親族以外に株式を渡す前に考えたい株主間契約
2026/06/18
会社を設立した後、共同経営者、幹部社員、元同僚、知人、出資者などに株式を持たせることがあります。
「一緒に会社を大きくしていきたい」
「単なる従業員ではなく、当事者意識を持ってほしい」
「将来の貢献を期待して、株式を一部持ってもらいたい」
このような考え方自体は、決して珍しいものではありません。
特に、設立直後の会社や、これから本格的に事業を始める会社では、信頼できる人に株式を持ってもらい、一緒に頑張っていく形をとることがあります。
しかし、親族以外の人に株式を渡す場合には、株式譲渡契約書を作るだけで終わらせてよいのか、少し立ち止まって考える必要があります。
なぜなら、株式は一度渡すと、簡単には戻せないからです。
株式譲渡契約書だけで本当に足りますか?
株式を譲渡するときは、通常、株式譲渡契約書を作成します。
株式譲渡契約書では、主に次のような内容を定めます。
誰が、誰に、何株を譲渡するのか。
譲渡代金はいくらか。
譲渡日はいつか。
代金の支払方法はどうするか。
譲渡制限株式であれば、会社の承認を受けるのか。
これらは、株式譲渡の基本として非常に重要です。
しかし、株式譲渡契約書は、基本的には「今回の株式譲渡」を成立させるための契約書です。
それだけでは、次のような問題について、十分に決まっていないことがあります。
株式を譲り受けた人が会社を辞めたらどうするのか。
会社との関係が悪くなったらどうするのか。
競業する会社に移ったらどうするのか。
顧客情報や案件情報を持ったまま退職したらどうするのか。
死亡して相続が発生したら、その人の相続人が株主になるのか。
会社が成長した後、株式を買い戻す価格はどうするのか。
会社を売却することになった場合、少数株主にも協力してもらえるのか。
このような点は、株式譲渡契約書だけでは十分にカバーできないことがあります。
そこで検討されるのが、株主間契約です。
株主間契約とは何か
株主間契約とは、簡単にいえば、株主同士が株式の保有や会社運営に関するルールをあらかじめ決めておく契約です。
定款とは違います。
株主総会議事録とも違います。
登記申請書類でもありません。
株主間契約は、会社の株主同士が、将来のトラブルを防ぐために作成する私法上の契約です。
たとえば、次のようなことを定めます。
株式を持つ前提。
株式を第三者に勝手に譲渡しないこと。
退職した場合の株式の取扱い。
競業した場合の株式の取扱い。
株式を買い戻す場合の価格。
死亡した場合の相続人との関係。
秘密保持義務。
顧客や取引先の勧誘禁止。
会社売却時の協力。
こうした内容を、株式譲渡の時点であらかじめ決めておくことがあります。
退職しても、株主ではなくなるとは限りません
親族以外に株式を渡すときに、特に注意すべきなのはここです。
従業員であれば、退職すれば雇用関係は終了します。
取締役であれば、辞任や解任によって役員の地位は終了します。
しかし、株主の地位は別です。
会社を辞めたからといって、当然に株主ではなくなるわけではありません。
たとえば、会社の中核メンバーとして株式を持たせた人が、数年後に退職したとします。
その人が会社を辞めても、株式を持ち続けていれば、引き続き株主です。
株主総会に出席できます。
議決権を行使できます。
会社に対して一定の資料を求めることができる場合もあります。
一定割合以上の株式を持っていれば、少数株主権の問題も出てきます。
つまり、会社との関係は終わったはずなのに、株主としての関係だけが残ることがあります。
これが、小規模会社では非常に大きな火種になります。
「少しだけ株式を渡す」のつもりでも、少数株主権の問題が出る
中小企業では、発行済株式数が100株、200株、1,000株など、比較的少ないことがあります。
その場合、数株、数十株を渡しただけでも、会社法上はかなり大きな割合になることがあります。
3%以上の株主には、株主総会の招集請求や会計帳簿の閲覧請求など、一定の少数株主権が認められます。
10%以上になると、さらに重い権利が問題になることもあります。
25%を持つ株主であれば、過半数ではありません。
特別決議を単独で止める割合でもありません。
しかし、1%、3%、10%といった会社法上重要なラインを大きく超えています。
そのため、25%株主は、単なる従業員持株というより、共同経営者や重要な事業パートナーに近い存在として考えるべきです。
「過半数ではないから大丈夫」
「社長が75%持っているから大丈夫」
たしかに、支配権という意味ではそうかもしれません。
しかし、関係が悪くなったとき、退職した後、会社が成長した後に、25%株主がいるという事実はかなり重くなります。
株主間契約で何を決めておくのか
株主間契約で決める内容は、会社の状況や株主の関係によって変わります。
ただ、親族以外の人に株式を持たせる場合には、少なくとも次のような点を検討することがあります。
株式を持つ前提
その人は、単なる投資家として株式を持つのでしょうか。
それとも、会社に勤務し、業務に関与することを前提に株式を持つのでしょうか。
ここは非常に重要です。
会社に継続して関与することを前提に株式を渡すのであれば、その前提が崩れた場合の株式の取扱いを決めておく必要があります。
退職時の株式の取扱い
株式を持っている人が退職した場合、その株式をどうするのか。
そのまま持ち続けることを認めるのか。
創業者や代表者が買い戻すのか。
会社が取得するのか。
他の株主に譲渡するのか。
ここを決めていないと、退職後も株主として残ることになります。
会社側としては困る場合がありますし、退職者側としても、将来の買取価格や配当をめぐって不満が出ることがあります。
買戻価格
