登記実務の備忘録:印鑑証明書は原本還付できるものとできないものがある
2026/05/22
登記申請の際に添付する印鑑証明書について、原本還付できるものと、原本還付できないものがあります。
普段から登記実務に携わっていても、この区別は意外と迷うところです。
私自身も、上申書に添付した印鑑証明書について、当然のように原本を提出していたことがありました。
しかし、確認してみると、上申書に添付した印鑑証明書は原本還付できるとのことでした。
登記実務では、同じ「印鑑証明書」という名前の書類であっても、何のために添付する印鑑証明書なのかによって、原本還付の可否が変わります。
自分自身の備忘録も兼ねて、印鑑証明書の原本還付について整理しておきます。
原本還付とは
原本還付とは、登記申請の際に添付した書類の原本を、登記完了後に返してもらう手続きです。
不動産登記では、戸籍、住民票、遺産分割協議書、固定資産評価証明書など、さまざまな書類を添付します。
これらの書類は、登記以外の手続きでも使用することがあります。
たとえば、相続登記で使用した戸籍や遺産分割協議書を、預貯金の相続手続きでも使用することがあります。
そのため、原本を法務局に提出したまま返ってこないと、別の手続きで困ることがあります。
そこで、原本とコピーを提出し、コピーに「原本と相違ありません」などの記載をして、登記完了後に原本を返してもらうのが原本還付です。
原則として原本還付はできるが、例外がある
不動産登記規則55条では、書面申請をした申請人は、添付書面の原本還付を請求できるとされています。
ただし、一定の印鑑証明書や、その申請のためにのみ作成された委任状その他の書面については、原本還付できないものとされています。
つまり、基本的な考え方としては、
原則:原本還付できる
例外:一定の印鑑証明書や、その申請専用の書面は原本還付できない
という整理になります。
ただ、実務上ややこしいのは、印鑑証明書について、すべてが一律に原本還付できないわけではないという点です。
印鑑証明書は「何に添付するものか」で判断する
印鑑証明書については、書類名だけで判断すると間違えます。
大事なのは、
その印鑑証明書が何のために添付されているのか
です。
たとえば、同じ印鑑証明書でも、次のように扱いが分かれます。
原本還付できない印鑑証明書
まず、典型的に原本還付できないものは、登記義務者の印鑑証明書です。
たとえば、売買による所有権移転登記で、売主が登記義務者になる場合、売主の印鑑証明書を添付します。
これは、登記義務者本人の申請意思を担保するための重要な書類です。
このような印鑑証明書は、原本還付できません。
また、登記上の利害関係人の承諾書に添付する印鑑証明書なども、原本還付できないものとして扱われます。実務解説でも、所有権に関する登記義務者が添付する印鑑証明書や、承諾書に添付する印鑑証明書は原本還付できないものとして整理されています。
具体的には、次のようなものです。
- 売買・贈与などの所有権移転登記における登記義務者の印鑑証明書
- 登記義務者の委任状に押印された印鑑についての印鑑証明書
- 登記上の利害関係人の承諾書に添付する印鑑証明書
- 第三者の同意書・承諾書に添付する印鑑証明書
このあたりは、法務局側に原本が残るものとして考える必要があります。
原本還付できる印鑑証明書
一方で、原本還付できる印鑑証明書もあります。
代表例は、相続登記における遺産分割協議書に添付する印鑑証明書です。
遺産分割協議書は、相続人全員が協議内容に同意したことを示す書面です。
そこに押印された実印について、各相続人の印鑑証明書を添付します。
この印鑑証明書は、相続を証する書面の一部として添付されるものです。
そのため、原本還付が可能です。
そして、今回の備忘録として重要なのが、上申書に添付した印鑑証明書も原本還付できるという点です。
上申書は、たとえば登記記録上の住所と現在の住所のつながりを公的書面だけで証明しきれない場合などに、「登記名義人本人に間違いない」ことを説明するために作成することがあります。
この上申書に実印を押印し、その印鑑証明書を添付することがあります。
この場合の印鑑証明書は、登記義務者の申請意思を担保するために法令上添付する印鑑証明書とは性質が異なります。
そのため、上申書に添付した印鑑証明書は原本還付できる、という整理になります。
