法務局は住所変更登記の義務違反をどうやって知る?―催告の「2つの端緒」を915号通達から解説
2026/08/30
令和8年4月1日から、不動産の所有権登記名義人について住所・氏名等の変更登記が義務化されました。
前回の記事では、住所等の変更から原則2年以内に登記を申請しなかったとしても、
「2年経過=その日に自動的に5万円の過料」
という仕組みではないことを説明しました。
登記官が、住所等変更登記の申請義務に違反したと認められる人がいることを一定の端緒から把握した場合には、まず相当の期間を定めて申請を催告し、それでも申請されず、正当な理由も認められない場合に地方裁判所への過料通知に進むという仕組みです。
すると、次の疑問が出てきます。
「そもそも法務局は、私が引っ越したのに住所変更登記をしていないことを、どうやって知るのでしょうか?」
法務局は、不動産登記簿と住民票の情報をすべての所有者について常時照合し、住所変更登記をしていない人を探し出して催告するのでしょうか。
この点について、令和7年10月30日付法務省民二第915号通達を読むと、かなり具体的なルールが定められています。
しかも興味深いのは、制度施行前に公表された法務省のマスタープランと、その後に発出された915号通達とで、表現が変わっていることです。
今回は、法務局が住所変更を知ること一般ではなく、「どのような事実を端緒として申請の催告をするのか」を詳しく見ていきます。
法務局が住所変更を知ることと「催告の端緒」は別
最初に、今回の記事で最も重要な区別をしておきます。
法務局が、
「この所有者は住所が変わっている」
という事実を知ることと、
「この人に住所等変更登記を申請するよう催告する」
ことは同じではありません。
今回問題にするのは、後者です。
令和7年10月30日付法務省民二第915号通達は、登記官が住所等変更登記の申請義務に違反したと認められる人がいることを職務上知った場合について、どのような事実を端緒として「申請の催告」を行うのかを定めています。
そして通達は、その端緒を具体的な2類型に限定しています。
したがって、
「法務局が住所変更を知る方法が2つしかない」
という話ではありません。
あくまで、過料手続につながる申請の催告について、915号通達が定めた端緒が2類型であるということです。
この違いは、今回の制度を理解するうえで非常に重要です。
915号通達は催告の端緒を「2つ」に限定している
915号通達は、登記官による申請の催告について、
「次に掲げるいずれかの事由を端緒として」、住所等変更登記の申請義務に違反したと認められる者があることを職務上知ったときに限り、申請の催告を行う
と定めています。
その2つは、大きく整理すると次のとおりです。
第1の端緒
所有権の登記名義人が表示に関する登記を申請した際に、申請情報に記載された住所等と登記記録上の住所等が一致していなかった場合
第2の端緒
住基ネット関係の情報から住所等の変更が確認された所有権の登記名義人が、職権による住所等変更登記についての意思確認通知を受領したものの、その登記を拒否した、または期限までに回答しなかった場合
です。
ここで注目したいのが、この2つが単なる「例」なのかという点です。
マスタープランでは「例えば」だった―915号通達で何が変わった?
