社長は10年、新任取締役は2年にできる? 取締役ごとに任期を変えられても、安易に勧めない理由
2026/07/14
会社の定款に、取締役の任期を10年とする規定がある。
しかし、今回初めて迎える取締役については、最初から10年間お願いするのではなく、まず2年間、仕事ぶりや会社との相性を見てから再任するかを決めたい。
このような任期の定め方はできるのでしょうか。
結論からいうと、会社法上は、
- オーナー社長は10年
- 従来の取締役も10年
- 新任取締役だけ2年
という任期の設定が可能です。
会社法332条1項ただし書は、定款だけでなく、株主総会の決議によって取締役の任期を短縮することを認めています。
一見すると、会社にとって便利な制度です。
ところが、実際に使うとなると、法律上の可否だけでは判断できません。
同じような立場の平取締役のうち、一人だけ任期を短くすれば、
「自分だけ信用されていないのではないか」
という不満につながる可能性があるからです。
この記事では、取締役ごとに任期を変える仕組みと、法律上可能であっても安易に利用すべきではない理由を説明します。
※本記事は、監査等委員である取締役などの特殊な場合を除く、一般的な株式会社の取締役を前提としています。
目次
- 取締役ごとに異なる任期を定めることはできる
- 定款10年の会社で、新任取締役だけ2年にする仕組み
- 個別に任期を短縮するために定款変更は必要か
- 個別任期にはどのようなメリットがあるか
- 法律上できても、安易に勧めない理由
- 全取締役を2年任期にする方法との比較
- 個別任期が役立つ場面
- 個別任期を採用する場合の手続
- 自分で手続するときに見落としやすい点
- よくある質問
- まとめ
取締役ごとに異なる任期を定めることはできる
株式会社の取締役の任期は、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結時までです。
ただし、会社法332条1項ただし書は、次のように定めています。
ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
また、株式の全部について譲渡制限を設けている非公開会社では、定款により、取締役の任期を最長10年まで伸長できます。
このため、非公開会社では、会社の原則的な任期を定款で10年としながら、特定の取締役についてだけ短い任期を設けることができます。
たとえば、次のような任期設計です。
| 取締役 | 任期 |
|---|---|
| オーナー取締役A | 10年 |
| 従来からの取締役B | 10年 |
| 新任取締役C | 2年 |
取締役全員の任期を同じにしている会社が大半ですが、取締役ごとに異なる任期を設けること自体は可能とされています。実際の利用例は、あまり多くないようです。
定款10年の会社で、新任取締役だけ2年にする仕組み
定款に次のような規定がある会社を考えます。
取締役の任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
この規定がある場合、新任取締役Cにも、原則として10年の任期が適用されます。
しかし、Cを選任する株主総会で、その任期を2年に短縮する旨を決議すれば、
- A・Bには定款上の10年
- Cには株主総会決議による2年
という任期を適用できます。
これは、Cについて定款と無関係な任期を新たに作るというよりも、本来適用される10年の任期を、株主総会決議によって2年に短縮するという仕組みです。
新任取締役だけ3年にすることもできる?
