自筆証書遺言・法務局保管・保管証書遺言・公正証書遺言は何が違う?4つの選択肢を司法書士が比較【保管証書遺言・4回】
2026/09/14
はじめに
第1回では令和8年の遺言制度改正の全体像、第2回では新しく創設される「保管証書遺言」の仕組み、第3回では、なぜ「電子署名だけ」の電子遺言ではなく、本人確認・原則全文口述・法務局保管という制度が採用されたのかを見てきました。
そこで、次に出てくるのが、
「制度は分かった。それでは、自分が遺言を作るなら、どの方法を選べばよいのか」
という疑問です。
現在、主に利用されているのは自筆証書遺言と公正証書遺言です。
さらに、自筆証書遺言は法務局に預けることもできます。
そして今回の改正では、新たに「保管証書遺言」が加わります。法務省も、現在主に用いられている自筆証書遺言・公正証書遺言に加えて、新たな普通方式として保管証書遺言を創設するものと説明しています。
選択肢が増えると、かえって違いが分かりにくくなるかもしれません。
そこで今回は、
- 自筆証書遺言を法務局に預けずに保管する
- 自筆証書遺言を法務局に預ける
- 新しい保管証書遺言を利用する
- 公正証書遺言を利用する
という4つの実務上の選択肢を比較します。
なお、令和8年9月10日現在、新しい保管証書遺言はまだ施行されていません。令和8年6月24日に公布された改正法では、保管証書遺言の創設などシステム改修を要する改正について、公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令で定める日から施行するとされています。現時点の法務省公式ページでも、具体的な施行日はまだ示されていません。
目次
- 比較するのは「4種類の遺言」ではなく「4つの選択肢」
- まず4つの選択肢を比較
- 自筆証書遺言――自分で作れる一方、保管も自分で考える
- 自筆証書遺言+法務局保管――「遺言が先、保管が後」
- 保管証書遺言――「保管まで含めて一つの遺言方式」
- 公正証書遺言――公証人が作成そのものに関与する
- 公正証書遺言の作成手続も、すでにデジタル化されている
- 同じ「公的機関の関与」でも法務局と公証人は違う
- 本人確認と遺言能力の保証は別問題
- 検認が必要なのはどれ?
- 死亡後に「見つかるか」も重要
- 結局どれを選べばよいのか
- まとめ
比較するのは「4種類の遺言」ではなく「4つの選択肢」です
最初に、法律上の分類を整理しておきます。
今回取り上げる「自筆証書遺言を法務局に預けない場合」と「自筆証書遺言を法務局に保管する場合」は、法律上、別々の遺言方式ではありません。
現在の自筆証書遺言書保管制度は、
自筆証書遺言として作成した遺言書を、法務局で保管してもらう制度
です。
法務局に預けることによって、別の種類の遺言に変わるわけではありません。法務省のガイドブックも、法務局に預けることができるのは民法968条による自筆証書遺言であると整理しています。
これに対して、今回の令和8年改正で創設される「保管証書遺言」は、独立した新しい遺言方式です。
改正後の民法967条では、普通方式として、
- 自筆証書
- 保管証書
- 公正証書
- 秘密証書
が規定されます。法務省の要綱案でも、この4方式が明示されています。
したがって、今回比較する「4つ」は、4種類の遺言方式という意味ではなく、一般の方が遺言を作成・保管するときの4つの実務上の選択肢です。
なお、普通方式には秘密証書遺言もありますが、今回の改正による変更もあるため、第5回で取り上げます。
まず4つの選択肢を比較します
大きな違いを整理すると、次のようになります。
| 比較項目 |
自筆証書遺言 (法務局保管なし) |
自筆証書遺言 +法務局保管 |
保管証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|---|---|
| 本文の自書 | 原則必要 | 原則必要 | 不要 | 不要 |
|
公的機関 の関与 |
なし | 法務局が保管 |
本人確認・口述手続 ・保管に法務局が関与 |
公証人が作成に関与 |
| 本人確認 | 公的手続なし | あり | あり | あり |
|
本人による 全文口述 |
なし | なし | 原則あり |
不要(遺言内容を 口頭で告げる) |
| 証人 | 通常不要 | 通常不要 | 原則不要 | 2人以上 |
| 公的な保管 | なし | あり | あり | あり |
|
家庭裁判所 の検認 |
原則必要 | 不要 | 不要 | 不要 |
|
死亡後の確認 ・検索等 |
保管方法次第 |
保管の有無の確認 ・通知等あり |
証明・通知等の 仕組みあり |
遺言検索制度あり |
| 公的費用 |
自分で作る場合は 原則なし |
保管手数料あり |
詳細は施行時の 制度による |