法務省は、令和7年3月28日に「住所等変更登記の義務化の施行に向けたマスタープラン」を公表しています。
マスタープランでは、住所等変更登記の義務に違反した人の把握について、
運用の統一性・公平性及び国民の納得感を確保する観点から、登記官が登記申請の審査の過程等で把握した情報によって行う
という方針が示されました。
そして、義務違反を把握する端緒については、
「例えば、次のような場合が想定される」
として、後の915号通達と同様の2つの場合を掲げていました。
「例えば」と書かれている以上、この段階では、
「この2つは例にすぎず、ほかの場面でも催告の端緒になるのではないか」
とも読めます。
ところが、その約7か月後に発出された915号通達では表現が変わりました。
通達は、
「次に掲げるいずれかの事由を端緒として……職務上知ったときに限り」
申請の催告を行うものとしています。
つまり、マスタープラン段階の「例えば」という例示的な表現から、915号通達では「……に限り」という限定的な表現になったわけです。
これは小さな違いではありません。
最終的な実務上の取扱いを定めた915号通達では、申請の催告を行う端緒が、以下の2類型に限定されたと読むことができます。
第1の端緒―表示に関する登記の申請で住所の不一致が分かったとき
まず、第1の端緒です。
915号通達は、
所有権の登記名義人が「表示に関する登記」の申請をした場合に、申請情報に記載されたその所有者の住所等が、登記記録と合致していなかったとき
を催告の端緒としています。
例えば、ある人が10年前に土地を購入したとします。
購入後に引っ越しましたが、不動産登記簿上の住所は10年前の住所のままです。
その後、その土地について地目変更や分筆など、表示に関する登記を申請することになったとします。
その際、
申請情報には現在の住所
が記載されている一方、
登記記録には昔の住所
が記録されたままであれば、両者は一致しません。
このような不一致が、915号通達上、住所等変更登記の申請義務違反を把握し、催告する一つの端緒になります。
「何らかの登記申請をすれば分かる」という規定ではない
ここは細かいですが、重要です。
915号通達が明記しているのは、
「表示に関する登記の申請」
です。
したがって、この規定を、
「売買による所有権移転登記でも、抵当権設定登記でも、とにかく何らかの登記を申請したら第1の端緒になる」
と一般化することはできません。
不動産登記には、大きく分けると、不動産そのものの物理的な状況を公示する「表示に関する登記」と、所有権や抵当権などの権利関係を公示する「権利に関する登記」があります。
915号通達が第1の端緒として明記しているのは、前者の表示に関する登記です。
一般向けの制度説明では省略されやすいところですが、通達を正確に読むのであれば区別しておく必要があります。
第2の端緒―スマート変更登記の意思確認を拒否・放置したとき
第2の端緒は、個人についての職権による住所等変更登記、いわゆるスマート変更登記と関係します。
915号通達の規定を一般向けに整理すると、おおむね次の流れです。
① 法務局が住基ネット関係の情報から、所有者の住所等が変わっていることを把握する
↓
② 職権で住所等変更登記をすることについて、所有者へ意思確認のための通知をする
↓
③ 所有者がその通知を受領する
↓
④ 所有者が職権による登記を拒否する、または期限までに回答しない
↓
⑤ これが申請の催告を行う端緒になる
という仕組みです。
通達の正式な表現では、住民基本台帳法第30条の9の規定により「機構保存本人確認情報」の提供を求めた結果、住所等に変更があったと認められた所有権の登記名義人について、この取扱いが定められています。
一般には、住基ネットを利用して住所等の変更を確認する仕組みと考えれば分かりやすいでしょう。
なお、令和8年9月現在、法務省の「スマート変更登記のご利用方法」では、個人について、住基ネットへの照会、意思確認、職権による変更登記という一連の手続を法務局が開始する時期については、改めて案内するとされています。
したがって、ここで説明している第2の端緒は、915号通達に定められている制度上の取扱いです。
個人のスマート変更登記の実際の運用については、今後の法務省の案内も確認する必要があります。
第2類型では「住基ネットで分かった」だけでは足りない
915号通達が定める第2の端緒は、
「住基ネットで住所等の変更が分かった」
というところで終わっていません。
その後、
職権による住所等変更登記について意思確認のための通知を受領した
ことに加えて、
その登記を拒否した
または、
期限までに回答しなかった
ことまで規定されています。
つまり、第2類型については、
住所変更の把握
→意思確認通知
→通知の受領
→拒否または期限まで無回答
という段階を経て、申請の催告を行う端緒になるという構造です。
