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清算結了登記をすれば会社は消滅する?|決算報告承認決議が無効となった裁判例

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清算結了登記をすれば会社は消滅する?――決算報告承認決議が無効となった裁判例【清算手続き・4回】

清算結了登記をすれば会社は消滅する?――決算報告承認決議が無効となった裁判例【清算手続き・4回】

2026/10/16

株式会社の清算事務が終了すると、清算人は決算報告書を作成し、株主総会の承認を受けて清算結了登記を申請します。

 

では、株主総会で決算報告が承認され、法務局で清算結了登記が完了すれば、その会社は法律上も完全に消滅したといえるのでしょうか。

 

実は、そうとは限りません。

清算事務が適切に終了していなければ、決算報告を承認した株主総会決議が無効となる場合があります。

 

実際に、清算会社が債権者への弁済に必要な財産を留保せず、株主に残余財産を分配したことから、決算報告を承認した株主総会決議が無効とされた裁判例があります。

東京地裁平成27年9月7日判決と、その控訴審である東京高裁平成28年2月10日判決です。

この事件には、清算人が「会社に支払義務はない」と考えていても、債権者保護のために財産を残しておかなければならない場合がある、という重要な問題が含まれています。

 

さらに、清算結了登記が完了していても、実体的な清算事務が終わっていなければ、会社の法人格が存続する場合があります。

 

全4回の最終回では、これらの問題を裁判例と会社法の規定から考えていきます。

 

1.決算報告が承認されれば、株式会社の清算は終わるのか

会社法507条1項は、清算株式会社について、清算事務が終了したときは、遅滞なく決算報告を作成しなければならないと定めています。

そして、同条3項は、清算人が決算報告を株主総会に提出し、又は提供して、その承認を受けなければならないと定めています。

清算人会設置会社では、これに先立ち清算人会の承認も必要です(同条2項)。

その後、会社法929条1号に基づき、決算報告の承認の日から2週間以内に清算結了登記を申請します。

 

決算報告は単なる登記書類ではない

清算結了登記には、決算報告について株主総会の承認があったことを証する書面を添付します(商業登記法75条)。

そのため、登記実務では、決算報告書と株主総会議事録が重要な書類になります。

 

しかし、会社法507条が予定しているのは、清算事務が終了した後に、その結果を決算報告としてまとめ、株主総会の承認を受けるという順序です。

 

清算事務が終了していないのに、決算報告を承認する株主総会を開催すれば、それで清算が適法に終了するというものではありません。

清算人が行った債務の弁済や残余財産の分配が、会社法の規定に適合していることも重要になります。

 

この点が争われたのが、今回の裁判例です。

 

2.決算報告承認決議が無効となった裁判例――事件の経緯

今回取り上げるのは、次の裁判例です。

 

東京地裁平成27年9月7日判決

平成26年(ワ)第26378号

株主総会決議無効確認等請求事件

 

その控訴審が、東京高裁平成28年2月10日判決(平成27年(ネ)第5061号)です。

 

まず、事件の経緯を整理します。

 

除染技術の事業化を目的として設立された会社

清算会社Yは、原告Xが保有していた放射性物質の除染技術に関する特許やノウハウを事業化するため、平成24年12月に設立されました。

当初、YはXの完全子会社でした。

その後、事業提携相手であるZから出資を受け、Yの事業を進めることになりました。

 

この事業提携に関する基本合意では、Yが解散した場合の残余財産について、特別な分配方法が定められていました。

現預金などの金融資産はZが取得し、それ以外の財産はXが取得するという内容です。

 

通常、株式会社の残余財産は、株主の持株数に応じて分配されます(会社法504条3項)。

 

しかし、この会社では、当事者間の合意によって異なる分配方法が定められていたのです。

 

なお、その後の株式譲渡などによって、実際の残余財産分配時には基本合意の当事者以外の株主も存在していました。Yは、その株主に対しては持株割合に応じた分配を行っています。

 

その後、事業の遂行が困難になったことから、Yは平成25年11月20日に解散しました。

 

原告Xが会社に費用の支払を請求していた

清算手続を進める中で、YとXとの間に別の問題がありました。

 

Xは、Yの事業に関連して支出した費用について、Yに支払義務があると主張していました。

その内容には、出向者に関する費用や、事業のために立て替えた経費などが含まれていました。

Xが請求していた金額は、229万7220円でした。

 

これに対してYは、一部の12万4533円について支払義務を認め、相殺処理を行いました。

しかし、残りの217万2687円については、Yが負担すべき債務ではないとして、その支払義務を争っていました。

つまり、XはYに対して債権を有すると主張していましたが、Yは残額について債務の存在を認めていなかったのです。

 