公証人手数料あり |
公正証書遺言については、保管証書遺言のように本人が作成済みの遺言全文をそのまま口述する方式ではありません。 遺言者が遺言の内容を公証人に口頭で告げ、公証人が文章にまとめ、遺言者と証人に読み聞かせ又は閲覧させて確認する方式です。
同じ「遺言」でも、作成方法だけでなく、誰が作成に関与するのか、誰が保管するのか、死亡後にどう発見するのかまでかなり違います。
自筆証書遺言――自分で作れる一方、保管も自分で考えます
最も身近なのが自筆証書遺言です。
令和8年9月10日現在の民法では、財産目録について認められている例外を除き、遺言者本人が、
全文・日付・氏名を自書し、押印する
必要があります。
現在の法務省の案内でも、遺言書の全文、作成日付及び氏名を遺言者が自書し、押印することが基本的な要件として示されています。
今回の令和8年改正では押印が任意化されますが、この点は第5回で詳しく取り上げます。成立法では、民法968条について押印要件を削除する改正がされており、この部分は公布から1年を超えない範囲内で政令で定める日から施行されます。
自筆証書遺言の大きな特徴は、公証人や法務局を利用しなくても作成できることです。
通常、証人も必要ありません。
自分だけで作成するのであれば、公証人手数料や法務局の保管手数料もかかりません。
一方で、法務局に預けない場合には、遺言書をどこに保管するのかも考える必要があります。
例えば、
- 遺言書が紛失する
- 相続人に発見されない
- 誤って処分される
- 意図的に破棄・隠匿される
といった問題が起こり得ます。こうした紛失・破棄・隠匿・改ざん等のリスクは、法務省が自筆証書遺言書保管制度を設けた理由として挙げているものです。
また、法務局に保管されていない自筆証書遺言は、原則として、遺言者の死亡後に家庭裁判所で検認を受ける必要があります。
したがって、
作成するときに手軽であることと、死亡後に使いやすいことは別問題
と考える必要があります。
自筆証書遺言+法務局保管――「遺言が先、保管が後」
自筆証書遺言には、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する方法があります。
この制度を理解するポイントは、
「遺言が先、保管が後」
ということです。
まず自筆証書遺言を作成し、その遺言書について法務局に保管を申請します。法務省のガイドブックも、本制度の対象は自筆証書遺言によって作成された遺言書であり、手続に先立って遺言書を作成しておく必要があるとしています。
現在の制度では、保管申請は遺言者本人が行う必要があり、代理人や郵送による申請はできません。
現在、一部の法務局では、提出書類の写しを電子メールで送って形式面の事前チェックを受けるなど、オンライン手続の試行も行われています。しかし、これは保管申請自体が全面オンライン化されたという意味ではありません。 2026年2月2日から事前チェックの試行範囲は拡大されていますが、なお試行的な取組です。
法務局に預けると何が変わるのでしょうか
大きいのは保管です。
遺言書の原本と画像データが法務局で長期間管理され、法務省は、これによって遺言書の紛失や、相続人等による破棄・隠匿・改ざん等を防止できると説明しています。原本は遺言者死亡後50年間、画像データは150年間保管されます。
さらに、相続開始後には、
- 遺言書が保管されているか確認する
- 遺言書情報証明書を取得する
- 遺言書を閲覧する
といった手続があります。
通知制度もあります。
現在の制度には、
関係遺言書保管通知
と
遺言者が指定した方への通知(指定者通知)
の2種類があります。指定者通知については、現在3名まで指定することができます。
また、法務局で保管された自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認は不要です。
ただし、遺言そのものは自筆証書遺言です
ここは重要です。
法務局に預けるからといって、法務局が遺言内容を考えたり、法律相談に応じたりする制度ではありません。
法務省のガイドブックも、
法務局では、遺言書の内容に関する相談には応じることができない
と明記しています。
一方、形式面については、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合しているか、遺言書保管官による外形的なチェックが行われます。
ただし、このチェックを受けたからといって、遺言書の実体的な有効性まで保証されるわけではありません。法務省も、この制度は保管された遺言書の有効性を保証するものではないと明記しています。
つまり、
形式面を確認して法務局が保管してくれることと、遺言内容の法律的な有効性まで保証してくれることは別
です。
