住所変更登記・氏名変更登記が義務化―令和8年4月1日から何が変わった?
2026/08/31
不動産を購入した後に引っ越したものの、登記簿に記載された住所は購入当時のまま――。
これまでは、このような状態のまま何年も経過している不動産も珍しくありませんでした。売却や抵当権の設定など、何か登記手続が必要になった段階で初めて住所変更登記をする、というケースも多くありました。
しかし、令和8年4月1日から、不動産の所有権登記名義人について住所・氏名等の変更登記が義務化されました。
これから住所や氏名が変わる人だけの制度ではありません。
令和8年4月1日より前から住所や氏名が変わっていたのに、登記簿を変更していない人も対象になります。
また、「2年以内に登記しなければ5万円」という説明だけを見ると不安になるかもしれませんが、正確には、正当な理由なく義務を怠った場合に5万円以下の過料の対象となる制度であり、期限を1日過ぎた瞬間に自動的に5万円が課されるという仕組みではありません。
今回は連載の第1回として、住所変更登記・氏名変更登記の義務化について、まず制度全体を整理します。
住所・氏名変更登記の義務化とは?
令和8年4月1日に施行された不動産登記法第76条の5では、所有権の登記名義人は、その氏名若しくは名称又は住所に変更があったときは、変更があった日から2年以内に変更登記を申請しなければならないと定められました。
法務省は、この「氏名若しくは名称又は住所」をまとめて「住所等」と呼び、「住所等変更登記」としています。社会問題となっている所有者不明土地等の発生を予防することが、今回の制度改正の背景にあります。
個人の場合、典型的なのは引っ越しによる住所変更です。
例えば、自宅を購入した当時は杉並区に住んでいて、その後中野区へ転居したのに、不動産登記簿の所有者住所が杉並区のままになっている場合です。
婚姻や離婚などによって氏名が変わった場合も対象になります。
法人が不動産を所有している場合には、本店・主たる事務所の移転や商号・名称の変更などが問題になります。ただし、法人については、会社法人等番号を利用して職権による住所等変更登記を行う仕組みが用意されているため、詳しい内容は別の記事で扱います。
誰が義務化の対象になる?
今回の制度で重要なのは、「不動産について何らかの登記をしている人すべて」が対象ではないということです。
不動産登記法第76条の5が対象としているのは、所有権の登記名義人です。
したがって、今回の「住所等が変わった日から2年以内」という義務を、抵当権者や賃借権者などにもそのまま当てはめることはできません。
例えば住宅ローンを完済していないため銀行の抵当権が登記されている場合でも、今回の住所等変更登記義務化でまず問題になるのは、その不動産の所有者として登記されている人の住所・氏名等です。
「登記名義人」という言葉だけを見ると広く感じますが、今回の制度では「所有権の登記名義人」であることがポイントです。
住所や氏名が変わったら何年以内?
令和8年4月1日以降に住所・氏名等が変わった場合には、原則として、
変更があった日から2年以内
に住所等変更登記を申請する必要があります。
例えば、令和8年10月1日に転居して住所が変わった場合には、その変更があった日を基準として2年以内に住所変更登記を行うことになります。
ここで重要なのは、「不動産を取得してから2年」でも、「制度が始まってから一律2年」でもないことです。
それぞれの所有権登記名義人について、住所や氏名等に変更が生じた日が原則的な起算点になります。
法務省民事局長通達でも、所有権登記名義人について住所等の変更があったときは、その変更があった日から2年以内に住所等変更登記を申請しなければならないことが確認されています。
令和8年4月1日より前に引っ越した人も対象
今回の制度で特に注意したいのが、義務化される前に住所や氏名が変わっていた場合も対象になることです。
例えば、
「令和5年に引っ越したけれど、住所変更登記をしていない。義務化は令和8年4月1日からだから、自分には関係ない」
とはなりません。
改正法には経過措置が設けられており、令和8年4月1日より前に既に住所等の変更があった場合についても、住所等変更登記の義務が適用されます。
期限は、
住所等の変更があった日と令和8年4月1日の、いずれか遅い日から2年以内
です。
例えば、令和5年6月に東京都杉並区から中野区へ転居したものの、自宅不動産の登記簿には杉並区の住所が残っているとします。
住所変更自体は令和8年4月1日より前に起きています。
この場合、「住所変更があった令和5年6月」と「制度施行日の令和8年4月1日」を比べ、後の日である令和8年4月1日を基準に2年間の猶予が与えられます。
したがって、令和8年4月1日より前に住所等が変わったままになっている場合には、原則として令和10年3月31日までに住所等変更登記を申請する必要があります。
