中野司法書士事務所

不動産取得税は登記原因で決まる?合意解除・錯誤・詐欺と行政不服審査会答申

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税金から逆算して登記原因を選んではいけない――行政不服審査会答申から見る実務【合意解除・錯誤取消・5回】

税金から逆算して登記原因を選んではいけない――行政不服審査会答申から見る実務【合意解除・錯誤取消・5回】

2026/10/08

ここまで4回にわたり、不動産を元の所有者へ戻した場合の不動産取得税について見てきました。

有効に所有権が移転した後に合意解除した場合はどうなるのか。

では、錯誤取消しならどうか。

それも難しいなら、詐欺取消しならどうか。

 

ここまで読んでくると、

「結局、どの登記原因を選べば不動産取得税がかからないのか」

という疑問が出てくるかもしれません。

 

しかし、この質問は順番が逆です。

登記原因は、不動産取得税を見ながら選べるメニューではありません。

 

先に、

実際に何が起きたのか

があります。

 

その事実を民法などに当てはめて法律関係を整理し、その法律関係に沿って登記を行い、さらにその法律関係や所有権移転の経過について、不動産取得税上の評価が別途行われます。

 

つまり、

税金 → 登記原因 → 事実

ではなく、

事実 → 法律関係 → 登記 → 税務

という順序です。

 

最終回では、このことがよく表れている二つの行政不服審査会答申を見ていきます。

 

登記原因は「税金で選ぶメニュー」ではない

不動産の名義を元へ戻したいとき、

「合意解除なら不動産取得税がかかるらしい」

と知ると、

「では錯誤取消しにできないか」

「詐欺取消しならどうか」

と考えたくなるかもしれません。

 

しかし、本来最初に確認すべきなのは税金ではありません。

売買契約は本当に成立したのか。

代金は支払われたのか。

所有権は実体的に移転したのか。

その後、何が起きたのか。

当事者は当時どのような合意をしたのか。

 

こうした事実を確認し、その結果として、

合意解除なのか、錯誤取消しなのか、詐欺取消しなのか、それともそもそも所有権移転自体がなかったのか

を判断します。

 

この順序を逆にしてはいけません。

 

東京都行政不服審査会――請求人は「錯誤取消し」と主張した

このことを考えるうえで興味深いのが、東京都行政不服審査会の令和7年8月5日答申です。

 

請求人は、不動産取得税の課税に対して、

民法95条1項2号の錯誤による取消しであり、契約はなく、不動産を取得していない

という趣旨の主張をしていました。

 

一見すると、

「現行民法95条の錯誤取消しなら、不動産取得税はかからないのか」

が真正面から争われたようにも見えます。

 

しかし、実際の資料を確認すると、そう単純ではありません。

 

実際の抹消登記原因は「合意解除」だった

実際には、売買による所有権移転登記がされた後、

「令和3年3月15日合意解除」

を原因として、その所有権移転登記が抹消されていました。

 

審査会は、最高裁昭和48年11月16日判決、同年11月2日判決を踏まえ、売買によっていったん所有権が移転した後、解除によって元の所有者へ戻った場合には、その所有権移転という経過的事実を不動産取得税上の「取得」と捉えています。

 

つまり、この答申は、

「真正な錯誤取消しでも不動産取得税が課税される」

と判断したものではありません。

請求人は錯誤取消しを主張しましたが、審査会が前提とした事実関係は合意解除だったのです。

 

審査会は何を見たのか

では、なぜ請求人の「錯誤取消しだった」という主張ではなく、合意解除を前提に判断されたのでしょうか。

 

審査会は、後からされた法律上の主張だけを見たわけではありません。

当事者が作成した登記原因証明情報には、売買を含む譲渡契約を合意解除によって解除し、前所有者へ所有権を復帰させたことが記載されていました。

 