退職時に株式を戻すとしても、価格をどうするかが問題になります。
最初に25万円で取得した株式だから、退職時も25万円で戻せばよいのでしょうか。
会社がまだ成長していなければ、それでも不自然ではないかもしれません。
しかし、会社が大きくなり、利益が出て、株式の価値が上がっていた場合はどうでしょうか。
一方で、短期間で退職した人や、競業した人に対してまで、会社価値を反映した高い価格で買い戻すのが公平なのか、という問題もあります。
このあたりは、かなり慎重に設計する必要があります。
取得価額にするのか。
純資産価額を基準にするのか。
時価を基準にするのか。
短期退職、自己都合退職、会社都合退職、背信行為、競業行為で価格を分けるのか。
ここは、株主間契約の中でも特に重要な部分です。
競業・秘密保持・顧客情報
中小企業では、株主になる人が同時に会社の営業担当者、幹部社員、共同経営者であることもあります。
その人が退職した後、同業他社に移ったり、自分で同じような事業を始めたりすることもあり得ます。
そのときに、会社の顧客情報、案件情報、仕入情報、営業ノウハウなどをどう守るのか。
不動産業、建設業、士業、コンサルティング業、紹介業などでは、顧客や案件情報そのものが会社の重要な財産になることがあります。
そのため、秘密保持や競業、顧客勧誘の制限をどの範囲で定めるかも問題になります。
ただし、競業禁止をあまり広く定めすぎると、相手方の職業選択の自由との関係で問題になることもあります。
強く書けばよいというものではありません。
死亡時・相続時の取扱い
株式を持つ人が死亡した場合、その株式は相続の対象になります。
つまり、相続人が株主になる可能性があります。
会社に全く関与していない配偶者や子どもが株主になることもあり得ます。
親族だけの会社でも株式の相続は問題になりますが、親族以外の株主がいる会社では、さらに複雑になることがあります。
そのため、死亡時に株式を買い取るのか、相続人にそのまま持たせるのか、あらかじめ考えておく必要があります。
株主間契約は万能ではありません
株主間契約を作れば、それだけですべてが解決するわけではありません。
株主間契約は、あくまで当事者間の契約です。
会社法上必要な手続が不要になるわけではありません。
たとえば、譲渡制限株式を譲渡する場合には、定款に従って会社の承認手続が必要になります。
株主名簿の書換も必要です。
場合によっては株主総会議事録や取締役決定書などの会社内部書類も整える必要があります。
また、契約内容が強すぎる場合には、後で有効性や合理性が問題になることもあります。
退職したら必ず極端に低い価格で株式を戻す。
退職後、長期間にわたり広い範囲で一切の競業を禁止する。
会社に不利なことを言っただけで株式を失う。
このような内容は、実際には慎重に考える必要があります。
株主間契約は、相手を縛るためだけの契約ではありません。
むしろ、会社と株主の双方が、将来揉めないために作る契約です。
大事なのは、株式を渡す前に考えること
株主間契約は、株式を渡した後に慌てて作るより、株式を渡す前に検討する方がよいです。
一度株式を渡してしまうと、相手が契約に応じてくれるとは限りません。
最初は関係が良好です。
一緒に頑張ろうという気持ちもあります。
将来揉めることなど考えたくないかもしれません。
しかし、だからこそ、関係が良いうちにルールを決めておく必要があります。
退職時はどうするのか。
会社との関係が終わったらどうするのか。
競業した場合はどうするのか。
死亡した場合はどうするのか。
買戻価格はどうするのか。
こうしたことを最初に確認しておくことは、相手を疑うことではありません。
むしろ、お互いのためです。
小規模会社ほど、書類を整えておく意味がある
大きな会社では、契約書、株主間契約、投資契約、定款、株主名簿などがきちんと整備されていることが多いです。
一方、小規模会社では、信頼関係だけで進めてしまうことがあります。
「昔からの知り合いだから大丈夫」
「一緒に会社をやる仲だから大丈夫」
「揉めることはないと思う」
そう考える気持ちは分かります。
しかし、会社がうまくいったときほど、株式の価値は大きくなります。
逆に、会社がうまくいかなかったときほど、人間関係は悪くなりがちです。
うまくいったときにも揉める。
うまくいかなかったときにも揉める。
株式には、そういう難しさがあります。
だからこそ、親族以外の人に株式を持たせる場合には、最初に書類を整えておく意味があります。
まとめ
親族以外の人に株式を渡す場合、株式譲渡契約書を作成するだけで足りるとは限りません。
株式を持つ人が会社を辞めた場合。
会社との関係が悪くなった場合。
競業した場合。
死亡した場合。
会社が成長して株式の価値が上がった場合。
こうした場面を考えると、株式を渡す前に、株主間契約や株式の取扱いに関する合意書を検討することがあります。
株主間契約は、会社法上必ず作成しなければならない書類ではありません。
登記申請に必ず添付する書類でもありません。
しかし、親族以外の株主が入る会社では、将来の紛争を防ぐために重要な役割を持つことがあります。
特に、共同経営者、幹部社員、元同僚、知人、出資者などに株式を持たせる場合は、単に「何株渡すか」だけではなく、「その後どうするか」まで考えることが大切です。
株式は、一度渡すと簡単には戻せません。
だからこそ、株式を渡す前に、将来の出口を考えておく必要があります。
親族以外に株式を渡す予定がある場合、またはすでに少数株主がいる会社で将来の不安がある場合は、株式譲渡契約書、譲渡承認手続、株主名簿、株主間契約などを含めて、早めに整理しておくことをお勧めします。
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