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令和8年の遺言制度改正とは?「電子遺言」だけではない新しい制度を司法書士が解説

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令和8年の遺言制度改正とは?「電子遺言」だけではない新しい制度を司法書士が解説

令和8年の遺言制度改正とは?「電子遺言」だけではない新しい制度を司法書士が解説

2026/09/09

はじめに

「遺言も電子化される」と聞くと、Wordで遺言を作ってパソコンに保存したり、PDFに電子署名を付けたりすれば、そのまま遺言として認められるようになる――そんな制度を想像するかもしれません。

しかし、令和8年に成立した改正法は、そこまで単純なものではありません。

新しく創設されるのは、法律上は「保管証書遺言」という遺言方式です。

パソコン等で作成した遺言を利用できるようになる一方、本人確認や原則として遺言全文の口述、法務局での保管などを組み合わせる仕組みになっています。民法上も、新たに保管証書遺言が普通方式の一つとして追加されました。

さらに今回の改正は、いわゆる「電子遺言」の創設だけではありません。

自筆証書遺言等の押印、非常時に作成する遺言、遺言の証人・立会人になれない人の範囲、現在の自筆証書遺言書保管制度まで、遺言制度のかなり広い範囲が見直されています。

第1回では、まず「今回、遺言制度の何が変わるのか」を全体的に見ていきます。

 


目次

  1. 令和8年、遺言制度が大きく改正されました
  2. 今回の改正は「電子遺言」だけではない
  3. 新しい「保管証書遺言」とは
  4. パソコンで作って印刷した遺言も対象になる
  5. 今ある自筆証書遺言書保管制度とは仕組みが違う
  6. 本人確認と、原則として「遺言全文の口述」が必要になる
  7. ウェブ会議を利用できる場合もある
  8. 自筆証書遺言の押印も任意化へ
  9. 非常時の遺言にも録音・録画を活用
  10. 証人・立会人になれない人の範囲も広がる
  11. 改正事項によって施行時期が異なる
  12. まとめ

 

令和8年、遺言制度が大きく改正されました

令和8年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」が成立し、同月24日に法律第45号として公布されました。

今回の法律では、成年後見制度とともに、遺言制度についても大きな見直しが行われています。

法務省は遺言制度見直しの背景として、

 

  • 高齢化や単独世帯の増加など、家族の在り方の変化
  • 所有者不明土地問題などを背景とした遺言の重要性の高まり
  • デジタル技術の進展・普及
  • 自筆証書遺言の手書きの負担
  • 押印に関する慣行や法意識の変化

 

などを挙げています。

つまり今回の改正は、単に紙の遺言を電子データに置き換えるためのものではありません。

長く続いてきた遺言の方式そのものを、現在の社会やデジタル技術に合わせて見直す改正といえます。

 


今回の改正は「電子遺言」だけではありません

今回の主な改正を大まかに整理すると、次のようになります。

 

改正項目 主な内容
保管証書遺言 パソコン等で作成した遺言を利用できる新しい普通方式を創設
遺言制度の押印要件 自筆証書遺言、秘密証書遺言、特別方式の遺言等で押印を任意化 
自筆証書遺言書保管制度  オンライン申請やウェブ会議など、手続をデジタル化
死亡危急時等の遺言 録音・録画等を利用する新しい方式を追加
証人・立会人 受遺者の被用者等にも欠格事由を拡張

 

法務省の概要資料でも、これらが一連の遺言制度改正として整理されています。

したがって、「令和8年の遺言改正=電子遺言」と理解してしまうと、改正の一部分しか見えていません。

 


新しい「保管証書遺言」とは

今回の改正で最も大きな変更の一つが、保管証書遺言の創設です。

改正後の民法967条では、普通方式の遺言として、

 

  • 自筆証書遺言
  • 保管証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

 

が規定されます。

 

ここで注意したいのは、「電子遺言」という名前の独立した遺言方式が民法にできたわけではないということです。

一般向けには「電子遺言」「デジタル遺言」などと説明されることがありますが、法律上、新たに設けられる普通方式の名称は保管証書遺言です。

そして、この保管証書遺言は、電子データだけを対象とするものではありません。

 

改正後の遺言書保管法では、保管証書遺言書について、

「書面保管証書遺言書」

「電子保管証書遺言書」

という区分が設けられます。

 


パソコンで作って印刷した遺言も対象になります

ここは今回の改正で、一般の方にとって特に分かりにくいところだと思います。

 

新制度では、例えば、

 

Word等で遺言の文章を作る

 ↓

紙に印刷する

 ↓

必要な署名等をする

 ↓

法務局に保管を申請し、所定の本人確認・口述等の手続を行う

 ↓

法務局に保管してもらう

 