現在の法務局保管制度も、今後デジタル化されます
ここは、新しい保管証書遺言との比較では見落とせません。
令和8年改正では、新しい保管証書遺言を創設するだけでなく、現在の自筆証書遺言書保管制度自体についても手続のデジタル化が予定されています。
法務省の改正概要では、
- オンラインによる保管申請
- オンラインによる証明書の交付請求等
- ウェブ会議を利用した各種手続
が可能になるとされています。
したがって、
「現在の自筆証書遺言書保管制度は必ず法務局へ出頭し、新しい保管証書遺言だけがオンライン対応する」
という関係ではありません。
本人出頭が必要という説明は、あくまで令和8年9月10日現在の制度についてのものです。
保管証書遺言――「保管まで含めて一つの遺言方式」
ここで、新しい保管証書遺言との違いがはっきりします。
現在の自筆証書遺言書保管制度は、
自筆証書遺言を作った後に、法務局へ預ける制度
です。
これに対して、保管証書遺言は、
所定の方式に従って作成し、法務局で保管されて初めて効力を生じる遺言方式
です。
成立した改正民法968条の2は、遺言者が所定の証書について署名又はこれに代わる措置を講じ、遺言書保管官の前で遺言全文を口述することを定めたうえで、その証書を遺言書保管法に従って保管しなければ効力を生じないと明記しています。
第2回で詳しく説明したとおり、保管証書遺言には、
書面保管証書遺言書
と
電子保管証書遺言書
があります。成立法の遺言書保管法の定義でも、両者が明確に区別されています。
本文を遺言者本人がすべて自書する必要はなく、パソコン等を用いて作成することもできます。
その一方で、
- 署名又は法務省令で定める代替措置
- 遺言書保管官による本人確認
- 原則として遺言全文の口述
- 法務局による保管
という手続を組み合わせています。
なお、「全文口述」は原則です。財産目録については、遺言書保管官が閲覧させるなど法務省令で定める措置を講じる場合に口述を不要とする特則があり、口がきけない方についても通訳人による申述又は自書による代替が認められています。
家庭裁判所の検認は不要で、相続開始後には相続人等による証明書の交付請求等や通知の仕組みも設けられます。
つまり、
現在の法務局保管制度では「自筆」が遺言方式で、「保管」はその後の制度。
保管証書遺言では「保管」までが遺言の効力に関わる方式の一部。
ここが両者の根本的な違いです。
公正証書遺言――公証人が作成そのものに関与します
公正証書遺言は、これまでの3つとは、公的機関の関わり方が異なります。
公正証書遺言では、遺言者本人が、公証人と証人2人以上の前で遺言の内容を口頭で告げ、公証人がそれが遺言者の真意であることを確認したうえで文章にまとめ、遺言者と証人に読み聞かせ又は閲覧させて、内容に間違いがないことを確認して作成します。
したがって、遺言者本人が遺言本文を手書きする必要はありません。
そして最大の特徴は、
公証人が、完成した遺言を単に預かるのではなく、遺言を作成する段階そのものに関与する
ことです。
日本公証人連合会は、通常の手続として、事前に提出された遺言内容のメモや資料をもとに公証人が遺言公正証書案を作成し、遺言者の意向を確認しながら修正・確定したうえで作成日を迎える流れを案内しています。
また、公正証書遺言には証人2人以上の立会いが必要です。日本公証人連合会は、その趣旨について、遺言者の真意を確認し、手続が適式に行われたことを担保するためと説明しています。
公正証書遺言は、家庭裁判所の検認を必要としません。
公証人手数料は必要ですが、その額は遺言の内容や財産の価額等によって異なります。
公正証書遺言の作成手続も、すでにデジタル化されています
ここは、新しい保管証書遺言との比較で誤解しやすいところです。
「電子遺言」と聞くと、新しい保管証書遺言だけがデジタル化された制度のようにも見えます。
しかし、公正証書の作成手続はすでにデジタル化されています。
令和7年10月1日から、公正証書は、電磁的記録による作成が困難な事情がある場合を除き、原則として電磁的記録で作成される仕組みになりました。
法務省資料でも、公正証書は原則として電子データで作成・保存されることが示されています。
電子データで作成する場合、嘱託人等の列席者は電子サインを行い、公証人は電子サインに加えて官職証明書を用いた電子署名を行います。
したがって、
「電子データを使う遺言=新しい保管証書遺言」
ではありません。
現在の公正証書遺言も、原則としてデジタル化された公正証書作成制度の中で作成されています。
公正証書遺言でもウェブ会議を利用できる場合があります
公正証書遺言についても、一定の場合にはウェブ会議によるリモート方式を利用できます。
ただし、遺言者が希望すれば当然に利用できるわけではありません。
