中野司法書士事務所

「名前だけ取締役」は危険です 代表取締役・取締役に就任するときに確認してほしいこと

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名前だけ代表取締役の怖さ

名前だけ代表取締役の怖さ

2026/06/05

「名前だけ取締役」は危険です

代表取締役・取締役に就任するときに確認してほしいこと

 

会社の役員になる。

こう聞くと、少し立派な話に聞こえるかもしれません。

「取締役にしてあげる」
「代表取締役になってほしい」
「名前だけでいいから」
「実際の経営はこちらでやるから心配しなくていい」

このように言われると、頼まれた側も、深く考えずに承諾してしまうことがあります。

 

しかし、司法書士の立場から見ると、これはかなり危ない話です。

取締役や代表取締役に就任するということは、単に名刺の肩書が立派になるという話ではありません。
会社の登記簿に、その人が会社の役員であることが公示されます。特に代表取締役であれば、会社を代表する者として、社会に向けて表示されることになります。

つまり、外から見れば「この人が会社の責任者です」という状態になるのです。

 

最近、これを考えさせられる報道がありました。

会社の指示で関連会社の代表取締役にされた元社員が、その後、役職を外され、賃金の支払いを止められたとして、労働契約上の地位確認や未払賃金の支払いを求めて提訴したという事件です。

この事件の結論は、今後の裁判で判断されることになります。
したがって、ここで個別事件の当否を断定することはできません。

 

ただ、司法書士業務をしていると、似たような構造は決して珍しくありません。

実質的には従業員のように働いている。
経営判断をしているわけではない。
会社の通帳も印鑑も管理していない。
契約内容も資金繰りも分からない。
本当の指示者は別にいる。

それなのに、登記簿上は取締役、場合によっては代表取締役になっている。

いわゆる「名ばかり取締役」「名ばかり代表取締役」の問題です。

 

会社法上、取締役と会社との関係は、雇用契約ではなく委任契約とされています。
従業員であれば給与を受け取る立場ですが、取締役であれば役員報酬という扱いになります。

もちろん、平取締役であれば、従業員としての立場と取締役としての立場が併存することもあります。
いわゆる使用人兼務取締役です。

たとえば、営業部長として働きながら、会社の取締役にも就任しているようなケースです。
この場合、営業部長としては従業員、取締役としては役員という二面性があります。

 

しかし、代表取締役となると話は重くなります。

代表取締役は、会社を代表する立場です。
会社の契約、取引、従業員、金融機関、税務、社会保険、許認可など、会社の対外的な責任者として見られます。

「実際には何もしていません」
「本当の社長は別にいます」
「私は名前を貸しただけです」

本人がそう言ったとしても、登記簿を見た第三者からすれば、その人は代表取締役です。
ここが怖いところです。

 

司法書士として役員変更登記や会社設立登記に関わるとき、書類だけを見れば登記は進められることがあります。

 

株主総会議事録がある。
就任承諾書がある。
印鑑証明書がある。
本人確認書類がある。

形式的には整っている。

 

しかし、それだけで安心してよいのでしょうか。

本当に本人は、取締役になる意味を理解しているのか。
代表取締役になる責任を理解しているのか。
会社の事業内容を説明できるのか。
会社の実印や通帳は誰が管理するのか。
実際に経営判断をするのは誰なのか。
名前だけ貸す話になっていないか。

 

ここを確認しないまま登記だけ進めてしまうと、後から大きな問題になることがあります。

 

名ばかり取締役の問題は、いくつもの方向に広がります。

 

まず、本人の責任です。
会社がトラブルを起こした場合、取引先や従業員、金融機関、税務署などから、代表者として説明を求められる可能性があります。

 

次に、労務問題です。
実態は従業員なのに、役員にしたことによって「もう労働者ではない」「給与ではなく役員報酬だ」「雇用契約は終了した」と会社側が主張することがあります。

 

さらに、実質的支配者隠しの問題もあります。
本当は別の人物が会社を動かしているのに、その人物が表に出ず、別人を代表取締役にしている場合です。
このような会社は、詐欺的取引、資金移動、違法営業、脱法的な労務管理などに利用される危険もあります。

 

もちろん、すべての役員就任が危険なわけではありません。

中小企業では、親族、従業員、知人が取締役に就任することはよくあります。
事業承継の準備として役員に入ることもあります。
外部の協力者が経営に参加するために取締役になることもあります。

 

問題は、実態がない場合です。

本人が会社の内容を知らない。
経営に関与していない。
責任だけ負わされる。
名前だけ使われる。
後になって、都合が悪くなると切り捨てられる。

このような就任は、絶対に軽く考えてはいけません。

 

 

取締役や代表取締役に就任する前に、最低限、次のことは確認してください。

 

自分は何の会社の役員になるのか。
会社はどのような事業をしているのか。
誰が株主なのか。
誰が実際に経営判断をするのか。
会社印、通帳、銀行口座は誰が管理するのか。
報酬は給与なのか、役員報酬なのか。
従業員としての地位は残るのか、終了するのか。
トラブルが起きたとき、自分がどのような責任を負うのか。

 

そして、少しでも「名前だけでいいから」と言われたら、慎重に考えてください。

名前だけのつもりでも、登記簿上は名前だけでは済みません。
代表取締役として登記されれば、社会からは代表者として見られます。
取締役として登記されれば、会社の役員として見られます。

役員就任は、単なる社内の肩書ではありません。
登記によって、社会に向けて公示される法律上の地位です。

 

会社から頼まれたから。
社長に恩があるから。
断りにくいから。
少し報酬をもらえるから。
名前だけなら大丈夫だと言われたから。

そういう理由だけで、安易に取締役や代表取締役に就任するのは危険です。

 

司法書士としても、役員変更登記や会社設立登記の場面では、単に書類がそろっているかだけでなく、本人が本当に就任の意味を理解しているか、名前貸しになっていないかを確認することが重要です。

 

取締役になるということは、会社の一部になるということです。
代表取締役になるということは、会社の顔になるということです。

「名前だけ貸してください」

その一言には、思っている以上に重い責任が隠れていることがあります。

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