株式会社の清算で借入金・売掛金が残ったら?――債権放棄と清算結了登記【清算手続き・3回】
2026/10/15
株式会社を解散することになったものの、会社には社長からの借入金が残っている。
あるいは、取引先に対する売掛金が回収できないまま残っている。
このような場合、清算結了登記をすることはできるのでしょうか。
中小企業では、社長が会社に資金を貸し付けていることがあります。会社を閉じるのであれば、社長への返済はしなくてもよいと考えるかもしれません。
しかし、会社と社長は法律上別の人格です。会社が社長から借りたお金は、会社の解散によって当然になくなるわけではありません。
一方、取引先から回収できない売掛金についても、回収の見込みがないからといって、直ちに法律上の債権が消滅するわけではありません。
株式会社の清算では、会社に残っている債権・債務をどのように整理するかが重要になります。
特に、社長からの借入金を債権放棄によって処理する場合には、民法上の債務免除の効力だけでなく、税務上の取扱いや清算結了登記の実務も関係してきます。
1.借入金や売掛金が残っていても清算結了できるのか
株式会社は解散しても、その時点で法人格が消滅するわけではありません。
会社法476条は、解散した株式会社について、清算の目的の範囲内で、清算が結了するまで存続するものと定めています。
そして、会社法481条は、清算人の職務として次の3つを定めています。
• 現務の結了
• 債権の取立て及び債務の弁済
• 残余財産の分配
今回問題になるのは、2番目の「債権の取立て及び債務の弁済」です。
会社が解散する場合、清算人は、会社が持っている売掛金などを取り立て、借入金や未払金などの債務を整理する必要があります。
そのうえで、債務を弁済した後に財産が残れば、株主に残余財産を分配します。
ただし、会社に債権や債務が残っているというだけで、あらゆる場合に清算結了が不可能になるわけではありません。
債務であれば、弁済のほか債務免除などによって消滅させることが考えられます。
一方、売掛金などの債権については、回収や適切な処理が必要になります。
重要なのは、帳簿に残っている金額だけを見て判断するのではなく、法律上の債権・債務がどのような状態にあるのかを確認することです。
2.社長からの借入金を返せない場合――債権放棄による債務免除
社長からの借入金も会社の債務である
中小企業では、社長が会社の運転資金などを個人的に貸し付けている場合があります。
会計上は「役員借入金」などとして処理されることがありますが、法律上は会社が社長からお金を借りているという関係です。
例えば、社長が会社に500万円を貸し付けているとします。
社長が会社の株式を100%保有していても、会社と社長は別人格です。
会社にとっては500万円の借入金があり、社長個人にとっては会社に対する500万円の貸付債権があります。
会社が解散しても、この債権・債務関係は当然には消滅しません。
会社に返済するだけの財産があれば、清算手続の中で弁済を検討することになります。
ただし、第2回で説明したとおり、会社法500条は債権申出期間中の債務弁済を原則として制限しているため、弁済時期にも注意が必要です。
では、会社に返済するだけの財産がない場合は、どうすればよいのでしょうか。
民法519条による債務免除
民法519条は、債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権が消滅すると定めています。
先ほどの例であれば、社長が会社に対して500万円の貸付債権を放棄する意思を表示することにより、会社の対応する借入債務を消滅させることができます。
債権者である社長から見れば「債権放棄」、債務者である会社から見れば「債務免除」です。
同じ法律関係を、異なる立場から表した言葉です。
ただし、債権放棄の意思表示が実際に行われたことと、会計帳簿上の借入金を消去することは別問題です。
単に決算書から借入金を消しただけでは、法律上の債務が当然に消滅するわけではありません。
そこで実務上は、放棄する債権の内容や金額を特定し、社長が会社に対する債権を放棄することを記載した債権放棄証書を作成することが考えられます。
民法519条は債務免除について一律に書面の作成を要求しているわけではありませんが、証拠を残しておくことは重要です。
債務免除には税務上の問題もある
ここで注意したいのは、社長が会社に対する貸付債権を放棄すると、会社側では通常、債務免除益が生じることです。
