相続登記の期限を過ぎたらすぐ10万円?―催告から過料までの流れ【相続登記義務化・2回】
2026/09/17
相続登記は、法律で定められた期限内に申請する必要があります。
では、その期限を過ぎると、すぐに10万円を支払わなければならないのでしょうか。
結論からいうと、
期限を過ぎたからといって、その翌日に自動的に10万円の過料が科されるわけではありません。
ただし、
「法務局から何か言われるまでは問題ない」
という意味でもありません。
期限内に申請すべき義務がある以上、申請しないまま期限を過ぎれば、申請義務に違反することになります。
一方、実際に過料に至るまでには、登記官による催告、裁判所への過料通知、そして裁判所による判断という手続があります。
今回は、この違いを整理します。
前回は、古い相続について令和9年3月31日が期限になる場合とならない場合、そして3年の起算点について説明しました。
今回は、その期限を過ぎた後、何が起きるのかに焦点を絞ります。
相続登記の義務違反は「10万円以下の過料」の対象
不動産登記法では、相続登記等の申請義務がある人が、正当な理由がないのに申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処すると定められています。
令和5年9月12日付法務省民二第927号通達にも、このことが明記されています。
ここで注意したいのは、
「10万円」ではなく「10万円以下」
という点です。
相続登記の期限を過ぎれば、当然に10万円を支払うという制度ではありません。
また、法律でいう過料は、刑事罰である「罰金」とは異なります。
法務省は、過料について、法律秩序を維持するために法令違反に対して科される行政上の秩序罰であり、罰金のような刑事罰とは異なるものと説明しています。また、国が科する過料については、基本的に裁判所における過料の手続を経るとされています。
したがって、法律上正確なのは「10万円以下の過料」です。
期限を過ぎた翌日に、自動的に過料になるわけではない
ここは、法律上の申請義務違反と、実際に過料に至る手続を分けて考える必要があります。
相続登記の申請期限を過ぎれば、
「まだ催告が来ていないから、義務違反ではない」
ということにはなりません。
期限はあくまで法律で定められたものです。
一方、登記官が申請義務に違反して過料に処せられるべき者があることを職務上知ったからといって、直ちに裁判所へ過料通知をする仕組みにもなっていません。
不動産登記規則187条1号及び927号通達では、まずその人に対し、
相当の期間を定めて、登記を申請するよう催告する
こととされています。
そして、催告したにもかかわらず、その期間内に申請がされず、正当な理由も認められない場合に、管轄地方裁判所への過料通知に進むことになります。
つまり、
申請期限を過ぎること
と
実際に過料が科されること
は、同じ時点で自動的に起きるものではありません。
登記官から届く「催告」とは
催告は、単に法務局から電話で注意されるというものではありません。
927号通達では、申請の催告は、書留郵便又は信書便事業者が引受けと配達の記録を行う方法による信書便で、所定の催告書を送付して行うこととされています。外国に住所がある場合には、これらに準ずる方法が含まれます。
実際の催告書には、
- 登記を申請すべき不動産
- 登記申請をすべき期限
- 正当な理由がある場合の申告
などの欄があります。
927号通達に添付された催告書の様式では、
「申請義務に違反していると思われます」
として、定められた期限までに登記申請をするよう求めています。また、正当な理由がある場合には、その具体的事情と裏付け資料を提出する仕組みになっています。
なお、法務局がどのような場合に義務違反を把握して催告するのかについては、次回詳しく取り上げます。
催告に応じて登記をすれば、過料通知は行われない
この制度で特に重要なのがここです。
927号通達では、
催告で定められた期限内に登記申請がされた場合には、過料通知を行わない
と明確に定めています。
これに先立つ法務省のマスタープランでも、
催告に応じて登記申請がされた場合には、それ以前の正当な理由の有無にかかわらず、過料通知を行わない
という運用方針が示されていました。
したがって、
