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相続クーデターを招く定款条項? 株式会社設立時に考えたい「相続人に対する株式売渡請求」

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相続クーデターを招く定款条項? 株式会社設立時に考えたい「相続人に対する株式売渡請求」

相続クーデターを招く定款条項? 株式会社設立時に考えたい「相続人に対する株式売渡請求」

2026/07/06

株式会社を設立するとき、又は定款を見直すときに、次のような条項を見かけることがあります。

 

当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。

 

これは、会社法174条に基づく「相続人等に対する株式売渡請求」の定めです。

一見すると、株主が亡くなった後、会社と無関係な相続人が株主になることを防げる便利な制度に見えます。

実際、親族経営の会社や、共同経営者がいる会社では、相続をきっかけに株式が分散することを防ぐ方法として検討されることがあります。

 

ただし、この条項には注意すべき点があります。

創業者や大株主が亡くなったとき、残った少数株主がこの制度を利用して、創業者の相続人を会社から排除できる構造になることがあるためです。

このような問題は、実務上「相続クーデター」と呼ばれることがあります。

もちろん、法律上の正式な用語ではありません。

しかし、株式会社設立時に定款の雛形をそのまま使い、この条項を何となく入れてしまうと、将来の事業承継で思わぬ結果になることがあります。

この記事では、相続人等に対する株式売渡請求の仕組みと、なぜ「相続クーデター」という問題が起こり得るのかを、できるだけ分かりやすく整理します。

 

目次

  • 相続で株式を取得しても、譲渡制限は通常及ばない
  • 相続人等に対する株式売渡請求とは
  • 手続の流れと、相続人が議決権を行使できない問題
  • 「相続クーデター」と呼ばれる構造
  • この条項が役に立つ場面
  • 安易に定款へ入れない方がよい場面
  • 売渡請求を使う前に確認すべき資金と株価
  • 遺言・株主間契約・生命保険・種類株式という選択肢
  • 会社設立時・定款変更時に確認したいこと
  • よくある質問
  • まとめ

 

相続で株式を取得しても、譲渡制限は通常及ばない

非公開会社では、株式の譲渡に会社の承認を要する定めを置いていることが多くあります。

たとえば、

 

当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会の承認を要する。

 

という定めです。

これは、会社にとって望ましくない第三者が、勝手に株主になることを防ぐための仕組みです。

しかし、相続は通常の「譲渡」ではありません。

株主が亡くなった場合、株式は相続により相続人へ承継されます。会社が「この相続人には株主になってほしくない」と考えていても、譲渡制限の定めだけでは、相続による承継そのものを止めることはできません。

ここで使われる可能性があるのが、会社法174条の制度です。

 

相続人等に対する株式売渡請求とは

会社法174条は、定款に定めがある場合、譲渡制限株式を相続その他の一般承継により取得した者に対し、会社がその株式を会社へ売り渡すよう請求できる制度です。

ポイントは、相続人が会社に対して「買い取ってほしい」と請求する制度ではないことです。

会社側が、

 

この相続人を株主として残したくない。
相続で株式が分散することを避けたい。

 

と考えた場合に使う制度です。

株主が個人なら、典型的には相続が問題になります。

株主が法人なら、合併などにより株式を承継した法人が対象になる場合もあります。

 

定款に定めがなければ使えません

譲渡制限会社であっても、相続人等に対する売渡請求をするには、会社法174条に基づく定款の定めが必要です。

単に「株式の譲渡には会社承認を要する」と定めているだけでは足りません。

また、この174条の条項は、登記事項ではありません。

会社の登記事項証明書に譲渡制限の定めが載っていても、相続人等に対する売渡請求条項まで定められているかどうかは、登記事項証明書だけでは分かりません。

実務では、現在の定款そのものを確認する必要があります。

 

売渡請求の手続と、相続人が議決権を行使できない問題

相続人等に対して株式の売渡請求をするには、会社がその都度、株主総会の特別決議を行う必要があります。

株主総会では、少なくとも次の内容を定めます。

 

  • 売渡請求をする株式の数
  • 売渡請求をする相続人等の氏名又は名称

 

会社は、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内に、相続人等へ売渡請求をしなければなりません。

