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相続登記をしていないとなぜ法務局に分かる?927号通達の「催告の端緒」

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相続登記をしていないとなぜ法務局に分かる?―927号通達が定める「催告の端緒」【相続登記義務化・3回】

相続登記をしていないとなぜ法務局に分かる?―927号通達が定める「催告の端緒」【相続登記義務化・3回】

2026/09/18

前回は、相続登記の期限を過ぎても、直ちに10万円の過料が科されるわけではなく、登記官による催告を経て、必要な場合に裁判所へ過料通知が行われる仕組みを説明しました。

そこで、次の疑問が出てきます。

 

そもそも法務局は、相続登記をしていないことをどうやって知るのでしょうか。

 

令和5年9月12日付法務省民二第927号通達には、この点について、

「登記官が申請の催告を行う端緒」

が具体的に定められています。

「端緒」という言葉は少し難しいですが、ここでは、法務局が申請義務違反の有無を確認するきっかけと考えると分かりやすいでしょう。

ただし、端緒があれば直ちに義務違反として催告されるわけではありません。

この違いが、今回の重要なポイントです。

 

927号通達が定める「催告の端緒」は2つ

927号通達は、登記官について、

「次に掲げるいずれかの事由を端緒として」

相続登記等の申請義務に違反したと認められる者があることを職務上知ったときに限り、申請の催告を行うとしています。

その端緒として定められているのは、次の2つです。

 

一つは遺言書

 

もう一つは遺産分割協議書です。

 

いずれも、ある不動産について所有権移転登記を申請した際に提出された書類から、同じ相続人が取得する別の不動産があることが分かった場合です。

 

端緒① 遺言書から別の不動産が分かった場合

一つ目は、遺言書に関するケースです。

927号通達では、

相続人が遺言書を添付して、遺言の内容に基づき特定の不動産の所有権移転登記を申請したところ、

その遺言書に、別の不動産についても同じ相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていた場合

を、催告の端緒としています。

 

例えば、A土地について、遺言の内容に基づく所有権移転登記を申請し、その添付書類として遺言書を法務局へ提出したとします。

その遺言書を見ると、

B土地についても同じ相続人が取得する内容になっている。

ところが、B土地については所有権移転登記がされていない。

このような場合に、提出された遺言書が、B土地について申請義務違反がないかを確認する端緒になります。

 

ここで重要なのは、法務局が別の不動産を新たに探し出したというより、登記申請の審査過程で提出された遺言書から、別の不動産についての情報が分かるという構造です。

 

端緒② 遺産分割協議書から別の不動産が分かった場合

二つ目は、遺産分割協議書に関するケースです。

927号通達では、

相続人が遺産分割協議書を添付して、協議の内容に基づき特定の不動産の所有権移転登記を申請したところ、

その遺産分割協議書に、別の不動産についても同じ相続人が取得する旨が記載されていた場合

を、もう一つの催告の端緒としています。

 

例えば、A土地についてだけ相続登記を申請したとします。

ところが、添付した遺産分割協議書には、

A土地だけでなくB土地も同じ相続人が取得する

と記載されている。

この場合、法務局は、登記申請の審査を通じてB土地の存在と取得内容を知ることになります。

これも、B土地について相続登記の申請義務に違反していないかを確認する端緒になります。

 

別の不動産が書いてあれば、すぐ催告されるわけではない

ここは、927号通達を読むうえで特に重要です。

通達は、

「遺言書や遺産分割協議書に別の不動産が書かれていれば催告する」

とは定めていません。

正確には、

その2つの事由を端緒として、申請義務に違反したと認められる者があることを登記官が職務上知ったときに限り、催告を行う

としています。

 

つまり、

別の不動産が存在することが分かる

ことと、

その不動産について申請義務違反があると認められる

ことは別です。

 

さらに、

申請義務違反があることを登記官が職務上知る

ことが、催告の前提になります。

「端緒」は、あくまで義務違反の有無を確認するきっかけです。

 

「未登記」と「申請義務違反」は同じではない

では、なぜ別の不動産が未登記であるだけでは足りないのでしょうか。

少なくとも、不動産登記法76条の2第1項による相続登記の申請義務には、「知った日」から3年という期限があるからです。

同項では、相続によって不動産の所有権を取得した人は、

自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内

に登記を申請しなければならないとされています。

したがって、ある不動産について相続登記がされていないことが分かっても、

その人がいつ相続の開始を知ったのか

いつその不動産の所有権を取得したことを知ったのか

が分からなければ、76条の2第1項の3年の期限を既に過ぎているのかも直ちには決まりません。

 