実務家向けの記事でも、上申書に添付した印鑑証明書は原本還付できるものとして紹介されています。
原本還付できる印鑑証明書の例としては、次のようなものがあります。
- 遺産分割協議書に添付する印鑑証明書
- 相続分譲渡証明書に添付する印鑑証明書
- 特別受益証明書に添付する印鑑証明書
- 上申書に添付する印鑑証明書
- 相続関係書類の一部として提出する印鑑証明書
もちろん、具体的な事案や管轄法務局の取扱いに注意する必要はあります。
ただ、少なくとも「印鑑証明書だからすべて原本還付できない」と考えるのは誤りです。
上申書本体と、上申書に添付した印鑑証明書は分けて考える
ここで注意したいのは、上申書本体と、上申書に添付した印鑑証明書は分けて考える必要があるということです。
上申書そのものは、基本的にはその登記申請のために法務局へ提出する書面です。
そのため、上申書本体を原本還付するという発想にはなじみにくいです。
一方で、上申書に押印された実印を証明するための印鑑証明書は、市区町村が発行した公的証明書です。
その印鑑証明書については、コピーを添付して原本還付を受けることができます。
ここを混同すると、
「上申書は原本還付できない」
だから、
「上申書に添付した印鑑証明書も原本還付できない」
と考えてしまいがちです。
しかし、実務上はここを分けて考える必要があります。
なぜ原本還付にこだわる必要があるのか
印鑑証明書は、必要になれば再取得できます。
しかし、だからといって何でも原本を提出してしまえばよい、というものではありません。
特に相続手続きでは、同じ印鑑証明書を別の手続きで使いたい場面があります。
たとえば、
- 相続登記
- 預貯金の解約
- 証券口座の相続手続き
- 不動産売却の準備
- 別件の相続登記
- 遺産分割協議書の控えとして保管
このような場面です。
印鑑証明書の取得自体は難しくないとしても、相続人が遠方に住んでいる場合や、高齢で役所に行くのが難しい場合には、再取得をお願いするだけでも負担になります。
依頼者に再度印鑑証明書の取得をお願いすることは、できれば避けたいところです。
その意味でも、原本還付できるものは、できるだけ原本還付しておく方が安全です。
実務上の判断メモ
自分用の判断メモとしては、次の順番で考えると整理しやすいです。
1 その印鑑証明書は、登記義務者のものか
売買、贈与、抵当権設定などで、登記義務者の申請意思を担保するために添付する印鑑証明書であれば、原本還付できない方向で考えます。
2 承諾書・同意書に添付する印鑑証明書か
登記上の利害関係人の承諾書などに添付する印鑑証明書であれば、これも原本還付できない方向で考えます。
3 相続関係書類の一部か
遺産分割協議書、相続分譲渡証明書、特別受益証明書など、相続を証する書面の一部として添付する印鑑証明書であれば、原本還付できる方向で考えます。
4 上申書に添付する印鑑証明書か
上申書に実印を押印し、その印鑑証明書を添付する場合、その印鑑証明書は原本還付できるものとして考えます。
5 その申請のためだけに作成された書面か
委任状など、その登記申請のためだけに作成された書面は、原本還付できないものとして考えます。
このように、書類の名前だけではなく、その書類が登記申請の中でどのような役割を持っているのかを見る必要があります。
まとめ
登記実務では、印鑑証明書について、原本還付できるものとできないものがあります。
特に注意すべきなのは、次の点です。
- 登記義務者の印鑑証明書は、原本還付できないことが多い
- 承諾書・同意書に添付する印鑑証明書も、原本還付できないことが多い
- 遺産分割協議書に添付する印鑑証明書は、原本還付できる
- 上申書に添付する印鑑証明書も、原本還付できる
- 上申書本体と、上申書に添付した印鑑証明書は分けて考える
同じ「印鑑証明書」であっても、登記申請の中での位置づけによって扱いが変わります。
今回の件で、私自身も改めて確認することができました。
今後は、上申書に印鑑証明書を添付する場合には、原本還付の要否を必ず確認し、依頼者に余計な再取得の負担をかけないようにしたいと思います。
登記実務は、こういう細かい部分でヒヤッとすることがあります。
一度確認したことでも、忘れた頃にまた同じ場面が出てくるので、自分自身の備忘録として残しておきます。
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