住所変更登記の「正当な理由」とは?―期限内に申請しなかった場合の915号通達5つの具体例
2026/08/31
令和8年4月1日から、不動産の所有権登記名義人について、住所・氏名等の変更登記が義務化されました。
令和8年4月1日以降に住所等に変更があった場合には、原則として変更があった日から2年以内に住所等変更登記を申請する必要があります。
これまでの連載では、2年の期限を過ぎたからといってその瞬間に5万円の過料が確定するわけではなく、登記官による催告や地方裁判所への過料通知という手続があること、さらに登記官が申請の催告を行う「2つの端緒」について説明してきました。
では、期限内に住所等変更登記を申請しなかったことについて、一定の事情がある場合はどうなるのでしょうか。
不動産登記法は、「正当な理由」がないのに申請を怠った場合に5万円以下の過料の対象になるとしています。
そして、令和7年10月30日付法務省民二第915号通達では、この「正当な理由」について、具体的な5つの例が示されています。さらに重要なのは、この5つだけに限定されているわけではないという点です。
今回は、住所変更登記の過料と「正当な理由」の関係について、915号通達の文言を確認しながら詳しく見ていきます。
そもそも住所変更登記の「正当な理由」とは?
まず、「正当な理由」の位置付けを整理しておきます。
不動産登記法第76条の5では、所有権の登記名義人について住所等に変更があった場合、原則として変更があった日から2年以内に住所等変更登記を申請することが義務付けられています。
一方、不動産登記法第164条第2項では、この申請義務がある人が、
正当な理由がないのにその申請を怠ったとき
に、5万円以下の過料に処するとされています。
したがって、「正当な理由」とは、
正当な理由がある人は、住所変更登記をしなくてもよい
という制度ではありません。
問題になるのは、住所等変更登記を申請しなかったことについて、過料との関係で正当と認められる理由があるかどうかです。
住所等変更登記の申請義務そのものと、申請しなかったことについて「正当な理由」が認められるかどうかは、分けて考える必要があります。
過料通知の段階で「正当な理由」は誰が確認する?
では、何が「正当な理由」に当たるのでしょうか。
本人が、
「仕事が忙しかったので仕方がなかった」
「自分としてはやむを得ない事情だった」
と考えているだけで、自動的に「正当な理由」が認められるわけではありません。
915号通達では、登記官が申請の催告をする際、催告書において、
「正当な理由」がある場合には、その具体的な事情を申告するよう求める
こととされています。
そして、地方裁判所へ過料通知をするかどうかの段階では、「正当な理由」があるかどうかについて、
その申告内容その他一切の事情を総合的に考慮して登記官が判断する
とされています。
登記官が確認した結果、「正当な理由」があると認めた場合には、地方裁判所への過料通知は行われません。
したがって、催告を受けた場合に正当な理由があると考えるのであれば、催告を放置するのではなく、その具体的な事情を申告し、登記官による確認を受けるという仕組みになっています。
なお、これは法務局から地方裁判所へ過料通知をするかどうかの段階における判断です。
過料通知がされた場合に、最終的に過料を科すかどうかを判断するのは裁判所です。
915号通達が示した5つの「正当な理由」
915号通達では、住所等変更登記の義務の履行期間内に、次の①から⑤までのような事情が認められる場合には、
「それをもって一般に『正当な理由』があると認められる」
としています。
具体的には、次の5つです。
① 検索用情報の申出等を済ませ、職権変更登記がまだされていない場合
最初に挙げられているのが、検索用情報の申出等と職権による住所等変更登記との関係です。
915号通達は、
検索用情報の申出または会社法人等番号の登記がされているものの、登記官の職権による住所等変更登記がまだされていない場合
を挙げています。
個人について簡単に言えば、職権による住所等変更登記につなげるための「検索用情報」の申出を済ませているものの、法務局による職権変更登記がまだされていないという場面です。
ここで注意したいのは、検索用情報を申し出たこと自体で、住所等変更登記の申請義務そのものが消滅するわけではないということです。
法務省のマスタープランでは、登記官の職権によって実際に住所等変更登記がされれば、所有権の登記名義人は住所等変更登記の義務を履行したものとして扱われるとされています。
一方、義務の履行期間内に検索用情報の申出等はされているものの、まだ職権による住所等変更登記がされていない場合について、915号通達は一般に「正当な理由」があるとしています。
この「検索用情報」が何なのかについては、次回から詳しく取り上げます。
② 行政区画の変更等によって住所が変わった場合
2つ目は、
行政区画の変更等により、所有権の登記名義人の住所に変更があった場合
です。
例えば、本人自身が引っ越したわけではないのに、行政区画の変更等によって住所に変更が生じる場合があります。
このような場合についても、915号通達は、住所等変更登記の義務の履行期間内にその事情が認められる場合には、一般に「正当な理由」がある例として挙げています。
なお、この規定は、「町名などが変わった場合には常に何の登記手続も必要ない」という意味ではありません。
今回の915号通達が定めているのは、あくまで住所等変更登記を申請していないことについての「正当な理由」です。
③ 本人に重病その他これに準ずる事情がある場合
3つ目は、
住所等変更登記の義務を負う本人に、重病その他これに準ずる事情がある場合
です。
通達は単に「病気」としているのではなく、
