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ガーナ人男性の生活保護訴訟|千葉地裁・東京高裁が認めなかった理由

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ガーナ人男性の生活保護訴訟――千葉地裁・東京高裁はなぜ保護を認めなかったのか【外国人の生活保護・2回】

ガーナ人男性の生活保護訴訟――千葉地裁・東京高裁はなぜ保護を認めなかったのか【外国人の生活保護・2回】

2026/10/20

外国人には生活保護法に基づく受給権がありません。

しかし、一定の外国人については、行政措置として生活保護法に準じた保護が行われています。

第1回では、平成26年最高裁判決をもとに、この二つの違いを説明しました。

 

では、日本で重い病気になり、療養のための在留を認められている外国人が生活に困窮した場合はどうなるのでしょうか。

実際に、この問題が争われた裁判があります。

原告は、継続的な人工透析を必要とするガーナ国籍の男性です。生活保護を申請しましたが、千葉市は認めず、千葉地裁と東京高裁でも原告の請求は認められませんでした。

なぜ、日本での療養を認められていたにもかかわらず、生活保護法による保護だけでなく、行政措置による保護も認められなかったのでしょうか。

 

ガーナ人男性はどのような経緯で日本に在留していたのか

今回の原告は、ガーナ共和国の国籍を有する男性です。

まず確認しておきたいのは、この男性は治療を受けるために日本へ来たわけではないという点です。

 

平成27年(2015年)2月、「留学」の在留資格で来日しました。

その後、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に変更して就労していましたが、在留資格を失う時期もありました。

 

平成30年頃に体調を崩し、平成31年3月頃には末期の腎不全に進行しました。同じ頃から人工透析を開始し、その後も週3回の透析治療を受けていました。

腎臓機能障害により、身体障害者手帳1級の交付も受けています。

 

こうした状況の中、男性は法務大臣から在留特別許可を受け、「特定活動」という在留資格で日本に滞在することになりました。

 

「特定活動」でも就労は認められていなかった

「特定活動」は、法務大臣が個々の外国人について、日本で行うことのできる活動を指定する在留資格です。

 

今回の男性に指定されたのは、日本の医療機関で治療を受ける必要がある特別な事情を持つ者による、疾病のための療養活動及び日常的な活動でした。

ただし、その指定には、

「収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を除く。」

という制限が付いていました。

 

つまり、男性は日本で療養することを認められていましたが、指定された活動の範囲では、収入を得るための事業や就労は認められていなかったのです。

今回の裁判を理解するうえでは、この在留資格の内容が重要になります。

 

千葉市はなぜ生活保護申請を却下したのか

男性は令和3年(2021年)11月18日、千葉市長に生活保護を申請しました。

 

しかし、千葉市長は同年12月1日、申請を却下しました。

千葉市が検討したのは、次の二つです。

 

生活保護法に基づく保護

一つ目は、生活保護法そのものに基づく保護です。

平成26年最高裁判決によれば、生活保護法1条・2条の「国民」は日本国民を意味し、外国人には同法に基づく受給権がありません。

千葉市は、男性が外国人であり、生活保護法の「国民」に該当しないことを理由に、申請を認めませんでした。

 

昭和29年通知に基づく行政措置

二つ目は、昭和29年通知を踏まえた行政措置としての保護です。

第1回で説明したとおり、外国人には生活保護法上の受給権がなくても、一定の場合には行政措置によって生活保護に準じた保護が行われています。

 

しかし千葉市は、男性の在留資格では、行政措置としての保護の要件にも該当しないと判断しました。

 

したがって今回の事件は、単に外国人には生活保護法上の受給権がないというだけの問題ではありません。

法律上の保護が認められないとしても、行政措置として保護を受けることはできないのか。

この点も裁判で争われたのです。

 

千葉地裁はなぜ原告の請求を認めなかったのか

男性は千葉市の判断を不服として訴訟を提起しました。

千葉地裁は令和6年(2024年)1月16日、原告の請求を認めませんでした。

その判断は、大きく三つに整理できます。

 

