住所変更登記を2年以内にしないとすぐ5万円?―過料と催告の仕組みを法務省通達から解説
2026/08/29
令和8年4月1日から、不動産の所有権登記名義人について、住所・氏名等の変更登記が義務化されました。
住所や氏名等に変更があった場合には、原則として変更があった日から2年以内に住所等変更登記を申請する必要があります。そして、正当な理由がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料の対象となり得ます。
ここだけを読むと、
「2年を1日でも過ぎたら、自動的に5万円なのか?」
と思う方もいるかもしれません。
しかし、実際の過料に関する手続はそこまで単純ではありません。
令和7年10月30日付の法務省民事局長通達(法務省民二第915号)まで読むと、登記官が住所等変更登記の申請義務違反を把握したからといって、直ちに5万円の過料が科されるわけではなく、まず住所等変更登記を申請するよう「催告」する手続が設けられていることが分かります。
今回は、「住所変更登記を2年以上していなければ、すぐに5万円の過料になるのか」という疑問について、法務省の通達に沿って詳しく見ていきます。
「2年以内にしないと5万円」は正確にはどういう意味?
まず、法律上のルールを確認しておきます。
不動産登記法第76条の5では、所有権の登記名義人について住所等に変更があったときは、変更があった日から2年以内に住所等変更登記を申請しなければならないとされています。
そして、不動産登記法第164条第2項では、この申請義務がある人が正当な理由がないのに申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処するとされています。
ここで、前回の記事でも触れた二つの点を改めて確認しておきます。
一つは、「罰金」ではなく過料であることです。
もう一つは、一律に5万円ではなく、法律上は5万円以下と定められていることです。
そして今回、特に区別しておきたいのが、
「2年以内に登記するという法律上の義務」と「実際に過料通知がされ、裁判所が過料を決定すること」は別の問題
だということです。
正当な理由がないまま2年の期限を過ぎれば、住所等変更登記の申請義務に違反した状態となり得ます。
しかし、それだけで自動的に5万円の過料が確定するわけではありません。
実際に登記官が地方裁判所へ過料事件を通知するまでには、法務省の通達で具体的な手続が定められています。
2年を過ぎた瞬間に自動的に5万円が決まるわけではない
令和7年10月30日付法務省民二第915号通達によると、おおまかな流れは次のようになります。
① 登記官が、915号通達で定められた一定の事由を端緒として、住所等変更登記の申請義務に違反したと認められる者がいることを職務上知る
↓
② 相当の期間を定めて、住所等変更登記を申請するよう催告する
↓
③ 催告で定められた期限内に登記申請がされれば、過料通知を行わない
↓
④ 期限内にも申請されず、正当な理由も認められない
↓
⑤ 管轄地方裁判所へ過料通知をする
↓
⑥ 裁判所が過料について判断する
つまり、
「2年経過=その日に自動的に5万円」
という仕組みではありません。
ここは、住所変更登記の義務化について一般的な説明だけを読んだ場合には分かりにくい部分です。
法務省は、制度施行前に公表したマスタープランの段階でも、過料通知の前に催告を行い、その催告に応じて登記申請がされた場合には過料通知を行わないという運用方針を示していました。
その後に発出された915号通達で、その具体的な取扱いが正式に示されています。
過料通知の前に法務局から「催告」がある
915号通達では、登記官が、住所等変更登記の申請義務に違反し、過料に処されるべき者がいることを職務上知った場合には、まず、
「相当の期間」を定めて、その申請をすべき旨を催告する
とされています。
そして、それにもかかわらず、その期間内に住所等変更登記が申請されないときに限り、遅滞なく管轄地方裁判所へその事件を通知する仕組みになっています。
この地方裁判所への通知を、通達では「過料通知」と呼んでいます。
ここで気になるのが、
「相当の期間とは何日なのか?」
という点でしょう。
しかし、915号通達には、「14日」「1か月」「3か月」など、一律の具体的な日数は記載されていません。
通達上の表現は、あくまで「相当の期間」です。
したがって、「催告が届いたら必ず○日以内」と一般化して説明することはできません。
実際に催告を受けた場合には、その催告書に記載された期限を確認して対応する必要があります。
催告はどのように届く?―書留等で送付
では、その催告はどのように行われるのでしょうか。
915号通達では、申請の催告は、
書留郵便
または、
信書便事業者が引受け及び配達の記録を行う方法による信書便
によって催告書を送付して行うものとされています。
申請義務に違反した人が外国に住所を有する場合には、これらに準ずる方法によることとされています。
つまり、通達上の「申請の催告」は、単なる電話やメールによる注意ではありません。
引受けや配達の記録が残る方法で、正式な催告書を送付する仕組みになっています。
法務局からこのような催告書が届いた場合には、「そのうち対応すればよい」と放置せず、記載されている期限と内容を確認することが重要です。
催告期限内に住所変更登記をすればどうなる?