会社にとっては、返済しなければならなかった債務が消滅するため、その分が税務上の益金となります。
ただし、債務免除益が生じることと、最終的に法人税が課されることは別問題です。
清算中の会社については、繰越欠損金や期限切れ欠損金の取扱いが関係する場合があります。
法人税法59条4項は、解散した法人で残余財産がないと見込まれる場合について、一定の要件の下で期限切れ欠損金を損金に算入できる制度を定めています。
ただし、債務免除益が発生しても必ず課税されないというわけではありません。
また、債務超過の会社であれば、どのような場合でも税金がかからないということでもありません。
債権放棄を実行する前に、税理士と連携し、税務上の影響を確認することが重要です。
3.債権放棄証書が必要になる場合――清算結了登記の実務
ここからは、清算結了登記に関する具体的な実務上の問題です。
会社が社長からの借入金について債務免除を受けた場合、その事実を清算結了登記でどのように取り扱うのでしょうか。
この問題について、商業登記実務の解説で紹介されている照会例があります。
株主総会で債権放棄を表明しただけでは足りないとされた照会例
吉野太人氏による「会社法施行後における商業登記実務の諸問題(7)」(『登記情報』557号、2008年4月号)について、日本公認会計士協会東海会の令和3年9月10日研修資料「最近話題の税務実務」でも、次の照会と回答が紹介されています。
照会の概要
株式会社の清算結了登記の申請に添付された決算報告書には、会社の負債が残っている旨が記載されていました。
一方、株主総会議事録には、その負債はすべて株主3名からの借入金であり、株主らが株主総会の席上で一切の債権を放棄した旨が記載されていました。
この場合、清算結了登記を受理できるかという問題です。
紹介されている回答
この内容では、清算結了登記の申請を受理することはできません。
しかし、決算報告書に記載された負債について、債権放棄証書が添付されている場合には、申請を受理することができるとされています。
なぜ株主総会議事録だけでは足りなかったのか
この照会で注目したいのは、株主総会議事録に債権放棄の記載があったにもかかわらず、そのままでは清算結了登記が受理されないとされたことです。
民法519条による債務免除の効力と、清算結了登記において債務が整理されたことをどのように確認するかは、分けて考える必要があります。
紹介されている回答は、株主総会の席上で行われた債権放棄の意思表示そのものが、民法上無効であると判断したものではありません。
また、債権放棄証書を添付すれば、どのような負債が残っていても清算結了登記が受理されるという意味でもありません。
この照会例では、決算報告書に残っている負債について、債権放棄証書を添付することにより、登記の受理が認められています。
特定の事実関係を前提とした登記実務上の取扱いとして理解する必要があります。
債務免除を反映した決算報告書を作成する方法
これとは別に、債務免除の効力が生じた後、その事実を会計処理に反映させ、負債が整理された状態で決算報告書を作成することも考えられます。
この場合には、債権放棄の時期、会計処理、決算報告書の内容に矛盾がないよう整理する必要があります。
債務免除益の税務上の処理についても、税理士との確認が必要です。
なお、債権放棄証書は、すべての清算結了登記に一律に必要な添付書類ではありません。
通常の添付書類とは別に、残存する負債の処理が問題となる場合の資料として位置付けられます。
清算結了登記の書類を整える際には、決算報告書にどのような債務が残っているのか、その債務が法律上どのように処理されたのかを確認することが重要です。
4.回収できない売掛金が残っている場合――清算人はどう整理するのか
ここまでは、会社が社長からお金を借りている場合を取り上げました。
今度は、会社が取引先に対して売掛金を持っている場合です。
両者は、法律関係が逆になります。
| 項目 | 社長からの借入金 | 取引先への売掛金 |
|---|---|---|
| 会社の立場 | 債務者 | 債権者 |
| 相手方の立場 | 社長が債権者 | 取引先が債務者 |
| 基本的な清算事務 | 債務の弁済・整理 | 債権の取立て・整理 |
| 債権放棄をする者 | 社長などの債権者 | 会社自身 |
売掛金が回収できない場合
例えば、会社が取引先に対して300万円の売掛金を持っているとします。