「重病その他これに準ずる事情」
としています。
したがって、
仕事が忙しかった
手続が面倒だった
住所変更登記を忘れていた
といった事情まで、この例に当然に含まれるわけではありません。
また、915号通達には、「この病気なら該当する」「何日以上入院していれば該当する」といった具体的な基準は示されていません。
催告後の「正当な理由」の確認では、申告された内容その他一切の事情を総合的に考慮して登記官が判断することになります。
④ DV被害者等で避難を余儀なくされている場合
4つ目は、DV被害者等に関するものです。
915号通達は、
住所等変更登記の義務を負う者が、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第1条第2項に規定する被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって、避難を余儀なくされている場合
を挙げています。
したがって、単に「DV被害者である」というだけではなく、
生命や心身に危害が及ぶおそれがある状態にあり、避難を余儀なくされていること
まで通達では示されています。
このような事情についても、義務の履行期間内に認められる場合には、一般に「正当な理由」がある典型例とされています。
⑤ 経済的に困窮し、登記費用を負担する能力がない場合
5つ目は、経済的事情です。
915号通達は、
住所等変更登記の義務を負う者が経済的に困窮しているため、登記申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合
を挙げています。
ここも誤解しないようにする必要があります。
単に、
「登記費用を払いたくない」
「費用がもったいない」
「今月はほかの出費が多い」
という程度の話ではありません。
通達が挙げているのは、経済的に困窮しているために、登記申請に必要な費用を負担する能力がない場合です。
一方、具体的に年収がいくら以下なら該当するといった基準や、預貯金額などの明確な線引きは、915号通達には示されていません。
したがって、この点についても、実際の「正当な理由」の有無は具体的な事情を踏まえて判断されることになります。
5つ以外でも「正当な理由」は認められる?
ここは今回の記事で非常に重要なところです。
915号通達に5つの具体例が示されていると、
「この5つのどれかに入らなければ、正当な理由は認められないのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、そうではありません。
915号通達は5つの例を示した直後に、
これらに該当しない場合であっても、個別の事案における具体的な事情に応じて、申請をしないことについて理由があり、その理由に正当性が認められる場合には、「正当な理由」があると認めて差し支えない
としています。
つまり、この5つは限定列挙ではありません。
もっとも、
「5つ以外なら何でも正当な理由になる」
という意味でもありません。
その事情が、
なぜ住所等変更登記を申請しなかったことについての理由になるのか
そして、
その理由に正当性が認められるのか
を、個別の事案における具体的事情に応じて判断するという構造です。
マスタープランの段階でも、法務省は「正当な理由」が認められる場合を5つの例だけに限定せず、登記官が具体的事情を確認した上で判断するという方針を示していました。
5つに当てはまれば「一般に正当な理由がある」
反対に、5つの具体例についても、通達の表現を正確に見ておく必要があります。
915号通達は、
住所等変更登記の義務の履行期間内に①から⑤までのような事情が認められる場合には、「それをもって一般に『正当な理由』があると認められる」
としています。
つまり、この5つは、単なる参考例というより、通達が一般に正当な理由があると認める典型例として示したものです。
一方で、実際に催告を受けて「正当な理由」がある旨を申告した場合には、登記官が、
申告内容その他一切の事情を総合的に考慮して判断する
こととされています。
したがって、5つについては「一般に正当な理由があると認められる典型例」であることと、催告後の具体的な確認では登記官が申告内容等を確認することの両方を押さえておく必要があります。
「義務の履行期間内」という言葉にも注意
司法書士など実務家が915号通達を読む際に、もう一つ気になる表現があります。
5つの典型例を挙げる直前に、通達は、
「住所等変更登記の義務の履行期間内において」
これらの事情が認められる場合、としています。
ここでいう義務の履行期間は、令和8年4月1日以降に住所等の変更があった場合には、原則としてその変更があった日から2年間です。
一方、令和8年4月1日より前に住所等の変更があった場合については経過措置があり、住所等の変更があった日または令和8年4月1日のいずれか遅い日から2年以内に申請することとされています。
つまり、通達が5つの事情について一般に「正当な理由」があるとしているのは、この義務の履行期間内にこれらの事情が認められる場合です。
もっとも、ここから、
「履行期間を過ぎてから生じた事情は絶対に正当な理由にならない」
とまで断定することはできません。
通達は続けて、5つに該当しない場合であっても、個別の事案における具体的な事情に応じて、申請をしないことについて理由があり、その理由に正当性が認められる場合には、「正当な理由」があると認めて差し支えないとしています。
したがって、5つの典型例については「義務の履行期間内」という通達の文言を含めて理解し、それ以外の事情については個別の事案に応じて判断されるという整理が適切です。
催告が来たら「正当な理由」はどう伝える?
