【住所変更登記義務化・第11回】スマート変更登記は実際にどう行われる?―住基ネット照会から本人の了解・職権登記まで
2026/09/07
令和8年4月1日から、不動産の所有権登記名義人には、住所・氏名に変更があった場合の変更登記が義務付けられました。
一方、この負担を軽くする仕組みとして始まったのが、いわゆる「スマート変更登記」です。
これまでの記事では、その前提となる「検索用情報」について、生年月日やメールアドレスをなぜ法務局へ知らせるのか、どのように申し出るのかなどを取り上げてきました。
では、検索用情報を申し出た後、実際には何が起こるのでしょうか。
法務局が住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)で住所や氏名の変更を確認したら、そのまま登記を書き換えるのでしょうか。
結論からいうと、自然人については、住基ネットで変更が判明しただけで直ちに登記が変更されるわけではありません。
本人に職権による変更登記についての意思確認を行い、本人から所定の申出がされた場合に、職権による住所等変更登記につなげる仕組みが設けられています。
今回は、この流れを詳しく見ていきます。
スマート変更登記とは?
スマート変更登記とは、簡単にいえば、
不動産の所有権登記名義人があらかじめ検索用情報を法務局に申し出ておくことで、法務局が住基ネットを利用して住所・氏名の変更を確認し、一定の手続を経て職権で住所等変更登記を行う仕組み
です。
所有者自身が住所変更登記や氏名変更登記を申請する負担を軽減するために設けられました。
職権による住所等変更登記がされれば、その変更については、所有者自身が住所等変更登記を申請しなくても、住所等変更登記の義務を履行したものとして扱われます。
ただし、
検索用情報を申し出ておけば、住所が変わった瞬間に自動的に登記も変わる
という制度ではありません。
自然人については、いくつかの段階を踏みます。
法務局は住基ネットを「2年に1回以上」確認する
検索用情報が記録されている自然人について、法務局は、その情報を利用して住基ネット情報の提供を求めます。
令和8年3月27日付法務省民二第525号通達では、検索用情報が記録されている所有権登記名義人ごとに、2年に1回以上は住基ネット情報の提供を求めるものとされています。
ここでいう「2年に1回以上」は、
住所変更からちょうど2年後の決まった日に確認する
という意味ではありません。
法務局が定期的に住基ネットを確認する仕組みであり、その頻度が「2年に1回以上」と定められているということです。
住所等変更登記の申請期限が、原則として変更があった日から2年以内とされていることとも対応しています。
住基ネットで住所・氏名の変更が見つかったら?
住基ネット情報によって、登記記録上の住所・氏名から変更があったことが確認される場合があります。
しかし、ここで重要なのが、
変更を確認しただけでは、自然人の登記を直ちに変更しない
という点です。
不動産登記法76条の6では、登記官が一定の場合に職権で住所等変更登記をすることができるとされています。
ただし、所有権登記名義人が自然人の場合には、本人の申出があるときに限るとされています。
そこで、職権による住所等変更登記を行う前に、本人の意思を確認する仕組みが設けられています。
住所等の変更が確認されると「意思確認通知」へ
代表登記所の登記官は、住基ネット情報によって所有権登記名義人の氏名又は住所に変更があったことを確認した場合、その本人に対し、
- 住所又は氏名に変更があったこと
- 職権による住所等変更登記について所定の申出をすることができること
を知らせる「意思確認通知」をすることができます。
意思確認通知は、電子メールによって行う仕組みです。
ただし、検索用情報管理ファイルに電子メールアドレスが記録されていない場合など、電子メールによる通知ができない場合には、書面を送付して通知することとされています。
このため、検索用情報として申し出るメールアドレスには重要な役割があります。