ここが今回の記事で最も重要なポイントです。
915号通達では、催告で定められた期限内に住所等変更登記の申請がされた場合には、登記官は過料通知を行わないとされています。
つまり、法律上の2年の期限を既に過ぎていたとしても、
「もう5万円の過料が確定している」
というわけではありません。
催告を受けた後、その期限内に必要な住所等変更登記を申請すれば、登記官から地方裁判所への過料通知には進まないという取扱いです。
これはかなり重要な点です。
ただし、ここで誤解してはいけないことがあります。
「それなら、最初から2年間の期限を無視して、催告が届いてから登記すればよい」という制度ではありません。
法律上の申請義務は、あくまで住所・氏名等の変更があった日から2年以内に申請することです。
催告は、その申請義務を守らなくてもよいという追加の猶予期間ではありません。
法律上の義務に違反した場合に、地方裁判所への過料通知をする前に登記申請を促すための手続と理解するのが正確です。
したがって、
「2年を過ぎても問題ない」のではなく、「2年を過ぎても、その時点で自動的に5万円の過料が決まるわけではない」
という区別が重要です。
「正当な理由」がある場合はどうなる?
住所等変更登記を申請していないことについて「正当な理由」がある場合についても、915号通達は取扱いを定めています。
催告の後に、
「正当な理由」がある旨を申告し、登記官がその具体的な事情等を確認した結果、正当な理由があると認めた場合には、過料通知を行わない
とされています。
したがって、「正当な理由」は単に本人が、
「事情があったので仕方なかった」
と考えれば当然に認められるものではありません。
通達では、催告書において、正当な理由がある場合にはその具体的な事情を申告するよう求め、その申告内容その他一切の事情を総合的に考慮して、登記官が判断するものとされています。
そして、この「正当な理由」については、法務省通達に具体的な例まで示されています。
どのような事情なら正当な理由と認められるのかは、この連載の第4回で詳しく取り上げます。
誰が5万円を決める?―法務局と地方裁判所の役割
もう一つ誤解しやすいのが、
「法務局が5万円の過料を科す」
という理解です。
915号通達上、登記官が行うのは、一定の場合に管轄地方裁判所へその事件を通知することです。
これが「過料通知」です。
法務省のマスタープランでも、過料通知を受けた管轄地方裁判所が過料決定に関する判断を行うと説明されています。
したがって、
法務局から催告が届いた=5万円確定
ではありません。
また、
登記官が地方裁判所へ過料通知をした=5万円確定
でもありません。
登記官は、通達・規則に定められた条件を満たした場合に事件を地方裁判所へ通知し、その後、過料については裁判所が判断するという役割分担になっています。
今回の記事では、裁判所における過料事件そのものの詳しい手続には立ち入りませんが、少なくとも「法務局が直接5万円を請求する制度ではない」という点は押さえておく必要があります。
では、法務局は義務違反をどうやって知る?
ここまで見てくると、次の疑問が出てきます。
そもそも法務局は、住所変更登記をしていないことをどうやって知るのでしょうか。
例えば、10年前に引っ越したものの、不動産登記簿には昔の住所が残っている人がいるとします。
本人から何も申請しなければ、法務局は全国の登記簿を常時調べて、
「この人は住所変更登記をしていない」
と探し出して催告するのでしょうか。
実は、この点についても915号通達にはかなり具体的なルールがあります。
しかも通達では、登記官が申請の催告を行う「端緒」について、単なる例示ではなく、
一定の事由を端緒として、申請義務に違反したと認められる者があることを職務上知ったときに限り、申請の催告を行う
という形で定めています。
この部分は、住所変更登記の義務化の実際の運用を理解するうえで非常に興味深いところです。
内容は次回の記事で詳しく見ていきます。
まとめ―「2年を過ぎたら即5万円」ではない
令和8年4月1日から、所有権登記名義人の住所・氏名等に変更があった場合には、原則として変更から2年以内に住所等変更登記を申請することが義務化されました。
正当な理由なく申請を怠った場合には、5万円以下の過料の対象となり得ます。
しかし、法務省民二第915号通達まで確認すると、
2年の期限を過ぎた瞬間に自動的に5万円の過料が決まる制度ではない
ことが分かります。
登記官が、915号通達で定められた一定の事由を端緒として、申請義務に違反したと認められる者がいることを職務上知った場合には、まず相当の期間を定めて申請を催告します。
その催告期限内に住所等変更登記を申請すれば、地方裁判所への過料通知は行われません。
また、催告後に正当な理由があることを申告し、登記官がその事情を確認した結果、正当な理由があると認められた場合にも、過料通知は行われません。
一方で、法律上の「変更から2年以内」という申請義務そのものがなくなったわけではありません。
「催告が来るまでは登記しなくてもよい」という制度ではないことにも注意が必要です。
ここで区別しておきたいのは、法律上の申請義務に違反することと、地方裁判所への過料通知がされ、実際に過料が決定されることは別だという点です。
では、そもそも法務局は、住所変更登記をしていないことをどうやって知るのでしょうか。
令和7年10月30日付法務省民二第915号通達を読むと、登記官が催告を行う「端緒」についても具体的なルールが定められています。
次回は、「法務局は住所変更登記の義務違反をどうやって知るのか?」を、915号通達の文言まで確認しながら詳しく解説します。
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