一度は217万2687円を留保していた

Yは、平成26年6月30日、残余財産の分配を行いました。

このとき、Xが請求している217万2687円については、いったん会社に留保していました。

争いのある債権について、支払に備えるための財産を残しておいたわけです。

 

その後、Xは平成26年7月4日、内容証明郵便により、改めて費用の支払などを求めました。

 

それにもかかわらず、Yは同年7月10日、留保していた217万2687円についても、Zと別の株主に残余財産として分配しました。

 

そして同日、臨時株主総会を開催し、清算事務が終了したとして決算報告を承認しました。

 

この一連の経緯が、後の裁判で重要になります。

 

原告Xは2つの請求をした

Xは、Yに対して次の2つを請求しました。

 

•  株主総会における決算報告承認決議の無効確認

•  株主としての残余財産の分配

 

ここで注意したいのは、Xには株主としての立場と、Yに費用の支払を求める債権者としての立場があったということです。

この2つの立場は、裁判所の判断を理解するうえで重要になります。

 

3.なぜ決算報告承認決議は無効になったのか――会社法502条の判断

株主としての残余財産分配請求は認められなかった

まず、Xが株主として残余財産の分配を求めた点について、東京地裁はその請求を認めませんでした。

前述のとおり、Yの残余財産については、現預金などの金融資産をZ側が取得し、それ以外の財産をXが取得するという特別な合意がありました。

 

裁判所は、この合意について、当時の全株主による同意があったことなどから、残余財産の分配に関する属人的な定めとして有効であると判断しました。

そして、Yには現預金その他の金融資産以外の財産が認められなかったため、Xに分配すべき残余財産はないと判断しました。

 

ただし、これは本件の合意内容や株主間の事情を前提とした判断です。

全株主が同意すれば、定款の形式を問わず、どのような残余財産分配の合意でも有効になるという意味ではありません。

 

債権者としての立場では、別の問題があった

一方、XがYに対して請求していた217万2687円の費用については、別の法律問題がありました。

 

会社法502条本文は、次の原則を定めています。

清算株式会社は、債務を弁済した後でなければ、その財産を株主に分配することができません。

 

つまり、会社の債権者への弁済が、株主に対する残余財産の分配に優先するということです。

 

もっとも、同条ただし書は、債権の存否又は額について争いがある場合に、その弁済に必要と認められる財産を留保すれば、債務の弁済前でも残余財産を分配できると定めています。

このただし書は、争いのある債権を無視してよいという意味ではありません。

債権者への弁済に必要な財産を確保しながら、清算手続を進められるようにする規定です。

 

第一審――争いのある債権のために財産を留保する必要があった

東京地裁は、XとYとの間では、Xが請求していた費用について、Yに支払義務があるかどうかが争われていたと認定しました。

 

Yは、残りの217万2687円について、そもそも会社の債務になる余地がないと主張していました。

 

しかし、裁判所は、Xが具体的な金額や根拠を示して請求していたことなどを踏まえ、Yの債務となる余地がないことが明らかとまでは認められないと判断しました。

 

東京地裁は、債権者が債権の存在や金額についての根拠を全く示さないなどの特段の事情がない限り、債権の存否や額が確定するまでは、相当の財産を留保せずに残余財産を分配してはならないという考え方を示しています。

 

本件では、Xが具体的な根拠や金額を示していたため、そのような特段の事情は認められませんでした。

そのため、Yは、争いのある債権の弁済に必要な財産を留保しないまま、株主に残余財産を分配してはならなかったのです。

 

ところがYは、いったん留保していた217万2687円も、最終的には他の株主に分配してしまいました。

 

東京地裁は、この残余財産分配が会社法502条に違反すると判断しました。

そして、会社法502条に違反する残余財産分配を内容とする決算報告を承認した株主総会決議は、その内容が法令に違反するため無効であると判断しました。

 

会社法830条2項は、株主総会決議の内容が法令に違反するときは、訴えによって決議の無効確認を請求できることを定めています。

 

本件では、決算報告承認決議の無効確認請求が認められた一方、Xの残余財産分配請求は棄却されました。

 

控訴審――清算人が債務を否定しても、留保義務はなくならない

Yは第一審判決を不服として控訴しました。

 

東京高裁平成28年2月10日判決は、Yの控訴を棄却し、決算報告承認決議を無効とした第一審の判断を維持しました。

 

高裁は、会社法502条本文について、株主の残余財産分配請求権が会社債権者の債権に劣後することを明らかにした規定であると説明しています。

そして、同条ただし書については、清算手続を迅速に進めるため、争いのある債権の存否や額についての最終的な判断を留保する趣旨の規定であるとしています。

 