ここで最も注意すべきなのが、売渡請求の対象となる相続人等は、その株主総会決議について、原則として議決権を行使できないことです。

相続人が多数の株式を相続していたとしても、その相続人を対象とする売渡請求決議では、原則として議決権を使えません。

この仕組みが、本来は会社防衛のために設けられています。

しかし、創業者や大株主が亡くなった場合には、思わぬ逆転現象を生むことがあります。

 

「相続クーデター」と呼ばれる構造とは

ここでは、分かりやすく、次のような会社を想定します。

 

  • 創業者Aが75%の株式を保有
  • 共同経営者Bが25%の株式を保有
  • 全株式が譲渡制限株式
  • 定款に会社法174条の売渡請求条項がある
  • 普通株式のみで、定款に特別な議決権の定めがない

 

Aが亡くなり、配偶者や子が75%の株式を相続したとします。

通常であれば、相続人は75%株主です。

しかし、会社が相続人に対する売渡請求を行うことを決める株主総会では、その相続人は原則として議決権を行使できません。

その結果、残った共同経営者Bの25%だけで、売渡請求をするための特別決議が成立し得る構造になります。

会社が75%の株式を取得すると、その株式は会社自身が保有する自己株式になります。

共同経営者Bが、直ちに75%の株式を取得するわけではありません。

ただし、会社が保有する自己株式には議決権がありません。

そのため、通常の議決権株式だけを前提にすると、共同経営者Bが保有する25%の株式が、会社で唯一の議決権株式となる状態が生じ得ます。

つまり、創業者の相続人は75%の株式を相続したにもかかわらず、会社から排除され、残った25%株主が会社運営の主導権を握る結果になり得ます。

これが、実務上「相続クーデター」と呼ばれることがある構造です。

 

これは誰かが悪いから起こる問題ではありません

この問題は、共同経営者が悪意を持っている場合だけに起こるものではありません。

 

残る共同経営者から見れば、

 

会社の事情を知らない相続人が75%株主になってしまう。
自分が長年続けてきた事業を守りたい。

 

という思いがあるかもしれません。

 

相続人側から見れば、

 

亡くなった創業者が築いた会社を引き継ぎたい。
75%の株式を相続したのに、会社から排除されるのは納得できない。

 

という思いがあるかもしれません。

 

問題は、人間関係だけではありません。

定款条項、株主構成、相続、自己株式取得という制度が組み合わさることで、意図しない結果が生まれることです。

 

この条項が役に立つ場面もあります

相続人等に対する株式売渡請求条項が、常に悪いわけではありません。

たとえば、少数株主が亡くなり、その相続人が会社経営に全く関与しない場合を考えます。

会社としては、相続人が株主として残るよりも、会社又は既存株主側で株式を整理し、経営に関与する人へ株式を集約した方がよいことがあります。

次のような場面では、検討する意味があります。

 

  • 少数株主が亡くなり、相続人が会社経営に関与する予定がない
  • 親族経営の会社で、事業承継者以外に株式を残したくない
  • 共同経営者の相続人が、会社と無関係な第三者になる可能性が高い
  • 株式が相続のたびに細かく分散することを防ぎたい

 

株主の人的な信頼関係が事業の基盤になっている会社では、相続人が当然に株主として残ることが、会社運営に大きな影響を与えることがあります。

その意味で、174条の条項は有用な選択肢です。

ただし、便利な制度であるからこそ、誰に対して使われる可能性があるのかを考えずに入れるべきではありません。

 

安易に定款へ入れない方がよい場面

創業者が多数株式を持ち、親族以外の共同経営者や少数株主がいる会社では、一般的な174条条項を置くことが、かえって危険になる場合があります。

特に、次のような会社では慎重な検討が必要です。

 

  • 創業者が大半の株式を持っている
  • 共同経営者が少数株式を持っている
  • 創業者の死亡後、配偶者・子・後継者に株式を承継させたい
  • 共同経営者に、創業者の相続人を会社から排除する権限まで持たせるつもりはない
  • 会社が相続株式を買い取るための資金を十分に用意できない
  • 株式の評価方法や買取価格を決めていない

 

このような会社で、雛形どおりの一般条項を入れると、創業者自身の死亡時に、創業者の相続人が売渡請求の対象になる可能性があります。

「相続人を会社から排除できる条項」ではなく、

 