さらに、合意解除後には、請求人が本件不動産について一切の権利を有しなくなるという内容の合意がされていました。

審査会は、こうした事情について、そもそも売買によって請求人が所有権者としてその権原を行使し得る状態にあったことを前提とするものと評価しています。

 

ここから実務上読み取れるのは、

後から「錯誤取消しだった」と説明するだけで、課税上の法律関係がその説明どおりに決まるわけではない

ということです。

今回の答申では、実際に作成された登記原因証明情報、登記内容、当事者間の合意などが具体的に検討されています。

 

司法書士が代理申請したことも、一事情として見られている

この東京都答申には、司法書士として興味深い記述があります。

審査会は、抹消登記が司法書士を代理人として申請されたことについて、

登記原因となる事実の確認が適切に行われていることが通常である

という事情も挙げています。

 

ただし、これは、

司法書士が代理申請した登記なら実体法上必ず正しい

という意味ではありません。

 

また、

司法書士が申請した以上、後から法律関係を争えない

という意味でもありません。

 

あくまで、この答申が、この事件の具体的事情の一つとして考慮したものです。

それでも、登記原因証明情報に何を書くのか、どの法律関係を前提として登記申請をするのかが、後の審査や紛争で意味を持ち得ることは分かります。

 

群馬県行政不服審査会――「取消」の抹消登記がされていても、それだけでは決まらない

群馬県行政不服審査会の令和6年度答申第8号も、この連載の結論を考えるうえで参考になる事例です。

 

この事件では、いったん売買を原因として所有権移転登記がされた後、登記原因を「取消」とする所有権抹消登記がされていました。

そして、その抹消登記の登記原因証明情報には、売買は不存在であり、錯誤に基づくものであったため売買を取り消したという内容が記載されていました。

 

請求人は、

実際には売買ではなく金銭消費貸借であり、所有権を移転する意思はなかった

と主張しました。

 

さらに、錯誤を内容とする登記原因証明情報によって抹消登記がされたことから、

法務局も売買の事実がなかったことを認めた

という趣旨の主張もしています。

 

しかし、審査会は登記簿だけではなく、不動産売買契約書、買戻特約契約書、受領証、和解契約書、登記原因証明情報などを具体的に検討しました。

そして、売買契約書への署名・実印による押印、代金の受領、登記関係書類の交付などから、売買契約に基づいて所有権が移転したと判断しています。

 

その後の和解契約についても、登記原因証明情報では錯誤による取消しとされていたものの、実質的な内容は錯誤による取消しというより、むしろ不動産売買契約の合意解除とみるべきものと評価しました。

 

ここでも重要なのは、

抹消登記の原因が「取消」であり、登記原因証明情報に「錯誤」と書かれているということだけで結論を出していない

という点です。

 

「法務局が受理したから、錯誤が実体的にも認められた」とは限らない

群馬県答申では、請求人の、

「法務局が、売買は不存在で錯誤に基づくものであるという登記原因証明情報を受け付けたのだから、売買の事実がなかったことを法務局も認めた」

という趣旨の主張についても判断しています。

 

答申は、最高裁昭和35年4月21日判決を引用し、登記官について、申請書及び附属書類が形式上の要件を備えているかを審査するものであり、登記事項が真実であるかどうかまで実質的に審査する権限を有するものではないと整理しています。

 

そのうえで、錯誤を内容とする登記原因証明情報に基づいて抹消登記がされたことは、

法務局が「売買の事実がなかった」と認めたことを意味するものではない

として、請求人の主張を退けました。

 

ここでも注意が必要です。

これを、

「法務局は何も確認しない」

という話に一般化してはいけません。

 

今回の答申から確認できるのは、

登記が受理されたことだけで、民法上の実体関係や不動産取得税上の課税要件まで当然に確定するわけではない

ということです。

 

登記原因が無意味なのではない

もっとも、

「では、登記原因は税務上まったく意味がないのか」

というと、それも違います。

 

