共同創業者が会社を辞めるとき、株式はいくらで買い取るのか?
2026/06/28
「簿価」だけでは決まらない未公開株式の出口設計
共同経営者、幹部社員、元同僚などに株式を持ってもらい、一緒に会社を育てていく。
設立直後の会社では、よくある話です。
「責任を持って働いてほしい」
「将来の利益も共有したい」
「単なる従業員ではなく、共同経営者として迎えたい」
そのような思いから、親族以外の人に株式を渡すことがあります。
しかし、会社が成長した後、あるいは人間関係が変わった後に、難しい問題が出てくることがあります。
会社を離れる人の株式を、誰が、いくらで買い取るのか。
特に未公開会社では、上場株式のように毎日の市場価格がありません。
そのため、関係が悪くなってから株式の価格を決めようとすると、非常に揉めやすくなります。
「簿価で買い取る」とは、どういう意味でしょうか
株式の買戻しの話になると、「簿価で買い取る」という言葉が出ることがあります。
しかし、この言葉だけでは、実は金額は決まりません。
簿価とは、簡単にいえば、帳簿に記載されている金額です。
ただし、本来は、
誰の帳簿に載っているのか。
何の資産の簿価なのか。
いつの時点の金額なのか。
を確認しなければ、意味がはっきりしません。
たとえば、共同創業者の一人が、自ら又は自分の会社を通じて、設立時に1,000万円を出資して未公開株式を取得したとします。
その株式を保有している側の帳簿には、特段の事情がなければ、
○○株式会社株式 簿価1,000万円
という形で、取得時の金額が載っていることがあります。
この意味で「簿価で買い取る」という場合は、
最初に出資した金額、又は株式を取得した金額と同額で買い取る
という意味になります。
会社が成長していても、その成長分や将来性までは価格に上乗せしない、という考え方です。
発行会社の帳簿には、株主の株式は載っていません
ここは少し分かりにくいところです。
「その会社の株式を売買するのだから、発行会社の帳簿を見て価格を決めるのではないか」と考えるのは自然です。
しかし、会社の帳簿には、通常、
○○氏が保有する株式 簿価○円
という形では載っていません。
株主が保有する株式は、会社の資産ではなく、株主側の資産だからです。
発行会社の帳簿には、設立時に受け取った出資金が、資本金や資本剰余金などとして会社全体の純資産に計上されます。
一方、株主が保有する株式の取得価額は、その株主側の帳簿や、株式引受書、振込記録、株式譲渡契約書などで確認することになります。
つまり、同じ「帳簿」を見るとしても、
- 株式を保有している側の帳簿を見るのか
- 株式を発行した会社側の帳簿を見るのか
で、見えてくる数字が違います。
一株当たり純資産額も、重要な基準です
株式の価格を考えるとき、発行会社の決算書から、
総資産-負債=純資産
純資産÷発行済株式数=一株当たり純資産額
を計算する方法があります。
これは、会社の現在の財務状態を基礎にした、分かりやすい株式評価の方法です。
設立後に利益が積み上がっていれば、純資産は増えます。
その場合、設立時の出資額だけで株式を買い戻すよりも、現在の純資産を反映した方が公平ではないか、という考え方も十分にあります。
ただし、この一株当たり純資産額も、株式の唯一の正解ではありません。
あくまで、会社の帳簿を基礎にした評価方法の一つです。
また、相続税や贈与税の申告で用いる非上場株式の評価額は、単純に決算書の純資産を株数で割るだけではありません。
資産や負債を税務上の評価額へ修正し、一定の計算をして評価することがあります。
これは、不動産でいう路線価評価額と実勢価格の関係に似ています。
相続税評価額は、税務上のルールに従って計算した重要な数字です。
しかし、実際に市場で売却できる価格と、常に一致するとは限りません。
未公開株式でも同じです。
税理士が決算書や申告資料を基に一定の評価額を出すことはできます。
しかし、その数字が、共同創業者同士で実際に売買する際の唯一の適正価格になるとは限りません。
会社が育てば、帳簿に載らない価値も生まれます
通常の不動産保有会社のように、預金、不動産、借入金などが中心の会社であれば、純資産価額は会社の価値を考えるうえで非常に重要です。
一方で、事業会社では、帳簿の数字だけでは測りにくい価値があります。
たとえば、
- 顧客基盤
- 営業人脈
- 紹介ルート
- ブランド
- SNSや動画チャンネルの影響力
- 会員コミュニティ
- スポンサーや取引先との関係
- 将来の収益力
- 創業者本人の知名度や信用
などです。
こうした価値は、会社にとって重要であっても、通常はそのまま貸借対照表に資産として載っているわけではありません。
帳簿上の純資産がそれほど大きくなくても、事業としては高い価値を持つことがあります。
逆に、特定の創業者や営業担当者の知名度、人脈、出演、営業力に会社の価値が強く依存している場合、その人が離脱すること自体が会社の価値を下げる要因になることもあります。
つまり、共同創業者が離れる場面では、
その人が在籍している状態の会社価値
その人が離れた後の会社価値
のどちらを基準にするのかまで、問題になることがあります。
ここまで考えると、単純な割り算では答えが出ません。
取得価額で買い取ると、何が起こるのか
共同創業者が設立時に1,000万円を出資して株式を取得し、その後、同じ1,000万円で買い取られる場合を考えます。
その人にとっては、最初に出した元本相当額が戻ることになります。