将来、自分の相続人も排除される可能性がある条項

 

として考える必要があります。

 

会社が買い取れば終わり、ではありません

相続人等に対する売渡請求では、会社が株式を取得します。

これは、会社にとって自己株式の取得です。

自己株式の取得には、会社法上の分配可能額の制約があります。

会社の帳簿上、利益が出ているように見えても、実際に分配可能額があるかどうかは別途確認が必要です。

さらに、分配可能額があっても、会社に現金があるとは限りません。

不動産や売掛金などの資産はあっても、すぐに多額の現金を用意できないことがあります。

そのため、売渡請求をする前には、少なくとも次の点を確認する必要があります。

 

  • 相続株式の概算評価額
  • 会社の分配可能額
  • 実際の資金繰り
  • 買取代金を一括で支払えるか
  • 一部の株式だけを対象にする必要があるか
  • 相続人との間で価格協議がまとまる見込みがあるか

 

価格は会社が一方的に決められません

売渡請求をした場合、株式の価格は、原則として会社と相続人等との協議で決めます。

協議がまとまらなければ、会社又は相続人等は、一定期間内に裁判所へ価格決定を申し立てることができます。

裁判所は、会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を決めます。

したがって、この制度は、相続人を安い価格で一方的に排除するための仕組みではありません。

会社の財務状態、事業の収益性、株式の評価方法、相続人との交渉などが問題になります。

 

相続クーデターを避けるために考えたい選択肢

会社法174条の一般条項を入れるかどうかは、単独で決める話ではありません。

 

誰に株式を承継させたいか。

共同経営者にどこまで会社運営を委ねるのか。

相続が発生したとき、誰が株式を買い取るのか。

その資金をどのように準備するのか。

 

こうした点と一緒に考える必要があります。

 

遺言で株式の承継先を決める

創業者や大株主が亡くなった場合、株式が複数の相続人へ分散すると、会社運営が不安定になりやすくなります。

そのため、遺言で、

 

  • 株式を誰に相続させるのか
  • 事業を誰に承継させるのか
  • 他の相続人とのバランスをどう取るのか

 

を明確にしておくことが重要です。

ただし、遺言だけで十分とは限りません。

定款に174条の一般条項がある場合、遺言により株式を取得した後継者も、売渡請求の対象になる可能性があります。

定款と遺言は、別々に考えるのではなく、整合性を確認する必要があります。

 

株主間契約で、死亡・退職・離脱時の株式処理を決める

共同経営者がいる会社では、株主間契約や株式の取扱いに関する合意書を作ることがあります。

そこでは、たとえば次のような点を決めます。

 

  • 株主が死亡した場合、誰が株式を買い取るのか
  • 会社が買うのか、代表者個人が買うのか、後継者が買うのか
  • 退職・離脱・競業時に株式をどうするのか
  • 株式の価格をどのように決めるのか
  • 取得価額、純資産価額、第三者評価額のどれを使うのか
  • 代金を一括で払うのか、分割払いにするのか
  • 相続人が手続に協力するための仕組みをどう作るのか

 

株主間契約は、相手を一方的に縛るためだけの書類ではありません。

将来、やむを得ず関係が終わるときに、株式をどう処理し、どのように会社との関係を終えるのかを決めておくための書類です。

互いに人生と仕事を前へ進めるための「出口」を用意する意味があります。

 

生命保険などで買取資金を準備する

相続時の株式買取りで、最も現実的な問題は資金です。

会社が相続人から株式を買い取るなら、会社に資金が必要です。

後継者や共同経営者が買い取るなら、その個人に資金が必要です。

生命保険を利用して、相続時の買取資金を準備する方法が検討されることもあります。

ただし、保険契約者、被保険者、受取人、保険料負担、税務上の扱いによって結果が変わります。

会社法だけでなく、相続税、法人税、所得税、保険実務も関係するため、税理士や保険担当者と連携して考える必要があります。

 

種類株式を使う方法もあります

会社の規模や将来の事業承継の形によっては、取得条項付種類株式、拒否権付種類株式などの種類株式を利用して、承継時の支配権や株式取得のルールを設計する方法もあります。