つまり、

「相続登記がまだされていない」

ことと、

「法律上の申請期限を過ぎて義務違反になっている」

ことは同じではありません。

これは、第1回で扱った「3年の起算点」とつながる問題です。

 

927号通達は「知った日」の具体的記載も求めている

927号通達には、この点を裏付ける記載があります。

裁判所へ過料通知をする際の様式では、「違反の事実を認定した理由・経緯」を記載することになっています。

そして、不動産登記法76条の2第1項の義務違反については、

「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日」

について具体的に記載することとされています。

ここからも、76条の2第1項については、

単に登記されていないというだけではなく、申請期限がいつ始まり、既にその期限を過ぎているのか

が義務違反を判断するうえで重要であることが分かります。

 

なお、同じ注意書きでは、遺産分割後に生じる申請義務については「遺産分割の日」を具体的に記載するものとされており、義務の種類によって確認すべき起算点は異なります。

もっとも、927号通達には、登記官が「知った日」を具体的にどのような方法で確認するのかについて、一律の確認方法まで示されているわけではありません。

そのため、

「必ず本人に問い合わせる」

などと一般化することはできません。

 

マスタープランでは「例えば」だった

ここからは少し実務家向けの話です。

927号通達が出る前の令和5年3月22日、法務省は「相続登記の申請義務化の施行に向けたマスタープラン」を公表しています。

マスタープランでは、申請義務違反を把握する方法について、

登記申請の審査の過程等で把握した情報によって行う

という基本方針を示したうえで、

申請義務違反の把握の端緒としては、例えば、次のような場合が想定される

として、遺言書と遺産分割協議書の2つのケースを挙げていました。

この段階では、文章上は「例えば」という例示でした。

 

927号通達では「いずれかの事由」「知ったときに限り」に変わった

ところが、その後の927号通達では表現が変わっています。

通達は、

「次に掲げるいずれかの事由を端緒として」

さらに、

「申請をすべき義務に違反したと認められる者があることを職務上知ったときに限り」

催告を行うと定めました。

 

マスタープランでは「例えば」とされていた2つの場面が、最終的な実務運用を定めた927号通達では、申請の催告を行う端緒として具体的に定められています。

この違いは、現在の催告実務を説明するうえで重要です。

現在の運用について、

「遺言書と遺産分割協議書は単なる例にすぎず、それ以外にも自由に催告の端緒を設定できる」

と説明するのは、927号通達の文言とは合いません。

現行の具体的な催告運用を確認する場合には、施行前の方針を示したマスタープランより、後に制定された927号通達を基準にする必要があります。

 

法務局が情報を知ることと「催告の端緒」は別の問題

ここでもう一つ区別しておきたいことがあります。

927号通達が限定しているのは、

登記官が申請の催告を行う端緒

です。

 

したがって、

「この2つ以外の方法では、法務局は死亡や相続に関する情報を知ることができない」

という意味ではありません。

法務局が所有者の死亡その他の情報を把握する仕組みと、相続登記等の申請義務違反について催告を行うための端緒とは、別の問題です。

今回の記事で問題にしているのは、後者です。

 

927号通達から分かる「催告の入口」

今回のポイントを整理すると、927号通達上の催告の入口はかなり具体的です。

 

現在の927号通達では、

遺言書

又は

遺産分割協議書

を添付した所有権移転登記の申請を通じて、同じ相続人が取得する別の不動産が判明したことが、申請義務違反を把握する端緒とされています。

 

しかし、

別の不動産が見つかった=すぐ催告

ではありません。

 

その不動産について、

申請義務に違反したと認められる者があることを登記官が職務上知ったこと

まで必要です。

 

そのためには、単に未登記かどうかだけではなく、その申請義務について期限がいつ始まり、既に期限を過ぎているのかという点も関係します。

 

第2回では、催告の後に過料手続がどのように進むのかを説明しました。

今回の第3回では、その一つ前、

「何をきっかけに催告へ進むのか」

を927号通達から確認しました。

次回は、催告を受けた場合にも問題となる、

「期限内に相続登記ができなかった場合の『正当な理由』とは何か」

を取り上げます。

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