以前の記事でも説明しましたが、メールアドレスは住基ネットで本人を検索するための情報ではありません。
住基ネットで住所等の変更が確認された後、職権による住所等変更登記について本人に連絡するための情報です。
したがって、電子メールアドレスを持っていない人が、それだけを理由にスマート変更登記の仕組みから一律に外れるわけではありません。
「了解しました」とメールで返信するだけではない
ここは少し注意が必要です。
法務省の一般向け説明では、分かりやすく「本人の了解を得た上で職権で変更登記をする」と説明されています。
しかし、法律上は、単にメールへ
「了解しました」
と返信すれば終わる、という仕組みではありません。
意思確認通知を受けた所有権登記名義人は、その通知の送信又は送付の日から1か月以内に、代表登記所の登記官に対し、不動産登記法76条の6ただし書の申出をすることができます。
つまり、一般にいう「本人の了解」は、法律上は所定の申出によって示す仕組みになっています。
「了解」という一般向けの説明と、法律上の「申出」は区別して理解しておく必要があります。
本人が申し出ると、職権変更登記へ進む
本人から所定の申出を受けた代表登記所の登記官は、申出の対象となる不動産を管轄する登記所に、
- 申出があったこと
- 氏名又は住所の変更登記をする場合に登記記録へ記録すべき事項
を通知することができます。
その通知を受けた管轄登記所で、職権による住所等変更登記の処理が行われます。
大まかな流れを整理すると、
① 検索用情報を登録
↓
② 法務局が住基ネット情報を定期的に確認
↓
③ 住所・氏名の変更を確認
↓
④ 本人に意思確認通知
↓
⑤ 本人が所定の申出
↓
⑥ 管轄登記所で職権による住所等変更登記
となります。
「スマート変更登記」という名称から、完全に自動で登記まで変更される仕組みを想像しやすいのですが、自然人については、住基ネットで変更を確認した後に本人の意思確認と申出が入ることが大きな特徴です。
登記原因は「住所移転」ではなく「異動情報取得」
ここからは少し専門的な話です。
通常、自分で住所変更登記を申請する場合には、例えば、
原因 令和8年○月○日住所移転
というように、実際に住所を移転した日が登記原因日付になります。
ところが、スマート変更登記によって職権で住所等変更登記がされる場合は異なります。
登記原因は、
「異動情報取得」
と記録されます。
さらに、登記原因日付も、本人が実際に転居した日ではありません。
代表登記所の登記官が住基ネット情報の提供を受けた日
が登記原因日付になります。
例えば、実際には令和8年5月1日に引っ越していたとしても、代表登記所の登記官が住基ネット情報の提供を受けた日が令和9年2月10日であれば、職権による変更登記では、
原因 令和9年2月10日異動情報取得
という形になります。
通常の住所変更登記とは、登記原因とその日付の考え方が異なるわけです。
なお、この職権による住所等変更登記は、付記登記によって行われます。
職権変更登記の登録免許税は非課税
通常、自分で住所変更登記や氏名変更登記を申請する場合には、登録免許税が必要です。
これに対し、登記官が職権で行う住所等変更登記については、登録免許税は非課税とされています。
したがって、所有権登記名義人がこの職権変更登記について登録免許税を納付する必要はありません。
住所等変更登記の義務化に伴う国民の負担を軽減するための仕組みの一つです。
職権変更登記が終わったらメールが届く
検索用情報管理ファイルに電子メールアドレスが記録されている所有権登記名義人については、職権による住所等変更登記が完了すると、登記が完了した旨が電子メールで通知されます。
一方、検索用情報管理ファイルに電子メールアドレスが記録されていない所有権登記名義人については、この電子メールによる完了通知をすることとはされていません。
意思確認通知については、電子メールによる通知ができない場合に書面を送付する仕組みがありますが、登記完了後の通知については取扱いが異なる点に注意が必要です。
本人が職権変更登記を拒否したらどうなる?