ただし、種類株式は、定款設計、発行手続、株価評価、税務上の扱いなどを慎重に確認しなければなりません。

会社設立時に「念のため」として入れる一般的な条項ではなく、将来の株主構成や後継者を具体的に想定して検討するものです。

 

会社設立時・定款変更時に確認したいこと

相続人等に対する株式売渡請求条項を入れる前に、少なくとも次の点を確認したいところです。

 

  • 現在の株主は誰か
  • 将来、誰に株式を承継させたいか
  • 創業者が亡くなった後、配偶者や子に株式を持たせるのか
  • 共同経営者が相続人を排除できる構造になってもよいか
  • 少数株主が亡くなった場合、その相続人を株主として残したいか
  • 会社又は後継者に、株式を買い取る資金があるか
  • 買取価格をどのように決めるか
  • 遺言、株主間契約、生命保険と整合しているか

 

定款は、会社設立時に一度作れば終わりではありません。

株主構成、家族関係、後継者、事業内容が変われば、見直すべき条項も変わります。

特に、親族以外の共同経営者や少数株主が入る会社では、定款の雛形をそのまま使う前に、一度立ち止まって考える価値があります。

 

FAQ

Q1 株式に譲渡制限があれば、相続人が株主になることを防げますか?

防げません。

譲渡制限は、通常、株式を「譲渡」により取得する場面を対象とします。相続は一般承継であるため、譲渡制限だけでは相続人への承継を止められません。

相続人等に対する売渡請求を検討する場合は、会社法174条に基づく定款の定めが必要です。

 

Q2 相続人等に対する売渡請求条項があれば、会社はいつでも株式を買い取れますか?

いつでもできるわけではありません。

譲渡制限株式であること、定款に定めがあること、株主総会の特別決議を経ること、相続等を知った日から1年以内であることなどが必要です。

さらに、会社には分配可能額の制約もあります。

 

Q3 相続人は、売渡請求を拒否できますか?

売渡請求そのものについては、原則として相続人が拒否できる制度ではありません。

ただし、株式の価格については会社と協議することになり、協議がまとまらない場合には、裁判所への価格決定申立てが問題になります。

 

Q4 相続人等に対する売渡請求条項は、登記事項証明書で確認できますか?

この条項自体は登記事項ではありません。

譲渡制限の定めは登記事項証明書で確認できる場合がありますが、174条の条項があるかどうかは、定款を確認する必要があります。

相続が発生してから初めて定款を探すのではなく、平時から最新の定款を整理しておくことが大切です。

 

Q5 遺言を作れば、相続クーデターの心配はなくなりますか?

遺言で株式を後継者へ集中させることは有効な対策です。

ただし、定款に174条の一般条項がある場合、遺言で株式を取得した後継者も売渡請求の対象になる可能性があります。

遺言だけでなく、定款、株主間契約、資金計画を合わせて確認する必要があります。

 

Q6 相続人等に対する売渡請求条項は、設立時に必ず入れるべきですか?

必ず入れるべき条項ではありません。

少数株主の相続人を会社に残さないために有用な場合もあります。

一方で、創業者の相続人を共同経営者が排除できる構造になる場合もあります。

誰の相続時に、どのような結果を望むのかを整理したうえで判断する必要があります。

 

まとめ

相続人等に対する株式売渡請求は、譲渡制限会社にとって便利な制度です。

株主が亡くなったとき、会社と無関係な相続人が株主になることを防ぎ、株式を整理できる場合があります。

しかし、定款に一般的な条項を入れると、創業者や大株主が亡くなったときに、その相続人が少数株主側から売渡請求を受ける可能性もあります。

これが、相続クーデターと呼ばれることがある問題です。

大切なのは、相続人を会社から排除できるかどうかではありません。

創業者が亡くなった後、誰に株式を承継させたいのか。

共同経営者にどこまで会社運営を委ねるのか。

相続時に株式を買い取る資金をどう確保するのか。

この点を、定款、遺言、株主間契約、生命保険などと合わせて考えることです。

会社設立時や定款変更時に、相続人等に対する売渡請求条項を入れるか迷う場合は、株主構成と事業承継の方針を整理したうえで検討することをお勧めします。

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