定款上の任期が10年であれば、新任取締役だけ3年にすることも可能と考えられます。
10年から3年への変更は、任期の伸長ではなく短縮だからです。
一方、定款に任期の伸長規定がなく、会社法上の原則である2年が適用される会社では、株主総会決議だけで新任取締役の任期を3年にすることはできません。
2年から3年への変更は「短縮」ではなく「伸長」です。
非公開会社で取締役の任期を2年より長くするには、会社法332条2項に基づく定款の定めが必要です。
個別に任期を短縮するために定款変更は必要か
ここは実務上、少し迷いやすい部分です。
会社法332条1項ただし書は、
定款又は株主総会の決議
によって任期を短縮できるとしています。
「定款に個別短縮の規定を置いたうえで、株主総会決議をしなければならない」とは書かれていません。
そのため、今回だけ新任取締役Cの任期を2年にするのであれば、会社法の条文上は、株主総会の決議だけでも短縮できると考えられます。
株主総会議事録には、たとえば次のように記載します。
なお、取締役Cの任期は、会社法第332条第1項ただし書に基づき、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
定款に確認規定を置く意味
実務上は、定款に次のような規定を追加したうえで、個別の任期を決議する方法も提案されています。
前項の規定にかかわらず、株主総会の決議によって、特定の取締役につき、その任期を短縮することを妨げない。
この規定がなければ、個別に任期を短縮できないという意味ではありません。
会社法上認められている仕組みを、定款にも表示しておくための確認的な規定と考えられます。実務家の解説でも、定款にこのような規定を追加したうえで個別任期を決議する方法が紹介されています。
整理すると、次のようになります。
| 運用方法 | 定款変更 |
|---|---|
| 今回だけ特定の新任取締役の任期を短縮する | 株主総会決議だけでも可能と考えられる |
| 今後も個別任期を繰り返し利用する | 確認規定を置くと管理しやすい |
| 定款上の任期より長くする | 株主総会決議だけでは不可 |
定款にも確認規定があれば、数年後に定款を読んだ担当者や司法書士が、
「定款では10年なのに、なぜこの取締役だけ2年なのか」
と迷いにくくなります。
もっとも、一度限りの個別短縮のために、必ず定款変更までしなければならないわけではありません。
個別任期にはどのようなメリットがあるか
新任取締役を一定期間見たうえで再任を判断できる
新任取締役を最初から10年任期にするのではなく、まず2年間就任してもらい、任期満了時に再任するかを判断できます。
確認するのは、単なる業績だけではありません。
- 経営判断の内容
- 会社の方針との相性
- 他の取締役との連携
- 従業員や取引先との関係
- 就任時に期待した役割を果たしているか
などを見たうえで判断できます。
任期途中の解任を避けやすい
取締役は、株主総会の決議によって任期途中でも解任できます。
しかし、正当な理由がないまま任期途中で解任した場合、会社が取締役から損害賠償を請求される可能性があります。
最初から任期を2年としておけば、2年後に再任しないという選択ができます。
これは任期途中の解任ではなく、任期満了による退任です。取締役ごとの任期を短くするメリットとしても、定期的な見直しと解任時の損害賠償リスクの軽減が挙げられています。
法律上できても、安易に勧めない理由
個別任期には一定のメリットがあります。
それでも、すべての会社におすすめできる制度ではありません。
問題になりやすいのは、同じ立場の取締役間の差
オーナー社長の任期が10年で、新任の平取締役が2年であることについては、本人も納得する場合があります。
会社の所有者である社長と、今回初めて就任する取締役とでは、会社との関係が異なるからです。
問題になりやすいのは、同じような立場の取締役間で任期に差がある場合です。
たとえば、
- 従来からいる平取締役は10年
- 今回就任する平取締役は2年
- 担当する職務や責任には大きな違いがない
という場合です。
新任取締役から見れば、
「他の平取締役は10年なのに、自分だけ2年なのか」
「同じような役割なのに、なぜ自分だけ短いのか」
「経営を任せると言いながら、自分だけ信用されていないのではないか」
と感じる可能性があります。
取締役は、会社から経営を委任される立場です。
法律上できるからといって、本人に十分な説明をせず、一人だけ短い任期を設定すれば、意欲や会社との信頼関係を損なうことがあります。
実務家の解説でも、任期の長い取締役と短い取締役との間に心理的な問題が生じる可能性があり、任期に差を設ける理由を説明する必要があると指摘されています。
任期管理が複雑になる
取締役ごとに任期が異なれば、任期満了の時期も別々になります。
取締役の任期年数は登記簿に表示されません。
そのため、会社側で、
- 現行定款
- 過去の定款
- 選任時の株主総会議事録
- 選任年月日
- 各取締役の任期満了予定時期
を正確に管理する必要があります。
担当者や顧問司法書士が変わると、特定の取締役だけ任期が短いことを見落とす危険もあります。
全取締役を2年任期にする方法との比較
新任取締役について2年間仕事ぶりを見たいのであれば、会社の取締役全員を2年任期にする方法もあります。
100%株主であるオーナー社長なら、2年後に自分自身を再選できます。
従来から信頼している取締役も再選できます。
新任取締役についてだけ、2年間の働きぶりを確認したうえで、再任するかを判断すればよいのです。
全員を2年にするメリット
- 全取締役に同じルールが適用される