日本公証人連合会の現在のQ&Aでは、リモート方式について、公証人がその必要性と許容性を総合的に勘案して相当性を判断するとされています。
特に許容性については、
- 本人確認
- 真意の確認
- 判断能力の確認
などを適切に行うことができるかという観点から判断し、遺言のように本人の意思確認が重要なものについては慎重に判断するとされています。
また、日公連の遺言に関する説明でも、公証役場へのアクセスが困難である場合や感染症予防等の事情があり、本人確認や遺言意思の確認に支障がないものとして公証人が相当と認めた場合には、ウェブ会議による作成が可能とされています。
同じ「公的機関の関与」でも、法務局と公証人は違います
ここまで見ると、
「法務局でも本人確認をする。公正証書遺言でも本人確認をする。それなら大きな違いはないのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、公的機関の関与の内容が違います。
自筆証書遺言書保管制度
自筆証書遺言は、遺言者が先に作成します。
法務局では、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて、遺言書保管官による外形的なチェックを受けることができます。
しかし、遺言内容について法律相談をしたり、内容の実体的な有効性まで審査したりする制度ではありません。
保管証書遺言
新しい保管証書遺言では、法務局の関与は現在の自筆証書遺言書保管制度よりも広くなります。
本人確認を行い、原則として遺言全文を本人に口述させ、さらに法務局で保管すること自体が、遺言方式の一部になります。
それでも、法務局が遺言内容を法律的に組み立てたり、遺言能力や遺言内容の実体的な有効性まで保証したりする制度ではありません。
公正証書遺言
公正証書遺言では、公証人が遺言内容を聞き取り、法律的に整理し、公正証書そのものを作成します。
日本公証人連合会も、法務局の自筆証書遺言書保管制度との比較において、法務局では遺言内容に関する質問や相談には応じない一方、公正証書遺言では公証人が遺言内容を整理し、遺言能力など有効な遺言に必要な事項を慎重にチェックすると説明しています。
つまり、
「法務局で遺言書を保管すること」と、「公証人が遺言作成そのものに関与すること」は同じではありません。
この違いは、どの方法を選ぶかを考えるうえで重要です。
本人確認と「遺言能力の保証」は別問題です
もう一つ、比較するときに注意したいのが遺言能力です。
法務局に預ければ、
「本人確認をしたのだから、遺言能力も確認されている」
と思うかもしれません。
しかし、本人確認と遺言能力は別問題です。
現在の自筆証書遺言書保管制度についても、法務省は、保管制度を利用したことによって遺言書の有効性が保証されるものではないと明記しています。
これは、新しい保管証書遺言について考える場合にも重要な区別です。
一方、公正証書遺言では、公証人が遺言者本人とやり取りし、真意や遺言能力などを確認しながら作成します。日本公証人連合会も、公証人が遺言能力の有無など法律的に有効な遺言に必要な事項を慎重にチェックすると説明しています。
また、証人2人以上が作成過程に立ち会います。
そのため、実務上は、公証人や証人が作成過程に関与していることは、後日の紛争予防や、遺言作成時の状況を検討するうえで重要な意味を持ち得ます。
しかし、
公正証書遺言なら、後に遺言能力が争われることはない
という意味ではありません。
公正証書遺言であっても、遺言能力その他の理由から、その有効性が争われる可能性までなくなるわけではありません。
つまり、
公的機関が関与することと、その遺言が将来絶対に争われないことは別
と考える必要があります。
検認が必要なのはどれでしょうか
死亡後の手続として分かりやすい違いが、家庭裁判所の検認です。
整理すると、
原則として検認が必要
法務局に保管されていない自筆証書遺言
検認不要
法務局で保管されている自筆証書遺言
新しい保管証書遺言
公正証書遺言
です。
現在の法務局保管制度については法務省ガイドブックでも検認不要と明記され、公正証書遺言についても日公連が同様に説明しています。新しい保管証書遺言についても、法務省の成立法概要で検認不要とされています。
ただし、
検認が不要であることと、遺言の有効性が保証されていることは別
です。
検認の有無だけで遺言方式を選ぶのではなく、作成段階から死亡後まで全体を見て考える必要があります。
死亡後に「見つかるか」も重要です
第3回でも触れましたが、遺言は作っただけでは終わりません。
本人が亡くなった後に存在を把握して、実際の相続手続に利用できることも重要です。
自筆証書遺言を法務局に預けていない場合
遺言書の保管場所を家族等が知らなければ、発見されない可能性があります。
