を履行したものとみなされる」

ことと、

「相続登記が完了する」

ことは同じではない、という点です。

この違いは後で詳しく説明します。

 

相続人が複数いても、一人で申出ができる

相続人申告登記の特徴の一つは、相続人が複数いる場合でも、他の相続人の関与なく単独で行うことができることです。

法務省のマスタープランでも、この点が明確に示されています。

 

例えば、

  • 遺産分割協議がまだまとまっていない
  • 他の相続人との調整に時間がかかっている
  • 相続登記の3年の期限が迫っている

という場合でも、自分自身について相続人申告登記の申出をすることができます。

 

ただし、

「一人でできる」

ことと、

「一人が申出をすれば、相続人全員の義務が終わる」

ことは別です。

 

不動産登記法76条の3第2項は、

「申出をした者」

について、申出によるみなし履行の効果を定めています。

 

例えば、相続人がA・B・Cの3人いて、Aだけが申出をした場合、Aについては、その申出によって履行できる範囲の申請義務を履行したものとみなされます。

しかし、Aの申出によって、BやCまで当然に申請義務を履行したことになるわけではありません。

 

なぜ通常の相続登記より「簡易」なのか

法務省は、相続人本人でも容易に申し出ることができるよう、相続人申告登記の申出手続を、通常の相続登記の申請手続と比べて簡略化する制度として説明しています。

 

相続人申告登記では、基本的に、

亡くなった登記名義人について相続が開始したこと

と、

申出人自身がその相続人であること

を申し出ます。

 

535号通達でも、申出人が所有権の登記名義人等の相続人であることを証する情報などを提供する仕組みが定められています。

つまり、相続人申告登記では、

申出人自身が相続人であることを示すこと

が制度の中心です。

 

通常の相続登記のように、最終的に誰がその不動産の所有権を取得したのかという権利関係そのものを登記する制度ではありません。

この違いは、相続人申告登記が簡易な手続として設けられていることと、その法的効果が限定されていることの両面につながっています。

 

相続人申告登記をすると、登記簿には何が記載されるのか

相続人申出があると、登記官は職権で、申出人の氏名・住所のほか、

  • 相続人申告であること
  • 受付年月日・受付番号
  • 登記原因「申出」とその日付
  • 相続開始年月日

などを所有権の登記に付記する仕組みになっています。

 

535号通達の登記記録例では、

「甲某の相続人として申出があった者 乙某」

という形で記録されています。

 

つまり、亡くなった人の名義を消して、申出人を新しい所有者として登記するわけではありません。

登記簿上は、

「この人から、登記名義人の相続人である旨の申出があった」

という情報が付記されます。

 

最大の違い―「権利関係を公示するものではない」

相続人申告登記と通常の相続登記の違いを最も端的に表しているのが、535号通達の次の取扱いです。

 

相続人申告事項が記載された登記事項証明書には、相続人申告登記について、

申出があった相続人の住所・氏名等を付記したものであり、「権利関係を公示するものではない

旨を記載するものとされています。

これは非常に重要です。

相続人申告登記をしても、

申出をした人がその不動産の所有者として登記されたわけではありません。

また、

誰が最終的に不動産を取得したのか

や、

各相続人がどのような持分を取得したのか

を公示するものでもありません。

 

したがって、相続人申告登記は、

「相続登記の簡易版」

ではありません。

正確には、

相続登記の申請義務を履行するための簡易な方法として設けられた、通常の相続登記とは別の制度

です。

 

相続人申告登記の申出について登録免許税はかからない

相続人申告登記の申出については、登録免許税は非課税です。

法務省のマスタープランでも、この点が明記されています。

ただし、

「手続に一切費用がかからない」

という意味ではありません。

必要となる戸籍等を取得する費用や、司法書士等に手続を依頼した場合の報酬まで無料になるわけではありません。

あくまで、

相続人申告登記の申出自体について登録免許税がかからない

という意味です。

 

書面でもオンラインでも申出ができる

相続人申告登記の申出には、書面による方法とオンラインによる方法があります。

書面の場合には、管轄法務局の窓口への提出や郵送による方法があり、オンラインによる申出も用意されています。

 

535号通達でも、

「相続人電子申出」

「相続人書面申出」

がそれぞれ定義されています。

 

ただし、この記事では申出書の具体的な書き方やオンライン画面の操作方法までは扱いません。

重要なのは、

相続人申告登記が何のための制度で、どこまで効果があるのか

という点です。

 

既に遺産分割がされている場合は注意が必要

相続人申告登記には、もう一つ重要な限界があります。

不動産登記法76条の3第2項は、期間内に相続人申出をした場合の申請義務のみなし履行について、

当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く

としています。

 

つまり、申出をする前に既に遺産分割が成立し、その遺産分割によって所有権を取得していた場合には、その所有権取得に係る申請義務は、相続人申告登記の申出によるみなし履行の対象から除かれます。

既に遺産分割が成立しているのに、後から相続人申告登記だけをすれば、その遺産分割による所有権取得についての申請義務まで履行したことになるわけではありません。

相続人申告登記は、どの段階で利用するかによって、その効果を正確に理解する必要があります。

 

相続人申告登記をした後に遺産分割をしたら?

反対に、相続人申告登記の申出をした後に遺産分割が成立し、その遺産分割によって所有権を取得した場合にはどうなるのでしょうか。

不動産登記法76条の3第4項では、申出後に法定相続分による相続登記がされた後の遺産分割による取得を除き、その場合には、

遺産分割の日から3年以内に所有権移転登記を申請しなければならない

とされています。

 

つまり、

相続人申告登記をすれば、その後は何もしなくてよい

という制度ではありません。

 

なお、相続人申告登記の申出後に法定相続分による相続登記がされ、その後に遺産分割がされた場合は、76条の3第4項ではなく、76条の2第2項との関係が問題になります。

この「相続人申告登記をした後に生じる、もう一つの3年」は重要な論点なので、次回詳しく整理します。

 

相続人申告登記は「期限への対応」と「所有権の登記」を分けて考える

相続人申告登記は、相続登記義務化に対応するために設けられた制度です。

相続人が複数いる場合でも、一人で申出をすることができ、期限内に申出をすれば、その申出をした人について一定の申請義務を履行したものとみなされます。

 

一方で、

相続人申告登記によって所有権が申出人名義へ移転するわけではありません。

535号通達が明記しているとおり、

「権利関係を公示するものではない」

からです。

 

したがって、相続人申告登記については、

相続登記義務の期限に対応するための制度

と、

誰が不動産を取得したのかを公示する通常の相続登記

を分けて理解する必要があります。

 

次回は、

「相続人申告登記をしたら終わり?―遺産分割後の『もう一つの3年』」

を取り上げます。

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