相続で戸籍を集めるときの「広域交付」制度
2026/06/06
兄弟姉妹相続ではどこまで取れるのか
相続手続きでは、亡くなった方の戸籍を集める必要があります。
不動産の相続登記、預貯金の解約、証券口座の相続手続きなど、どの手続きでも基本になるのが戸籍です。
特に、亡くなった方の「出生から死亡までの戸籍」が必要になることが多く、本籍地が何度も変わっている場合には、複数の市区町村に戸籍を請求しなければならないことがあります。
以前は、本籍地ごとに郵送請求をする必要がありました。
遠方の役所に請求する場合、申請書を書き、本人確認書類のコピーを用意し、定額小為替を郵便局で購入し、返信用封筒を入れて郵送する必要があります。
一般の方にとって、これはかなり負担の大きい作業です。
そこで便利になったのが、令和6年3月1日から始まった戸籍証明書等の広域交付制度です。
戸籍の広域交付制度とは
戸籍の広域交付制度とは、本籍地以外の市区町村の窓口でも、戸籍謄本や除籍謄本などを取得できる制度です。
たとえば、東京都杉並区に住んでいる人が、岡山県に本籍のある親の戸籍を取得したい場合、従来であれば岡山県の役所に郵送請求する必要がありました。
しかし、広域交付制度を使えば、最寄りの市区町村役場の窓口で、岡山県にある戸籍を取得できる場合があります。
「本籍地が遠方にあるから面倒」という問題を大きく減らしてくれる制度です。
広域交付で戸籍を請求できる人
ただし、誰の戸籍でも広域交付で取れるわけではありません。
広域交付で請求できるのは、原則として次の範囲です。
- 本人
- 配偶者
- 父母、祖父母などの直系尊属
- 子、孫などの直系卑属
つまり、自分から見て「縦の関係」にある親族については広域交付を利用できます。
たとえば、
子が亡くなった親の戸籍を取る。
親が亡くなった子の戸籍を取る。
妻が亡くなった夫の戸籍を取る。
夫が亡くなった妻の戸籍を取る。
このようなケースでは、広域交付を利用できる可能性が高いです。
司法書士などの専門家は広域交付を利用できない
ここで注意が必要です。
広域交付制度は便利な制度ですが、司法書士などの専門家が、依頼者の代理人として利用することはできません。
また、郵送請求もできません。
広域交付は、請求できる本人が市区町村の窓口に行き、顔写真付きの本人確認書類を提示して請求する制度です。
そのため、司法書士が職務上請求書を使って、広域交付で全国の戸籍をまとめて取得する、ということはできません。
司法書士が戸籍を取得する場合は、従来どおり、本籍地の市区町村に対して職務上請求を行うことになります。
兄弟姉妹相続では注意が必要
では、兄弟姉妹が相続人になる場合はどうでしょうか。
たとえば、兄が亡くなり、弟が相続人になるケースです。
兄弟姉妹相続では、亡くなった兄に子がいないこと、父母や祖父母がすでに亡くなっていること、そして兄弟姉妹が誰であるかを戸籍で確認する必要があります。
この場合、弟は亡くなった兄の相続人です。
しかし、広域交付制度との関係では、兄弟姉妹は「直系」ではありません。
兄弟姉妹は「傍系」の親族です。
そのため、弟が「亡くなった兄の戸籍」を広域交付で取得することは、原則としてできません。
ここが非常に間違いやすいところです。
相続人だから何でも広域交付で取れる、という制度ではありません。
兄弟姉妹相続でも、両親の戸籍は広域交付で取れる
もっとも、兄弟姉妹相続で広域交付が全く使えないわけではありません。
先ほどの例で、兄が亡くなり、弟が相続人になる場合を考えます。
弟から見て、父母は直系尊属です。
祖父母も直系尊属です。
そのため、弟は、自分の父母や祖父母の戸籍については、広域交付で取得できる可能性があります。
兄弟姉妹相続では、父母の戸籍をたどることで、兄弟姉妹関係を確認できることがあります。
たとえば、父母の戸籍に、亡くなった兄と弟が一緒に記載されていれば、兄弟関係を確認できます。
また、父母が死亡していることも、父母の戸籍で確認できます。
つまり、兄弟姉妹相続でも、
「自分から見て直系である父母・祖父母の戸籍」
については、広域交付を利用できる可能性があります。
