抵当権設定登記の原因日付が同じ日とは限らなくなった理由
2026/05/29
-金銭消費貸借契約は、いつ成立するのか-
抵当権設定登記の申請書では、登記原因として、たとえば次のように記載します。
令和○年○月○日金銭消費貸借
令和○年○月○日設定
昔から登記実務に関わっている方であれば、この前後の日付は同じ日になる、という感覚があると思います。
つまり、金融機関がお金を貸した日、いわゆる融資実行日・決済日が「金銭消費貸借」の日であり、その日に抵当権設定契約も行うので、
令和○年○月○日金銭消費貸借
令和○年○月○日設定
と、同日になるのが自然でした。
しかし、最近の抵当権設定登記では、この前後の日付が違っていることがあります。
たとえば、
令和○年○月○日金銭消費貸借
令和○年○月△日設定
という形です。
一見すると、「あれ、金銭消費貸借の日と抵当権設定の日が違っていていいのか」と思うところですが、現在の民法では、これがあり得る整理になっています。
昔の金銭消費貸借は「要物契約」だった
金銭消費貸借契約は、簡単に言えば「お金を借りて、後で同額を返す契約」です。
ただ、従来の民法では、単に「お金を貸します」「借ります」と合意しただけでは足りず、実際にお金が交付されて初めて契約が成立する、という考え方が基本でした。
このように、物の交付があって初めて成立する契約を、法律上は「要物契約」といいます。
そのため、以前の感覚では、金銭消費貸借契約の日は、実際にお金が交付された日、つまり金融機関でいえば融資実行日でした。
その日に抵当権設定契約も行うので、登記原因は、
令和○年○月○日金銭消費貸借
令和○年○月○日設定
と、同日になるのが通常だったわけです。
民法改正で「書面でする消費貸借」が認められた
ここで重要なのが、令和2年、2020年4月1日に施行された民法、いわゆる債権法改正です。法務省も、今回の債権法改正は一部を除き令和2年4月1日から施行されたものと説明しています。
この改正により、民法587条の2として「書面でする消費貸借等」という規定が設けられました。
この規定により、書面でする消費貸借については、実際にお金が交付される前であっても、当事者の合意によって契約が成立することになりました。
法務省の改正資料でも、書面によることを要件として、合意のみで消費貸借の成立を認めるものと説明されています。
つまり、現在は次のように整理できます。
従来型の消費貸借は、今でも要物契約です。
実際にお金を受け取って、初めて契約が成立します。
一方で、書面で金銭消費貸借契約を締結した場合は、お金の交付前でも契約が成立します。
電子契約など、電磁的記録による場合も、書面によるものと同様に扱われます。
だから、登記原因の日付がずれることがある
この違いが、抵当権設定登記の登記原因日付に表れます。
たとえば、金融機関との金銭消費貸借契約書を事前に作成し、その契約書の日付が令和○年○月10日だったとします。
その後、実際の決済・抵当権設定が令和○年○月20日だった場合、登記原因としては、
令和○年○月10日金銭消費貸借
令和○年○月20日設定
という形になることがあります。
これは、金銭消費貸借契約が書面により先に成立し、その後に抵当権設定契約がされた、という構成です。
以前の感覚だけで見ると少し違和感がありますが、現在の民法では十分に説明できます。
ただし「金銭消費貸借は要物契約ではなくなった」と言い切るのは少し雑
ここは少し注意が必要です。
民法改正によって、金銭消費貸借が完全に要物契約ではなくなった、というわけではありません。
現在も、民法587条の通常の消費貸借は残っています。
つまり、従来どおり、物の交付によって成立する消費貸借もあります。
一方で、民法587条の2により、書面でする消費貸借については、合意だけで成立する諾成的消費貸借が認められました。現行民法上も、587条の2として「書面でする消費貸借等」の規定が置かれています。
したがって、正確には、
金銭消費貸借は要物契約ではなくなった
というより、
従来型の要物契約としての消費貸借は残っているが、書面でする消費貸借については、合意だけで成立する類型が認められた
という言い方が適切です。
登記実務では、原因証明情報の記載をよく確認する
抵当権設定登記では、登記原因証明情報や金融機関所定の抵当権設定契約証書の記載を確認することになります。
そこに記載されている「金銭消費貸借契約日」が、契約締結日なのか、融資実行日なのかによって、登記原因の日付の見方が変わります。
契約書上、書面による金銭消費貸借契約が先に成立しているのであれば、金銭消費貸借の日と抵当権設定の日が別日になることがあります。
逆に、従来どおり融資実行日に金銭消費貸借が成立する構成であれば、金銭消費貸借の日と抵当権設定の日は同日になります。
小さな日付の違いに、民法改正が表れる
登記申請書の中では、ほんの数文字の日付の違いです。
しかし、その背景には、
契約はいつ成立するのか
お金の交付前でも金銭消費貸借契約は成立するのか
民法改正によって実務がどう変わったのか
という、なかなか面白い法律上の問題があります。
抵当権設定登記の原因日付を見るだけでも、民法改正の影響が実務に表れていることが分かります。
司法書士業務では、このような一見細かい日付の違いも、法律上の意味を持つことがあります。
登記原因の日付が以前と違う形になっていても、単なる誤りとは限りません。
現在の民法では、書面による金銭消費貸借契約が先に成立し、その後に抵当権設定契約が行われる、という流れがあり得るのです。
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