不動産購入を人に任せたら、当然に自分名義になる? 「民法646条2項による移転」の登記
2026/10/30
不動産の購入を誰かに任せた場合、所有権は誰が取得するのでしょうか。
頼まれた人が代理人として契約したのであれば、原則として、その法律効果は本人に直接生じます。
しかし、頼まれた人自身が買主となって不動産を取得する場合もあります。
この場合、いったん所有権を取得するのは、購入を頼んだ人ではなく、実際に買主となった人です。
民法646条2項は、こうした法律関係について、受任者が自己の名で取得した権利を委任者へ移転する義務を定めています。
そして、不動産では、この権利移転を登記に反映させることが問題になります。
その際に用いられる登記原因が、「民法646条2項による移転」です。
一見すると、単に不動産の名義を本来の人に変更する手続のように見えます。
しかし、その法律関係は、「真正な登記名義の回復」や「委任の終了」とは異なります。
代理人として買う場合と、自分の名で買う場合は何が違うのか
第1回では、委任契約と代理権の授与は別の制度であり、人から法律行為を頼まれたからといって、必ずしもその人の代理人になるわけではないことを説明しました。
この違いは、不動産の購入でも重要になります。
次のような事例を考えてみます。
A:不動産を取得したい人
B:Aから購入を頼まれた人
C:不動産の売主
Aの代理人としてBが購入する場合
AがBに代理権を与え、BがAの代理人としてCと売買契約を締結する場合です。
この場合、売買契約の買主はAであり、Bは契約手続を行う代理人です。
代理の要件を満たし、売買契約に基づいて所有権が移転するのであれば、所有権はCからAへ直接移転します。
C(売主)→ A(買主)
Bは契約手続に関与していても、所有権を取得するわけではありません。
したがって、BからAへの所有権移転登記も必要ありません。
B自身が買主となって購入する場合
これに対し、Aのために不動産を取得するものの、B自身が買主としてCと売買契約を締結する場合があります。
ここでは、BはAの代理人として契約するのではありません。
B自身が売買契約の当事者となり、Cから不動産の所有権を取得します。
その後、BがAに所有権を移転するのであれば、
C(売主)→ B(受任者)→ A(委任者)
という法律関係になります。
両者の違いを整理すると、次のとおりです。
| 比較項目 | Aの代理人として購入 | B自身が買主として購入 |
|---|---|---|
| Cとの売買契約の買主 | A | B |
| Bの立場 | Aの代理人 | 自ら契約する買主 |
| 最初に所有権を取得する人 | A | B |
| 所有権の移転経路 | C→A | C→B→A |
| BからAへの移転 | 不要 | 必要になる |
このように、同じ「Aのために不動産を購入する」という目的であっても、法律上の構造は異なります。
不動産では「C→B→A」という二段階の所有権移転になる
BがAから委任を受け、自分自身を買主としてCから不動産を取得した場合、Bは単に登記名義人になるだけではありません。
B自身が、実体法上の所有権を取得します。
たとえば、CとBの間で売買契約が締結され、その売買によりBが所有権を取得したのであれば、CからBへの所有権移転登記の原因は「売買」です。
その後、Bが民法646条2項に基づいてAへ所有権を移転します。
このBからAへの移転は、CとBの売買とは別の法律関係です。
したがって、登記についても、
第1段階:CからBへの所有権移転登記
第2段階:BからAへの所有権移転登記
を区別する必要があります。
BからAへの所有権移転登記を行うには、その前提となるCからBへの所有権移転登記も問題になります。
ただし、所有権の移転そのものと登記は別です。
不動産の所有権移転は、原則として登記によって初めて成立するものではありません。
登記は、第三者に所有権の取得を対抗するための要件です(民法177条)。
ここで注意したいのは、Bがいったん所有権を取得したこと自体が誤りというわけではないことです。
AとBの委任の内容によっては、Bが自分自身を買主として取得することが、当初から予定されている場合もあります。
そのような場合、Bの所有権取得は有効な法律関係であり、その後Aへ権利を移転することになります。
なお、『不動産登記と法律実務』では、CからBへの登記と、BからAへの登記について、必ずしも連件申請とする必要はないと説明されています。
重要なのは、実体的な所有権の移転と、それに対応する登記の連続性を正確に整理することです。
民法646条2項は「自動的にAの所有になる」という規定ではない
ここで、民法646条2項の条文を確認します。
民法646条2項
受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
この条文が定めているのは、受任者が委任者に対して負う権利移転義務です。
先ほどの事例でいえば、BはAのために取得した所有権を、Aへ移転する義務を負います。
しかし、ここで三つのことを区別しなければなりません。
第一に、BがCから所有権を取得したこと。
第二に、BがAに所有権を移転する義務を負っていること。
第三に、実際にBからAへ所有権が移転したことです。
これらは同じではありません。
特に、民法646条2項に移転義務が定められているからといって、Bが取得した所有権が当然にAへ移転するわけではありません。
そのため、BがAのために購入した不動産であるというだけで、「最初からAの所有だった」と説明することはできません。