では、実際に法務局から申請の催告が届き、「自分には正当な理由がある」と考える場合にはどうするのでしょうか。
915号通達では、催告書において、
「正当な理由」がある場合には、その具体的な事情を申告するよう求める
こととされています。
登記官は、その申告内容その他一切の事情を総合的に考慮して、「正当な理由」があるかどうかを判断します。
そして、「正当な理由」があると認められた場合には、地方裁判所への過料通知は行われません。
したがって、正当な理由があると考える場合でも、催告を放置するのではなく、住所等変更登記を申請しなかったことについて、どのような具体的事情があったのかを申告することが重要です。
一方、915号通達には、すべての場合について、
- 必ず診断書を提出する
- 必ず所得証明書を提出する
- 決まった様式の申告書を使用する
といった一律の取扱いまでは示されていません。
したがって、ここで必要となる資料等について、通達から一律のルールを導くことはできません。
正当な理由があれば、ずっと登記しなくていい?
最後に、もう一度確認しておきたい点があります。
「正当な理由がある」ことと、「将来にわたって住所等変更登記をしなくてよい」ことは同じではありません。
例えば、915号通達の第1例では、義務の履行期間内に検索用情報の申出等はされているものの、職権による住所等変更登記がまだされていない場合について、一般に正当な理由があるとされています。
その後、実際に法務局による職権の住所等変更登記が行われれば、住所等変更登記の義務は履行したものとして扱われます。
その他の事情についても、「正当な理由」は過料との関係で重要になるものですが、それによって住所等変更登記の申請義務自体が恒久的に消滅する制度ではありません。
したがって、
「正当な理由があるから、このまま何もしなくてよい」
という理解は避ける必要があります。
まとめ―「正当な理由」は5つだけではない
令和7年10月30日付法務省民二第915号通達では、住所等変更登記を申請していないことについて、一般に「正当な理由」があると認められる事情として、5つの典型例を示しています。
① 検索用情報の申出または会社法人等番号の登記はされているが、職権による住所等変更登記がまだされていない場合
② 行政区画の変更等によって所有者の住所に変更が生じた場合
③ 登記義務を負う本人に重病その他これに準ずる事情がある場合
④ DV被害者等で、生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあり、避難を余儀なくされている場合
⑤ 経済的に困窮し、登記申請に必要な費用を負担する能力がない場合
です。
ただし、通達がこれらについて一般に「正当な理由」があると認めているのは、住所等変更登記の義務の履行期間内にこれらの事情が認められる場合です。
また、この5つは限定列挙ではありません。
5つに当てはまらない場合であっても、個別の事案における具体的な事情に応じて、申請をしなかったことについて理由があり、その理由に正当性が認められる場合には、「正当な理由」が認められることがあります。
一方、「正当な理由」があるかどうかを本人だけで決めるものでもありません。
催告を受けた場合には具体的事情を申告し、申告内容その他一切の事情を総合的に考慮して登記官が確認・判断するという仕組みです。登記官が「正当な理由」があると認めた場合には過料通知を行わず、過料通知がされた場合に最終的に過料を科すかどうかは裁判所が判断します。
そして、915号通達が「正当な理由」の最初に挙げているのが、「検索用情報」の申出をしているものの、職権による住所等変更登記がまだされていない場合です。
では、この「検索用情報」とは、そもそも何なのでしょうか。
氏名や住所だけではなく、生年月日やメールアドレスなども法務局へ申し出る仕組みですが、これらの情報は何のために使われるのでしょうか。また、登記簿に公開されるのでしょうか。
次回は、「検索用情報とは何か―なぜ生年月日やメールアドレスまで法務局に知らせるのか?」を、令和7年3月3日付法務省民二第373号通達まで確認しながら詳しく解説します。
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