ここは重要です。
少なくとも915号通達の第2類型では、住基ネット関係の情報から新しい住所が確認されたというだけで、
「住所変更登記をしていないので、直ちに催告します」
という取扱いを定めているわけではありません。
一方で、
「意思確認通知に返事をしなければ何も起こらない」
ということでもありません。
通知を受領したにもかかわらず期限まで回答しなかったこと自体が、申請の催告を行う端緒の一つとして明記されています。
なお、住基ネットへの照会、検索用情報、意思確認通知、職権による住所等変更登記が実際にどのような手順で行われるのかについては、それだけでかなりの内容があります。
これらは後の「検索用情報・スマート変更登記」の連載で詳しく取り上げます。
なぜ催告の端緒を限定しているのか
では、なぜ催告の端緒について、このような具体的な基準を設けているのでしょうか。
915号通達そのものには、その理由が詳しく書かれているわけではありません。
ただし、先に公表されたマスタープランには、制度設計の考え方が示されています。
法務省は、住所等変更登記の義務に違反した人の把握について、
「運用の統一性・公平性及び国民の納得感を確保する観点」
から、登記官が登記申請の審査の過程等で把握した情報によって行うという方針を示しています。
この記載からは、義務違反者の把握や催告について、一定の客観的な基準に沿った統一的・公平な運用を重視していることが読み取れます。
そして、その後の915号通達で、
「次に掲げるいずれかの事由を端緒として……職務上知ったときに限り」
という具体的な取扱いが示された、と理解することができます。
もっとも、これはマスタープランと通達の文言を合わせて読んだ場合の制度上の理解です。
915号通達自体が、
「この理由で2類型に限定した」
と明示しているわけではありませんので、そこまで断定することはできません。
催告されなければ住所変更登記をしなくていい?
ここで、もう一つ重要な点があります。
915号通達が申請の催告の端緒を2つの類型に限定しているからといって、
「この2つに当てはまらなければ、住所変更登記をしなくてもよい」
ということにはなりません。
不動産登記法第76条の5による住所等変更登記の申請義務は、それとは別に存在します。
所有権の登記名義人について住所・氏名等に変更があった場合には、原則として変更があった日から2年以内に住所等変更登記を申請しなければなりません。
ここでは、
「住所等変更登記を申請する義務があるか」
という問題と、
「登記官が過料手続に向けて申請の催告を行う端緒があるか」
という問題を分けて考える必要があります。
催告の端緒に該当しないことによって、法律上の申請義務そのものがなくなるわけではありません。
前回の記事で説明した、
「催告が来るまで登記しなくてもよい制度ではない」
という点は、今回の2つの端緒を知った後でも変わりません。
まとめ―「住所変更を知る方法」ではなく「催告の端緒」が2つ
令和7年10月30日付法務省民二第915号通達では、住所等変更登記の申請義務に違反したと認められる人に対し、登記官が申請の催告を行う端緒として、2つの場合を定めています。
一つは、所有権の登記名義人が表示に関する登記を申請した際、申請情報に記載された住所等と登記記録上の住所等が一致していなかった場合です。
もう一つは、住基ネット関係の情報から住所等の変更が確認された所有権の登記名義人が、職権による住所等変更登記についての意思確認通知を受領したものの、その登記を拒否した、または期限までに回答しなかった場合です。
そして興味深いのは、法務省のマスタープランではこれらが「例えば」として挙げられていたのに対し、後に発出された915号通達では、
「次に掲げるいずれかの事由を端緒として……職務上知ったときに限り」
という限定的な表現に変わっていることです。
ただし、これは「法務局が住所変更を知る方法が2つしかない」という意味ではありません。
また、この2つの端緒に該当しなければ住所変更登記をしなくてもよい、という意味でもありません。
法律上の住所等変更登記の申請義務と、登記官が申請の催告を行う端緒は別の問題です。
では、住所等変更登記を申請していないことについて、特別な事情がある場合はどうなるのでしょうか。
915号通達は、「正当な理由」がある場合には過料通知を行わないという取扱いを定め、さらに一般に「正当な理由」があると認められる事情を5つ具体的に示しています。
しかも、この5つに該当しなければ絶対に「正当な理由」が認められない、という制度でもありません。
次回は、「住所変更登記をしていなくても過料通知されない『正当な理由』とは?」を、915号通達の具体例まで確認しながら詳しく解説します。
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