生活保護法上の受給権は認められない

まず千葉地裁は、平成26年最高裁判決に従い、外国人は生活保護法上の受給権を有しないと判断しました。

原告側は、外国人にも憲法上の生存権の保障が及ぶことなどを根拠に、生活保護法の「国民」には外国人も含まれると解釈すべきだと主張していました。

しかし、千葉地裁はこの主張を認めませんでした。

 

外国人を対象から除外することは憲法違反ではないと判断

原告側は、外国人を生活保護法の対象から除外することについて、憲法25条の生存権保障などに反すると主張しました。

 

これに対し千葉地裁は、憲法25条の趣旨に応じて具体的にどのような社会保障制度を設けるかは、立法府の広い裁量に委ねられるという考え方を示しました。

そのうえで、外国人を生活保護法の対象に含めるかどうかも立法府の裁量に属し、外国人を対象としていないことは憲法25条に違反しないと判断しました。

 

その他の憲法上・国際法上の主張も退けています。

 

ただし、これは千葉地裁の判断です。最高裁がこの憲法判断をどう扱ったかについては、第3回で取り上げます。

 

行政措置による保護の対象にも当たらない

千葉地裁は、昭和29年通知に基づく行政措置についても、原告に保護を受ける権利があるとは認めませんでした。

昭和29年通知の本文には、対象となる外国人の在留資格について、明確な限定が記載されているわけではありません。

しかし、その後の行政運用では、永住者、定住者、日本人の配偶者等、特別永住者、認定難民などを中心に、保護の対象範囲が整理されてきました。

千葉地裁は、平成2年の口頭説明や平成21年の事務連絡による取扱いについて、昭和29年通知の対象範囲を新たに制限したものではなく、従来不明確だった対象範囲を明確にしたものと捉えました。

そして、今回の男性は、国内での活動に制限のある「特定活動」の在留資格を持っており、行政措置による保護の対象とされる永住的外国人等には当たらないと判断しました。

 

さらに、千葉地裁は、行政措置としての保護を求める申請が却下されても、その却下を行政事件訴訟法上の取消訴訟で争うことはできないと判断しました。

取消訴訟の対象になるには、法律上の権利義務に直接影響する「行政処分」であることが必要ですが、昭和29年通知に基づく保護申請の却下には、そのような処分性がないとしたのです。

つまり、千葉地裁では、原告が行政措置による保護を受ける権利を有するかという問題と、申請の却下を取消訴訟で争えるかという問題の両方が検討されました。

なお、千葉地裁は行政措置による保護の法的性質について、民法上の贈与契約という法律構成も示しました。そして、仮に原告が行政措置の対象になり得るとしても、千葉市が保護の申込みを承諾していない以上、贈与契約が成立したとはいえないと判断しています。

 

ただし、これは千葉地裁が示した法律構成であり、平成26年最高裁判決が外国人への保護を贈与契約と判断したわけではありません。

 

東京高裁も原告の主張を認めなかった

男性は千葉地裁判決を不服として控訴しました。

しかし、東京高裁も令和6年(2024年)8月6日、控訴を棄却しました。

 

東京高裁は、千葉地裁の判断を一部補正して引用するとともに、外国人の社会保障に関する考え方をさらに示しています。

 

社会保障では自国民を優先することも許容されると判断

東京高裁は、社会保障施策において外国人をどのように取り扱うかについて、特別な条約がない限り、外交関係や国内の政治・経済・社会情勢などを考慮した政治的判断によって決定できるという考え方を示しました。

そして、限られた財源の下で社会保障給付を行う場合、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許容されると判断しています。

 

また、国民健康保険法など、外国人も対象となる社会保障制度が存在するからといって、生活保護法も当然に外国人へ適用されることにはならないとしました。

 

ただし、これは今回の事件について東京高裁が示した判断です。

「外国人に対するあらゆる社会保障について、日本国民を優先することが無条件に認められる」という意味ではありません。

 

「特定活動」だから必ず対象外というわけではない

東京高裁で特に注目したいのは、在留資格「特定活動」の取扱いです。

 

平成2年の口頭説明では、「特定活動」の外国人について、個別的に判断すべき事情が生じる可能性があり、そのような場合には厚生大臣に協議の上、生活保護制度の準用を考える方策が必要であるという考え方が示されていました。