高裁が特に明確にしたのは、次の点です。

債権者が債権の存在と金額を示し、所定の手続によって支払を請求している場合には、清算会社や清算人が、その債権は会社の債務になり得ないと考えていても、会社法502条ただし書の「争いのある債権」に当たると判断しました。

 

したがって、清算人がその債権を一方的に排斥して、必要な財産を留保せずに株主へ残余財産を分配することは許されないとされたのです。

 

Yは控訴審で、Xが債権の根拠を全く示していなかったとも主張しました。

 

しかし、高裁は、Xが請求書や領収書などを添付し、請求金額を示していたことから、この主張も採用しませんでした。

 

裁判所が債権の存在を確定したわけではない

この判決を理解するうえで、もう一つ注意すべき点があります。

 

裁判所は、Xが主張していた217万2687円の債権について、その全額が実際に存在することを確定したわけではありません。

 

問題とされたのは、債権の存否や額について争いがあるにもかかわらず、必要な財産を留保せずに残余財産を分配したことです。

 

債権の存在を確定することと、争いのある債権のために財産を留保することは、別の問題です。

 

また、この判決は、債権者が根拠を示さず金銭を請求しただけで、どのような場合にも財産留保義務が生じると判断したものではありません。

 

本件では、Xが具体的な金額と根拠を示して請求していたという事情が重要でした。

この裁判例を踏まえると、清算人自身が債務は存在しないと考えている場合でも、債権者から具体的な根拠と金額を示した支払請求を受けているときには、その債権のために財産を留保する必要がないか、慎重に検討しなければなりません。

 

4.株主総会の承認があっても、清算事務の不備は解消されない

会社法507条は、清算事務が終了した後に決算報告を作成し、株主総会の承認を受けることを要求しています。

 

今回の裁判例では、その承認決議自体が無効とされました。

なぜでしょうか。

 

Yは、Xが主張する債権について、いったん財産を留保していました。

しかし、その後、支払義務がないと判断し、留保していた財産も株主へ分配しました。

その結果、会社法502条に違反する残余財産分配が行われました。

そして、その分配を内容とする決算報告が株主総会で承認されたのです。

 

裁判所は、この承認決議について、その内容が法令に違反すると判断しました。

株主総会で決算報告を承認したからといって、清算人が行った違法な残余財産分配が適法になるわけではありません。

 

決算報告の承認と清算人の責任

会社法507条4項は、決算報告について株主総会の承認があったときは、任務を怠ったことによる清算人の損害賠償責任が免除されたものとみなすと定めています。

ただし、清算人の職務執行に関して不正の行為があったときは、この限りではありません。

 

このように、決算報告の承認には、清算人の責任に関係する法的な意味もあります。

 

もっとも、今回の東京地裁・東京高裁判決は、清算人個人の損害賠償責任の有無や、会社法507条4項による責任免除の成否を直接判断したものではありません。

 

本件で認められたのは、会社法502条に違反する残余財産分配を内容とした、決算報告承認決議の無効です。

清算人の個人責任とは区別して理解する必要があります。

 

登記に必要な決算報告書を作るだけでは足りない

清算結了登記では、決算報告の承認があったことを証する書面を添付します。

 

しかし、今回の判決が示しているように、株主総会議事録を作成し、決算報告を承認したという形式だけでは、実体的な清算事務の不備を解消できない場合があります。

 

清算人が債権者への弁済や残余財産分配について適切な処理を行い、その結果として決算報告を作成することが重要です。

これは、登記申請書類の作成と、会社法上必要な清算手続を履行することが、必ずしも同じではないという問題でもあります。

 

5.清算結了登記後も会社が存続する場合がある

では、清算結了登記が完了した後に、会社の債務が残っていたことが判明した場合はどうなるのでしょうか。

 

登記簿には清算結了の登記がされているのだから、会社の法人格は既に消滅しているのでしょうか。

 

この点については、会社法476条が重要になります。

同条は、清算株式会社について、清算の目的の範囲内で、清算が結了するまではなお存続するものと定めています。

したがって、実体的な清算事務が終了しているかどうかが問題になります。

 

清算結了登記によって法人格が当然に消滅するわけではない

この問題について、国税不服審判所平成22年12月16日裁決があります。

 

この事案では、会社が清算結了登記をした後、税務署による更正処分等が行われました。

 

会社側は、清算結了登記によって法人格は消滅しており、その後にされた課税処分は無効であると主張しました。

 

しかし、国税不服審判所は、この主張を認めませんでした。

同裁決は、清算結了登記について、清算が結了した事実を公示する効力を有するものであり、それ自体によって法人格を消滅させる効力があるわけではないとしています。

そして、会社に課されるべき国税や納付すべき租税債務などが残っている場合には、清算事務はまだ終了しておらず、会社は清算の目的の範囲内で存続すると判断しました。

 