しかし、会社が成長していたとしても、その成長分による利益は反映されません。
株式の譲渡という観点では、取得価額と同額で売却するため、基本的には株式譲渡による利益は生じません。
長年会社に関わり、事業を育ててきた人からすれば、
自分が頑張って会社を大きくした分が、株式の価格に反映されていない
と感じることは自然です。
一方、会社に残る側からすれば、
これから事業を続け、リスクを負担するのは残る側だ。
離脱する人に将来の成長分まで支払う余裕はない。
という考え方もあり得ます。
どちらかが当然に正しい、という話ではありません。
だからこそ、会社を始めるときに出口を考えておく必要があります。
本当に決めるべきことは、価格だけではありません
共同創業者が会社を離れるとき、問題になるのは株価だけではありません。
少なくとも、次のような点を考える必要があります。
誰が買い取るのか
会社が自己株式として取得するのか。
代表者個人が買い取るのか。
残る共同創業者が買い取るのか。
第三者へ譲渡するのか。
会社が買い取る場合には、会社法上の手続や財務上の制約も問題になります。
代表者個人が買い取る場合には、代金を一括で支払えるのか、分割払いにするのかも考える必要があります。
いつの時点で評価するのか
退職日なのか。
退任日なのか。
直近の決算日なのか。
買戻請求の日なのか。
大型契約の直前や、業績悪化の直前に離脱した場合、どの時点を基準にするかで価格は変わります。
どの方法で価格を決めるのか
取得価額を基準にするのか。
一株当たり純資産額を基準にするのか。
税務上の非上場株式評価額を使うのか。
収益力や将来性を踏まえた第三者評価を使うのか。
当事者間の協議に委ねるのか。
「簿価」という言葉だけでは、ここが決まりません。
契約書では、
譲渡人が本件株式を取得するために実際に支出した取得価額
直近の確定決算書を基準に算定した一株当たり純資産額
第三者専門家の評価による価額
など、どの方法を使うのかを具体的に書く必要があります。
退職理由によって、扱いを分ける考え方もあります
共同創業者が会社を離れる理由は、さまざまです。
円満に退職する場合。
病気や家庭の事情で働けなくなる場合。
会社側の都合で役割がなくなる場合。
短期間で自己都合退職する場合。
競業、秘密漏洩、顧客の引抜きなど、重大な問題がある場合。
これらをすべて同じ価格、同じ条件で扱うことが公平とは限りません。
長期間会社に貢献した共同創業者が円満に離脱する場合と、短期間で退職して競合会社へ移る場合では、株式の扱いを分ける考え方もあります。
ここは、会社側だけを守ればよいという話でもありません。
一方的に低い価格で株式を戻させる仕組みでは、株式を受け取る側が安心して会社に貢献できません。
逆に、離脱する人に常に最大限有利な価格を認めれば、会社に残る側の負担が重くなりすぎます。
双方にとって納得できる出口を設計する必要があります。
株式の買戻しは、必ずしも「勝ち負け」の問題ではありません
共同経営者や株主同士の関係が悪化したとき、理屈の上では、自分の株式はもっと高く評価されるべきだと考える場面があります。
逆に、会社に残る側からすれば、相手に高額な代金を支払うことには納得できないかもしれません。
しかし、関係が完全に壊れてしまった後は、株価だけを最大化することが、常に最善とは限りません。
交渉が長引けば、会社の重要な判断が止まることがあります。
取引先や従業員に不安を与えることもあります。
互いに相手の言動を気にし続け、本来注ぐべき仕事や次の事業に時間を使えなくなることもあります。
そのような状況では、多少の譲歩をしてでも、株式の処理と人間関係を早期に整理し、それぞれが次に進める状態を作ることに意味があります。
もちろん、自分に全く非がないのに、不当に低い条件を受け入れる必要はありません。
ただし、許容できる範囲の負担であれば、長期の対立を終わらせること自体に価値があります。
関係を清算し、新しい仕事や生活に力を使えるようになるからです。
株主間契約は、相手を一方的に縛るためだけの書類ではありません。
将来、やむを得ず関係が終わることになったとき、株式をどう処理し、どのように会社との関係を終えるのかを、あらかじめ決めておくための書類です。
言い換えれば、株主間契約は、互いに人生と仕事を前へ進めるための「出口」を用意する書類ともいえます。
まとめ
未公開会社の株式には、上場株式のような分かりやすい市場価格がありません。
そのため、「簿価で買い取る」という言葉だけでは、実際の価格は決まりません。
株式を保有している側の取得価額を意味するのか。
発行会社の帳簿純資産を基礎にした一株当たり純資産額を意味するのか。
税務上の評価額を意味するのか。
それとも、収益力やブランド、将来性まで考慮した企業価値を意味するのか。
同じ「簿価」という言葉でも、見ている帳簿と計算方法によって、意味は大きく変わります。
共同創業者、幹部社員、親族以外の出資者などに株式を渡す場合には、株式譲渡契約書、譲渡承認手続、株主名簿だけで十分かを確認する必要があります。
将来、誰かが会社を離れる可能性まで考え、株式を誰が、どの方法で、いくらで買い取るのかを、関係が良いうちに決めておくことが重要です。
それが、後日の大きな紛争を防ぎ、関係が終わるときにも、互いが次へ進むための出口になります。
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