Bが所有権を取得し、その後Aに移転するという法律関係を、正確に捉える必要があります。
登記原因は「民法646条2項による移転」
それでは、BからAへ所有権を移転する場合、登記原因は何になるのでしょうか。
この点について、『不動産登記と法律実務』では、Aから委任を受けたBが自己の名でCから不動産を取得し、その後Aへ所有権を移転する事例を取り上げています。
その中で、BからAへの所有権移転登記の原因を、
「民法646条2項による移転」
としています。
登記申請における登記原因の記載は、次のような形になります。
登記の目的 所有権移転
原因 令和○年○月○日民法第646条第2項による移転
登記権利者 A
登記義務者 B
ここでは、Aが登記権利者、Bが登記義務者となります。登記権利者と登記義務者による共同申請が原則です(不動産登記法60条)。
このような登記原因が用いられるのは、BがAのために自己の名で取得した権利を、民法646条2項に基づいてAへ移転するという法律関係があるからです。
したがって、単にB名義の不動産をA名義へ変更したいという事情だけで、この登記原因を使えるわけではありません。
重要なのは、Bがどのような原因で所有権を取得し、なぜAへ移転する義務を負っているのかという実体的な法律関係です。
「真正な登記名義の回復」とは何が違うのか
不動産の登記名義を本来の所有者へ変更するという話になると、「真正な登記名義の回復」という登記原因を思い浮かべることがあります。
しかし、民法646条2項による移転とは、法律関係が異なります。
「真正な登記名義の回復」は、登記と実体的権利関係の不一致を正すもの
「真正な登記名義の回復」は、現在の登記名義が実体的な所有権の帰属と一致していない場合に、その一致を図るための登記原因として問題になります。
たとえば、実体的にはAが所有者であるにもかかわらず、登記名義がBになっている場合には、その不一致をどのように是正するかが問題になります。
これに対して民法646条2項による移転では、BがAのために自己の名で権利を取得したことを前提とします。
つまり、
Bが有効に所有権を取得した後、Aへ所有権を移転する
という法律関係です。
最初からBの所有権取得が存在しなかったものとして扱うわけではありません。
最終的な登記名義が同じでも、登記原因は同じではない
「真正な登記名義の回復」でも、「民法646条2項による移転」でも、結果としてBからAへ登記名義が移ることがあります。
しかし、結果が同じだからといって、登記原因を自由に選べるわけではありません。
Bが真正に所有権を取得し、その後Aへ権利を移転するのであれば、その法律関係に合った登記原因を検討する必要があります。
登記名義をAへ変更するという結果ではなく、なぜ所有権がAへ移転するのかが重要なのです。
「委任の終了」を原因とする登記とも違う
もう一つ、混同しやすい登記原因が「委任の終了」です。
不動産登記実務では、「委任の終了」を原因とする所有権移転登記が認められる場面があります。
たとえば、権利能力なき社団の財産について代表者の個人名義で所有権の登記がされている場合、代表者の交替に伴い、新たな代表者へ所有権移転登記を行う場面です。
このような登記原因は、社団の財産が代表者個人の固有財産ではないという、特有の権利関係を前提としています。
一方、民法646条2項による移転は、
受任者が委任者のために自己の名で取得した権利を、委任者へ移転する
という法律関係です。
したがって、委任契約が終了したからといって、当然に登記原因が「委任の終了」になるわけではありません。
また、委任契約が終了した日が、当然に民法646条2項による所有権移転の日になるわけでもありません。
『不動産登記と法律実務』でも、この事例の登記原因について、「真正な登記名義の回復」ではなく、「委任の終了」ともしないことが説明されています。
登記原因の違いを整理すると、次のようになります。
| 登記原因 | 基本的な法律関係 |
|---|---|
|
民法646条2項 による移転 |
受任者が委任者のために自己の名で取得した権利を移転する |
| 真正な登記名義の回復 | 登記名義と実体的な権利関係の不一致を是正する |
| 委任の終了 |
権利能力なき社団の代表者交替など、 特有の法律関係に基づいて用いられる場合がある |
どの登記原因を選択するかは、最終的に誰を登記名義人にしたいのかではなく、それまでの権利関係によって決まります。
実際に民法646条2項による移転が行われた裁判例
民法646条2項による所有権移転は、条文上の抽象的な話だけではありません。
実際に不動産について、この規定による所有権移転が行われたことが、裁判例にも現れています。
大分地方裁判所平成16年6月24日判決(平成13年(ワ)第565号・保険金請求事件)です。
委任を受けた会社が競売で不動産を取得した
この事件では、パチンコ店の建物と土地が競売手続に付されました。
判決の認定によると、原告から委任を受けていた有限会社ユーテックが、競売手続で買受けの申出を行い、平成13年2月15日に同社への売却がありました。
その後、同月26日、ユーテックから原告に対し、民法646条2項による所有権の移転が行われました。
さらに、同月28日には、その所有権移転登記がされています。
つまり、この事例では、
ユーテックによる競売での取得
↓
民法646条2項による原告への所有権移転
↓
その移転登記
という経過が認定されています。
なお、判決では、所有権移転の日は2月26日、登記の日は2月28日と区別されています。
裁判所が646条2項の登記要件を判断したわけではない