ただし、亡くなった兄弟姉妹本人の戸籍は別問題
ここで大事なのは、誰の戸籍を請求しているのか、という点です。
弟が父母の戸籍を請求する場合、父母は弟の直系尊属です。
この場合は広域交付の対象になります。
しかし、弟が亡くなった兄本人の戸籍を請求する場合、兄は弟から見て傍系親族です。
この場合は広域交付の対象にはなりません。
たとえば、兄が結婚して親の戸籍から抜け、新しく夫婦の戸籍を作っていた場合、その兄夫婦の戸籍は弟から見て直系の戸籍ではありません。
また、兄が転籍していたり、分籍していたりする場合も、弟が広域交付でその戸籍を取得することは難しいと考えられます。
このような戸籍は、従来どおり、本籍地の市区町村へ請求する必要があります。
合理的な戸籍収集の方法
兄弟姉妹相続では、次のように役割分担すると合理的です。
まず、相続人本人が市区町村役場に行き、広域交付制度を利用して、自分から見て直系にあたる父母・祖父母の戸籍を取得します。
これにより、父母の死亡、祖父母の死亡、兄弟姉妹関係などを確認できる場合があります。
そのうえで、広域交付では取得できない亡くなった兄弟姉妹本人の戸籍については、司法書士に依頼して職務上請求で取得してもらう。
この方法が、実務上かなり合理的です。
特に、本籍地が遠方にある場合、一般の方が郵送請求をするのは大変です。
郵送請求では、申請書の作成、本人確認書類のコピー、定額小為替、返信用封筒、請求理由の記載などが必要になります。
慣れていない方にとっては、かなり面倒な作業です。
一方で、司法書士は相続登記や相続手続きに必要な戸籍を職務上請求で取得できます。
広域交付で取れる部分は相続人本人が取り、広域交付では取れない部分は司法書士が取得する。
このように分けることで、依頼者の負担を減らすことができます。
広域交付で取得できないものにも注意
広域交付は便利な制度ですが、すべての戸籍関係書類が取得できるわけではありません。
たとえば、戸籍の附票、一部事項証明書、個人事項証明書、身分証明書、独身証明書などは、広域交付の対象外です。
また、戸籍に記載されている氏名の文字の関係などにより、現在もコンピュータによる取扱いに適合せず、紙で管理されている戸籍、いわゆる改製不適合戸籍についても、広域交付では取得できません。
ここで注意したいのは、「古い戸籍だから広域交付で取れない」という意味ではないことです。
広域交付では、現在戸籍だけでなく、除籍謄本や改製原戸籍謄本も基本的には取得できます。
したがって、明治・大正・昭和時代の古い除籍や改製原戸籍であっても、広域交付の対象として取得できます。
対象外となるのは、古い戸籍一般ではなく、現在も電子化・システム処理に適合していない一部の戸籍などです。
そのため、相続手続きで戸籍を集める場合には、広域交付で取得できるものは取得し、広域交付で取得できないものについては、本籍地への請求や司法書士の職務上請求で補う、という考え方が実務的です。
まとめ
戸籍の広域交付制度は、相続手続きにおいて非常に便利な制度です。
特に、親や子、配偶者の相続では、遠方の本籍地に郵送請求をしなくても、最寄りの役所で戸籍を取得できる可能性があります。
しかし、兄弟姉妹相続では注意が必要です。
兄弟姉妹は直系ではなく傍系です。
そのため、亡くなった兄弟姉妹本人の戸籍を、広域交付で取得することは原則としてできません。
一方で、取得者本人から見て直系にあたる父母や祖父母の戸籍については、広域交付で取得できる可能性があります。
したがって、兄弟姉妹相続では、
「父母・祖父母など直系の戸籍は広域交付で取得する」
「亡くなった兄弟姉妹本人の戸籍は、本籍地への請求や司法書士の職務上請求で取得する」
という整理が実務的です。
相続手続きでは、戸籍の集め方を間違えると、何度も役所に行ったり、何度も郵送請求をしたりすることになります。
兄弟姉妹相続では、必要な戸籍の範囲も広くなりやすいため、最初から司法書士に相談していただくと、手続き全体がスムーズに進みます。
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