という形の遺言も可能になります。

 

法務省も、保管証書遺言について、パソコン等を用いて作成した遺言のデータだけでなく、それをプリントアウトしたものについても保管申請が可能になると説明しています。

 

したがって、

「電子遺言=電子データでしか存在しない遺言」

という理解は正確ではありません。

これまで自筆証書遺言では、財産目録など一部の例外を除き、遺言本文を本人が自書する必要がありました。

新しい保管証書遺言では、パソコン等で作成した本文を利用できる点が大きな違いになります。

 


今ある「自筆証書遺言書保管制度」とは仕組みが違います

ここも非常に紛らわしいところです。

現在も、法務局には自筆証書遺言書保管制度があります。

これは、自分で作成した自筆証書遺言を法務局に預けて保管してもらう制度です。

 

つまり現在の制度では、

 

まず、方式に従って自筆証書遺言を作る

 ↓

その後、法務局に保管を申請する

 

という順番です。

 

自筆証書遺言は、法定の方式を満たしていれば、法務局に預ける前に自筆証書遺言として方式上成立しています。法務局への保管は、その後に利用する保管制度です。

 

これに対して、新しい保管証書遺言は仕組みが異なります。

改正民法968条の2では、署名等と遺言全文の口述を方式として定めたうえで、遺言書保管法の定めるところによりその遺言に係る証書を保管しなければ、効力を生じないとされています。

 

一般向けに整理すると、

 

現在の自筆証書遺言書保管制度

=「遺言を作ってから預ける」

 

新しい保管証書遺言

=「所定の保管手続まで行って初めて、保管証書遺言として効力を生じる」

 

という違いがあります。

 

なお、現在の自筆証書遺言書保管制度がなくなるわけではありません。

改正後も存続し、その手続についてもオンラインによる保管申請やウェブ会議を利用した手続などが可能になります。

また、法務局に保管されるからといって、遺言内容のすべての法的有効性や遺言能力まで法務局が保証するという意味ではありません。本人確認や方式上の手続と、遺言能力や遺言内容の実体的な有効性の問題は分けて考える必要があります。

 


本人確認と、原則として「遺言全文の口述」が必要になります

では、パソコン等で作成できるなら、作成したデータや書面を法務局に提供すれば、それだけでよいのでしょうか。

そうではありません。

 

新しい保管証書遺言では、特に重要な手続として、

本人確認

原則として遺言全文の口述

が設けられています。

 

改正民法968条の2では、遺言者が遺言書保管官の前で、証書に記載または記録された遺言の全文を口述することが方式として定められています。

 

法務省は、

  • 遺言書保管官による本人確認により、第三者のなりすましを防ぐ
  • 遺言者本人が遺言の全文を口述することにより、本人の真意に基づかない遺言が作成されることを防ぐ

という趣旨を説明しています。

 

ただし、「全文口述」には例外があります。

相続財産の全部または一部の目録については、遺言書保管官がその目録を遺言者に閲覧させるなど、法務省令で定める措置を講じた場合には、口述を不要とすることができます。

また、口がきけない方については、通訳人の通訳による申述や自書によって口述に代える規定も設けられています。

 

したがって、新制度は、

「パソコンで遺言を書けば簡単に電子遺言ができる」

という仕組みではありません。

手書きによる本文作成を要求しない代わりに、本人確認、口述、法務局での保管などを組み合わせる仕組みになっています。

なぜ電子署名だけではなく、わざわざ全文を口述する仕組みになったのか。

この点は今回の改正を理解するうえで非常に興味深いところなので、第3回で詳しく取り上げます。

 


ウェブ会議を利用できる場合もあります

保管証書遺言では、本人確認や口述の手続について、ウェブ会議を利用できる仕組みも設けられます。

ただし、

「希望すれば誰でもオンラインだけで遺言を完成できる」

という制度ではありません。

遺言者から申出があり、さらに遺言書保管官がウェブ会議の利用を相当と認めることが必要です。

 

法務省の概要資料でも、この条件付きの利用であることが明記されています。

具体的にどのような場合にウェブ会議が認められるのか、本人確認をどのように行うのかなど、実際の運用については、施行に向けて定められる法務省令等も確認する必要があります。

この点も第2回で詳しく見ていきます。

 


自筆証書遺言の「ハンコ」も任意化されます

今回の改正では、従来からある自筆証書遺言も変わります。

現在の民法968条では、自筆証書遺言について、本文・日付・氏名の自書に加えて押印が必要です。

 