法務省のマスタープランでも、令和8年4月1日以前の住所等の変更についても義務の対象としつつ、2年間の猶予期間を設けることが示されています。
「昔の引っ越しだから今回の義務化とは関係ない」と考えている方ほど、一度登記簿上の住所を確認しておいた方がよいでしょう。
登記をしなかったら5万円?―「5万円以下の過料」の意味
住所等変更登記の義務化と一緒によく紹介されているのが、
「5万円以下の過料」
です。
不動産登記法第164条第2項では、住所等変更登記を申請すべき義務がある者が、正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処するとされています。
ここでは、三つの点を区別しておく必要があります。
第一に、刑事罰である「罰金」ではなく、過料です。
第二に、「5万円」ではなく、5万円以下です。
そして第三に、最も重要なのですが、2年の期限を過ぎた瞬間に自動的に5万円が課される仕組みではありません。
令和7年10月30日付の法務省民事局長通達では、登記官が義務違反を職務上知った場合でも、まず相当の期間を定めて登記申請をするよう催告し、その期間内にも申請がされない場合などに、管轄地方裁判所への通知(過料通知)へ進む仕組みが定められています。
さらに、「正当な理由」がある場合の扱いもあります。
この点は、一般的な制度紹介では「2年以内」「5万円以下」とだけ説明されることもありますが、通達まで読むと実際の運用はもう少し丁寧に設計されています。
では、法務局はどのような場合に住所変更登記をしていないことを知るのでしょうか。催告を受けたらどうなるのでしょうか。
この部分は非常に興味深いため、次回以降の記事で通達の内容まで詳しく取り上げます。
自分で申請する以外に「スマート変更登記」という仕組みもある
今回の法改正は、単に所有者へ新しい義務を課しただけではありません。
住所等変更登記の義務を履行するための負担軽減策として、登記官が公的機関から取得した情報などを利用し、一定の条件のもとで職権により住所等変更登記を行う制度も新設されています。
いわゆる「スマート変更登記」と呼ばれている仕組みです。
法務省のマスタープランでも、職権による住所等変更登記が行われれば、所有権登記名義人は住所等変更登記の義務を履行したものとして扱われるとされています。
個人については、法務局による職権変更登記につなげるため、あらかじめ「検索用情報」を申し出る仕組みが設けられています。
もっとも、検索用情報とは何なのか、どの不動産について申出が必要なのか、法務局はどのように住所変更を把握するのか、といった点まで説明すると、かなり内容があります。
この連載では、検索用情報の同時申出・単独申出、住基ネットとの関係、職権変更登記の仕組みについても後の記事で一つずつ取り上げます。
今、自分の登記簿を確認しておいた方がよい人
特に次のような方は、一度、不動産の登記簿上の住所・氏名等が現在の情報と一致しているか確認しておく意味があります。
- 不動産を購入した後に引っ越したものの、住所変更登記をした記憶がない方
- 婚姻・離婚などによって氏名が変わった後も不動産登記を変更していない方
- かなり以前に取得した土地・建物を所有している方
- 相続登記を済ませて自分が所有者になった後、その住所が変わっている方
- 法人名義の不動産があり、その後に本店移転や商号・名称変更をしている法人
特に令和8年4月1日より前から住所等が変わったままになっている場合も今回の義務化の対象ですので、「昔の変更だから大丈夫」とは考えない方がよいでしょう。
まとめ―まずは「誰が・いつまでに」が基本
令和8年4月1日から始まった住所等変更登記の義務化について、まず押さえておきたいのは次の基本構造です。
不動産の所有権登記名義人について氏名・名称・住所に変更があった場合、原則として変更があった日から2年以内に変更登記を申請します。
令和8年4月1日より前に生じていた変更も対象で、その場合には経過措置として、原則として令和8年4月1日から2年間の猶予があります。
また、正当な理由なく義務を怠った場合には5万円以下の過料の対象となり得ますが、「期限を過ぎれば直ちに5万円」という単純な仕組みではありません。
さらに、所有者の負担を軽減するため、一定の場合に法務局が職権で住所等変更登記を行う仕組みも設けられています。
制度の入口だけでも、従来の住所変更登記とは大きく状況が変わっています。
次回は、「2年を過ぎたら本当にすぐ5万円の過料になるのか」を、令和7年10月30日付法務省民二第915号通達まで確認しながら詳しく解説します。
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