本件では、清算結了登記がされていても、会社の法人格は消滅していないとされたのです。

参考:国税不服審判所「平成22年12月16日裁決」

 

東京地裁・東京高裁判決とは別の問題

ここで紹介した国税不服審判所の裁決は、先ほどの東京地裁・東京高裁の裁判例とは別の事案です。

 

東京地裁・東京高裁の事件では、会社法502条に違反する残余財産分配を内容とする決算報告承認決議が無効と判断されました。

 

一方、国税不服審判所の裁決では、清算結了登記後も租税債務等が残っていた会社について、法人格が存続しているかどうかが問題となりました。

 

判断された法律問題は異なります。

ただし、両者に共通するのは、決算報告の承認や清算結了登記と、実体的な清算事務の終了を区別していることです。

登記が完了していても、実体的な清算事務が終わっていなければ、会社法上の問題が残る場合があります。

 

なお、清算結了登記後に清算未了の事実が判明した場合の具体的な登記手続については、別途、事案に応じた検討が必要です。

 

6.清算結了後も帳簿資料は10年間保存しなければならない

最後に、清算結了後の帳簿資料の保存について説明します。

清算結了登記が完了すると、会社に関する書類もすべて処分してよいと考えるかもしれません。

しかし、会社法508条は、清算人に対して、清算結了後も一定期間、帳簿資料を保存することを義務付けています。

 

会社法508条による10年間の保存義務

会社法508条1項は、清算人について、清算株式会社の本店所在地における清算結了の登記の時から10年間、次の資料を保存しなければならないと定めています。

 

•  清算株式会社の帳簿

•  会社の事業に関する重要な資料

•  清算に関する重要な資料

 

ここで重要なのは、保存期間の起算点です。

10年間という期間は、会社の解散日からではありません。

また、清算事務が終了した日や、決算報告を承認した株主総会の日からでもありません。

清算結了登記の時から10年間です。

 

会社を閉じたからといって、帳簿や清算に関する重要な書類を直ちに廃棄することはできません。

 

清算人が保存できない場合はどうするのか

会社法508条2項は、利害関係人の申立てにより、裁判所が清算人に代わって帳簿資料を保存する者を選任できることを定めています。

 

例えば、清算人が高齢になったり、海外へ転居したりして、帳簿資料の保存を継続することが困難になる場合があります。

東京地方裁判所は、こうした場合の帳簿資料保存者選任申立事件について、公式のQ&Aを公開しています。

同Q&Aでは、清算人が保存を行うことに支障があり、代わりに適切に保存できる者が存在することなどが必要とされています。

 

なお、単に清算人の自宅に保管場所がないというだけでは、裁判所による保存者選任が必要な事情とは認められないと説明されています。

参考:東京地方裁判所「帳簿資料保存者選任申立事件についてのQ&A」

 

このように、清算結了登記が完了した後にも、清算人には法律上の義務が残ります。

 


株式会社の解散・清算は、登記申請書類をそろえるだけで終わるものではありません。

 

解散時の財産状況を把握し、債権者保護手続を行い、会社の債権・債務を整理する。そのうえで残余財産を分配し、清算事務の終了後に決算報告を作成して、株主総会の承認を受けます。

 

今回の裁判例では、清算人が債務の存在を否定していたにもかかわらず、争いのある債権のために必要な財産を留保せず、株主に残余財産を分配したことが問題となりました。

その結果、決算報告を承認した株主総会決議が無効と判断されています。

 

また、清算結了登記が完了していても、実体的な清算事務が終了していなければ、会社の法人格が存続する場合があることも確認しました。

株式会社の清算結了は、登記申請だけで完結するものではありません。会社法上要求される清算事務を適切に終了させることが重要です。

 

これが、全4回を通じてお伝えしたかった、株式会社の解散・清算手続の基本です。

 


主な参考法令・資料

• 会社法109条2項・476条・481条・502条・504条・507条・508条・830条2項・929条1号

• 会社法施行規則150条

• 商業登記法75条

• 東京地裁平成27年9月7日判決・平成26年(ワ)第26378号・株主総会決議無効確認等請求事件

• 東京高裁平成28年2月10日判決・平成27年(ネ)第5061号・株主総会決議無効確認等請求控訴事件

• 国税不服審判所「平成22年12月16日裁決」

• 東京地方裁判所「清算事務の終了等」

• 東京地方裁判所「帳簿資料保存者選任申立事件についてのQ&A」

• 法務局「商業・法人登記の申請書様式」(株式会社清算結了登記申請書)

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