ところが、取引先の経営が悪化し、支払を受けられない状態になっていました。
会社を清算するのであれば、この300万円をどのように処理するかが問題になります。
会社法481条は、清算人の職務として債権の取立てを定めています。
したがって、清算人は売掛金の存在を確認し、回収可能性を調査する必要があります。
しかし、取引先に支払能力がなく、現実には回収できない場合もあります。
ここで注意したいのは、回収できないことと、法律上の債権が消滅していることは同じではないという点です。
会計上の貸倒処理と法律上の債権の消滅は異なる
税務上は、一定の要件の下で、回収不能となった売掛金などを貸倒損失として処理できる場合があります。
国税庁は「貸倒損失として処理できる場合」において、金銭債権が法律上切り捨てられた場合、全額回収不能となった場合、一定期間取引停止後に弁済がない場合などを区別して説明しています。
例えば、債務者の資産状況や支払能力などから金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合には、一定の要件の下で貸倒損失として処理することが認められています。
しかし、会計・税務上の貸倒処理をしたからといって、その債権が民法上当然に消滅するわけではありません。
貸倒損失として処理するための要件と、法律上債権が消滅するための要件は異なります。
この違いは、株式会社の清算においても重要です。
参考:国税庁「No.5320 貸倒損失として処理できる場合」
会社が売掛債権を放棄する場合
会社自身が債権者であるため、会社が取引先に対する売掛債権を放棄する方法も考えられます。
民法519条により、会社が債務者に対して債務免除の意思を表示すれば、その債権は消滅します。
ただし、社長が会社に対する貸付債権を放棄する場合とは、事情が異なります。
会社が売掛債権を放棄することは、会社に属する財産を処分する行為です。
清算人は、会社の債権者や株主の利益にも配慮しながら、その処理が適切かどうかを判断する必要があります。
また、税務上、債権放棄による損失がどのように取り扱われるかも確認しなければなりません。
したがって、回収できない売掛金があるからといって、清算人が安易に債権放棄を行えばよいというわけではありません。
未回収債権が残ったまま清算結了できるのか
未回収の売掛金などが存在する場合、原則として、清算人はその回収や適切な処理を行う必要があります。
清算人の職務が終了していないのであれば、清算事務がすべて終了したものとして扱うことには問題があります。
もっとも、法律上は債権が存在していても、実際には回収不能となっている場合については、その事情や処理の状況によって、清算事務が終了したと評価できるかどうかが問題になります。
この点は、未回収の債権が残っているという事実だけで、一律に結論を出すことはできません。
特に、登記が受理されるかという形式的な問題と、会社法上、清算事務が実体的に終了しているかという問題は区別する必要があります。
清算人がどのような調査・回収・処理を行ったのかを確認し、それに応じた判断が必要になります。
5.会社が債務超過の場合――通常清算だけで進められるのか
社長からの借入金などが残っている場合、債権放棄によって会社の債務を整理できることがあります。
しかし、すべての債権者が債権放棄に応じるとは限りません。
会社の財産では、残っている債務を完済できない場合もあります。
そのような場合には、通常の清算手続だけで進めてよいのかを検討する必要があります。
会社法484条による破産手続開始の申立義務
会社法484条1項は、清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、清算人は直ちに破産手続開始の申立てをしなければならないと定めています。
つまり、会社の財産では債務を完済できないことが明らかになった場合には、清算人に法定の申立義務が生じます。
社長からの借入金について債権放棄が見込まれる場合でも、現実に債務がどのように処理されているかを確認しなければなりません。
将来、債権放棄を受けられるかもしれないというだけで、同条の申立義務を考慮しなくてよいわけではありません。
特別清算という手続もある
会社法510条は、特別清算開始の原因として、清算の遂行に著しい支障を来すべき事情があることや、債務超過の疑いがあることを定めています。
特別清算は、裁判所の監督の下で進められる清算手続です。