- 平取締役間の不公平感が生じにくい
- 任期満了時期をそろえやすい
- 株主総会と役員変更登記をまとめやすい
- 会社内部の任期管理が分かりやすい
役員変更登記の登録免許税は、取締役一人ごとに課税されるのではなく、申請一件について課税されます。
資本金1億円以下の会社では、役員変更登記の登録免許税は一件1万円です。したがって、同じ時期に同じ申請で重任登記をするのであれば、取締役が一人増えたからといって登録免許税が人数分増えるわけではありません。
司法書士報酬は事務所により異なりますが、同じ株主総会を一件の申請にまとめる場合、取締役一人だけを重任する場合と、全取締役を同時に重任する場合で、人数に比例して大幅に増えるとは限りません。
少人数のオーナー会社では、
社長だけ10年にして登記を減らすメリット
よりも、
全員を2年にそろえて制度を単純にし、公平感を保つメリット
の方が大きいことがあります。
個別任期が役立つ場面
個別任期が常に不適切というわけではありません。
任期を分ける客観的な理由があり、本人にも説明できる場合には、有効な選択肢になります。
特定の事業やプロジェクトに限って就任する場合
新規事業、海外進出、事業再建など、一定期間の事業に限って取締役に就任してもらう場合です。
役割の期間と任期が一致していれば、本人にも説明しやすくなります。
退任時期があらかじめ決まっている場合
年齢や後継者への引継ぎなどにより、2年後に退任することが当初から決まっている場合です。
最初から2年任期としておけば、後日、辞任届を提出してもらう必要がありません。
後継者候補として一定期間経営に参加してもらう場合
後継者候補を取締役に選任し、一定期間、経営に関与してもらう場合です。
ただし、「試している」という印象にならないよう、任期の目的を事前に共有することが重要です。
種類株主総会で選任される取締役など、選任の基盤が異なる場合
異なる種類株主によって選任される取締役など、取締役ごとに選任の基盤や役割が明確に異なる場合には、任期を分ける合理性があります。
補欠・増員取締役の任期を他の取締役にそろえる場合
補欠または増員によって選任された取締役の任期を、前任者または他の取締役の残任期間にそろえる規定も、任期短縮の典型例です。
ただし、株主総会議事録に「補欠」「増員」と書いただけで、自動的に残任期間になるわけではありません。
定款の規定または株主総会の特段の決議を確認する必要があります。
個別任期を採用する場合の手続
1.現在の定款を確認する
まず、現在の取締役の任期を確認します。
確認するのは、任期の年数だけではありません。
- 事業年度
- 取締役の員数
- 補欠取締役の任期規定
- 増員取締役の任期規定
- 取締役会設置会社かどうか
- 過去に任期規定を変更していないか
なども確認します。
2.個別任期が本当に必要かを検討する
次の方法を比較します。
- 全取締役を10年にする
- 全取締役を2年にする
- オーナー取締役は10年、新任取締役は2年にする
- 補欠・増員規定によって任期満了時期をそろえる
法律上可能かだけでなく、本人への説明、公平感、登記費用、任期管理まで考えて決めます。
3.新任取締役本人に説明する
個別任期を採用する場合、最も重要なのは、株主総会議事録の書き方ではありません。
新任取締役に任期とその理由を説明し、理解したうえで就任を承諾してもらうことです。
少なくとも、次の事項を説明しておきます。
- 他の取締役と任期が異なること
- 今回の任期が何年であるか
- なぜ短い任期にするのか
- 任期満了時に改めて再任を判断すること
- 現時点で任期満了後の退任を予定しているのか
説明もなく、就任後に自分だけ任期が短いと知れば、不信感につながりかねません。
就任承諾書に、
任期が2年であることを確認のうえ、就任を承諾する
という趣旨を記載する方法もあります。
4.株主総会で選任と任期短縮を決議する
新任取締役の選任決議と併せて、その取締役の任期を短縮する旨を明確に決議します。
議事録だけを見ても、誰の任期が何年であるかが分かるようにしておくことが重要です。
5.役員変更登記を申請する
新任取締役が就任した場合は、役員変更登記を申請します。
必要書類は、取締役会設置会社かどうか、代表取締役にも就任するかなどによって異なります。
役員変更登記は、原則として、就任などの登記事由が生じた日から2週間以内に申請します。
自分で手続するときに見落としやすい点
「2年任期」は選任日から丸2年間ではない
会社法上の2年任期は、単純に選任日から2年後の日までという意味ではありません。
選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結時までです。
決算期と定時株主総会の開催時期を確認しなければ、正確な任期満了時期を判断できません。
また、任期計算の起算点は、原則として就任日ではなく選任日です。
任期年数は登記簿に記載されない
登記簿には取締役の就任年月日などは記録されますが、任期が2年なのか10年なのかまでは表示されません。
個別任期を採用する場合は、定款と選任時の株主総会議事録を確実に保存する必要があります。
「補欠」「増員」と書いただけでは残任期間にならない
補欠・増員取締役であっても、定款の規定や株主総会の特段の決議がなければ、当然に他の取締役の残任期間になるわけではありません。
監査役には同じ仕組みをそのまま使えない
監査役の任期は原則4年であり、取締役と異なり、株主総会決議によって自由に短縮する仕組みにはなっていません。
取締役と監査役の任期を同じ感覚で処理しないよう注意が必要です。
よくある質問
Q.定款で取締役の任期を10年としていても、新任取締役だけ2年にできますか?