その後の平成21年の事務連絡では、「特定活動」の在留資格を有する者のうち、日本国内での活動に制限を受けない者等について疑義がある場合には、厚生労働省に照会するという取扱いが示されています。

 

東京高裁は、これらの行政上の説明について、永住的外国人等に該当しない「特定活動」の外国人にも、行政措置による保護を検討する余地を認めているように見えなくもないと述べました。

もっとも、東京高裁がそのような外国人に保護を受ける権利があると認めたわけではありません。

 

高裁は、外国人の経済的・社会的事情などの違いに基づく区別について、合理性があれば平等原則等に反しないと判断しました。

 

そのうえで、今回の男性は、行政措置による保護の対象とされる永住的外国人等には該当せず、これらの外国人と同一に取り扱わなければならない事情があるとも認められないとしました。

そのため、千葉市が行政措置による保護を認めなかったことは、平等原則や信頼保護原則に反せず、男性には昭和29年通知に基づく保護の給付を求める権利もないと判断したのです。

 

「特定活動」の在留資格であれば、例外なく行政措置の対象から除外されるという判断ではありません。

一方で、個別的な検討の余地がうかがわれることと、今回の原告に保護を受ける権利が認められることは別だと考えたわけです。

 

この事件は「生活費だけ」の問題ではない

今回の男性は、週3回の人工透析を必要としていました。

 

生活保護というと、食費や光熱費などの生活扶助、家賃などの住宅扶助を思い浮かべるかもしれません。

しかし、生活保護には医療扶助もあります。

医療扶助は、生活保護法15条に定められており、診察、薬剤、治療、入院などの必要な医療が対象となります。

厚生労働省の説明によれば、医療扶助では対象となる医療費を医療機関へ直接支払い、本人負担なく必要な医療を受けられる仕組みになっています。

 

したがって、外国人が生活保護に準じた行政措置の対象となるかどうかは、生活費や家賃だけではなく、医療保障の仕組みにも関係します。

 

ただし、今回の男性については、一つ区別しておくべき事実があります。

東京高裁判決によれば、男性は人工透析を継続して受けており、国民健康保険の被保険者証と特定疾病療養受療証の交付も受けていました。

そのため、「生活保護が認められなかったので人工透析を受けられなくなった」などと説明することはできません。

 

また、判決に記載された事実だけから、男性の具体的な医療費負担額や、生活保護が認められた場合の医療扶助額まで判断することもできません。

今回の裁判で争われたのは、男性に生活保護法上の受給権があるのか、また行政措置として生活保護に準じた保護を求めることができるのかという問題です。

生活保護制度には医療扶助も含まれるため、保護の対象範囲を考える際には医療費の問題も無視できません。しかし、生活保護による医療扶助と、国民健康保険など他の制度による医療保障は区別して考える必要があります。

 

下級審が認めなかったものは何だったのか

今回のガーナ人男性について、千葉地裁と東京高裁は、いずれも原告の請求を認めませんでした。

 

その判断は、三つに整理できます。

 

● 生活保護法上の受給権については、外国人は同法1条・2条の「国民」に含まれないとして認めませんでした。

● 昭和29年通知による行政措置についても、原告には保護の給付を求める権利がなく、申請の却下を取消訴訟で争うこともできないと判断しました。

● 憲法上の問題についても、外国人を生活保護法の対象から除外していることを違憲とは判断しませんでした。

 

このように、下級審では原告の主張が退けられました。

 

しかし、ここからもう一つ重要な問題が残ります。

では、最高裁も「外国人を生活保護法の対象から除外しても、憲法上問題はない」と判断したのでしょうか。

この事件はその後、最高裁まで争われ、令和8年9月9日に原告の敗訴が確定しました。

 

ただし、最高裁が何を判断し、何を判断しなかったのかは、敗訴という結論だけからは分かりません。

第3回では、令和8年最高裁決定を詳しく取り上げます。特に、憲法問題に対する最高裁多数意見の扱いと、違憲とする三浦守裁判官の反対意見を中心に見ていきます。

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