通常清算、特別清算、破産手続のいずれを検討すべきかは、会社の財産状況、債務の内容、債権者との関係などによって異なります。
債務超過の疑いがある場合や、債務の完済が困難な場合には、登記手続だけを進めるのではなく、必要に応じて弁護士・税理士等とも連携し、適切な手続を検討することになります。
6.債権・債務の整理を終えた後の清算結了登記
会社の債権・債務について必要な処理を終え、清算事務が終了したときは、清算人は決算報告を作成します。
会社法507条1項は、清算事務が終了した場合、遅滞なく決算報告を作成しなければならないと定めています。
そして、同条3項により、その決算報告を株主総会に提出し、又は提供して承認を受ける必要があります。
決算報告書には何を記載するのか
会社法施行規則150条は、決算報告に記載する事項を定めています。
主な内容は次のとおりです。
• 債権の取立て、資産の処分などによって得た収入の額
• 債務の弁済、清算に係る費用の支払などによる費用の額
• 残余財産の額
• 1株当たりの分配額
また、残余財産の分配を完了した日など、所定の事項を注記する必要があります。
この決算報告は、清算人が行った清算事務の結果を株主に報告し、その承認を受けるためのものです。
清算事務が実際には終了していないのに、形式上の決算報告書を作成して株主総会の承認を得ればよいというものではありません。
清算結了登記に必要な書類との違い
商業登記法75条は、清算結了登記の申請書に、会社法507条3項による決算報告の承認があったことを証する書面を添付するよう定めています。
しかし、清算結了登記の添付書類をそろえることと、会社に残っている債権・債務を適切に処理することは別問題です。
例えば、社長からの借入金について債務免除を受けるのであれば、その法律上の効力と会計・税務処理を確認する必要があります。
また、回収不能な売掛金が残っているのであれば、どのような事情で回収できないのか、清算人がどのように処理したのかを整理する必要があります。
清算結了登記は、清算人が行うべき清算事務を省略するための手続ではありません。
会社法上の清算事務を適切に終え、その結果を決算報告書にまとめ、株主総会の承認を受けたうえで登記することが基本となります。
株式会社の解散・清算では、社長からの借入金や未回収の売掛金などが残っていることがあります。
社長からの借入金については、債権放棄によって会社の債務を消滅させる方法があります。
一方、未回収の売掛金については、会社が有する債権として、回収可能性や法律上の処理を検討する必要があります。
どちらの場合も、会計帳簿上の数字を整理するだけでなく、法律上の債権・債務がどのような状態にあるのかが重要です。
そして、清算事務を終えた後には、会社法507条に基づく決算報告を作成し、株主総会の承認を受けることになります。
では、その決算報告の承認を受ければ、清算が適法に結了したといえるのでしょうか。
次回は、債権者への弁済に必要な財産を留保しないまま株主に残余財産を分配し、決算報告を承認した株主総会決議が無効とされた裁判例を取り上げます。
東京地裁平成27年9月7日判決及び東京高裁平成28年2月10日判決を通じて、清算事務の終了、決算報告の承認、清算結了登記の関係を詳しく検討します。
主な参考法令・資料
• 会社法476条・481条・484条・499条・500条・502条・507条・510条・929条
• 会社法施行規則150条
• 商業登記法75条
• 民法519条
• 法人税法59条4項
• 国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」
• 日本公認会計士協会東海会・太田達也氏「最近話題の税務実務」(令和3年9月10日)
• 吉野太人「会社法施行後における商業登記実務の諸問題(7)」『登記情報』557号(2008年4月号)〔照会・回答の内容は上記研修資料を通じて確認〕
----------------------------------------------------------------------
中野司法書士事務所
東京都杉並区高円寺南4-28-10
高円寺リリエンハイム407
電話番号 :
03-6272-4260
杉並区で満足度の高い商業・法人登記/会社法務業務
----------------------------------------------------------------------