会社法332条1項ただし書に基づき、選任時の株主総会でその新任取締役の任期を2年に短縮する旨を決議する方法があります。
ただし、任期に差を設ける理由を本人に説明し、会社内部で正確に任期を管理する必要があります。
Q.新任取締役だけ3年にすることもできますか?
定款上の任期が10年であれば、10年から3年への短縮として可能と考えられます。
定款に伸長規定がなく、法定の2年任期が適用される会社では、株主総会決議だけで3年にすることはできません。
Q.個別任期にするには定款変更が必要ですか?
会社法332条1項ただし書は、定款または株主総会決議による任期短縮を認めています。
そのため、一度限りの個別短縮であれば、株主総会の決議だけでも可能と考えられます。
今後も繰り返し個別任期を利用する場合は、定款にも個別短縮に関する確認規定を置くと、将来の任期管理が分かりやすくなります。
Q.全取締役を2年任期にした方がよいのでしょうか?
少人数のオーナー会社では、全員を2年にそろえる方が合理的な場合があります。
制度が単純になり、同じ立場の取締役間の公平感も保ちやすく、任期満了時期を管理しやすくなるからです。
Q.新任取締役に任期を説明する法的義務はありますか?
任期について特別な説明書を交付しなければならないという一般的な規定があるわけではありません。
しかし、他の取締役と任期が異なる場合は、就任後の認識違いや不満を防ぐため、就任承諾を得る前に説明することが重要です。
Q.任期満了後も同じ人が続ける場合、登記は必要ですか?
必要です。
任期満了後に同じ人が再任された場合でも「重任」となり、役員変更登記を申請します。
まとめ
取締役の任期は、必ず全員同じでなければならないわけではありません。
定款で取締役の任期を10年としている会社でも、株主総会の決議によって、新任取締役だけ2年に短縮する方法があります。
一度限りの個別短縮であれば、会社法332条1項ただし書の文言上、定款変更をせず、株主総会の決議だけで行うことも可能と考えられます。
一方、今後も継続的に個別任期を利用するのであれば、定款にも確認規定を置くと、将来の任期管理が分かりやすくなります。
しかし、法律上できることを、すべて使う必要はありません。
特に、同じような立場の平取締役の間で、一人だけ任期を短くすると、
「自分だけ信用されていない」
という不満につながる可能性があります。
新任取締役の働きぶりを2年間見たいのであれば、全取締役を2年任期にそろえ、2年後にそれぞれ再任するかを判断する方法でも、同じ目的を達成できます。
個別任期を採用するかどうかは、次の点を検討して判断する必要があります。
- 任期を分ける客観的な理由があるか
- 同じ立場の取締役間で不公平感が生じないか
- 本人に理由を正面から説明できるか
- 将来の任期管理を正確に行えるか
- 全員を同じ任期にしても目的を達成できないか
会社法上できるかだけでなく、その制度を使ったときに、取締役本人がどのように感じるかまで考える。
会社の役員構成や定款を検討するときには、その視点も大切です。
取締役の任期を変更する場合は、現在の定款、過去の定款変更、事業年度、既存取締役の選任日、補欠・増員規定などを確認する必要があります。
特に、取締役ごとに異なる任期を設定する場合は、株主総会議事録を作成するだけでなく、新任取締役への説明や、将来の任期管理まで考えておくことが重要です。
株主総会を開催した後や、就任承諾書に押印してもらった後では、決議や書類のやり直しが必要になることもあります。
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