では、意思確認通知が届いたものの、
「職権で変更登記をしてほしくない」
として職権変更登記を拒否した場合はどうなるのでしょうか。
また、期限までに回答しなかった場合はどうでしょうか。
まず、拒否したり期限までに回答しなかったりしただけで、直ちに5万円以下の過料になるわけではありません。
しかし、ここで住所等変更登記義務化の「催告」の制度とつながります。
令和7年10月30日付法務省民二第915号通達では、登記官が申請の催告を行う端緒の一つとして、
- 住基ネット情報の提供を求めた結果、住所等に変更があったと認められ
- 職権による住所等変更登記についての意思確認通知を本人が受領したものの
- 職権変更登記を拒否した場合
- 又は期限までに回答しなかった場合
が挙げられています。
ただし、ここでも重要なのは、拒否・無回答=直ちに催告、ではないということです。
これらはあくまで、登記官が住所等変更登記の申請義務違反を把握するための「端緒」です。
その端緒から、登記官が住所等変更登記の申請義務に違反したと認められる者がいることを職務上知った場合に、申請の催告を行う仕組みになっています。
以前の記事でも説明したとおり、催告を受けたからといって直ちに過料になるわけでもありません。
催告で定められた期間内に申請がされれば、過料通知は行われません。また、申請されなかった場合でも、「正当な理由」があると認められれば、過料通知は行われません。
職権変更登記を拒否しても、申請義務がなくなるわけではない
ここは特に誤解しないようにしたいところです。
スマート変更登記による職権変更登記を利用するかどうかと、
住所等変更登記の申請義務があるかどうか
は別の問題です。
自然人については、本人の申出がなければ職権による住所等変更登記はされません。
しかし、
「職権変更登記は利用しません」
としたからといって、住所等変更登記の申請義務そのものがなくなるわけではありません。
職権変更登記によって義務が履行されないのであれば、原則として、所有権登記名義人自身が期限内に住所等変更登記を申請する必要があります。
急いで売却する場合などは、スマート変更登記を待てないこともある
検索用情報を申し出ていても、スマート変更登記が必要な時期までに完了するとは限りません。
例えば、
- 不動産をすぐに売却したい
- 抵当権抹消登記を急いで行いたい
- 次の登記申請に先立ち、登記上の住所を現在の住所に一致させる必要がある
といった場合です。
次の登記を行うために、あらかじめ登記記録上の住所等を現在の住所等に変更する必要があるにもかかわらず、まだ職権変更登記がされていなければ、職権登記を待たず、自分で住所等変更登記を申請する必要があります。
したがって、
検索用情報を申し出たから、今後は絶対に住所変更登記を自分で申請しなくてよい
と考えるのは正確ではありません。
スマート変更登記は便利な仕組みですが、登記を急ぐ事情がある場合などには、従来どおり自分で住所等変更登記を申請する必要が生じます。
検索用情報の単独申出と同時に職権登記へつなげる仕組みも規定されている
少し専門的な補足です。
不動産登記規則では、既に所有権登記名義人となっている人について氏名又は住所に変更があった場合、検索用情報の単独申出と同時に、不動産登記法76条の6ただし書の申出をする仕組みも規定されています。
これは、検索用情報を登録した後の定期的な住基ネット照会を待つのではなく、既に生じている氏名・住所の変更について、検索用情報の単独申出と併せて職権変更登記へつなげる仕組みです。
ただし、令和8年3月27日付法務省民二第525号通達では、この手続に関係する「法務大臣の定めるところ」については、運用を開始することとなった際に法務省ホームページに定める予定とされています。
また、職権による住所等変更登記に関する事務の運用開始日や、同通達に記載されていない事項については、別途通知するとされています。
したがって、令和8年9月現在、この仕組みを既に通常利用できる一般的な手続であるかのように説明するのは適切ではありません。
今後の法務省からの案内を確認する必要があります。
スマート変更登記の流れをまとめると
自然人についてのスマート変更登記は、大きく次のように整理できます。
① 検索用情報を法務局に申し出る
↓
② 法務局が所有権登記名義人ごとに2年に1回以上、住基ネット情報の提供を求める
↓
③ 住所・氏名の変更を確認
↓
④ 本人へ意思確認通知
↓
⑤ 本人が通知から1か月以内に所定の申出
↓
⑥ 管轄登記所で職権による住所等変更登記
↓
⑦ メールアドレスが登録されていれば完了通知
重要なのは、
住基ネットで住所や氏名の変更を確認しただけで、自然人の登記が本人の申出なしにそのまま書き換えられる制度ではない
という点です。
一方、意思確認通知を受領したにもかかわらず職権変更登記を拒否したり、期限までに回答しなかったりした場合には、それが住所等変更登記の申請義務違反を把握する端緒となり、要件を満たせば催告の仕組みへつながります。
「スマート変更登記」と住所等変更登記の義務化は、別々に存在する制度ではなく、このように相互につながっているのです。
次回は「令和8年10月5日改正」を取り上げます
次回は、この連載の最終回として、令和8年10月5日から検索用情報制度がどのように変わるのかを取り上げます。
令和8年10月5日からは、検索用情報に「国籍等」が追加されるほか、現在の国内居住者を前提とした検索用情報制度が海外居住者にも広がります。
ただし、海外居住者の場合には、国内居住者と同じように住基ネットを利用して住所変更を把握できるわけではありません。
「海外居住者も検索用情報を申し出られるようになる」ということと、「国内居住者と同じ仕組みでスマート変更登記が行われる」ということは、分けて考える必要があります。
次回は、令和8年10月5日施行の改正内容について、現時点で公布・公表されている法令や資料から確認できる範囲を整理します。
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