東京都答申でも群馬県答申でも、登記内容や登記原因証明情報は実際に検討されています。

登記原因や登記原因証明情報は、実際の法律関係を判断するための重要な資料です。

 

ただし、

登記原因証明情報に「錯誤」と書かれているから、民法上の錯誤が当然に成立する

わけでも、

登記原因が「合意解除」とされているから、他の事情を一切見る必要がない

わけでもありません。

 

正確には、

登記原因や登記関係資料は重要な資料ではあるが、それだけで実体的な法律関係や課税要件が当然に確定するわけではない

ということです。

 

「実体を見る」ことは、納税者に不利な方向だけに働くわけではない

ここまで読むと、

「課税庁は登記の内容とは別に実体を見て、結局課税するのではないか」

と思うかもしれません。

 

しかし、第2回で見た裁判例は逆でした。

浦和地裁昭和60年6月17日判決では、所有権移転登記がされていたにもかかわらず、原告は登記名義を貸しただけで、土地を買ったことも、その他の意味で所有権を取得したこともないと認定されました。

 

裁判所は、不動産取得の有無について、

登記を基準としてではなく、実質の法律関係に即して判断しなければならない

としています。

 

つまり、「実体を見る」という考え方は、課税する方向にだけ働くものではありません。

登記上は所有権移転があっても、実体として所有権を取得していなければ、課税要件そのものを欠く場合があります。

 

課税庁も「実体」を自由に作れるわけではない

東京地裁平成3年5月28日判決も重要です。

 

この事件では、譲渡担保による実体的な所有権移転があったのではないかと疑わせる事情がありました。

 

それでも裁判所は、

不動産取得税の課税要件である不動産所有権の取得の事実については、課税庁側に立証責任がある

としました。

そして、譲渡担保の合意に基づく実体的な所有権移転があったことを認定するにはなお疑問の余地があるとして、課税を認めませんでした。

 

また、真実には所有権移転がなく、登記上だけその外形が作られた場合については、所有権取得という課税客体が存在しない以上、不動産取得税を課すことはできないとしています。

 

したがって、

「実体を見る」=課税庁が登記を自由に無視して、好きな法律関係を認定できる

ということではありません。

 

課税する側にも、課税要件となる所有権取得の事実を根拠に基づいて認定する必要があります。

 

本当に錯誤無効なら、課税が否定された裁判例もある

第3回で取り上げた岡山地裁平成21年7月16日判決も、ここで改めて位置付けることができます。

この事件では、旧民法95条のもとで、当事者に法律行為の要素の錯誤があり、しかもその錯誤が重大な過失によるものとは認められないとして、当初の土地売買が錯誤により無効と判断されました。

 

その結果、

買主は当初から土地持分を取得しておらず、その後の合意解除によって元の所有者が再度取得したこともない

として、不動産取得税の課税処分が取り消されています。

 

ここでも、

登記原因を「錯誤」にしたから非課税になった

のではありません。

裁判所が具体的な事実関係を審理した結果、本当に錯誤無効が成立し、当初から所有権取得がなかったと判断したからです。

 

この違いは非常に大切です。

 

東京地裁平成26年判決も「ラベルではなく実体」を見ていた

反対の例が、東京地裁平成26年8月26日判決です。

この事件でも、所有権移転登記は「錯誤」を原因として抹消されていました。

しかし裁判所は、売買代金が支払われ、買主が売買によって所有権を取得していたことを認定しました。

 

また、当初の売買を無効とすべき原始的な瑕疵も認めませんでした。

 

そのうえで、当事者が元の売主へ所有名義を戻すための便法として「錯誤」を原因とする抹消登記の形式を採ったにすぎないとして、法律上の実体を合意解除と判断しています。

 

岡山地裁では真正な錯誤無効が認められた。

東京地裁平成26年判決では、登記上「錯誤」とされていても真正な錯誤は認められなかった。

この二つを並べると、連載全体のポイントがよく分かります。

大切なのは「錯誤」という文字ではなく、本当に錯誤が存在したのかという実体です。

 