そのため、どこに保管するのか、存在を誰に伝えておくのかも考えておく必要があります。
自筆証書遺言を法務局に預けた場合
相続開始後、相続人等は遺言書が保管されているか確認することができ、遺言書情報証明書の交付や閲覧を請求することができます。
また、指定者通知と関係遺言書保管通知があります。
保管証書遺言
法務局保管を前提とした制度であり、相続開始後には相続人等による証明書の交付請求等が可能となり、遺言者が指定した者への通知等の仕組みも設けられます。
公正証書遺言
公正証書遺言も原本が公証制度の下で保管されます。
また、日本公証人連合会では、平成元年以降に作成された公正証書遺言について、全国の公証役場で遺言公正証書の有無と保管公証役場を検索できる制度を設けています。
遺言者の死亡後は、相続人等の利害関係人が申し出ることができ、遺言検索の申出自体は無料です。
つまり、遺言方式を選ぶときには、
「どう作るか」と同じくらい、「死後にどう見つけてもらうか」も重要
です。
結局、どれを選べばよいのでしょうか
ここまで比較してきましたが、結局、どれが一番よいのでしょうか。
答えは、一律には決まりません。
それぞれの特徴から、一般的には次のように整理できます。
比較的シンプルな内容を自分で作成・管理したい
自筆証書遺言
が選択肢になります。
ただし、方式を間違えないこと、保管方法、死亡後の発見、検認まで考える必要があります。
自筆することはできるが、紛失・発見・検認が心配
自筆証書遺言+法務局保管
が選択肢になります。
遺言本文を自書する負担は残りますが、法務局による保管や通知、検認不要という制度上のメリットを利用できます。
令和8年9月10日現在、保管申請手数料は遺言書1通につき3,900円です。法務省の令和7年度改訂版ガイドブックでも同額が示されています。
手書きの負担を減らし、法務局保管を利用したい
施行後は、保管証書遺言が新たな選択肢になります。
パソコン等で本文を作成できる一方、本人確認・原則全文口述・法務局保管という手続が必要になります。
作成段階から公証人に関与してもらいたい
公正証書遺言が選択肢になります。
本人が全文を手書きする必要はなく、公証人が遺言内容を聞き取り、法律的に整理して公正証書として作成し、証人2人以上も作成過程に関与します。
実務上は、例えば、
- 相続人間の関係が複雑である
- 財産の承継方法が複雑である
- 特定の相続人に大きく偏った内容を検討している
- 相続人以外への遺贈がある
- 遺留分をめぐる問題が予想される
- 将来、遺言能力や本人の真意を争われることが心配である
- 遺言執行が複雑になる
といった事情がある場合には、単に「作るのが簡単か」という点だけではなく、内容を法律的に整理することや、作成過程を後から説明できること、死亡後に実行しやすいことまで含めて方式を検討する必要があります。
これは、これらの場合に必ず公正証書遺言でなければならないという意味ではありません。
個別の事情を踏まえて判断する必要があります。
まとめ――「一番新しい制度=一番よい制度」ではありません
令和8年改正によって「保管証書遺言」が新しく加わります。
しかし、
新しい制度だから、それが一番よい
という関係ではありません。
自筆証書遺言には、公的機関を介さず自分で作成できるという特徴があります。
現在の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、自筆証書遺言のまま、法務局による保管、通知、検認不要というメリットを利用できます。
新しい保管証書遺言では、本文の自書を必要とせず、本人確認・原則全文口述・法務局保管を組み合わせた新しい選択肢が加わります。
公正証書遺言では、公証人が作成段階そのものに関与します。
さらに、今回の改正では、現在の自筆証書遺言書保管制度自体の手続もデジタル化されます。
つまり、今回の改正によって、
既存の制度が新制度に置き換わるのではなく、既存制度を改善しながら、遺言者が事情に応じて選ぶことのできる選択肢が増える
と考えるのが適切です。
そして遺言の方法を選ぶときには、
作りやすいか
だけでなく、
内容を法律的に整理できているか
安全に保管できるか
死亡後に発見されるか
相続手続で実行しやすいか
後に本人の真意や遺言能力が争われる可能性があるか
まで考える必要があります。
中野司法書士事務所では、ご家族の状況、財産内容、遺留分、将来の紛争可能性、遺言執行まで踏まえて、どの方法で遺言書を作成するのが適切かをご相談いただけます。
次回、第5回では、自筆証書遺言の押印任意化、秘密証書遺言の改正、録音・録画を利用する新しい特別方式、証人・立会人の範囲の見直しなど、保管証書遺言以外の改正をまとめて見ていきます。
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