今回の改正では、自筆証書遺言について定めた民法968条から、押印を方式上必須とする規定が削除されます。

法務省はこれを「押印の任意化」と表現しています。

ここでいう任意化は、

「今後は印鑑を押してはいけない」

という意味ではありません。

他の方式要件を満たしていれば、押印がないということだけを理由として方式違反とはならない制度に変わるということです。

一方で、実際に押印されていることが、遺言作成の経緯や遺言者の意思を判断する際の一つの証拠となる場合まで否定されるわけではありません。

この点は、第5回で詳しく取り上げます。

 


非常時の遺言にも録音・録画が使われます

今回のデジタル化は、通常の遺言だけにとどまりません。

例えば、病気や事故などで死亡の危急に迫っている場合に利用される死亡危急時遺言について、新たに録音・録画を利用する方式が加わります。

改正民法976条の2では、法律で定める一連の作成状況を録音・録画することなどを条件として、証人1人以上の立会いによって遺言をすることができる方式が新設されます。

この方式では、ウェブ会議の方法によって証人を立ち会わせることもできます。

 

また、従来の船舶遭難者遺言についても見直されます。

船舶が遭難した場合だけでなく、天災その他避けることのできない事変が発生し、その事変から生じた重大かつ急迫の危難を避けることが困難な場所にいて、死亡の危急に迫った場合にも適用場面が広げられます。

 

さらに、口頭で遺言をする状況を録音・録画する方式や、その記録を電子的に特定の者へ送信する方式も新設されます。

ただし、

スマートフォンで遺言を話して動画を残せば、それだけで遺言になる

という意味ではありません。

非常時の遺言についても、適用される場面と作成方法について、法律で厳格な条件が定められています。

詳しくは第5回で説明します。

 


証人・立会人になれない人の範囲も広がります

今回の改正では、遺言の証人・立会人についても見直しが行われています。

現行法でも、推定相続人や受遺者など一定の利害関係人は、遺言の証人・立会人になることができません。

改正後はさらに、受遺者(推定相続人である者を除きます。)の被用者や、受遺者が法人である場合の被用者・役員も欠格事由に加わります。

法務省は、この見直しの背景として、単身高齢者が増加し、入所している高齢者施設等への遺贈が行われる例があることなどを挙げています。

この改正も、単なるデジタル化とは別の重要な見直しです。

 


改正事項によって施行時期が異なります

最後に、非常に重要な点です。

法律が成立・公布された日と、それぞれの改正制度が実際に始まる日は同じではありません。

令和8年9月7日現在、具体的な施行日はまだ定められておらず、法務省は遺言制度の改正について、施行時期を次のように整理しています。

 

改正内容 施行時期

遺言制度の見直しのうち、 

押印の任意化等

令和8年6月24日の公布の日から起算して 

1年を超えない範囲内で政令で定める日

システム改修を要する

保管証書遺言の創設等

公布の日から起算して

3年を超えない範囲内で政令で定める日

 

したがって、

「改正法が成立したから、今日から新しい方式で遺言を作れる」

というわけではありません。

実際に遺言を作成するときは、その改正事項がすでに施行されているかを確認する必要があります。

施行前であれば、従来の方式要件に従って遺言を作成しなければなりません。

 


まとめ――遺言の作り方と手続が大きく変わります

今回の改正で特に注目されているのは、パソコン等で作成した遺言を利用できる新しい保管証書遺言です。

しかし、改正内容はそれだけではありません。

自筆証書遺言等の押印任意化、現在の自筆証書遺言書保管制度のデジタル化、非常時の遺言への録音・録画の導入、証人・立会人になれない人の範囲の拡張など、遺言制度全体にわたる見直しとなっています。

また、新しい保管証書遺言も、単にWordやPDFで遺言を作れば成立する制度ではありません。

本人確認、原則として遺言全文の口述、法務局による保管という手続が重要な意味を持ちます。

今後は、遺言を作成するときの選択肢がこれまで以上に増えることになります。

 

一方で、どの方式が適しているかは、家族関係、財産の内容、遺留分、遺言能力、将来の遺言執行などによって異なります。

制度が使いやすくなっても、「どの遺言を選び、何を書くか」まで自動的に簡単になるわけではありません。

 

中野司法書士事務所では、遺言書の作成だけでなく、相続関係や財産内容、その後の相続手続まで考慮しながら、遺言の方法についてご相談をお受けしています。

 

次回は、新しく創設される「保管証書遺言」について、電子データの場合と紙の場合、本人確認、全文口述、ウェブ会議、検認の要否など、具体的な仕組みを詳しく見ていきます。

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