登録免許税と不動産取得税も別の問題

群馬県答申では、登録免許税についても興味深い主張がされています。

 

請求人は、売買による所有権移転登記の登録免許税と比べて、後の所有権抹消登記の登録免許税が少額であったことから、

本当に所有権が再移転したのであれば、登録免許税も所有権移転登記と同様になるはずだ

という趣旨の主張をしました。

 

しかし審査会は、抹消登記として申請された以上、登録免許税はその登記手続に応じて課されるものであり、登録免許税の額は所有権移転の事実の有無に対して課されているものではないとして、この主張を退けています。

 

つまり、

登録免許税がどうなるか

と、

不動産取得税上「不動産の取得」があったか

は、別の問題です。

 

登記手続に伴う登録免許税の額から、不動産取得税の結論を逆算することもできません。

 

行政不服審査会の答申は「判例」ではない

ここまで東京都と群馬県の行政不服審査会答申を紹介しましたが、これらは裁判所の判決ではありません。

最高裁判例と同じ法的拘束力があるわけではなく、全国の都道府県が今後必ず同じ判断をするというものでもありません。

 

一方で、

実際の不動産取得税の審査請求で、どのような資料や事情が検討されたのか

を見ることができる公的資料としては参考になります。

 

東京都答申では、登記原因証明情報、登記内容、当事者間の合意などが検討されました。

群馬県答申では、登記簿だけでなく、不動産売買契約書、買戻特約契約書、受領証、和解契約書、登記原因証明情報などが具体的に検討されています。

 

判例が示す法理と、行政不服審査会答申に現れた個別事案についての判断は、区別して読む必要があります。

 

実務で最初に確認すべきこと

不動産を元の名義へ戻したいという相談では、

「抹消登記にするのか」

「錯誤取消しにするのか」

「合意解除にするのか」

という登記手続から考え始めたくなります。

 

しかし、本来はその前に、

  • どのような売買契約をしたのか
  • 代金は支払われたのか
  • 所有権はいつ移転する約束だったのか
  • 実際に所有権は移転したのか
  • その後、何が起きたのか
  • 当事者間でどのようなやり取りや合意がされたのか
  • 当時どのような契約書や登記原因証明情報が作成されたのか

を確認する必要があります。

 

東京都答申や群馬県答申を見ると、後になってされた法律上の主張だけではなく、その当時に実際に作成された資料が検討されています。

だからこそ、元の名義へ戻す必要が生じた場合には、先に登記原因を決めてしまうのではなく、まず事実関係と法律関係を整理することが重要です。

 

5回連載の結論――事実が先、登記原因は後

最後に、この5回を整理します。

 

第1回
有効に所有権が移転した後の解除
→ 元売主への復帰も不動産取得税上の「取得」。

 

第2回
所有権移転登記はあるが、実体的な所有権移転がない
→ 登記だけでは「取得」にならない。

 

第3回
真正な錯誤取消し
→ 現行民法のもとでの不動産取得税上の結論は、今回確認した資料から単純には断定できない。

 

第4回
真正な詐欺取消し
→ 錯誤取消しの代用品ではなく、不動産取得税上の結論も単純には断定できない。

 

第5回
最終的には、登記原因の名前だけではなく、実際の法律関係と、それを裏付ける事実・資料から判断される。

 

したがって、

「合意解除だと税金がかかるから、錯誤取消しにしよう」

「錯誤が難しいなら、詐欺取消しにしよう」

という順番にはなりません。

 

最初に確認するのは、

実際に何が起きたのか

です。

 

その事実を法律に当てはめ、その結果として法律構成と登記原因が決まり、その法律関係や所有権移転の経過について不動産取得税上の評価がされます。

税金から登記原因を逆算するのではなく、事実から法律関係を組み立てる。

この順序を間違えないことが、不動産を元の名義へ戻す場面では何より重要だと考えます。

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