「期限を過ぎたら、その時点で自動的に10万円の過料が確定する」
という理解は正しくありません。
ただし、この仕組みがあるからといって、
「催告が来るまで登記をしなくてよい」
わけではありません。
催告によって、法律上の申請期限そのものが後から延長されるわけではないからです。
期限を過ぎても申請義務がなくなるわけではありませんので、催告を待つことを前提にする制度ではありません。
「正当な理由」が認められた場合も過料通知は行われない
相続登記を法定の期限までに申請できなかったことについて、「正当な理由」が認められる場合があります。
927号通達では、催告の後に「正当な理由」がある旨の申告がされ、登記官がその内容などを確認した結果、
正当な理由があると認めた場合にも、過料通知を行わない
とされています。
催告書にも、正当な理由がある場合には、その具体的事情を記載し、事情を裏付ける資料とともに提出する仕組みが設けられています。
では、どのような事情なら「正当な理由」と認められるのでしょうか。
法務省は一定の類型を示していますが、その具体的な内容については、この連載の第4回で詳しく取り上げます。
催告に応じず、正当な理由も認められなければ裁判所へ通知
登記官から催告を受けたにもかかわらず、催告で定められた期間内に登記申請がされず、正当な理由も認められない場合には、登記官から管轄地方裁判所へ過料事件の通知が行われます。
927号通達は、催告してもその期間内に申請されない場合に、管轄地方裁判所へ通知する手続を定めています。
ただし、
「法務局が10万円の過料を決める」
わけではありません。
登記官は、裁判所へ事件を通知する側です。
その後、裁判所が過料について判断します。
法務省の公式資料でも、裁判所は法務局からの通知によって事実を把握し、裁判所における過料の手続を経ることが説明されています。
したがって、
過料通知が行われたこと
と
過料が科されること
も、同じではありません。
過料までの流れを整理すると
相続登記の期限を過ぎた場合の過料手続は、次のように整理できます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ① 法律上の申請期限を経過 |
申請しないまま期限を過ぎれば、 申請義務に違反する |
|
② 登記官が過料に処せられるべき者 があることを職務上把握 |
直ちに裁判所へ通知せず、 まず申請を催告 |
| ③ 催告 |
相当の期間を定めて 登記申請を求める |
| ④ 催告期限内に登記申請 | 過料通知は行われない |
| ⑤ 正当な理由が認められる | 過料通知は行われない |
|
⑥ 催告期限内に申請せず、 正当な理由も認められない |
登記官が管轄地方裁判所へ 過料通知 |
| ⑦ 裁判所 | 過料について判断する |
したがって、
「3年を過ぎる」ことと「10万円の過料が科される」ことの間には、いくつもの段階があります。
一方で、過料手続に段階があることと、法律上の期限を守らなくてもよいことは別問題です。
「すぐ10万円ではない」ことと「期限を守らなくてよい」ことは別
相続登記義務化について、
「3年以内に登記しなければ10万円」
とだけ説明すると、実際の制度より単純化しすぎています。
正確には、
正当な理由がないのに申請義務を怠った場合には10万円以下の過料の対象となり、登記官が過料に処せられるべき者があることを職務上知った場合でも、まず催告が行われます。催告期限内に登記をすれば過料通知は行われず、正当な理由が認められた場合も過料通知は行われません。これらに当たらない場合に裁判所へ通知され、裁判所が過料について判断する仕組みです。
したがって、期限を過ぎた翌日に自動的に10万円が科されるわけではありません。
しかし、催告が来るまで待ってよいという制度でもありません。
期限内に相続登記をする義務があることと、期限を過ぎた場合の過料手続が段階的に進むことは、分けて理解する必要があります。
では、そもそも法務局は、相続登記をしていない不動産や、申請義務に違反している相続人をどのように把握するのでしょうか。
次回は、
「法務局はどうやって義務違反を知る?―927号通達の『催告の端緒』」
を取り上げます。
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