ただし、この判決を読む際には注意が必要です。
この事件の中心的な争点は、不動産の取得後に締結された保険契約や、建物の破壊に伴う保険金請求の問題でした。
民法646条2項による所有権移転登記の適法性や、その成立要件が正面から争われた事件ではありません。
したがって、この判決を、
「大分地裁が民法646条2項による所有権移転登記の要件を判断した判例」
と説明することはできません。
しかし、委任を受けた者が不動産を取得し、その後、委任者へ民法646条2項による所有権移転を行った具体的な事例として参考になります。
登記原因日付や登記原因証明情報では何を確認するのか
民法646条2項による移転登記では、登記原因を正しく選ぶだけでなく、所有権がいつ移転したのか、どのような法律関係に基づく移転なのかを明らかにする必要があります。
登記原因日付は、単純に委任日や取得日とは限らない
たとえば、
・ AがBに不動産取得を委任した日
・ BがCから所有権を取得した日
・ BからAへ所有権が移転した日
・ 登記を申請する日
は、それぞれ異なる場合があります。
民法646条2項による所有権移転登記の原因日付は、BからAへの所有権移転に対応する日付です。
『不動産登記と法律実務』では、この登記原因日付について、所有権の移転の日に関する特約がない限り、登記申請の日とする旨が説明されています。
同書は、この点の参考資料として『登記研究』457号119頁を挙げています。
もっとも、ここで引用されている『登記研究』の原典については、今回直接の照合ができていません。
したがって、これは実務書に示された取扱いとして理解すべきであり、民法646条2項の条文そのものが「登記申請日を原因日付とする」と定めているわけではありません。
また、当事者間で所有権の移転時期について合意がある場合には、その内容を踏まえて原因日付を判断する必要があります。
同書に掲載された登記原因証明情報の事例でも、AとBが所有権を移転することに合意し、その合意に基づいて所有権が移転したという経緯が示されています。
移転義務が存在すること、所有権が実際に移転すること、登記を申請することは、それぞれ別の問題です。
先ほど紹介した大分地裁判決でも、2月26日の所有権移転と2月28日の登記が区別されています。
もっとも、この裁判例は、登記原因日付の一般的な取扱いを判断したものではありません。
いずれにしても、受任者がCから所有権を取得した日と、委任者Aへ所有権が移転する日は、必ずしも同じではありません。
登記原因証明情報には、移転に至る法律関係が必要になる
所有権移転登記を申請する場合、原則として登記原因証明情報の提供が必要です(不動産登記法61条)。
民法646条2項による移転であれば、単に「BからAへ所有権を移転する」という結論だけでなく、その前提となる法律関係を明らかにする必要があります。
『不動産登記と法律実務』では、事例に即して、次のような事実関係が示されています。
① AがBに不動産の取得を委任したこと
AがBに対し、Aのために不動産を取得することを委任したという関係です。
② BがCから自己の名で不動産を取得したこと
BがAの代理人としてではなく、B自身が買主となって不動産の所有権を取得したという事情です。
③ BからAへの所有権移転の法律関係
Bには民法646条2項に基づく移転義務があり、その義務に従って、いつ、どのようにAへ所有権を移転したのかという内容です。
同書の事例では、AとBが所有権をBからAへ移転することに合意し、その合意に基づいて所有権が移転した経緯を登記原因証明情報に記載する構成が示されています。
このように、民法646条2項による移転登記では、当初の委任、Bによる取得、Aへの権利移転という一連の法律関係を正確に整理することが求められます。
具体的な登記原因証明情報の内容は、当事者間の合意や権利移転の経緯に即して判断することになります。
B名義になっているだけで、民法646条2項を使えるわけではない
ここまで見てきたように、民法646条2項による所有権移転は、BがAのために自己の名で権利を取得したことを前提とするものです。
そのため、登記名義がBになっているという事実だけで、この規定を使えるわけではありません。
たとえば、BがCから不動産を購入した後、Aに対して所有権を移転することになったとしても、それだけでは当初からAのために取得したとはいえません。
Bが誰から、どのような依頼を受け、誰のために不動産を取得したのか。
当初の法律関係が重要になります。
では、Aが「Bに頼んで不動産を取得してもらった」と主張していても、Bがこれを争っている場合には、どうなるのでしょうか。
実際に、民法646条2項による所有権移転登記を請求したものの、委任契約の存在が認められず、請求が棄却された裁判例があります。
東京地裁平成20年6月25日判決です。
次回は、この裁判例を中心に、民法646条2項による移転が認められるためには、当初の委任関係について何を確認し、どのような証拠が問題になるのかを考えます。
主な参照資料
・ 民法99条・177条・643条・646条
・ 不動産登記法60条・61条
・ 『不動産登記と法律実務』「他者からの委任に基づき購入した不動産について、当該他者名義に所有権移転登記をする場合」
・ 『登記研究』520号199頁、457号119頁(上記実務書の引用による。原典未照合)
・ 大分地方裁判所平成16年6月24日判決・平成13年(ワ)第565号、保険金請求事件
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